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プライド
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一か月後。
僕は、国際会議のために、アティスから呼び出されていた。
メシア対策のために場所は知らされず、会議をするところとは別の場所に召集された後、集合した。ここでは、メシア対策、資源の所有権、関税などについて話し合われる。
会議には、アティスだけではなく、30か国以上の国の代表が集まった。もちろん独裁国家のトップもいるが、民主主義の首相も数人いる。アティスも、ここならメシアの被害を受けないと判断したのか姿を現した。
会議には、来る予定だったニュクス・ライモンドの姿はなかった。しかし、通常通り会議が行われていた。
その頃、ヒュラスは……。
ギルからの贈り物ということで、ニュクスのもとへ訪れていた。
ニュクスは、ヒュラスのゴミくずを見るような目を気に入りさっそく自分を鞭でたたかせた。
「ゴミのくせに服なんて着てんじゃねーよ!お前の価値なんてハエ以下だ。その役立たずの手足を切り落としてしまいたい」
「はあ、はあ……」
よだれを垂らし恍惚とした顔をするニュクス。
「気持ち悪い目をしやがってっ。まだ飼育所の豚の方がいい目をしているな。まるで押しつぶされたゴリラのようにキモい顔をしているな。お前みたいな奴は、さっさと死んでしまえ」
「ああん。はあ、はあ……」
「このドMが!お前がいるだけで、みんなが不幸になるんだ。この疫病神が!」
ピシャンの思いっきり鞭で叩かれたニュクスは、絶叫をあげながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「っあああああああああああああ!」
ドサリッ。
ニュクスが床に倒れる音が響き渡った。彼は、床に倒れてピクリともしない。もしかして死んだのかもしれないという予感が人々の中に生まれ始めた。
ヒュラスは、そんな彼に駆け寄り素早く呼吸や、脈拍を確認した。
そして、ピリピリとした空気の中、口を開いた。
「どうやら、彼は鞭で叩かれ興奮して、逝ってしまったようです」
「そんなバカな……」
「確認して見てください。ちゃんと、死んでいますよね」
ヒュラスと目が合った赤毛の護衛リチャードが急いで駆け寄り、ニュクスの容体を確認した。その間、ヒュラスは、実験の成功を見守る科学者のような目で二人を見ていた。
「……ああ、確かに死んでいる。早く棺桶の準備をしないといけない。とりあえず、遺体は彼の部屋に運んでおこう」
周囲にいた人達は、あまりの壮絶な出来事に言葉をなくした。
けれども、彼らの顔には小さな笑みが広がっていった。
* *
国際会議が始まり一時間ほど経った時のことだった。
コンコンとドアが叩かれる音がした。
「どうした?」
入ってきたメイドは、青い髪に青い瞳をしたすっげぇ綺麗な人だった。べッティーナと違って、できる女っぽい感じがあふれ出ている。
「アティス様、大変です。ニュクス様がお亡くなりになりました」
「何っ」
さすがヒュラス。お前は、できる子だと信じていた。
「彼の死因は?」
「それが……鞭で叩かれて興奮して逝ってしまったらしいです」
「はあ?」
彼の美しい眉間に皺が寄った。
「もう一度言え」
「その………鞭で叩かれて興奮して逝ってしまったようです」
「何だと?」
ガッチャーンとティカップが割れる音が響きわたった。中に入っていた紅茶は、床に広がっていく。
「そんなみっともない死に方があってたまるか!」
やばいwwwww。笑ってしまいそうになる。
鞭で叩かれて興奮して死ぬなんて、まさに全世界の笑いものだな。
「それが、目撃者が多数いるのです」
「ニュクスを鞭で叩いていた人間は?」
「ヒュラスという14歳の少年です」
「……鞭で叩いただけで死ぬなんて都合よすぎる。絶対に、何かある」
額に手を置いてアティスは、考え込みだした。
