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27 縁の下の力持ち
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暖かい・・。
僕は生きている。
「お兄ちゃん! お母さん、お兄ちゃんが目をあけたよ」
「赤の聖女様を呼んできます」
赤の聖女様・・・
白の聖女様は聞いたことがある。
放浪の治癒師で、その姿はとても美しく、人を選ばずに治してくれる。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「・・・君が無事で良かった」
何も出来ないと泣いた。
だけど幼い子供を救うことが出来たのだ。
「目覚めましたか? 名前を言ってみてください。」
「・・レグルス」
「レグルスさん、指を動かしてください」
言われた通りに動かした。
「よし! カーラさんに報告しよう」
赤の聖女様には見えないけど・・。
男だったから。
また眠気が襲う。
レグルスは青い目を閉じた。
===============
あの少年が気付いたと知らせがきたのは、丸二日後だった。
「カーラ、酷い顔だね」
「うん・・。贅沢を言ってはいけないけれど・・床でごろ寝はキツイです」
「ほんとうに、どこのお嬢様よ」
だってヴェルジュに抱っこしてもらっていたし、シグルーンの極上の毛に埋もれてたり、人間世界では、ダンクのお店のベットで、今はお姫様ベット。
床の上なんて知りません。
ぐっすり眠れないって言うのは、こんなに辛いなんて・・。
なんか・・やる気がでません。
「温かいカボチャのスープよ」
目の前のテーブルの上に、温かなスープが置かれた。
見ればミラーが、今朝も厚化粧ばっちりで、スープと焼きたてのパンを置いてくれたのだった。
「ありがとうございます」
「お疲れさんだったね。あんたのお陰で一番に来れた。」
「そうなんだ・・」
「多くの人が亡くなったみたいだけど、救えた者達もいるんだ。私らは裏方仕事で、出来る事をするからさ。」
ばんっと背中に叩かれる。
あのミラーと今のミラー。
今のミラーなら私は、好きかも。
「あの人達さ、お粥とか作って、患者さんに食べさせてたんだよ。」
「大きなお鍋にミルクた~ぷりのシチューは美味しかったな」
「重い荷物も運んでくれたり」
縁の下の力持ちだね。
目立たないところで、人の為に力を尽くすこと。
とても大切な事だよね。
「金髪の子のところに、行く?」
「・・そうだね。でも治癒師の人が診てくれているしな」
全くやる気スイッチがはいりません。
私って寝不足はダメダメみたいだ。
「・・今日は村をまわる。」
「そうですか・・」
ヘルヴォルさん、頑張ってください。
「・・・行くぞ」
グイっと腹にヘルヴォルの腕が回ったと思うと、そのまま脇に抱えられる。
「はぁぁぁーーー!?」
「カーラ!」
ノアが手を伸ばすが届かず、私は、ヘルヴォルに抱えられた形で、町を出た。
「早いの~」
私の肩から、ヘルヴォルの肩に乗り、リズははしゃぎますが、完全に私は、荷物です。
だけど、自分で走る気力がないから、このままでいいやと、考える事をやめた。
村は悲惨なありさまだった。
全ての家屋が、雪に埋まり、そこはただの雪原。
壊れた風車がなければ、村があったなんてわからない。
「誰もいない・・ね」
「・・ああ。次を回る」
そう言ってヘルヴォルはまた、私を、抱えて走る。
合計五つの村々を回った。
日が傾き、雪が強くなる。
「戻るか・・」
「そなた一人ならの~。カーラは人の子じゃ。」
「・・わかった」
何が?
もう頭は、ぼ~っとしている。
五つの村人達はいない。
サングリーズルに全滅されたか?
逃げ延びて町に行ったのか?
「ここで良い」
だから何が?
