30 / 36
30 泣きっ面に蜂
しおりを挟む
ワースティアの地は、今年は厄年なんじゃないかと思います。
サングリーズルの被害は大きく、村々は壊滅。
町も半壊だし、その上にトワンティーレプスの襲撃なんかあったら、助けられた命も消えてしまう。
トワンティーレプスってのは魔獣。
雪うさぎのような見た目なのに、肉食の上、集団で、攻撃してくる。
これって泣きっ面に蜂って言うんじゃないかな。
悪いことの上に、さらに悪いことが重なるって事。
「わらわの食べ残しでもあさったのかの~?」
「はい?」
「ノアーーー!」
リズの発言に、ノアが聞き直すから、私は、大きな声を出して遮った。
ノアはリズの正体をしらないのだからね。
「サングリーズルが、食い漁った物を食って増殖したのだろう・・・」
「食べたら増殖ですか?」
「あぁ・・サングリーズルの脅威は、復活もあるが、他の魔獣や魔物を活性化させる」
ヘルヴォルの説明で、サングリーズル自体脅威なのだが、その後も怖い。
それ故に厄災とされていることが、わかります。
リズを見ると、吾知らぬ顔だ。
「ど、どうするの? ほんと! どうするの?」
「おちつくのじゃ」
「リズさんみたいに、落ち着けないわ!逃げる? ねぇ、逃げるが勝ちよね?」
完全にノアはパニックっていた。
依頼でもない。
だけど・・
チラッとヘルヴォルを見た。
「全滅は可能だ・・焼き殺せばな」
なるほど!
焼けばよし。
「ダメじゃーーー! それだと旨いのは真っ黒になるではないかえ」
肩の上で、リズが暴れます。
「そうですね。真っ黒になったら極上の寝具が作れません」
「そうじゃ~。ふわふわのフェンリル抱き枕は作れぬぞ~ぉ」
リズの言葉に、寝袋よりも、シグルーンの等身大ぬいぐるみが、頭を支配しました。
極上の手触りとされる雪うさぎの毛皮で、フェンリル抱き枕を作ったら、どんなに最高なのかと、考えるだけでワクワクした。
「ここは連携して、できるだけ最高の仕留め方しかありません」
「イヤイヤ、一気に燃やそう」
「ノア・・」
トンとノアの肩に手を置く。
「私達は冒険者です」
「そ、そうよ」
「お宝を目の前に逃げ出すの?」
「数を見てよーーーぉ!」
抱き枕以外にも、四人の着ぐるみパジャマが出来そう。
それでも余ります。
リズや、ノアやサクに着せれば、さぞかし可愛いだろう。
「断然やる気が出ました」
「な、なんでぇぇーーー!?」
作戦会議はこうだ!
ロイ印のウエストポーチから、余っている森狼の肉を散らばれせ、トワンティーレプスを誘う。
私のドローシとレージングルで、感電させた所で、ノアが、高い位置から射撃!
獲物の回収は、リズと、彼女の蛇のチュール。
ヘルヴォルは、逃した獲物を完全撃退です。
「リズさん、ロイ印のウエストポーチを預けます。」
「任せるのじゃ~。チュールも頑張るのじゃぞ。」
リズの頭からでてくる、薄い青色の蛇は、こくこくと頷いている。
「矢も回収して、回して欲しい」
あきらめたのかノアが、チュールに言った。
するとチュールは、わかるのだろう、こくこくと再び頷くのだ。
「焼けば簡単なことだが・・」
「ヘルヴォルさん! それだとフェンリル抱き枕が作れません」
「・・・そうか」
「そうです!」
くわっと振り向き、ヘルヴォルに強く言った。
ちゃんと言っておかなくては、丸焦げにさせかねませんから。
ノアが、大きな木の上から、スタンバイ完了と手を上げた。
ロイ印のウエストポーチから、リズが、肉をばら撒く。
ついでに燻製を食べているけど。
「ドローシ!レージングル!うずまきショック」
これは、鳴門のうずまきでしょう。
中々の器用さを要求される小技集。
そこに放電させると!