そうだ。アティスのいう通りだ。
確かに、テクノブレイクという死に至る症状は存在する。オナニーのしすぎで起こる症状で、腹上死とも言われる。しかし、それを偶然、起こすなんてあまりにも難しすぎる。
つまり、ヒュラスは、ニュクスを気絶させることしかできなかったのだ。ニュクスは、ドMなのに、エンデュミオンに鞭で叩かれる時間はたったの15分だった。久しぶりに彼に会ったのにも関わらずだ。そこで、僕は、ニュクスは快楽に弱い体質だと判断した。
だから、ヒュラスという子供にニュクスを叩かせた。相手が子供なら容易に挑発に乗って、長時間、プレイをしてしまうだろう。そして、ヒュラスにニュクスを気絶させた。
そして、ヒュラスは倒れたニュクスを見て死んでいると宣言した。そして、近くにいたニュクスの護衛の男であるリチャードに、アイコンタクトをしてから確認させた。
リチャードは、ニュクスを嫌っている。だからこそ、ドMのニュクスの側にいさせてもらっているのだろう。
ニュクスを嫌っているリチャードなら、ヒュラスの意思をくみ取りニュクスは確かに死亡していると周囲に言ってくれるだろう。
つまり、ヒュラスが鞭で叩いた時点ではニュクスは死んでいなかった。彼の本当の死因は、体が燃やされることによる焼死だ。
国民には、鞭で打たれ興奮して死んだと笑いものにされ、実際は苦しみもだえながら死ぬ。まさに僕が描いた最高の展開だ。
そして、この作戦にはもう一ついいところがある。それは、アティスがヒュラスや、リュリーナ国に報復できないことだ。まあ、アティスの権力を考えたら、物理的には攻撃することができる。
だけど、アティスの行動を邪魔するものが一つある。
それは、プライドだ。
たかがプライドと思うかもしれないけれど、それは気高い人間にとって大事なものである。
鞭で叩かれて死んだニュクスを殺した責任としてヒュラス達に腹を立てたら、アティスまで笑いものになる。そんなことプライドの高いアティスにはできないだろう。
「ギル・ノイルラー」
唐突に名前を呼ばれ、顔をあげる。怒りに染まった彼の顔は、ゾッとするほど美しくて怖い。
「どうしたのか」
「……ああ。方法をいくつか思いついた。だけど、遺体はもう燃やされたから、証拠がない」
そうだ。もう、ニュクスの死因なんてわからない。
あとは、ニュクスが全世界の、いや、これからの歴史の笑いものになるだけだ。
「クククク。貴様は、つくづく俺を楽しませてくれるな」
いきなりアティスが僕の方へ近づいてきたかと思うと、ドスンと机の上に押し倒された。会議の資料がバラバラと舞う。周囲の人達が怯えたように僕達から遠ざかった。
「お、おい……」
首の上に冷たい手が置かれたかと思うと、ギリギリと恐ろしい力で首を絞められていく。
「や、やめ……」
徐々に気管が狭くなっていき、呼吸が苦しくなっていく。アティスの硬い胸板をドンドンと叩くが、びくともしない。ま、まさか、逆上したアティスに殺されてしまうのか。ヤバイ。力では敵わなそうだ。どうすればいいのかわからない。
もうこれ以上力を込められると本当にヤバイというところの手前で、いたぶったことに満足したのか、あっさりと手を外された。
「うう……げほ、げほ……。て、てめぇ……何のつもりだ」
「ああ、すまない。ただの八つ当たりだ」
アティスは、少しも反省の色を見せずにしゃあしゃあと打ち明けた。
「早くどけよ」
喉を絞めていた手は解かれたが、押し倒されたような状況は変わらない。
「ちょっと待て。こうして貴様を見下ろすのは、いい気分だから」
……つくづく悪趣味な男だ。
耳元にそっと唇が近づけられ、甘く優しい声で毒を仕込むように囁く。
「貴様がどんな悪あがきをしようと、勝つのは俺だ」
……僕はまだメシアだとばれているわけじゃない。だから、この挑発に乗ってはいけない。
「何のことだよ」
「まあ、せいぜい今のうちに勝利に酔いしれておけ。俺は、もう貴様をわかっている。だから、負けるつもりはない」
人差し指で、そっと首のアザが撫でられた。
