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10 急がば回れ

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 人の世界のプラトーの街で、冒険者登録しました。
 はい!
 ここから生まれ変わった私こと、カーラの異世界冒険の始まりです。





 広い草原。
 プラトーの街の農業地区、南門を出た場所にある。
 そこには薬となる薬草が自生しているのです。
 新人冒険のお決まりである薬草採取。
 いきなり魔物や魔獣退治など無理無理無理ーーーっ!
 どんなに強いのか、はかり知れません。
 宿屋で泊まれるのは、あと六日。
 出来ればアパートを借りたいですが、ヴァイオレットさんに頂いたお金は残り三千リオン。
 安いアパートも借りれない。
 見た人が見たら、私の装備品はロイ爺さんが、作ってくれたとても良い品だから、馬小屋などを借りて眠るなんて怖いです。
 起きたら、すっぽんぽんなんて嫌だし。
 焦る気持ちはあるけれど、できることをします。
 急がば回れってことですよ。

 せっせと薬草を採取していく。
 ヴェルジュと、当てっこしながら教えて貰ったので、間違わないわ。
 
 小さなシルエットがちらほらと見える。
 新人冒険者達です。
 やることは一緒だね。

 千リオン払って買った冒険者ガイドブックをパラパラと開く。

「森には肉食の一角ウサギに、昆虫モンスターか。水辺には毒をもつカエルや、肉食魚ってピラニアみたいなものかな~? 他のは森狼って怖いな」

 まだ自分には早いターゲットだと、ガイドブックをウエストポーチに戻した。
 ちまちまと薬草採取は続く。
 ふと、気配を察して、飛びのく。

「凄いジャンプ力じゃない!気付くなんて新人さんなのにすごいわ。あたしはミラー」
「中々の装備じゃねーか? 貴族様が冒険者とは考えにくいし、商家の気まぐれかよ。俺はガイル。D級さ」

 お化粧が濃いミラーさんと、鼻ピアスのガイルが声を掛けてきた。

「カーラです。何か御用でしょうか?」

 年上でD級の二人が、薬草採取している新人冒険者に何用か?

「真っ赤な髪と異国の肌に、新人にしては装備が、目立ってな。新人でも強いなら、俺らのパーティーに入れてやろうかとよ。これも先輩冒険者の務めのうちさ」
「そうそう、あたしらも、そろそろアイアンカードに上がりたいし」

 彼らはブロンズカード。
 私が持つ青銅のカードではない、桜色の綺麗なブロンズなのです。

「この森の奥に、ダンジョンがある。レベルは森にいる魔獣よりは高い。だから報酬もいいし、レベルアップにもダンジョンが一番効率的なんだぜ」

 それはわかります。
 冒険者ギルドに貼られている依頼用紙は見た。
 B級以上の依頼はギルドの三階。
 C級は二階に。
 それ以下は一階に張り出される。
 私は、初心者だし、最低ランクだから、一階しかダメ。
 二階へ行こうとしても行けない。
 それは無茶な依頼を受けて、失敗しないようにです。
 失敗とは死の危険性があると言う事。
 自分のレベルよりワンランク上の依頼を受けれるが、それもパーティーを組んで挑むのが良い。
 それ以上は、そのレベルの人が一緒じゃないとダメなのだ。
 危険性が高いから。

「私では足手まといになります。まだ魔物や魔獣を倒した事もありませんから」

 シグルーンとは戦ったが、毎回こてんぱにされちゃいました。
 全然ダメだと言われたし。

「まぁ、考えてみてよ。行くのは明後日。」
「おい・・」
「いいのよ。行きましょう」

 厚化粧のミラーは鼻ピアスのガイルを促した。

「どうしよう・・」

 急がば回れと思ったけど、アパート確保はしたいんだよな。
 紹介された宿屋に、文句はない。
 温かな料理に、ベッドに、お風呂まであるんだから。
 でも毎日五千リオンは・・。
 薬草採取で、量にもよるけど、全く足りません。
 他でアルバイトするなら、まずは冒険者として、一匹でも魔物や魔獣を狩る。