電撃蚊取り線香に早変わりだ。
肉に釣られて、トワンティーレプスがどどどーっと押し寄せる。
それはそれでとても怖い。
だが、放電鎖に触れると、これまたスッキリするくらい感電して倒れるのだ。
そこに、ノアが、急所を一撃し、蛇のチュールが、矢と得物分別回収。
リズは、ロイ印のウエストポーチを開いている。
うずまきを抜けたトワンティーレプスは、もれなくヘルヴォルに一撃された。
ノアの矢が雨のように降る。
ちらっと見ると、目を血走らせ、美少女なのに、今は夜叉のよう。
「わ、わたし過労死するわ! もう何が何やらぁーーーー」
叫んでいる。
「チュール! 頑張るのじゃぞ。」
働き者の蛇は、せっせとロイ印のウエストポーチに、獲物を入れては、矢を回収し、ノアに届ける。
ご主人様であるリズは、ウエストポーチの口を開いているだけだ。
強い相手ではないが、数が多すぎで、蜂の巣を突っいたようなで、キリがない。
「カーラ! もう、無理よぉぉぉーーー!」
大木の上からノアの悲鳴のような声。
「チュールや、疲れたかえ?」
せっせと働く、蛇も動きが鈍くなる。
「私も攻撃します。」
ノアが、倒すよりも、絶対に素材を痛めてしまう。
だが、弱い雪うさぎでも、群がられたら、命が危ない。
「ドローシ!」
電撃ショックはやめて、攻撃する。
五本の鎖が、次々にトワンティーレプスに突き刺さった。
やれると思ったんだ。
一撃だったし。
「カーラ!」
ノアの声に横を向くと、そこに尖った牙が無数にあった。
不覚にも頬に一撃をくらい出血した。
かすっただけなのに、血が流れる。
「チュールパンチ!」
リズの声で、蛇が、一発体当たりした。
だが、左腕に何匹か、トワンティーレプスが、食らいつく。
「レージングルショック!」
レージングルに魔力を放つ。
左腕には、盾にもなる、ロイ印の幅広籠手付きレージングルなんだな~。
運が良かっただけだけど、取り敢えず頬に傷はあるが、回避に成功だろう。
だけど、このままじゃ、食べられてしまう。
こうなれば、高級素材は諦めて、魔力を最大値にし、電撃強化しかない。
「リズさん!ヘルヴォルさんの所まで投げます。素材集めは終了」
「なんじゃとぉぉぉ」
言うが、早いかリズを思いっきりヘルヴォル目掛けて投げる。
よし!
トワンティーレプスを回避しながら魔力を高める。
足に魔力を高め、ホッピングジャンプと思った時だった。
横を金色の風が走った。
「我が女神よ、レグルスの名にかけて魔を裁く!ホーリー・ジャッジーーーー!」
魔法の詠唱だろう。
詠唱と共に光と炎の魔法が、金髪少年の剣から放たれる。
それは一振りしただけなのに、広範囲な攻撃力で、トワンティーレプスを一層してしまったのだ。
残ったのはトワンティーレプスの小さな魔石だけ。
「恩返しがしたくて。お怪我はありませんか?」
不発に終わった私に、金髪少年は声を掛けてきました。
「あ・・はい。ありがとうございました。」
一応頭を下げてお礼を言う。
助けられた・・のだから。
でもね!
私だってできたかも知れないって思うのよ。
高めた魔力は不発弾って事だよ。
もやもやが残りつつも顔を上げて、金髪少年を見た。
「・・・・ふはぁ~」
そう言いながら彼は真っ青になり、ぶっ倒れました。
「大丈夫!?」
起こし、また目を開けたかと思うと、力なくぐったりとする。
「助かったわね。その子、カーラが助けた子じゃない。落ちている魔石は頂くわよ」
ちゃっかりとしているノアだ。
「・・中々の魔力だ。」
「わらわの旨い肉をよくも消してくれたなーーーっ!チュールパンチじゃ」
リズはヘルヴォルに抱えられていたが、肉の恨みとばかりに、倒れる少年に蛇パンチをおみまいしようと暴れている。
「ちゃんと怪我が治っていないのですか?」
聞くと少年は首を横に振る。
「ち、血がダメなのです。血を見ると、力が入らなくて・・」
私の頬の傷から出た流血が、原因だったみたいだ。
リズからロイ印のウエストポーチを返してもらい、中から、布を取り出して血を拭いた。
後は治癒魔法で、自分の傷を治す。
これくらいの傷ならば、傷跡も残りません。
「おぬし聖騎士のくせに血が苦手とは~うははぁ! へっぽこ騎士じゃな」
「ぐはぁ!」
少年は胸を押さえた。
まるで矢が当たらないノアと重なる。
「誰も欠点はありますよ」
「そうじゃな~。カーラは寝不足だと使い物にならんしな」
「ぐはぁ!」
私もまた胸を押さえた。
リズは、旨い肉を半分以上回収不能にされてしまったので、ご機嫌斜めだったのです。
「見てみて~。小さいけど大量の魔石だよ。これで矢の資金にしてもいいかな? あれ?どうしたの」
欠点を指摘され塞ぐ私とレグルスに、ノアは不思議顔です。
あなたも同じなのだからね!
