トンネルを抜けると異世界だった~荒れ狂うと言う名を持つ乙女~

ゆき

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3 ほけほけ竜は聖女様

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 フェンリルにカーラを預けて洞窟を後にした。
 洞窟の外は何処を見ても、凍る刃のような切り立つ岩肌。
 氷の国は何処までも白銀の世界だ。
 

「大丈夫ですよね」

 アルビノの竜はキラキラと輝く赤い瞳で洞窟を見る。
 大きな白い翼を広げ、力強く飛び立った。
 その姿は、白銀の世界に溶け込む。





===========

 人の来ない森で、アルビノの竜は人の姿をとる。
 人を怖がらせてはいけませんから。
 
「ここからだと・・う~ん・・仕方がありませんね。これもカーラの為です」

 意を決し、てくてくと歩き出す。
 森の中、弱い魔物退治をした。
 いくらアルビノの竜だとて、竜は竜なので、魔物退治くらいはできるのです。
 フェンリルとかには勝てませんがね。
 氷の国で知り合った、ドワーフのロイ爺さんにお土産にと、腰紐にぶら下げている、ロイ印優れもの袋第二号(巾着袋)の中に、ポイポイと、虫のモンスターや、小動物モンスターなどを放り込んだ。
 薬草などを見つけては、袋の中に入れる。
 ヨルムンガンドの脱皮した皮で作ったらしい巾着袋は、いくら入れても溢れず、容量を感じさせない。
 まぁ、珍しい蛇の皮って事です。
 まだまだ改良しなければならないと、試行錯誤を繰り返しているロイ爺さんは、物つくりに対しては伝説のドワーフですが、とてもへんこつ者で、氷の世界なので、常に冬毛のフェンリルの体毛を求めて、あの洞窟にいるのです。

 フェンリルは雌ですから、綺麗にブラッシングされ、毛並みも艶々は喜ばしいでしょう。
 何かと差し入れもしていただき、人の子供など生きられない氷の国で、たまたま拾った赤ん坊の、世話の仕方を手ほどきしてくれたのは、ロイ爺さんですから。
 ロイ爺さんがいなければ、カーラは一日中うんち君まみれで・・・。
 私もまたうんち君まみれでした・・・ね。

 フェンリルを鎖から解き放とうとしましたが、弱い私ではダメでした。
 ロイ爺さんも、伝説級のハンマーで、叩き壊そうとしましたが、反対にギックリ腰に泣いていました。
 フェンリルとは長い付き合いですね。
 同じ竜達が住む世界では暮らせないアルビノの竜。
 だから自分の姿が気にならない白銀の世界へ来たら、そこに鎖につながれた彼女を見つけました。
 初めは、「食い殺す」しか言わなかった彼女ですが、次第に言葉を交わすようになりましたね。
 寂しい竜と悲しい大狼。



 
 
 いつしか森を抜けると遠く人族の住まう村が見える。

「村よりも町に行かないと・・」

 これは降り立つ場所を間違えましたか・・。
 まぁ、これもいつもの事です。
 フェンリルの食事や、自分の食事の為に、人間世界へはよく来る。
 一応、獣ですから。
 まだまだ聖なる獣の域には達しません。

 フードを深く被り、村の中を歩く。
 やはり目的の物はありませんか・・・。
 村から外れた道を歩いている時だ。

 ぽっんと一軒の家から、小さな少年が飛び出して来た。

「俺! 薬草を探してくるから」
「にーにー 」

 開いた扉から顔を出すのはカーラよりは少し大きな幼児だ。
 まだ、ヨタヨタと歩く、幼児。

「ダメだ! ノアは家にいろ!」
「にーにー」

 泣きながら兄を追うと、転んで泣いている。
 兄の方は、慌てて妹の方へ、走って戻る。

 銀色の髪に青い瞳の兄妹は、ハーフエルフのようです。

「・・・どうしたのです?」

 声をかけてみる。

「あんた誰? あんたが治癒師なら父ちゃんを診てくれよ。診てくれないなら向こうへ行け!」

 なんとも・・・
 敵意がありまくりな・・。
 ですが、フェンリルやロイ爺さんに比べたら可愛いです。

「私が唯一得意とするものは癒す能力ですよ」

 フードを外し、微笑んで見せると、少年は真っ赤な顔をし、幼女は目をキラキラと輝かせた。

 家の中にはいると、猟師だろうか・・?
 弓矢がある。
 寂しい部屋だが、洞窟よりは、人としての生活感は感じられた。
 これからのカーラには、こんなのも必要ですかね。
 きょろきょろしていると、少年が、背を押し、苦しそうにしている父親の所まで案内してくれました。

「父ちゃん・・昨日から・・熱も下がらないし・・」

 気丈そうに見えた少年はべそをかいている。

「どれ?」

 身体を覆う粗末な布を取り除く。
 足のふくらはぎが、パンパンに腫れ上がり、赤紫色に変色している。

「これは・・毒を持った魔物にやられましたか・・・」
「父ちゃん!」
「とーたん?」

 涙を流す少年と、父親に甘えたい幼女。

「大丈夫です。これまた私の得意とする領域ですから」

 自分だけではなく、他の者を癒し治す魔法。
 自分だけならば、アルビノの竜そのものが、回復と異常回復に優れています。
 喧嘩はからっけしですが、弱いアルビノの竜が貪欲なる生の為に求めた能力ですよ。
 魔法は、鎖で傷つくフェンリルの怪我の治療をしたくて、長い年月をかけて習得したのです。
 それを活かして、人の世界などで、効力を試して色んな場所に、食料探しのついでに行き来している。