「次は、殺す」
甘い美声が脳裏を侵食していった。
僕は、国際会議のために、アティスから呼び出されていた。
メシア対策のために場所は知らされず、会議をするところとは別の場所に召集された後、集合した。ここでは、メシア対策、資源の所有権、関税などについて話し合われる。
会議には、アティスだけではなく、30か国以上の国の代表が集まった。もちろん独裁国家のトップもいるが、民主主義の首相も数人いる。アティスも、ここならメシアの被害を受けないと判断したのか姿を現した。
会議には、来る予定だったニュクス・ライモンドの姿はなかった。しかし、通常通り会議が行われていた。
その頃、ヒュラスは……。
ギルからの贈り物ということで、ニュクスのもとへ訪れていた。
ニュクスは、ヒュラスのゴミくずを見るような目を気に入りさっそく自分を鞭でたたかせた。
「ゴミのくせに服なんて着てんじゃねーよ!お前の価値なんてハエ以下だ。その役立たずの手足を切り落としてしまいたい」
「はあ、はあ……」
よだれを垂らし恍惚とした顔をするニュクス。
「気持ち悪い目をしやがってっ。まだ飼育所の豚の方がいい目をしているな。まるで押しつぶされたゴリラのようにキモい顔をしているな。お前みたいな奴は、さっさと死んでしまえ」
「ああん。はあ、はあ……」
「このドMが!お前がいるだけで、みんなが不幸になるんだ。この疫病神が!」
ピシャンの思いっきり鞭で叩かれたニュクスは、絶叫をあげながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「っあああああああああああああ!」
ドサリッ。
ニュクスが床に倒れる音が響き渡った。彼は、床に倒れてピクリともしない。もしかして死んだのかもしれないという予感が人々の中に生まれ始めた。
ヒュラスは、そんな彼に駆け寄り素早く呼吸や、脈拍を確認した。
そして、ピリピリとした空気の中、口を開いた。
「どうやら、彼は鞭で叩かれ興奮して、逝ってしまったようです」
「そんなバカな……」
「確認して見てください。ちゃんと、死んでいますよね」
ヒュラスと目が合った赤毛の護衛リチャードが急いで駆け寄り、ニュクスの容体を確認した。その間、ヒュラスは、実験の成功を見守る科学者のような目で二人を見ていた。
「……ああ、確かに死んでいる。早く棺桶の準備をしないといけない。とりあえず、遺体は彼の部屋に運んでおこう」
周囲にいた人達は、あまりの壮絶な出来事に言葉をなくした。
けれども、彼らの顔には小さな笑みが広がっていった。
* *
国際会議が始まり一時間ほど経った時のことだった。
コンコンとドアが叩かれる音がした。
「どうした?」
入ってきたメイドは、青い髪に青い瞳をしたすっげぇ綺麗な人だった。べッティーナと違って、できる女っぽい感じがあふれ出ている。
「アティス様、大変です。ニュクス様がお亡くなりになりました」
「何っ」
さすがヒュラス。お前は、できる子だと信じていた。
「彼の死因は?」
「それが……鞭で叩かれて興奮して逝ってしまったらしいです」
「はあ?」
彼の美しい眉間に皺が寄った。
「もう一度言え」
「その………鞭で叩かれて興奮して逝ってしまったようです」
「何だと?」
ガッチャーンとティカップが割れる音が響きわたった。中に入っていた紅茶は、床に広がっていく。
「そんなみっともない死に方があってたまるか!」
やばいwwwww。笑ってしまいそうになる。
鞭で叩かれて興奮して死ぬなんて、まさに全世界の笑いものだな。
「それが、目撃者が多数いるのです」
「ニュクスを鞭で叩いていた人間は?」
「ヒュラスという14歳の少年です」
「……鞭で叩いただけで死ぬなんて都合よすぎる。絶対に、何かある」
額に手を置いてアティスは、考え込みだした。
そうだ。アティスのいう通りだ。
確かに、テクノブレイクという死に至る症状は存在する。オナニーのしすぎで起こる症状で、腹上死とも言われる。しかし、それを偶然、起こすなんてあまりにも難しすぎる。