と言いたい。
「あれ?」
「どうした」
高い丘の上をノアは見る。
ヘルヴォルもその方向を見た。
「どうしたの、ノア?」
私も見るが、また雪がチラチラと降ってくるばかり。
「誰かいたような気がしたんだけどな・・?」
「・・・・魔物や魔獣ではないようだ」
ヘルヴォルは町へ帰ろうと、まだぐったりしていたレグルスを、軽々と担いだ。
================
そこからはトワンティーレプスの群れがよく見える。
このまま行けば、半壊の町もすぐにトワンティーレプスの群れに襲われ、その次はワースティアの街へ数を増やし向かうだろう。
サングリーズルの復活は派手な助走にすぎない。
個体自体は弱いが、集団では、イナゴの大群と同じように、食らいつくすトワンティーレプスの群れ。
食べては増える魔獣だ。
その魔獣の価値を知るならば、欲との闘いだろう。
男は立ち去ろうとした。
だが、四人組の冒険者達が、トワンティーレプスの群れを狩り始めたのだ。
その中に真っ赤な髪の少女がいた。
ルリジオン神国の者ではない肌の色。
「まさか・・・?」
口から漏れる。
また一人現れた仲間にトワンティーレプスの群れは壊滅させられる。
「・・・まぁ素材を重視しなければな」
こうなる予想もしていた男は、最後にもう一度、赤い髪の少女を遠視した。
「・・・・おもしろい」
雪が降り始める。
男はその場から気配を消した。
=================
町に戻るとヴェルジュの姿はどこにもなく、聖職者ギルドのシシリーが、帰ったと教えてくれた。
彼女も残念そうだが、私も非常に残念です。
トワンティーレプスをお土産にと思ったのに。
「カーラ、早くさばくのじゃ」
「はいはい」
美味とされるトワンティーレプスのお肉が欲しいとリズにせかされた。
厚化粧のミラーに、捌ける場所を借ります。
大きな木のまな板の上にトワンティーレプスを出した。
「ちょっと! それってトワンティーレプスじゃない」
「はい。狩りました」
「わらわのだからな」
すごんでいるが、可愛らしい顔のリズでは、凄味にかける。
「集中したいので、詳しくはノアか、ヘルヴォルさんに聞いてください」
ミラーから解体用のナイフを借りた。
自分のは、サクにあげたしね。
ロイ爺さんに、トワンティーレプスの素材を渡して、解体用のナイフを一本と交換してもらえないかなと考えたわ。
それくらい、ロイ爺さんの解体用のナイフと、ミラーのナイフでは、切れ味が違ったのです。
二十匹を解体し、残りは新たなナイフを手にしてからにする。
だって解体するなら、綺麗に解体したい派なのです。
「ミラーさん、トワンティーレプスの調理をお願い致します。」
生でも、私は、大丈夫だが、ここはより美味しくいただきたい。
「いや・・こんな高級素材を調理したことなんてないわ。無理」
「なんじゃとぉー!小娘! わらわの料理人失格じゃ。サクを呼ぶのじゃ」
ミラーにしたら、リズの料理人になった覚えはない。
完全にとばっちりのワガママ爆発なだけ。
「だったら私がするしかない?」
「ノア・・やめて。素材が悲しむから」
「それを言うならカーラもだから」
そうです。
ノアと私は、料理人にはなれない。
パチパチと火がはぜた。
失敗しない料理があることに、私は気付く。
「バーベキュー!」
「バーベキュー?」
「それは旨いのじゃな?」
長い鉄串に刺し、火に炙れば良いだけだ。
味付けは塩と胡椒で十分。
それを言うと、ミラーは自分は知らないと、鉄串と調味料は用意してくれた。
ぶすぶすと鉄串にトワンティーレプスを串刺しにすると、知らないと言っていたミラーが、横から鉄串をぶんどるのだ。
