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しおりを挟む「吸血鬼ハンター隊長としてお前らに命じる」
そのシリウスの言葉を聞いたヨヅキは、緊張のあまりゴクリと唾を飲んだ。心臓が早鐘のようにドク、ドク、ドクと鳴り響く。指先がブルブルと震えた。
(生き残っているのは、4人しかいない。俺達は、捨て身の特攻を命じられるかもしれない。それでも、俺の覚悟はもう決まっている。叔父さん、ごめんなさい。こんなところで死ぬ俺を許してください)
「いいか。お前らは、全員逃げろ。余計なことは考えるな。全力でここから逃げろ!!!生き残ることだけを考えるんだ」
シリウスは、目を真っ赤に受血させ、怒鳴りつけるようにヨヅキ達に命令した。
「は?」
予想外の言葉を言われたせいで、一瞬何を言われたのか理解できなかった。
(え……。特攻を命じられなかった?シリウスが1人で残ろうとしている?)
「隊長はどうするんですか」
ニコラスがそう震える声で尋ねると、シリウスは、覚悟の決まった低い声で「俺は、ここでお前らが逃げる時間稼ぎをする」と告げた。
「それは、隊長が1人で死ぬと言っているようなもんじゃないですか」
そう言ったヨヅキの声は、混乱のあまり裏返っていた。
「ああ、そうだ。犠牲は、少ない方がいい。お前らには未来がある。また吸血鬼ハンターをやりたかったら、隣国にでも行けばいい。ここで死ぬのは、命があまりにももったいない」
「でも、隊長は……」
ヨヅキがそう言いかけると、シリウスと目が合った。全てを覚悟しているような熱量を彼の表情から感じ取った。
「俺は、隊長だ。ここでお前らを逃がす責任がある!早く行けよ。相手が悪かったんだ!ここで全員死ぬよりも、1人でも多く生き残った方がいいだろう‼」
そう腹の底から出すような声で怒鳴ったシリウスは、石のように固まるヨヅキの傍にくると、ヨヅキの肩に手を置いた。
「ヨヅキ……。お前には、頼みがある」
「何ですか」
「シリルという吸血鬼を見つけたら、殺してくれ」
その言葉を聞いたヨヅキは、小さく息を呑んだ。
(これは……まるで遺言みたいじゃないか。遺言みたいじゃない。遺言だ)
「どうして俺なんかに頼むのですか。俺の方が隊長より弱いのに……」
「そのうちわかるときが来るさ。頼む。俺の頼みを覚えておいてくれ」
「嫌です」
ヨヅキがそう言うと、シリウスが射殺すように灰色の目で睨みつけてきた。
「……」
「隊長が自分で見つけてください。俺も、ここで隊長と一緒に残ります」
そう言うと、シリウスからパアンと平手打ちされた。ヨヅキの頬が真っ赤に腫れあがる。
「バカ野郎!何も考えるな。いいから逃げろ!これは、俺が決めたことだ。俺の命令に従え。お前らは、俺の部下だ」
それを聞いたニコラスは、ヨヅキ達に背を向けて窓から逃げ出した。吸血鬼たちも、彼を追う様子はない。こんなにごちそうがたくさんあるなら、一人くらいいなくなってもいいと思っているのかもしれない。
ヨヅキも自分の中で迷いが生じた。
ここでシリウスの命令に従うべきか。だけど、従ってシリウスが1人で残ったら、彼は死ぬだろう。3人の吸血鬼になぶり殺しにされる悲惨な死を迎えるに違いない。
小さい頃、両親が吸血鬼に襲われた時、無力な自分を憎んだ。今も、その時と変わらない。命の恩人であるシリウスに何もできないまま立ち去ろうとしている。そんなことは、死ぬよりも辛い。
「俺は……ずっと隊長に憧れていました。隊長みたいになりたかったです。あの時、シリウス隊長が俺を助けてくれたから、俺は生きています。隊長がいなかったら、俺は死んでいました。隊長を見捨てることはできません」
「バカ!お前が死ぬとアンジェロが悲しむだろう」
「何でアンジェロが出てくるのですか。あんなバカは俺が死んだところで涙一つ流さないですよ」
「ヨヅキ……。お前の心は鋼でできているのか?」
シリウスは、唖然としながらそう言ってきたが、ヨヅキは全く理解できなかった。
(彼は、何を言っているのだろうか?しかし、アンジェロのことは今、気にするべきじゃない)
「とにかく二人で生き残りましょう。俺は、死ぬ覚悟はできているけれど、死ぬために残ったわけじゃありません。隊長を生かすために残ったんです」
背後にいたジョンも、ヨヅキの隣に並んだ。
「俺も、残る」
「ジョン。お前は、逃げろよ」
「バカ野郎!今、逃げたら、今月分の給料がもらえないだろうが」
「……」
そんな風に怒鳴られたヨヅキは、言葉を失った。
こういう時の言葉が、冗談なのか本気なのかわからないところがジョンの怖いところだ。
「俺だって、もう二度と酒が飲めなくなると思うと怖くてたまらない。でも、このまま逃げたって、給料が入らないんじゃ今月は酒が飲めない!だったら、仕方がないだろう。アル中だから。アルコールは、俺にとって空気みたいなもので、なくてはならないんだ」
「……」
ヨヅキは、謎の演説を始めたジョンを銅像のような目で見ていた。
(どうしよう……。ジョンが残ってくれたのに、全く感動しない)
しかし、シリウスの心には、なぜか響いたようだ。
「ヨヅキ、ジョン……。ありがとう」
シリウスの声は、震えていた。もしかしたら、一緒に死んでくれてありがとうという意味かもしれない。だけど、ヨヅキは最後まで、諦めるつもりはなかった。
「礼を言うのは、早いですよ。ここから、3人で生き残ったら、ボーナスくださいね」
ジョンは、堂々と胸を張りながらそう言ってのけた。
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