 また薬草採取を始めた。
 まずは今日のノルマをこなすのだ。






 ダンクの宿屋に戻ると、看板娘のカリンちゃんがお出迎えしてくれた。

「お帰りなさい」
「ただいまです」

 茶色の髪を三つ編みに束ね、暖かな茶の瞳で、真っ直ぐに見つめられる。

「今日は、お父さんの自慢のシチューよ。胡桃パンもオススメ。パンはお代わり自由だからね。」
「じゃ、それで。お風呂は先に、入れますか?」
「はい。」

 薬草採取も、中々重労働だった。
 腰は痛いし、目も疲れるの。
 警戒もしながらだからね。

 小さいけど、お湯につかれるのは嬉しいです。
 先にお湯で、身体を流し、そして、布で身体を擦り、汚れを落とす。
 でも、考えれば洞窟暮らしの間、お風呂に入った事がなかったよな。
 いつも、ヴェルジュが、魔法で・・・!

「そうか~。ピュリフェケイションには清潔って意味があるし。イメージは・・」

 浄化の膜がしゃぼん玉だ。
 清潔って衣服ならば洗濯機しか思い浮かばない。
 洞窟暮らしでの洗濯はそれだったし。
 水は必ず浄化しなければダメだった。
 自分でできるまではヴェルジュがやってくれていたな。

 想像力だよ。

「ピュリフィケイション!」

 そう口にすると、激しい水流にもみくちゃにされた感が半端ない。
 ぜはぜはと息をした。
 衣類の気持ちが良くわかった。
 ロイ爺さんに作って貰った物は、優しく手洗いのイメージが大事だわね。
 気を取り直す。
 

「洗濯機が抜けなかったし。これは失敗」

 今度は優しく汚れを浮かせて取り除くイメージをする。
 すると、お高い泡のボディーソープで洗ったような、しっとり感が残ります。
 本当に魔法は事細かなイメージが大事だわ。
 たぶん、魔法は詠唱に魔力を込めてだったかな。
 ヴェルジュがくれた本には、複雑かつ、長々と呪文のような文字が書いてあったものもあった。

 ゆっくりと湯につかります。
 みるみる体力が回復しているのが感じ取られる。
 普通の人は違うよね。
 これはアルビノの竜とフェンリルの血が、私の肉体を作っているからだろう。

 

 お風呂から出て、カリンちゃんおススメのシチューと胡桃パンを食べた。
 マジに美味しかったです。
 お代わり自由なので、胡桃パンのお代わりをします。
 そっと二つロイ印のウエストポーチに入れた。
 小腹が空いたときの為にね。
 私が洞窟で食べていたものって・・。
 あれはあれで、その時は美味しいと思っていたんだよ。





 次の日に、冒険者ギルドへ行くと、広いホール内は、ざわめいていた。

「一昨日入ったばかりの女冒険者がいきなりゴールドカードになったらしいぞ!」
「なんでも三階の凶暴魔獣討伐を総なめしたんだってさ」
「あの女戦士か?」
「あぁ、ガラの悪い女だ。」
「ガイルのやつは災難だったよな」
「あぁ、冗談も通じない」
「傍にフードを深く被る女がお目付け役でいただろう?」
「あぁ、聖職ギルドから派遣されたらしいわよ」
「あんな女のお目付け役とはかわいそうね」

 酷い言われようの女冒険者です。
 ここの強面冒険者達に言われるなんてね。
 昨日、ダンジョンに誘ってくれた鼻ピアスのガイルも災難だったよう。
 女戦士と言う事だから、戦闘職の兵士さんが、冒険者登録をしたか何かかな?
 でも一日でAランクのゴールドカードなんてすごすぎる。