「丸ごと? せめて切り分けるくらいしようよ? 後は野菜とかも刺せば、たくさんの人が食べれるようになる」
全く考えていませんでした。
改めて見ると、トワンティーレプスの肉を食べたそうに、町の人や、応援の人達が集まっている。
「わらわは丸ごと~」
しかしリズの意見は却下された。
私はミラーにお任せします。
ぶすぶす刺すだけなら、簡単だと思ったが、料理はセンスも大事だと知った。
いびつな刺し方より、ちゃんと均等に刺す方が、美味しそうなんだな。
お肉が焼ける匂いが、広場を覆う。
最初のお肉は、小さなリズに渡された。
リズは、鼻をクンクンとし、そしてパクリとトワンティーレプスの肉を頬張った。
「‥‥はぁ~ぁ~何という旨味かえ。とろけると言うか・・とけるのじゃ」
幸せオーラが全開のリズに、皆はごくりと喉をならす。
次々と焼ける肉を私もノアも食べた。
「ふはぁ~」
「とろける~」
それは、最高級ブランドのお肉。
前世でも食べたことはないが、絶対にそんな感じのお肉です。
噛むそばからとけてゆく~ぅ。
食べた人々の顔は、リズと同じく幸せ全開の表情でした。
「おかわりじゃ~」
「・・・もう一本いただこう」
「僕もお願いします」
ちゃっかりとヘルヴォルの隣でレグルスも食べていた。
怖くて、悲しくてやりきれない事がある。
だけど今は美味なる食べ物で一時的だけど、幸せな顔が出来た事を喜びたいですね。
サングリーズルの被害は大きく、村々は壊滅。
町も半壊だし、その上にトワンティーレプスの襲撃なんかあったら、助けられた命も消えてしまう。
トワンティーレプスってのは魔獣。
雪うさぎのような見た目なのに、肉食の上、集団で、攻撃してくる。
これって泣きっ面に蜂って言うんじゃないかな。
悪いことの上に、さらに悪いことが重なるって事。
「わらわの食べ残しでもあさったのかの~?」
「はい?」
「ノアーーー!」
リズの発言に、ノアが聞き直すから、私は、大きな声を出して遮った。
ノアはリズの正体をしらないのだからね。
「サングリーズルが、食い漁った物を食って増殖したのだろう・・・」
「食べたら増殖ですか?」
「あぁ・・サングリーズルの脅威は、復活もあるが、他の魔獣や魔物を活性化させる」
ヘルヴォルの説明で、サングリーズル自体脅威なのだが、その後も怖い。
それ故に厄災とされていることが、わかります。
リズを見ると、吾知らぬ顔だ。
「ど、どうするの? ほんと! どうするの?」
「おちつくのじゃ」
「リズさんみたいに、落ち着けないわ!逃げる? ねぇ、逃げるが勝ちよね?」
完全にノアはパニックっていた。
依頼でもない。
だけど・・
チラッとヘルヴォルを見た。
「全滅は可能だ・・焼き殺せばな」
なるほど!
焼けばよし。
「ダメじゃーーー! それだと旨いのは真っ黒になるではないかえ」
肩の上で、リズが暴れます。
「そうですね。真っ黒になったら極上の寝具が作れません」
「そうじゃ~。ふわふわのフェンリル抱き枕は作れぬぞ~ぉ」
リズの言葉に、寝袋よりも、シグルーンの等身大ぬいぐるみが、頭を支配しました。
極上の手触りとされる雪うさぎの毛皮で、フェンリル抱き枕を作ったら、どんなに最高なのかと、考えるだけでワクワクした。
「ここは連携して、できるだけ最高の仕留め方しかありません」
「イヤイヤ、一気に燃やそう」
「ノア・・」
トンとノアの肩に手を置く。
「私達は冒険者です」
「そ、そうよ」
「お宝を目の前に逃げ出すの?」
「数を見てよーーーぉ!」
抱き枕以外にも、四人の着ぐるみパジャマが出来そう。
それでも余ります。
リズや、ノアやサクに着せれば、さぞかし可愛いだろう。
「断然やる気が出ました」
「な、なんでぇぇーーー!?」
作戦会議はこうだ!
