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余命一週間 過去編
別れの挨拶
しおりを挟むロタンの街外れにある娼館『ヘブン』は、真夜中だというのに、ピカピカと光輝いている。
ノーチは、家にいるはずだ。いてくれないと、困る。
どうかノーチがいますように。そう願いながら、入口に近づくと、「あら、ジキルじゃない?」と艶っぽい声で話しかけられた。
顔をあげると、予想通りアイラがいた。アイラは、ノーチの3番目の姉で、黒髪に黒い目をした猫みたいな雰囲気の美女である。父親と母親のどちらにも似ていなくて妖艶な雰囲気をしているため、ノーチの姉妹の中で一番、印象に残っている。
きっとお客さんを送るために、こんな寒い中、わざわざ外まで出てきたのだろう。
「あ、あの、ノーチっていますか」
近くによると、フワッとした花の香りの香水の匂いがして、ドキドキしてしまう。
「ああ、いるわよ。今、店でこき使われているけれど、ちょっと呼んでくるね」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
アイラは、すぐにノーチを連れてきてくれた。
「よっ!!ソリトオタク」
暗い気持ちを隠すようにバカみたいな明るい口調で、話しかけた。
「ジキル。こんな夜中にどうしたんだよ。俺、忙しいからすぐに戻らないといけないんだ」
「ノーチ……」
「突然どうしたんだ?」
「……いや、ちょっとな。お前の顔を見に来たんだ」
「もしかして、お前が飯をあげていたガキの死刑が決まったのか」
青ざめた顔をした僕を見て、ノーチも何かを察したらしい。
「……ああ」
「何歳だっけ?」
「13歳だ」
「……若いな」
「そうだな。……あまりにも若すぎる」
「ジギルは、いい奴だけど、早く忘れた方がいい。その方がお前も楽になれるだろう」
「……ノーチ……。僕は、あいつの姿がナサニエルに重なって見えるんだ」
その言葉を聞いたノーチが、ハッと息をのんだ。
「お前、もしかして……」
「それ以上、聞くな!!!僕が決めたことだ」
ノーチが僕の言葉を聞いてしまったら、共犯者になってしまう。
だから、聞いてはいけない。
「やめとけよ。お前、やっとここまで来ただろう。あのガキに出会ってから、一週間も経っていないだろう。ジキルがいい奴なのはわかっている。だけど、さすがにそこまですることないだろう。俺だって、相棒がいないと困るんだよ……」
「お前は、大丈夫だろう」
「そんな寂しいことを言うなよ。俺がどれだけ肩見狭い思いをしてきたかお前が一番よくわかっているだろう」
「僕には……わかる。お前は、何年かしてこの騎士団のエースになっている。ノーチには、才能がある。きっと、お前をバカにする奴なんて現れなくなる。もう、バケツをぶっかけることなんてないはずだぜ」
「……でも……。絶対にあんなガキのために、全部捨てたら後悔する。きっとすぐに追ってに捕まるはずだ。お前も死刑になるかもしれない。やめろよ」
「ノーチ……。僕は、自分の心に正直に行きたいだけなんだ」
「……お前ってお人よしだよな。ナサニエルのことを引きずって、ずっと自分を責めている」
「お前だってそうだろう。ソリトのことをずっと考え続けている」
「ははは。僕たちは似た者同士だな」
「確かに。困った事があれば、いつでも俺の店に来いよ。お前にだったら、大サービスしてやる」
「お前の店のサービスだったら、天国にでも連れていってもらえそうだな」
モリスのお気に入りだといじめを受けていた僕を助けてくれてありがとう。
友達になってくれて、ありがとう。
どんなときも、味方になってくれて、ありがとう。
ノーチは、僕に軽いハグをしてきた。
「ノーチ、ありがとう。僕は、お前がいなかったら、もっと別の人生があった気がするんだ」
「俺もジキルに会えて本当によかった」
「お前はさ、いつかソリトを見つけて幸せになれよ」
「当然だ。……じゃあ、早く行けよ。風邪には気をつけて」
冗談で言ったつもりなのに、こいつ……本気でそう思ってそうなところが怖いな。
「ああ。お前も元気で」
ハグを解いたノーチは、僕の肩を叩き応援するように背中を押してきた。
僕は、振り返ることなく走り出した。
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