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5 伝説のブラックスミスとは我なり

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 ワシは、ドワーフの国で産まれた。
 名前は親より貰ったロイだ。
 歩くよりも早くから、ハンマーを持ち、石や鉱物を叩いて遊ぶ。
 それをほけほけ竜が拾って来た人族の赤ん坊にもさせた。
 中々見どころありだ。
 ちゃんとハンマーで、洞窟に転がる石ころを割ろうとしているのだからな。

 そう・・。
 初めはそう思ったんじゃ。

 フェンリルが囚われている洞窟に来たのは、もちろん伝説の魔獣フェンリルの毛が欲しいがため。
 氷の世界では、フェンリルは常に真っ白な極上の美しい冬毛じゃ。保温性と耐久性に優れておる。
 暖かい地ならば茶色に体毛が変わる。
 まぁ、獲物に見つからぬよう、敵に見つからぬように色を変化させるのは自然界ではよくあることじゃ。
 人の世界に妖精国。
 勿論小人国に巨人国。
 長生きしているワシは、素材集めをしながら、旅をし、製作への探求心で自分の腕を磨いてきた。
 ドワーフの国で製作?
 はん! 
 鼻で笑う。
 ワシは自分で作りたいものを作る。
 依頼などくそくらえ!
 手掛けた武器や防具に装飾品は、売れば多額の金額となる。
 まぁ、それでまた素材集めの旅に出るがな。
 ワシに弟子入りしたいと多くの者が来た。
 しかしだ! 
 ワシについてはこれない。
 弟子が作る物を見るたびイライラする。
 もっと繊細に、もっと素材を生かし、その物がなりたい姿と性能をもっと、もっと、もっとじゃーぁ!
 辞めていったな・・・。

 フェンリルは噂通りに凶暴な雌狼だ。
 洞窟に居ついたこれまた珍しいアルビノの竜を食おうとしている。
 が、アルビノの竜はほけほけとしていて、全く動じない神経の図太さ。
 差し入れをしながらも、ブラッシングする事を条件で、やっと彼女の毛を手にいれた。
 そこは雌だ。
 どの種族も、雌ってのは美意識が高い。
 
 ほけほけ竜が人族の赤ん坊を連れて来た時は驚いた。
 人族は、この氷の世界では生きられない。
 それに竜が人族の子供を育てるなど・・無理だ。
 情がうつらぬうちに捨てる方が良い。
 言ったがほけほけ竜は聞かない。
 意外と強情なやつよの。

 しかしだ!
 糞尿まみれで大泣きの赤ん坊。
 ワシのフェンリルの毛がぁぁぁーーっ!
 ほけほけ竜は・・自分の血を母乳かわりに与えるだけだったのだ。
 それで育つ赤ん坊・・。
 怒りでフェンリルがカーラと名付けた。
 荒れ狂う者と言う意味だそうな。
 確かに、糞尿まみれで、ほけほけ竜の顎をぶっ飛ばし、凶暴なフェンリルを糞尿まみれで泣かせたのだ。
 中々見所があると思った。
 それからは、子育てなどしたことのない者達のサポートをする事になった。
 二度と、フェンリルの毛を汚されてはならないからな。

 初めにオムツ、そして洞窟の中で、人族が暮らせる正常な状態をと、貴重な浄化の魔石を配置してやったぞ。
 ほけほけ竜が常に抱いていれば、良いが、そうもいかんしの。
 アルビノの竜は快く、髭も鱗もくれるしな。
 フェンリルも抜け毛以外にも爪をくれたり。
 その爪で、カーラが、氷の上で転ばぬように、アイゼンを作ってやった。
 毛皮の靴の裏に取付けると、スノーシューズになるんじゃ。