つまり、ヒュラスは、ニュクスを気絶させることしかできなかったのだ。ニュクスは、ドMなのに、エンデュミオンに鞭で叩かれる時間はたったの15分だった。久しぶりに彼に会ったのにも関わらずだ。そこで、僕は、ニュクスは快楽に弱い体質だと判断した。
だから、ヒュラスという子供にニュクスを叩かせた。相手が子供なら容易に挑発に乗って、長時間、プレイをしてしまうだろう。そして、ヒュラスにニュクスを気絶させた。
そして、ヒュラスは倒れたニュクスを見て死んでいると宣言した。そして、近くにいたニュクスの護衛の男であるリチャードに、アイコンタクトをしてから確認させた。
リチャードは、ニュクスを嫌っている。だからこそ、ドMのニュクスの側にいさせてもらっているのだろう。
ニュクスを嫌っているリチャードなら、ヒュラスの意思をくみ取りニュクスは確かに死亡していると周囲に言ってくれるだろう。
つまり、ヒュラスが鞭で叩いた時点ではニュクスは死んでいなかった。彼の本当の死因は、体が燃やされることによる焼死だ。
国民には、鞭で打たれ興奮して死んだと笑いものにされ、実際は苦しみもだえながら死ぬ。まさに僕が描いた最高の展開だ。
そして、この作戦にはもう一ついいところがある。それは、アティスがヒュラスや、リュリーナ国に報復できないことだ。まあ、アティスの権力を考えたら、物理的には攻撃することができる。
だけど、アティスの行動を邪魔するものが一つある。
それは、プライドだ。
たかがプライドと思うかもしれないけれど、それは気高い人間にとって大事なものである。
鞭で叩かれて死んだニュクスを殺した責任としてヒュラス達に腹を立てたら、アティスまで笑いものになる。そんなことプライドの高いアティスにはできないだろう。
「ギル・ノイルラー」
唐突に名前を呼ばれ、顔をあげる。怒りに染まった彼の顔は、ゾッとするほど美しくて怖い。
「どうしたのか」
「……ああ。方法をいくつか思いついた。だけど、遺体はもう燃やされたから、証拠がない」
そうだ。もう、ニュクスの死因なんてわからない。
あとは、ニュクスが全世界の、いや、これからの歴史の笑いものになるだけだ。
「クククク。貴様は、つくづく俺を楽しませてくれるな」
いきなりアティスが僕の方へ近づいてきたかと思うと、ドスンと机の上に押し倒された。会議の資料がバラバラと舞う。周囲の人達が怯えたように僕達から遠ざかった。
「お、おい……」
首の上に冷たい手が置かれたかと思うと、ギリギリと恐ろしい力で首を絞められていく。
「や、やめ……」
徐々に気管が狭くなっていき、呼吸が苦しくなっていく。アティスの硬い胸板をドンドンと叩くが、びくともしない。ま、まさか、逆上したアティスに殺されてしまうのか。ヤバイ。力では敵わなそうだ。どうすればいいのかわからない。
もうこれ以上力を込められると本当にヤバイというところの手前で、いたぶったことに満足したのか、あっさりと手を外された。
「うう……げほ、げほ……。て、てめぇ……何のつもりだ」
「ああ、すまない。ただの八つ当たりだ」
アティスは、少しも反省の色を見せずにしゃあしゃあと打ち明けた。
「早くどけよ」
喉を絞めていた手は解かれたが、押し倒されたような状況は変わらない。
「ちょっと待て。こうして貴様を見下ろすのは、いい気分だから」
……つくづく悪趣味な男だ。
耳元にそっと唇が近づけられ、甘く優しい声で毒を仕込むように囁く。
「貴様がどんな悪あがきをしようと、勝つのは俺だ」
……僕はまだメシアだとばれているわけじゃない。だから、この挑発に乗ってはいけない。
「何のことだよ」
「まあ、せいぜい今のうちに勝利に酔いしれておけ。俺は、もう貴様をわかっている。だから、負けるつもりはない」
人差し指で、そっと首のアザが撫でられた。
「次は、殺す」
甘い美声が脳裏を侵食していった。
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