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別れ話
しおりを挟む「楓……。ごめん。俺は、お前のことが好きだった。でも、それは過去の話だ。もう俺達、別れよう」
俺がそう告げると、楓が背後からマシンガンに打たれたように目を見開き、衝撃を受けていた。
「何を言っているんだよ。誰かに何か言われたのか」
彼は、俺の肩をガシッと掴み、肩を握る手に力を込めていく。彼の目は正気を失いかけているように虚ろだった。
「この前、うちの母さんと会ったことが原因か。それとも、奥さんから何か言われたのか。あの蓮という男のせいか!蓮という男は、桃華と接触があった。桃華の指示で、お前を口説いているだけだ。あいつは、お前を好きじゃないし信用しない方がいい」
何だ……。そういうことだったのか。俺みたいな奴にいきなり告白なんてしてきて、おかしいと思った。あいつは、俺なんか好きじゃなかったんだな……。
あの時、彼が泣いたから騙されてしまうところだった。
楓だって、蓮と変わらないに違いない。
嘘つきで、誰からも好きになってもらえなかった俺なんて、選ぶわけない。
俺は、再び口を開いて、用意していた言葉をつづけた。
「俺は、確かにお前のことが好きだった。でも、全部、過去の話だ。今は、結婚して妻だけを愛して幸せにしたいと思っている」
いろいろ悩んだが、楓の母親の話をせずに嘘をつくことにした。
東条薫子は嫌な女だが、楓にとってはたった一人の大事な母親だ。楓は、家族と絶縁した過去もあるらしいが、彼女は楓をとても大事に育てたのだろう。もういなくなる俺のせいで、2人の仲がこれ以上悪くなるのは避けたい。
俺が嘘をついて立ち去れば、全て丸く収まるはずだ。
「あの日、朝帰りしただろう!!!奥さんは、お前の浮気に気がつかなかったのか」
「俺の妻は、俺が浮気をしたことに気がついたよ。だけど、全部、許してくれた。そして、もうやり直そうと言ってくれたんだ。俺には、もったいないくらいいい人だ。その時、俺は、この人を手放せないとわかったんだ。俺は、妻と離婚しない。お前とこんな関係を続けていたって、誰も幸せにならないよ」
ここまで言えば、楓はすぐ引き下がるだろうと思った。
けれども、楓は「俺の方が誠のことを好きなのに!!!」と大声で狂ったように叫んだ。
「楓……」
俺は、驚きのあまり息を呑んだ。楓からそんな風に言ってもらえると思っていなかった。
彼は俺の頬に手を置き、かすれた声で必死に言葉を続けていく。
「お前だって、俺のこと好きだって言っていただろう。愛が冷めたなら、俺、誠にまた好きになってもらえるように頑張るから。いつかお前に会えたら、あの時の告白の返事をしようと何度も想像していたんだ!お前にとって俺は過去かもしれないけれど、俺は、お前にふさわしい人間になることだけを考えていた。お前がいない未来なんて受け入れられない」
こんな状況だと言うのに、歓喜で胸が震えてしまった。
楓は、俺のことを本気で好きだったのだろうか。誰かと結婚していなかった俺のことも愛している?母親を敵にしても、本当の俺を選んでくれる?