聞くよりも早く、ヘルヴォルの大きな斧が、岩を砕いたのだ。
ぽっかりとあいた大きな穴。
氷の世界での洞窟よりは、小さいが、十分な広さだ。
岩を一振りで・・。
S級冒険者は伊達じゃない。
ヘルヴォルは火を起こす。
洞窟内が、明るくなった。
「カーラ」
「はい。胡桃パンと甘々と干し肉と水しかありませんよ」
「十分じゃ」
ロイ印のウエストポーチから、それらを出した。
カリンちゃんの胡桃パンが、残りわずかだ。
「・・甘々を」
下を向き、ヘルヴォルは蜜袋を指さす。
「どうぞ」
渡すと、胡桃パンにまたまたどば~っとかけました。
「うまいじゃろ~」
「・・・・・・。」
無言で頷いていた。
私も干し肉をかじるが、食欲がありません。
「リズさん・・シグルーンとヴェルジュに会いたいです。」
自分の膝に顔をうずめた。
もう、シグルーンのふわふわの毛並みが恋しいのよ。
「そう言ってもの~。カーラは寝不足だと弱々だの・・・そうじゃ!」
ちょいちょいとヘルヴォルを呼ぶ。
「こやつはフェンリルじゃ。今夜はこやつの毛に埋もれて眠るがよい」
「・・・・・!」
「・・・・マジ!?」
顔を上げてヘルヴォルを見る。
彼はリズを睨んでいた。
だが、それ以上の答えはない。
「マジですか? 本当にシグルーンと同じですか? マジのマジですかぁーーーーーーぁ」
「マジのマジじゃ~」
「・・・・マジとはなんだ?」
そんなことはどーでも良いのです。
「本当に? フェンリルなら大きな狼になってください。なってくださ~いよぉぉぉぉ」
切羽詰まったお願いだ。
「カーラよ・・そなたアンデットのように顔が怖いぞ」
「アンデット・クィーンとはお前のことか?」
何でも冒険者ギルドで、アイアンカードの冒険者達が、私の事をそう言っていたそうな。
たまたま耳にしたらしい。
「さっさとフェンリルになってくださいよーーーーぉ! しゅゅゅーーーっ」
目を血走らせ、息を吐き、右手のドローシと左手のレージングルが飛び出す。
そしてそれは、ヘルヴォルをがんじがらめにした。
「なっ! こんなもの」
そう言うが、鎖はびくともしない。
そりゃ、シグルーンを長年にわたりしばりつけていた鎖なのだ。
そこに、私の執念がこもっている。
「はやく・・フェンリルになってよ~ぉぉ」
「怖いの・・わらわは初めてカーラを怖いと思うたぞ」
「・・・わかった」
その言葉で鎖をしまう。
現れたのはシグルーンと同じ大きな狼。
毛は、彼の方が銀色っぽい。
手触りは・・・。
「ロイ爺さんにブラッシングしてもらってください。」
「・・・・・・・。」
ヘルヴォルは、とても嫌そうだ。
「では!」
首周りにしがみつく。
やはり、ブラッシングを強くすすめよう。
1・2・3・・・
私は、深い眠りに落ちた。
朝日が顔を出そうと、雪原に光の帯がさす。
「さぁ! 今日は何処までもいけますよ。」
なんとも言えない、このスッキリ感。
こきこきと関節をならし、やる気チャージはマックスです。
「・・・・涎」
べったりとフェンリルのヘルヴォルの首の毛が湿っている。
とてもいやそうな顔だ。
「ピュリフィケイション~」
綺麗にさせていただきます。
うんち君まみれじゃないから勘弁してほしい。
「・・・このことは」
「わかっています。勿論秘密。シグルーンの事も秘密ですから、安心してください。ですが、ロイ爺さんに、ちゃんとブラッシングをしてもらってくださいね。紹介しますから」
せっかくの極上の毛なのに、シグルーンと違い、ゴワゴワではいけません。
そして私は、閃いた。
「シグルーンは只今お婿さんを探しています。お見合いしてみませんか?」
「ほほぉ~。数少ない種族だしの」
「だったらシグルーンも、遠くに行かないで、いてくれるかも」