ロイ印のウエストポーチから、余っている森狼の肉を散らばれせ、トワンティーレプスを誘う。
私のドローシとレージングルで、感電させた所で、ノアが、高い位置から射撃!
獲物の回収は、リズと、彼女の蛇のチュール。
ヘルヴォルは、逃した獲物を完全撃退です。
「リズさん、ロイ印のウエストポーチを預けます。」
「任せるのじゃ~。チュールも頑張るのじゃぞ。」
リズの頭からでてくる、薄い青色の蛇は、こくこくと頷いている。
「矢も回収して、回して欲しい」
あきらめたのかノアが、チュールに言った。
するとチュールは、わかるのだろう、こくこくと再び頷くのだ。
「焼けば簡単なことだが・・」
「ヘルヴォルさん! それだとフェンリル抱き枕が作れません」
「・・・そうか」
「そうです!」
くわっと振り向き、ヘルヴォルに強く言った。
ちゃんと言っておかなくては、丸焦げにさせかねませんから。
ノアが、大きな木の上から、スタンバイ完了と手を上げた。
ロイ印のウエストポーチから、リズが、肉をばら撒く。
ついでに燻製を食べているけど。
「ドローシ!レージングル!うずまきショック」
これは、鳴門のうずまきでしょう。
中々の器用さを要求される小技集。
そこに放電させると!
電撃蚊取り線香に早変わりだ。
肉に釣られて、トワンティーレプスがどどどーっと押し寄せる。
それはそれでとても怖い。
だが、放電鎖に触れると、これまたスッキリするくらい感電して倒れるのだ。
そこに、ノアが、急所を一撃し、蛇のチュールが、矢と得物分別回収。
リズは、ロイ印のウエストポーチを開いている。
うずまきを抜けたトワンティーレプスは、もれなくヘルヴォルに一撃された。
ノアの矢が雨のように降る。
ちらっと見ると、目を血走らせ、美少女なのに、今は夜叉のよう。
「わ、わたし過労死するわ! もう何が何やらぁーーーー」
叫んでいる。
「チュール! 頑張るのじゃぞ。」
働き者の蛇は、せっせとロイ印のウエストポーチに、獲物を入れては、矢を回収し、ノアに届ける。
ご主人様であるリズは、ウエストポーチの口を開いているだけだ。
強い相手ではないが、数が多すぎで、蜂の巣を突っいたようなで、キリがない。
「カーラ! もう、無理よぉぉぉーーー!」
大木の上からノアの悲鳴のような声。
「チュールや、疲れたかえ?」
せっせと働く、蛇も動きが鈍くなる。
「私も攻撃します。」
ノアが、倒すよりも、絶対に素材を痛めてしまう。
だが、弱い雪うさぎでも、群がられたら、命が危ない。
「ドローシ!」
電撃ショックはやめて、攻撃する。
五本の鎖が、次々にトワンティーレプスに突き刺さった。
やれると思ったんだ。
一撃だったし。
「カーラ!」
ノアの声に横を向くと、そこに尖った牙が無数にあった。
不覚にも頬に一撃をくらい出血した。
かすっただけなのに、血が流れる。
「チュールパンチ!」
リズの声で、蛇が、一発体当たりした。
だが、左腕に何匹か、トワンティーレプスが、食らいつく。
「レージングルショック!」
レージングルに魔力を放つ。
左腕には、盾にもなる、ロイ印の幅広籠手付きレージングルなんだな~。
運が良かっただけだけど、取り敢えず頬に傷はあるが、回避に成功だろう。
だけど、このままじゃ、食べられてしまう。
こうなれば、高級素材は諦めて、魔力を最大値にし、電撃強化しかない。
「リズさん!ヘルヴォルさんの所まで投げます。素材集めは終了」
「なんじゃとぉぉぉ」
言うが、早いかリズを思いっきりヘルヴォル目掛けて投げる。
よし!