だけど、それが正しいことかどうかわからない。今は再会したばかりで盛り上がっているけれど、昔は誰も好きになかった楓のことだ。俺がつまらない奴だとバレたら、恋愛感情なんてすぐ覚めてしまうかもしれない。
俺は、震える唇をゆっくりと開いた。
「楓は……俺のことどんな奴だと思っている?」
「まっすぐしていて、優しくて、誠実で……。お前が浮気とか嫌なことくらいわかっている。奥さんに対しても、誠実に生きていたい気持ちだってわかる。でも、俺はお前以外ダメなんだ」
まっすぐ、優しい、誠実……。
これが、楓の目から見えている俺の姿か。
優しいは、もしかしたら事実かもしれない。俺は、いろんな辛さを知っている分、他人に優しくしたいと思っているから。
だけど、まっすぐも、誠実も間違っている。こんな風に、嘘ばかり積み重ねている。
実は、俺の嘘つきというのは、今に始まったことじゃない。昔から、悪びれもせずしゃあしゃあと嘘ばかりついてきた。
ずっと昔、父さんと母さんは、俺が生まれたタイミングで家と車を買ったらしい。
しかし、俺が生まれて間もなく父さんは病気になった。母さんは、働き貯金を切り崩しながら、父親の高額な治療費を払った。けれども、父さんは、結局、死亡した。
残された母さんは、家と車のローン返済に追われた。その二つを売り払っても、買った値段よりもだいぶ安い値段でしか売れず、借金が残った。
物心ついた時から、俺は、自分の家が他の過程に比べて貧乏で余裕がないことがわかっていた。
だから、誠という名前のわりには、俺は、嘘ばかりついてきた。
誕生日やクリスマスには、欲しい物なんてないと嘘をついた。
運動なんて嫌いで、部活なんてやりたくないと嘘をついた。部活をやったら、遠征費やユニフォーム代などお金がかかることがわかっていたからだ。
学校には仲がいい友達がいると嘘をついた。みんな最新のゲームをしているのに、かくれんぼや鬼ごっこをしていると嘘をついた。
好きな食べ物は、チャーハンだと嘘をついた。それが一番安かったから。
図書館で過ごした日は、友達と遊んできたと嘘をついた。
夏休みになると行きたいところなんてないと嘘をついた。本を読むのが一番好きだから、どこにも行きたくないと言って母さんを安心させていた。
ずっと好きな人なんていないと嘘をついていた。だけど、楓のことがいつまでも忘れられなかった。
呼吸をするように自然に嘘がつけるようになっていた。まるで誰かを演じるように嘘ばなり積み重ねていた。
お前は知らないだろう。池田誠は、とんでもない嘘つきなんだ。お前が信じているほど、いい奴ではない。プライドと見栄と嘘だけで、構成されたような男だった。
気がついたら、欲しいものを諦めて、我慢することばかり得意になっていた。
まっすぐも誠実も、桃華みたいな人が合っているのかもしれない。彼女は、育ちが良さそうだし、俺みたいなつまらない嘘をついたことがないのだろう。
「楓。俺は……まっすぐでも誠実でもない。お前に好きになってもらえるような人間じゃない」
「そんなことない。俺は、ありのままのお前が大好きだ」
楓の言うことは間違っている。自分は、嘘で塗り固められた卑屈な存在だ。いつの間にか、俺と友達になりたがる奴すら、いなくなっていった。
だけど、楓は、俺なんかと全然違う。
高校時代、クラスでは、楓はいつも大勢の友達に囲まれていた。みんな楓と友達になりたがった。クラスの中心で、一番星みたいにキラキラと輝いていた。
俺のことを見ていない楓を見ることが、好きだった。
どうか俺の気持ちに気がつがないでと、必死に願っていた。
楓は、俺にとって憧れそのものだった。楓のことが好きで、好きで、好きで……たまらなかった。俺は、その気持ちを抱いたまま死んでいくと思っていた。
しかし、運命のいたずらで、楓と付き合うことができた。
俺なんて平凡で、つまらない男だから、長いこと一緒にいたら、きっと飽きてしまうだろう。それに、お前を幸せにする自信だってない。いろんな人を傷つけて、俺達だけ幸せになろうとしても、楓は、きっと後悔する日が来るだろう。
だから、お前から捨てられる前に、今、終わりにしよう。
「楓……。俺は、もう決めたんだ。わかってくれ」
「誠!そんなこと受け入れられない。もっとよく考えてくれ。俺を選んでくれ。そうしたら、どんなことでもする!!!」
楓の目には、涙が溢れている。それを拭って、抱きしめて全部嘘だと告げたくなる。
嘘をつくことと、諦めることなんて誰よりも得意だったはずなのに、もしも、俺が楓を欲しがったら、どんな未来が待っているのだろうかと想像してしまう。
でも、俺なんてきっとお前にふさわしくない。
だから、こんな最低な男なんて忘れて幸せになってくれ。
「ごめん。もうお前を好きになることはできない。俺のことは忘れてくれ」
俺の言葉で打ちひしがれた楓は、必死で言葉を探している。だけど、何も見つからないようだ。
「さようなら、楓」
俺は泣いている楓を置き去りにして、1人で歩き出した。
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