「狂戦士ベルセルクだってよ。」

 誰かが言った言葉で、またまたホールに響く驚嘆の声。

「凄いですね」
「そうですね」

 横を向くと、弓矢を持つシルバー色の髪に青い目の可愛い女の子がいた。
 耳がちょっと長くて、尖っている。
 
「私はハーフエルフのノア」
「私はカーラ」
「異国の人なのね。」
「そうみたい」

 顔を見ながら二人で笑った。
 自分のことなのに何処の国なのかわからない私だ。

「凄い人もいるんだね」
「焦るな。私・・もうすぐ一年になるから。早くブロンズカードに上がらないといけないんだ」

 聞くと、ノアは私より、一つ年上。
 お父さんが猟人で、見習いで十歳から、弓矢を持ち、フォレスタの街で、暮らしていたそうだ。
 だが、五つ上のお兄さんが結婚したこともあり、十二歳になると同時に、プラトーの街に来て、冒険者登録した。
 早くブロンズカードになり、冒険者ハンターとして一人立ちしたいのだと。
 
「よう! 俺らとダンジョンに行く事を決めたか?」

 それは鼻ピアスのガイルだ。

「ダンジョンに行くの?」

 ノアが食いついて来た。
 一年以内にブロンズカードにならなければ、青銅のカードは消滅してしまい、二度と冒険者ギルド登録は出来ない決まりだと、ガイドブックに書いていました。

「私も連れて行ってください。射撃は得意とします。」
「一年近くも青銅のカードだろう?」

 鼻ピアスのガイルは値踏みするかのように、ノアを見る。

「まぁ、そっちの新人と一緒ならな。俺らはアイアンカードに、お前らはブロンズカードにか」
「はい! ありがとうございます」

 あの~・・・
 私はイエスと言っていませんが・・。
 とは言えない空気だ。
 ハーフエルフのノアの嬉しそうな顔を見たら、断れない。
 急がば回れと思ったのにね。
 だけど、一昨日入ったばかりの、それも女の人がゴールドカードを手にした。
 それは、他のギルドではできないミラクルストーリーなのだろう。
 冒険者だからできる。
 それに、このダンジョンに行きが成功したなら、アパートを借りる事ができるかも知れないし。
 私は詳しく話を聞くために、鼻ピアスのガイルの後に続く。
 ギルド内の広い食堂の一角に、厚化粧のミラーさんと、話すアイアンカードを持つダニエルと言う三十すぎの長身男性がいた。
 装備もちゃんとしていて、さすがアイアンカードを持つC級さんです。
 このC級が二番目に多いそうで、CからBに上がるのには、とても大変なんだって。
 一番多いのはD級のブロンズカード。
 DからCもまた、上がるのにはかなり難しい。
 鼻ピアスのガイルや厚化粧のミラーも、二十歳後半だ。
 そんなのを一日でA級に駆け上がった女性冒険者は、冒険者ギルドの伝説になるだろう。
 きっと勇者様ですよ~。
 鼻ピアスのガイルは、彼女と何かあったらしく、「野蛮人だ」「あれは女ではなく、ケダモノだ」とか言い、嫌悪していた。

「明日、俺とガイル、ミラーと・・」
「ノアです」
「カーラです」

 二人で頭を下げた。
 
「五人のチーム。俺は槍使い。ランサーだ。ガイルは闘士ウォーリア。ミラーは盗賊シーフ。ノアは弓使いのハンターだな。」
「はい」
「カーラは?」

 私の武器は鎖。
 だけど、ただの装飾品にしか見えない。

「武器は鎖。あと、回復系の魔法がちょっと使えます」
「回復魔法は助かる。支援魔法は?」
「仲間の攻撃力を上げたり、とかですか?」
「あぁ」

 やった事がない!
 
「すみません・・。まだ」

 出来るかどうか?
 わかりません。

「回復魔法が出来るなら助かるわ」

 ミラーが、笑ってくれたので、ほっとしたよ。

「プリーストなら、ブロンズカードになったら、聖職ギルドに登録したら? サブ職でね。回復魔法の効き目があがるから」
「教えていただきありがとうございます。」
「いいのよ~」

 気さくにミラーさんは、返事してくれた。
 警戒しすぎたかな?
 でも、魔物や魔獣と戦うんだから、警戒心はもたないとな。
 うん!
 このチームで戦うのだから。
 
 

 
 


 
 
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