トワンティーレプスを回避しながら魔力を高める。
足に魔力を高め、ホッピングジャンプと思った時だった。
横を金色の風が走った。
「我が女神よ、レグルスの名にかけて魔を裁く!ホーリー・ジャッジーーーー!」
魔法の詠唱だろう。
詠唱と共に光と炎の魔法が、金髪少年の剣から放たれる。
それは一振りしただけなのに、広範囲な攻撃力で、トワンティーレプスを一層してしまったのだ。
残ったのはトワンティーレプスの小さな魔石だけ。
「恩返しがしたくて。お怪我はありませんか?」
不発に終わった私に、金髪少年は声を掛けてきました。
「あ・・はい。ありがとうございました。」
一応頭を下げてお礼を言う。
助けられた・・のだから。
でもね!
私だってできたかも知れないって思うのよ。
高めた魔力は不発弾って事だよ。
もやもやが残りつつも顔を上げて、金髪少年を見た。
「・・・・ふはぁ~」
そう言いながら彼は真っ青になり、ぶっ倒れました。
「大丈夫!?」
起こし、また目を開けたかと思うと、力なくぐったりとする。
「助かったわね。その子、カーラが助けた子じゃない。落ちている魔石は頂くわよ」
ちゃっかりとしているノアだ。
「・・中々の魔力だ。」
「わらわの旨い肉をよくも消してくれたなーーーっ!チュールパンチじゃ」
リズはヘルヴォルに抱えられていたが、肉の恨みとばかりに、倒れる少年に蛇パンチをおみまいしようと暴れている。
「ちゃんと怪我が治っていないのですか?」
聞くと少年は首を横に振る。
「ち、血がダメなのです。血を見ると、力が入らなくて・・」
私の頬の傷から出た流血が、原因だったみたいだ。
リズからロイ印のウエストポーチを返してもらい、中から、布を取り出して血を拭いた。
後は治癒魔法で、自分の傷を治す。
これくらいの傷ならば、傷跡も残りません。
「おぬし聖騎士のくせに血が苦手とは~うははぁ! へっぽこ騎士じゃな」
「ぐはぁ!」
少年は胸を押さえた。
まるで矢が当たらないノアと重なる。
「誰も欠点はありますよ」
「そうじゃな~。カーラは寝不足だと使い物にならんしな」
「ぐはぁ!」
私もまた胸を押さえた。
リズは、旨い肉を半分以上回収不能にされてしまったので、ご機嫌斜めだったのです。
「見てみて~。小さいけど大量の魔石だよ。これで矢の資金にしてもいいかな? あれ?どうしたの」
欠点を指摘され塞ぐ私とレグルスに、ノアは不思議顔です。
あなたも同じなのだからね!
