トンネルを抜けると異世界だった~荒れ狂うと言う名を持つ乙女~

ゆき

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29 親しき中にも礼儀あり

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 村々を見てまわり、町に帰ったのは、太陽が真上に来た頃だろう。
 雪もやんでいます。
 
「カーラ! もう心配したんだからね」

 ノアが、飛んで来ました。

「あら? 目の下のくまがとれてる」
「うん! 私って寝不足だけはダメダメみたいです。今日は頑張りますね」
「今日はカーラの出番はないかもね~」

 何やらノアがもったいぶる。

「ヴェルジュ様がいらっしゃったよ」

 話したくて仕方がなかったのだろう、ノアはすぐに口をわった。
 聞いてすぐに駆け出した。
 もう、一目散に教会に向かう。

 会いたい人がそこにいました。
 白く長い髪の美しい白の聖女様が、人々の間をまわり、声をかけていた。
 ヴェルジュは私に気付き、口元を僅かに動かしたが、そのまま患者さんの様子を診ている。

「その場にいらっしゃるだけで、癒されます~」

 それは、聖職者ギルドから来た女の子だ。

「私はシシリー。あなたの事を褒めていらっしゃったわよ」
「カーラです。誰がですか?」
「白の聖女様に決まっているじゃない。いいな~。他にも聖女様はいらっしゃるのだけど、私は、白の聖女様が一番好きなの」

 嬉しいです。
 私を、褒めてくれたこともだけど、ヴェルジュを好きと言ってくれた事が、自分の事のように心が暖かくなる。

「でも、私たちがおいそれと、声をかけていいんじゃないからね。」

 それは聖職者ギルドでの上下関係だろう。
 治癒師見習いや、ベテラン治癒師も、首を垂れていた。
 親しき中にも礼儀ありか・・・。
 ここでは、私は、治癒師見習いです。
 どんなに親しい間柄でも、礼儀を忘れてはならないって事なんだな。
 寂しく思う。
 今すぐにでも飛んで行って、抱っこして欲しい。
 だけど、ヴェルジュはお仕事で来ているのだ。
 お仕事ならば、ゴールドカードのヴェルジュは雲の上の白の聖女様なのだから。

「あの・・僕を助けてくれた治癒師ですか?」

 声をかけられて振り向けば、あの金髪の男の子がいた。
 青い綺麗な瞳だな~って思います。

「危なかったですね。どこも痛い所とか、気分が悪い所とかは無いですか?」
「はい。ありがとうございます。」
「それじゃ、栄養をとって、もう少しゆっくり休んでください」

 にっこりと微笑む。

「いえ、すぐに僕は皆の役に立たなきゃいけません」
「・・・・そうですか」

 なんて言うのか・・責任感が強い方です。
 まぁ、本人がしたいなら、どうぞですけど。

「僕は幼い子供を助けることができました。」

 ・・そのかわりに自分が死にかけていましたが。

「何も出来ない無能と・・ですが自分にも出来ました」
「はぁ・・」

 なんか・・

「あの・・」
「はい」
「幼い子供を助けようとした勇気は、素晴らしいです。ですが、その為に貴方が死んだら、助けられた者は辛いですよ。ずっと貴方のそばで泣いていた優しい人の事を忘れないで下さい」

 それはヴェルジュを救うつもりが、自分の魔力を使い過ぎてぶっ倒れた自身の経験だ。
 尊い自己犠牲は、相手に悲しみを残す物になるかもしれない。

「・・・・・。」
「自己犠牲を美化してはいけません。常に貪欲に生きる! 一人では無理でも皆の力で乗り越えていく。それが冒険者ですから」

 何を私は、言っているのだろう。
 ただ死んではそこで終わりって言いたい。

「レグルスです。レグルス・グラディウス。赤の聖女様」
「違うし・・違います。私は、カーラ。今は治癒師見習いです。冒険者がメイン。」
「冒険者ですか・・。では、また」

 レグルスは、綺麗な礼をし、教会を出て行った。

「まだまだ若いの~。じゃが、あの小僧は、中々の伸びしろじゃぞ」
「そうなの?」
「ちらっと見えたが、アイアンカードかの?聖騎士と言うのじゃな」

 リズはよく見ています。
 アイアンカードもピンからキリまでいます。
 身なりも良さそうだったし、お坊ちゃまかもね。

「カーラ、ヴェルジュ様と話した?」

 ノアが自身の弓矢を持ち教会の中に来た。

「ヴェルジュはお仕事中です。私達は、裏方仕事で頑張ろう」
「じゃ、狩りにでも行こう。まだ生産職ギルドの応援も来ないから」

 ミィーシャさんが、連れて来るだろう木工師や、鍛冶師達が遅れている。
 ってか、私達が、ヘルヴォルの爆走で、早く到着しただけだけどね。
 そのお陰で、あのレグルスも救えたのは間違いじゃない。

