【完結】過去に告白した男と再会するので、もう結婚していると嘘をつきます。

夜刀神さつき

文字の大きさ
26 / 41

感謝

しおりを挟む

 東条薫子と話してから一週間後の日曜日に、楓と待ち合わせの約束をした。

 俺は、近くの人気のない公園に楓を呼び出した。別れ話をする場所で悩んだが、人に迷惑にならず、自宅などの密室空間にならない場所を選んだ。

 その日の空は、朝から曇り空だった。今にも雨が降り出しそうなどんよりとした雲が広がっている。
 約束の2時間前から公園のベンチに座りながら、楓との思い出を振り返っていた。どの思い出も俺にとっては宝石みたいにキラキラと輝いてみえた。

 楓は、約束の時間ギリギリになって現れた。仕事が忙しいのか、珍しく少しだけ髪の毛が跳ねていた。そんなところもかわいいと胸がときめいてしまう。

「ギリギリになってごめん。待った?」

 楓は俺の隣に腰かけながら、聞いてきた。

「ううん。全然待っていないよ。忙しいところ呼び出してごめん」

 漫画家の音化魔出鬼は、これから海外での舞台公開やゲーム化なども控えていて、死ぬほど忙しいに違いない。時間があるときに話をしたいと連絡をしたが、楓が指定したのは予想よりも近日中で驚いていたのだ。

「大丈夫だよ。誠のためなら、いくらでも時間を作るよ」

 楓がくしゃりと目を細めて陽だまりみたいに笑いながら、ハチミツのように甘い声でそう言ってくれる。

 ああ、なんて綺麗な笑顔だ。
 彼の笑顔ほど尊いものは、この世界にないかもしれない。
 楓の笑顔だけで、自分の心か高校時代に戻ったかのように錯覚してしまう。

「誠、話って何?」
「あのさ……楓に言いたいことがあって……」
「何?」

 楓は、まっすぐといた桃花眼の瞳で俺を見る。楓の美しい瞳に、自分が映っていることを意識するだけで皮膚が粟立つ。

 何から話せばいいのだろう。最後だと思うと、楓に伝えたいことがたくさんある。でも、全部は伝えきれないから、一つだけどうしてもいいたかったことを言うことにした。

「俺さ……高校時代の時、教材費が盗まれて俺が疑われてしまったことがあっただろう。その時、クラスで俺が犯人だって噂をされていたことを知っているんだ。でも、お前は俺を信じてくれただろう」
「ああ、あれ。だって、誠があんなことするわけないだろう」

 楓は、胸を張りながら自信満々にそう言い切ってくれた。

「俺は、あの時……すごく救われた気持ちになった」

 教材費が盗まれた時、どうせ俺みたいな奴が疑われて当然だと、自分ですら諦めた。でも、お前が信じてくれて救われたような気持ちになったんだ。
 あの時、どんな感情が生まれたかは言葉にできない。
 赤ん坊が泣きじゃくるように、洪水みたいな激しい感情が溢れたんだ。

「それなら、よかった」

 楓はそう言いながら、優しい手つきで俺の頭をポンポンと撫でてくれる。その手つきがあまりにも優しくて、涙が出そうになるがグッと堪える。

「楓は、誰よりもかっこよくて、優しくて、何でもできた。俺は、そんなお前の存在が眩しかった」

 小さい頃、俺は、他人からつまらない存在だとレッテルを張られた。そして、どうせ自分なんかといても、誰も楽しくないに違いないと卑屈に生きるようになった。

 だけど、昔、楓は、『誠といると楽しい』と言ってくれた。
 俺と一緒に小説の話をたくさんしてくれた。
 俺に高い参考書をさりげなく貸してくれたり、わからないところを教えてくれたりして助けてくれた。

 楓のいいところが山のように思いつく。楓は、俺の人生において、一番特別な存在で、楓を超える人間なんて現れなかった。だから、離れていても、楓以外の誰も好きになることができなかった。
 ずっと、自分なんかが触れてはいけない尊い存在みたいに思っていた。
 楓と付き合えたことは、夢みたいな時間だった。だけど、夢から覚めて現実に戻されるように、この関係に終わりを作らないといけない。

 全部、終わりにしよう。

「楓……。ごめん。俺は、お前のことが好きだった。でも、それは過去の話だ。もう俺達、別れよう」

 俺がそう告げると、楓が背後からマシンガンに打たれたように目を見開き、衝撃を受けていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ真に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...