人に戻ったヘルヴォルは無言のまま、洞窟を出て行った。
ちょっとお節介な事を言ってしまったかもしれない。
「すみません。勝手な事を軽く言いました。」
「・・・・いや」
昇る朝日を見ながらヘルヴォルは、一言そう言った。
僕は生きている。
「お兄ちゃん! お母さん、お兄ちゃんが目をあけたよ」
「赤の聖女様を呼んできます」
赤の聖女様・・・
白の聖女様は聞いたことがある。
放浪の治癒師で、その姿はとても美しく、人を選ばずに治してくれる。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「・・・君が無事で良かった」
何も出来ないと泣いた。
だけど幼い子供を救うことが出来たのだ。
「目覚めましたか? 名前を言ってみてください。」
「・・レグルス」
「レグルスさん、指を動かしてください」
言われた通りに動かした。
「よし! カーラさんに報告しよう」
赤の聖女様には見えないけど・・。
男だったから。
また眠気が襲う。
レグルスは青い目を閉じた。
===============
あの少年が気付いたと知らせがきたのは、丸二日後だった。
「カーラ、酷い顔だね」
「うん・・。贅沢を言ってはいけないけれど・・床でごろ寝はキツイです」
「ほんとうに、どこのお嬢様よ」
だってヴェルジュに抱っこしてもらっていたし、シグルーンの極上の毛に埋もれてたり、人間世界では、ダンクのお店のベットで、今はお姫様ベット。
床の上なんて知りません。
ぐっすり眠れないって言うのは、こんなに辛いなんて・・。
なんか・・やる気がでません。
「温かいカボチャのスープよ」
目の前のテーブルの上に、温かなスープが置かれた。
見ればミラーが、今朝も厚化粧ばっちりで、スープと焼きたてのパンを置いてくれたのだった。
「ありがとうございます」
「お疲れさんだったね。あんたのお陰で一番に来れた。」
「そうなんだ・・」
「多くの人が亡くなったみたいだけど、救えた者達もいるんだ。私らは裏方仕事で、出来る事をするからさ。」
ばんっと背中に叩かれる。
あのミラーと今のミラー。
今のミラーなら私は、好きかも。
「あの人達さ、お粥とか作って、患者さんに食べさせてたんだよ。」
「大きなお鍋にミルクた~ぷりのシチューは美味しかったな」
「重い荷物も運んでくれたり」
縁の下の力持ちだね。
目立たないところで、人の為に力を尽くすこと。
とても大切な事だよね。
「金髪の子のところに、行く?」
「・・そうだね。でも治癒師の人が診てくれているしな」
全くやる気スイッチがはいりません。
私って寝不足はダメダメみたいだ。
「・・今日は村をまわる。」
「そうですか・・」
ヘルヴォルさん、頑張ってください。
「・・・行くぞ」
グイっと腹にヘルヴォルの腕が回ったと思うと、そのまま脇に抱えられる。
「はぁぁぁーーー!?」
「カーラ!」
ノアが手を伸ばすが届かず、私は、ヘルヴォルに抱えられた形で、町を出た。
「早いの~」
私の肩から、ヘルヴォルの肩に乗り、リズははしゃぎますが、完全に私は、荷物です。
だけど、自分で走る気力がないから、このままでいいやと、考える事をやめた。
村は悲惨なありさまだった。
全ての家屋が、雪に埋まり、そこはただの雪原。
壊れた風車がなければ、村があったなんてわからない。
「誰もいない・・ね」
「・・ああ。次を回る」
そう言ってヘルヴォルはまた、私を、抱えて走る。
合計五つの村々を回った。
日が傾き、雪が強くなる。
「戻るか・・」
「そなた一人ならの~。カーラは人の子じゃ。」
「・・わかった」
何が?
もう頭は、ぼ~っとしている。
五つの村人達はいない。
サングリーズルに全滅されたか?
逃げ延びて町に行ったのか?
「ここで良い」
だから何が?