「スパイシーケルウスを所望するぞ」
「いたらね」
「いたらいいよね」

 雪原でスパイシーケルウスがいるのかは疑問だが、ミラーのように、美味しい料理は出来ず、ヴェルジュが来たのなら、自分達には出番はない。
 材木運びとかも、生産職ギルド人が来て、指示してもらわないといけないし。
 そう、やることがなかったのです。
 だったら、狩りでもし、食材はいくらあっても良いと思います。

「何処に行く?」
「ヘルヴォルか~。スパイシーケルウスを狩るのじゃ~」

 リズは大好物だとテンションを上げる。

「付き添う・・ビッグハニーも狩りたい」

 雪原に絶対にいないだろうと思う。




 真っ白な雪原が広がり、雪の山脈が見えます。

「あの山脈の向こう側が、セラス王国よ。」
「そうなの~」
「行った事はないけどね」

 まだ知らない世界が広がっている。
 ルリジオン神国だってプラトーの街と、今いるワースティアの街って言っても、この半壊の町しか知らないもんね。

「この街って言うか、ここはグラディウス辺境伯が治めているんだよ」
「ノアって物知りです」
「一応小さい村でも、教会に行けば、読み書きや、計算とか教えてくれたんだよ。カーラも行ったでしょう?」
「私は、魔法とかはヴェルジュで、戦い方とかはシグルーン。一般常識はロイ爺さんかな」

 ノアは「はいはい」と流した。
 
「まだかの~。スパイシーケルウスは、いないのかの~」

 肩の上で、リズは雪原を見る。
 どこもかしこも真っ白で、鳥すら飛んでいない。
 
「・・静かすぎる」

 本当の姿はフェンリルだからか、ヘルヴォルの耳がピクピクしていた。

「吹雪いていないから?」
「カーラ、それだと獣や鳥くらいいるはずよ」

 目を凝らす。
 小動物くらい餌を探しにいてもいいだろう。

「雪うさぎみ~け!」

 真っ白な雪うさぎが、跳ねた。
 指をさし、ノア達に知らせる。

「雪うさぎって?」
「真っ白なうさぎよ。うさぎって食べれるよね?」
「それは旨いのか~。わらわは知らぬぞ」

 うさぎを知らない?

「耳が長くて、ぴょんぴょん」

 両手で、うさぎの耳に見立て、うさぎ跳びをして見せる。
 するとノアは顔を引きつらせる。
 えっ!?
 引きつるほど、うさぎのモノマネは可愛くなかったのだろうかと、ショックを受けてしまったわ。
 
「それはトワンティーレプスだろう」
「魔獣なの?」
「あぁ・・」

 雪うさぎで良いのではないのか?
 見た目は雪うさぎだよ。

「あれは集団で来るのよぉぉぉーーー! 逃げなきゃ食べられる」

 わたわたとノアが恐怖しだした。
 
「うさぎって草食動物だよね」
「肉食だから! 何を言っているのよ。トワンティーレプスを討伐するなら、もっと大勢でかからなきゃ無理」

 ノアは肉食だと言う、うさぎについて説明してくれた。
 炎の魔法は効果抜群だが、トワンティーレプスの毛皮は最高品だそうです。
 ラビットファーですから、そうでしょう。
 その肉も、最高との事。
 だが、素材を傷めず、倒すとなると、凶暴うさぎは、とても危険極まりない。
 肉食だから、集団で、襲われたらあっという間に骨も残らないそう。
 
「そんなに旨いのか~。スパイシーケルウスとどっちが旨いのかの~。」
「リズさん! その前に食べられるから」
「ラビットファーで、寝袋を作ったら、いつでも極上の眠りかも・・」
「カーラ! 大群なんだからね」

 ノアが青筋を立てていた。

「よく見て、雪と同じように見えるけど、あれはモンスターだからね」

 雪原を見ると、動いていた。

「・・このままでは町に行くか」

 ボソッとヘルヴォルが言う。
 それって非常にヤバいでしょう!




 
 




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