「解毒魔法と回復魔法ですか・・。」

 そう言いながら、魔力を腫れ上がったふくらはぎに流した。
 ふふっ・・
 人族のような小難しい詠唱は・・・できません。
 魔力と、より深い考え。
 そう、ロイ爺さんに魔物の解体から見せられ続けて、色々と複雑なる神々の創造されし、身体の造りを学んだのです。
 がぶりとフェンリルのように、丸かじりではなく、素材の必要個所を事細かく、捌き、仕組みを理解する。
 へんこつ爺さんは変態爺さんだった。
 変態ロイ爺さんは、物作りの伝説にして、探究するエネルギーが半端なく強い者だ。
 ちょっと教えて下さいと言うならば、途中でリタイアは出来ず、今があるのです。

「う・・っ」
「父ちゃん!」
「とーたん?」

 父親はゆっくりと目を開いた。
 髪の色は違うが、子供達と同じ青い瞳です。

「父ちゃん! 聖女様が父ちゃんを助けてくれたんだ」
「・・・聖女?」

 私の事のようです。
 聖女ではありません。
 雄ですから。

「あなた様は・・噂の白き聖女様」

 白き聖女様って・・・。
 確かに白い髪の毛に白い肌です。

「聖女様、お礼に食事を。俺、今から獲物を取ってくるから」

 弓矢を持つ少年を、そっと止めた。

「これを」

 ロイ印の巾着袋から、森で狩った魔物や薬草を取り出す。

「これで、父上や妹に何か作ってあげてくださいな。私は町へ行くので」

 早く用事をすませて帰らなければ、私の帰りをカーラが待っています。
 またまたうんち君まみれで・・・。
 暴れては大変!!

「では・・」

 微笑み扉を開けようとすると、幼女が、衣の裾を引っ張った。

「・・あーと」
「あーと?」

 意味がわからなくて聞き返す。

「ノアはありがとうって言っているんだ。本当にありがとうございました。俺・・聖女様に・・失礼な態度をとって・・ごめんなさい」
「よいのですよ・・。嬉しい言葉です。「ありがとう」と「ごめんなさい」私も娘に教えましょう」

 そして小さな家を出て町へと出発する。






===========


 そ~と洞窟内を覗く。
 そこで見たのは、フェンリルに抱かれ、すやすやと眠る幼いカーラの姿だ。

「こらっ! どこをほっつきやがってたんだ!?」

 ぎろっとフェンリルの鋭い眼光がほけほけ竜を捕える。

「ほほっ、カーラの教育の為に、町まで。見てください」

 ロイ印の巾着袋から、たくさんの本を出した。

「これを買いに七日も留守にしてたってか?」
「ロイ爺さん。」

 振り向くと、疲れ果てたロイ爺さんが、洞窟内にカーラのオムツを干している。

「人族の世界では金が必要だろう。そんなに沢山の本だと・・。盗んだのか?」
「違いますよ~ロイ爺さん。魔物のお肉を売ったり、怪我や病気を治したりしたら、いつの間にか私って聖女様って呼ばれていましてね・・。勝手にお金が袋の中にありまして・・。」
「雄なのに聖女様って人族は雄雌の区別もつかないバカだな」

 フェンリルは、大きな鼻息をはく。
 しがみつき安心してスヤスヤ眠る幼い子のくりくりの赤い髪を優しくアルビノの竜は撫でる。

「人族の世界で、良き言葉を知りました。「ありがとう」と言う感謝の言葉。それと「ごめんなさい」と言う謝罪の言葉です。これがあればカーラは人族の世界でも生きていけます。それと人族の世界で暮らせるように、知識を彼女にと思うのです」

 いつもほけほけしているが、この時はキリキリっとした表情をする竜の姿を見て大狼は羨ましそうに目を細めた。

「ではワシは、生活するに必要最低限を教えねばならんな。お前たちだと人族の世界で恥をかく」

 ロイ爺さんにしか、教えられないだろう。
 うんち君まみれで悩んでいた竜と狼なのだから。

「俺様は・・。教えてやれるならば戦い方だ。それしかない。自身の身を守るすべを・・。人族の世界で通用できるくらいには・・・」

 ガシャンと鎖が音を立てた。
 この鎖が全てを邪魔する。
 カーラに教えてあげられる唯一の事は、戦い方。
 それしか知らないフェンリルなのだ。

 
「あーあーうー」

 目を覚ます幼いカーラ。

 ご機嫌良く起きたのは良いが・・。
 その後に、ぶぶぶりっと匂いと共に音がした。

「はいはい。うんち君ですね~」
「オムツの替えじゃ!」
「よりによって俺様の鼻の近くでーーーやめてくれーー」

 鼻を押さえるフェンリルだ。



 
 
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