聞くよりも早く、ヘルヴォルの大きな斧が、岩を砕いたのだ。
ぽっかりとあいた大きな穴。
氷の世界での洞窟よりは、小さいが、十分な広さだ。
岩を一振りで・・。
S級冒険者は伊達じゃない。
ヘルヴォルは火を起こす。
洞窟内が、明るくなった。
「カーラ」
「はい。胡桃パンと甘々と干し肉と水しかありませんよ」
「十分じゃ」
ロイ印のウエストポーチから、それらを出した。
カリンちゃんの胡桃パンが、残りわずかだ。
「・・甘々を」
下を向き、ヘルヴォルは蜜袋を指さす。
「どうぞ」
渡すと、胡桃パンにまたまたどば~っとかけました。
「うまいじゃろ~」
「・・・・・・。」
無言で頷いていた。
私も干し肉をかじるが、食欲がありません。
「リズさん・・シグルーンとヴェルジュに会いたいです。」
自分の膝に顔をうずめた。
もう、シグルーンのふわふわの毛並みが恋しいのよ。
「そう言ってもの~。カーラは寝不足だと弱々だの・・・そうじゃ!」
ちょいちょいとヘルヴォルを呼ぶ。
「こやつはフェンリルじゃ。今夜はこやつの毛に埋もれて眠るがよい」
「・・・・・!」
「・・・・マジ!?」
顔を上げてヘルヴォルを見る。
彼はリズを睨んでいた。
だが、それ以上の答えはない。
「マジですか? 本当にシグルーンと同じですか? マジのマジですかぁーーーーーーぁ」
「マジのマジじゃ~」
「・・・・マジとはなんだ?」
そんなことはどーでも良いのです。
「本当に? フェンリルなら大きな狼になってください。なってくださ~いよぉぉぉぉ」
切羽詰まったお願いだ。
「カーラよ・・そなたアンデットのように顔が怖いぞ」
「アンデット・クィーンとはお前のことか?」
何でも冒険者ギルドで、アイアンカードの冒険者達が、私の事をそう言っていたそうな。
たまたま耳にしたらしい。
「さっさとフェンリルになってくださいよーーーーぉ! しゅゅゅーーーっ」
目を血走らせ、息を吐き、右手のドローシと左手のレージングルが飛び出す。
そしてそれは、ヘルヴォルをがんじがらめにした。
「なっ! こんなもの」
そう言うが、鎖はびくともしない。
そりゃ、シグルーンを長年にわたりしばりつけていた鎖なのだ。
そこに、私の執念がこもっている。
「はやく・・フェンリルになってよ~ぉぉ」
「怖いの・・わらわは初めてカーラを怖いと思うたぞ」
「・・・わかった」
その言葉で鎖をしまう。
現れたのはシグルーンと同じ大きな狼。
毛は、彼の方が銀色っぽい。
手触りは・・・。
「ロイ爺さんにブラッシングしてもらってください。」
「・・・・・・・。」
ヘルヴォルは、とても嫌そうだ。
「では!」
首周りにしがみつく。
やはり、ブラッシングを強くすすめよう。
1・2・3・・・
私は、深い眠りに落ちた。
朝日が顔を出そうと、雪原に光の帯がさす。
「さぁ! 今日は何処までもいけますよ。」
なんとも言えない、このスッキリ感。
こきこきと関節をならし、やる気チャージはマックスです。
「・・・・涎」
べったりとフェンリルのヘルヴォルの首の毛が湿っている。
とてもいやそうな顔だ。
「ピュリフィケイション~」
綺麗にさせていただきます。
うんち君まみれじゃないから勘弁してほしい。
「・・・このことは」
「わかっています。勿論秘密。シグルーンの事も秘密ですから、安心してください。ですが、ロイ爺さんに、ちゃんとブラッシングをしてもらってくださいね。紹介しますから」
せっかくの極上の毛なのに、シグルーンと違い、ゴワゴワではいけません。
そして私は、閃いた。
「シグルーンは只今お婿さんを探しています。お見合いしてみませんか?」
「ほほぉ~。数少ない種族だしの」
「だったらシグルーンも、遠くに行かないで、いてくれるかも」
人に戻ったヘルヴォルは無言のまま、洞窟を出て行った。
ちょっとお節介な事を言ってしまったかもしれない。
「すみません。勝手な事を軽く言いました。」
「・・・・いや」
昇る朝日を見ながらヘルヴォルは、一言そう言った。
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