 カーラは話せるようになったら、幼児とは思えぬほど、話す言葉はしっかりとし、物事を理解している。
 フェンリルの呪縛も解いてしまった。
 人の子供は人の世界で生きる。
 ワシが常識と、あ奴が、安全に生活でき、働いていけるように、ワシが身につけたすべを教え込もう。
 ほけほけ竜とフェンリルに任せていては、危険な職業しかないではないか!?
 女の子なのにフェンリルのように筋肉凶暴女では、嫁の貰い手もなかろう。
 ほけほけ竜の教える魔力の使い方は、まぁ良いが、後は大雑把もいいところよ。
 仕方がない・・。
 ワシが、一番人の世界を知るからの。
 ちょいと、教えでも記録してやろう。
 忙しいんじゃがな。



 人の子供の成長は早い。
 背は抜かれてしまった。

「ロイ爺さん、これで、良い?」

 自分の下着くらい縫えなければと教えるが、縫い目がガタガタ。

「縫い直しじゃーーーーっ!」

 ほどいてやったわ。

「こんな簡単な縫い物もできずに、人の世界で生きていけると思うな!」
「う、うん。やり直す。」

 グチグチ言っても、ネチネチ言っても、やり直す。
 
「私の為の武器なんだけど、魔力を流すと伸びたり、縮んだりってのはどうかな?」
「鎖だぞ」
「うん、鎖だし。ジャラジャラ邪魔。」

 そう言うと絵を描く。
 右手首と右手の指を繋ぐ細い五本の鎖。
 各指の指輪には魔石がはめられている。
 そしてワシに一生懸命に説明するのだ。

「右手のドローシは、主に命綱兼通常武器。左手のレージングルは幅広の籠手に大きな魔石で、主に命綱兼捕縛と、大きな相手用の武器と盾かな。収納袋も、素材が痛まないようにはできないかな~。ばかすか物が入るのは最高だけど、食料が腐ってたなんてのは嫌だな」

 簡単に言ってやがる。
 この袋を作るのにどれだけ失敗しまくって・・・。
 だが、カーラの発案は認めてやる。
 意のままに操れる鎖の武器。

 面白いではないか!

 命綱とは、フェンリルのしごきに対応する為の必衰だからだろう。
 籠手とした防具の代用もできよう。
 魔石の種類と、その魔石に刻む魔法。
 できるかもじゃなく、創り上げる!

 ワシは伝説のブラックスミスじゃーーーーっ!

 カーラは何をさせても、ダメダメだった。
 掃除と洗濯はほけほけ竜達よりは出来る。
 が、
 職人にはむかない・・。
 発案は中々だがな。
 口だけ番長だと自分で言っていた。
 本当に発案だけはな。
 
「靴なら、素早さアップは必衰だし、やはり、可愛いのがいいよね。ロングブーツなんて良くない?岩肌を登るには、アイゼンを取り付けたら怖いものなしね。ローラースケートで、楽々移動っても面白いかも。でもガタガタ道にはむかないよね」

 言うだけは簡単だ。
 言うだけはな!
 そんな事を言い、デザインを描く。
 カーラが着る防具のデザインさせたら、珍妙だが、これがまた上手い。
 全てに、ワシのロゴを入れてとお願いされた。

「特別な私だけのロイブランド」

 そう言葉にし、一人で嬉しそうにしていたな。
 悪い気はしないぞ・・。

 
「ロイ爺さんの作る物は凄いね。あのオムツの柔らかさと肌感は最高だったよ。」
「褒めるならば、武器や防具だろう」
「あの炉はロイ爺さんにしか無理。」
「当たり前だ! ワシの命の炎じゃ」

 そう言うと、嬉しそうに笑う。

「綺麗な炎。こんなに綺麗で力強い炎が見れるなんて」

 目を細め幸せそうに見ていた。


 真剣に考える。
 カーラが人の世界で生きるには・・。
 裁縫職人も鍛冶屋も木工職人も細工師もダメダメだ。
 伝説のブラックスミであるワシが、人の子供に教えられないなど・・・。
 まだ、時はある!
 
 
 
 
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