と言いたい。
「あれ?」
「どうした」
高い丘の上をノアは見る。
ヘルヴォルもその方向を見た。
「どうしたの、ノア?」
私も見るが、また雪がチラチラと降ってくるばかり。
「誰かいたような気がしたんだけどな・・?」
「・・・・魔物や魔獣ではないようだ」
ヘルヴォルは町へ帰ろうと、まだぐったりしていたレグルスを、軽々と担いだ。
================
そこからはトワンティーレプスの群れがよく見える。
このまま行けば、半壊の町もすぐにトワンティーレプスの群れに襲われ、その次はワースティアの街へ数を増やし向かうだろう。
サングリーズルの復活は派手な助走にすぎない。
個体自体は弱いが、集団では、イナゴの大群と同じように、食らいつくすトワンティーレプスの群れ。
食べては増える魔獣だ。
その魔獣の価値を知るならば、欲との闘いだろう。
男は立ち去ろうとした。
だが、四人組の冒険者達が、トワンティーレプスの群れを狩り始めたのだ。
その中に真っ赤な髪の少女がいた。
ルリジオン神国の者ではない肌の色。
「まさか・・・?」
口から漏れる。
また一人現れた仲間にトワンティーレプスの群れは壊滅させられる。
「・・・まぁ素材を重視しなければな」
こうなる予想もしていた男は、最後にもう一度、赤い髪の少女を遠視した。
「・・・・おもしろい」
雪が降り始める。
男はその場から気配を消した。
=================
町に戻るとヴェルジュの姿はどこにもなく、聖職者ギルドのシシリーが、帰ったと教えてくれた。
彼女も残念そうだが、私も非常に残念です。
トワンティーレプスをお土産にと思ったのに。
「カーラ、早くさばくのじゃ」
「はいはい」
美味とされるトワンティーレプスのお肉が欲しいとリズにせかされた。
厚化粧のミラーに、捌ける場所を借ります。
大きな木のまな板の上にトワンティーレプスを出した。
「ちょっと! それってトワンティーレプスじゃない」
「はい。狩りました」
「わらわのだからな」
すごんでいるが、可愛らしい顔のリズでは、凄味にかける。
「集中したいので、詳しくはノアか、ヘルヴォルさんに聞いてください」
ミラーから解体用のナイフを借りた。
自分のは、サクにあげたしね。
ロイ爺さんに、トワンティーレプスの素材を渡して、解体用のナイフを一本と交換してもらえないかなと考えたわ。
それくらい、ロイ爺さんの解体用のナイフと、ミラーのナイフでは、切れ味が違ったのです。
二十匹を解体し、残りは新たなナイフを手にしてからにする。
だって解体するなら、綺麗に解体したい派なのです。
「ミラーさん、トワンティーレプスの調理をお願い致します。」
生でも、私は、大丈夫だが、ここはより美味しくいただきたい。
「いや・・こんな高級素材を調理したことなんてないわ。無理」
「なんじゃとぉー!小娘! わらわの料理人失格じゃ。サクを呼ぶのじゃ」
ミラーにしたら、リズの料理人になった覚えはない。
完全にとばっちりのワガママ爆発なだけ。
「だったら私がするしかない?」
「ノア・・やめて。素材が悲しむから」
「それを言うならカーラもだから」
そうです。
ノアと私は、料理人にはなれない。
パチパチと火がはぜた。
失敗しない料理があることに、私は気付く。
「バーベキュー!」
「バーベキュー?」
「それは旨いのじゃな?」
長い鉄串に刺し、火に炙れば良いだけだ。
味付けは塩と胡椒で十分。
それを言うと、ミラーは自分は知らないと、鉄串と調味料は用意してくれた。
ぶすぶすと鉄串にトワンティーレプスを串刺しにすると、知らないと言っていたミラーが、横から鉄串をぶんどるのだ。
「丸ごと? せめて切り分けるくらいしようよ? 後は野菜とかも刺せば、たくさんの人が食べれるようになる」
全く考えていませんでした。
改めて見ると、トワンティーレプスの肉を食べたそうに、町の人や、応援の人達が集まっている。
「わらわは丸ごと~」
しかしリズの意見は却下された。
私はミラーにお任せします。
ぶすぶす刺すだけなら、簡単だと思ったが、料理はセンスも大事だと知った。
いびつな刺し方より、ちゃんと均等に刺す方が、美味しそうなんだな。
お肉が焼ける匂いが、広場を覆う。
最初のお肉は、小さなリズに渡された。
リズは、鼻をクンクンとし、そしてパクリとトワンティーレプスの肉を頬張った。
「‥‥はぁ~ぁ~何という旨味かえ。とろけると言うか・・とけるのじゃ」
幸せオーラが全開のリズに、皆はごくりと喉をならす。
次々と焼ける肉を私もノアも食べた。
「ふはぁ~」
「とろける~」
それは、最高級ブランドのお肉。
前世でも食べたことはないが、絶対にそんな感じのお肉です。
噛むそばからとけてゆく~ぅ。
食べた人々の顔は、リズと同じく幸せ全開の表情でした。
「おかわりじゃ~」
「・・・もう一本いただこう」
「僕もお願いします」
ちゃっかりとヘルヴォルの隣でレグルスも食べていた。
怖くて、悲しくてやりきれない事がある。
だけど今は美味なる食べ物で一時的だけど、幸せな顔が出来た事を喜びたいですね。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
334
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる