死亡フラグ乱立の極悪非道な国王になりました!

夜刀神さつき

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牢屋のヒュラス

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 会議が終わってからため息をついた。 

 あー、殺されるところだった。

 さすがにアティスも国際会議で人殺しはヤバイと思ったのだろう。だけど、本当にあと少しで殺されていてもおかしくなかった。

 早くヒュラスを助けて、自国に戻ろう。そう思いながら、リュリーナ国へ向かった。

 どうせ国民の奴らは、ニュクスを殺したヒュラスに感謝をしているだろう。ヒュラスが殺人をした証拠はないはずだし、無実でオッケーなはずだ。

 しかし、そう簡単には行かなかった。

 リュリーナ国の幹部の前に通されるまではあっさりと行ったが、そこから豚のような男共が立ちふさがった。

「ヒュラスを返して欲しいのだが」

「確かにヒュラス様が殺したとはいえません。しかし、大切な国王陛下を殺された深い恨みや悲しみが我々にはあるのです。民衆への見せしめのためヒュラスを処刑しなくてはいけません」 

 ニュクスが殺されて悲しんでいるのは、どうせお前らだけだろう。しかも、ニュクスのことが好きだったわけじゃなくて、あいつがいなくなったせいで金や権力がなくなるからだろうが。

「そうです。ニュクス様は、偉大なお方でした。彼を失った損害は、国にとってとても大きなものです」

 こいつら、パリピかよ。こいつらの服を燃やしたい衝動に駆られる。

 くそっ、民衆の反乱を早く行えよ。こんな奴らとっとと滅ぼせ。もたもたしてんじゃねぇ。

 ええい、ままよ。

 ここは、ヒュラスを救出するためには、仕方がない。

「その発言は、ヒュラスが僕の恋人だと知ってのことか」

 14歳の少年を恋人だと宣言してしまう大人がここにいた……。もしも、ここが日本だったら、警察に連行されていただろう。

「え、えっと、それは……」

 男達は、ギルがヒュラスに飽きたのだろうくらいに思っていたのだろう。周りにいる奴らと、「話が違う」「ギルの対象は13歳以下だけでは」などとひそひそと噂をし始めた。

 そんな奴らに、追い打ちをかけるように、声を低くして言葉を続ける。

「お前たちは、僕が反乱を起こした民にした仕打ちを知っているか。全身の皮をむき、十字架に張り付けたことを」

 それを聞いたパリピ連中は、ゾッと青ざめだした。

「す、すぐにヒュラスに会わせます」

「早くしろ。僕は、気が短いんだ」

 目の前の奴らを不機嫌そうな顔で睨み付けた。


   *                *



 ヒュラスは、薄暗い牢屋の中にいた。

 ポタリ、ポタリと水が落ちる音がする。辺りは薄暗くて、ジメジメしている。鉄格子は、さびていて、触ると手が赤褐色に汚れた。

 もう、誰も来ない。
 嘘つき。
 嘘つき、嘘つき、嘘つき。

 絶対に大丈夫とか言っていたくせに、助けなんて来ないじゃないか。

 俺は、何でギルのことなんて信じてしまったんだろうか。最初から、ギルは、俺を騙して捨てるつもりだったんだろうか。

 ああ、くそっ。
 ギルを信じるなんて、どうかしていた。 
 ……バカみたいだ。

 怒りにまかせて壁を蹴りつける。パラパラと粉が床に落ちてくが、この状況は何一つ変わらない。

 このまま死ぬまでここに閉じ込められ続けるのかもしれない。俺みたいなろくでもない奴の最後にお似合いだな。

 エンデュミオンは、いいなぁ。剣の腕を必要とされていて。ギルは、あんな有用な人間を手放したりしないだろう。きっと取り返そうとするはずだ。俺のような捨て駒と違って……。 

 思えば、いつも他人を妬んでばかりいた。
 容姿の美しさに反して、心の中はドロドロのぐちゃぐちゃだった。

 楽しそうに笑える奴も、簡単に心を開ける奴も、人を愛せたり信じたりできる奴もみんな大嫌いだった。他人の幸せを喜べない醜い性格だった。俺の悪口を言った奴らを忘れられなかった。俺を捨てた奴らを許せなかった。幸せそうな奴らが嫌いだった。今でも、そんな卑しいことばかり考えている。
  
 嫌な奴だ。

 頭の中で走馬灯のように記憶が流れ出す。 

 冷たくなった家族の死体、皮の財布、布の財布、がま口財布、遺体漁り、命がけで逃げ回る日々、穴の開いた靴、身体を撫でまわす太った手、お金を奪おうとする無数の手、体中にできたアザ、忌まわしいカメラの音、死んでしまえというしゃがれた声、血のついた肉切り包丁、燃やした自分の写真、お酒とタバコ、冷たくなっていく手のひら……。 

 ああ、なんて汚いものばかりだろう……。

 ふいにキイイという音がして扉が開いて、光が差し込んできた。

 夜色の髪に、エメラルドグリーンの瞳をした目つきの悪いご主人様が立っていた。シャツとズボンは、すっかりボロボロになっている。

「悪いな、トイレが長引いて迎えが遅くなった」 

 唖然としてギルを見上げる。
 コツリ、コツリと音を立てて彼が近づいてきた。

「おい、そこはツッコむところだろう。それじゃあ、本当にトイレが長引いていたみたいじゃないか」

「あんた……。どうして……」

 俺なんて見捨てればよかったのに。

「まあ、いろいろあって」
「……来るのが遅ぇよ。許さない。罰として死刑だ。雨天決行する」

 張り詰めていたものが緩んでしまったように、声が震えてしまう。

「せっかく命がけで助けに来た王子様にその言いぐさかよ」
「王子様のくせにあまりかっこよくねぇ」
「悪かったな」

 極悪非道で、最低最悪で、偽善者で、嫌な相手なのに……。どうしてこんなに眩しく見えてしまうのだろう。

 温かい手で冷え切っていた手を包まれる。それと同時に、心臓がギュッと締め付けられる感覚がした。

「ほら帰るぞ、ヒュラス」

 返事をする代わりに、温かい手を握り返した。


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