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30 泣きっ面に蜂

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 ワースティアの地は、今年は厄年なんじゃないかと思います。
 サングリーズルの被害は大きく、村々は壊滅。
 町も半壊だし、その上にトワンティーレプスの襲撃なんかあったら、助けられた命も消えてしまう。
 トワンティーレプスってのは魔獣。
 雪うさぎのような見た目なのに、肉食の上、集団で、攻撃してくる。
 これって泣きっ面に蜂って言うんじゃないかな。
 悪いことの上に、さらに悪いことが重なるって事。

「わらわの食べ残しでもあさったのかの~?」
「はい?」
「ノアーーー!」

 リズの発言に、ノアが聞き直すから、私は、大きな声を出して遮った。
 ノアはリズの正体をしらないのだからね。

「サングリーズルが、食い漁った物を食って増殖したのだろう・・・」
「食べたら増殖ですか?」
「あぁ・・サングリーズルの脅威は、復活もあるが、他の魔獣や魔物を活性化させる」

 ヘルヴォルの説明で、サングリーズル自体脅威なのだが、その後も怖い。
 それ故に厄災とされていることが、わかります。
 リズを見ると、吾知らぬ顔だ。

「ど、どうするの? ほんと! どうするの?」
「おちつくのじゃ」
「リズさんみたいに、落ち着けないわ!逃げる? ねぇ、逃げるが勝ちよね?」

 完全にノアはパニックっていた。

 依頼でもない。
 だけど・・
 チラッとヘルヴォルを見た。

「全滅は可能だ・・焼き殺せばな」

 なるほど! 
 焼けばよし。
 
「ダメじゃーーー! それだと旨いのは真っ黒になるではないかえ」

 肩の上で、リズが暴れます。

「そうですね。真っ黒になったら極上の寝具が作れません」
「そうじゃ~。ふわふわのフェンリル抱き枕は作れぬぞ~ぉ」

 リズの言葉に、寝袋よりも、シグルーンの等身大ぬいぐるみが、頭を支配しました。
 極上の手触りとされる雪うさぎの毛皮で、フェンリル抱き枕を作ったら、どんなに最高なのかと、考えるだけでワクワクした。

「ここは連携して、できるだけ最高の仕留め方しかありません」
「イヤイヤ、一気に燃やそう」
「ノア・・」

 トンとノアの肩に手を置く。

「私達は冒険者です」
「そ、そうよ」
「お宝を目の前に逃げ出すの?」
「数を見てよーーーぉ!」

 抱き枕以外にも、四人の着ぐるみパジャマが出来そう。
 それでも余ります。
 リズや、ノアやサクに着せれば、さぞかし可愛いだろう。
 
「断然やる気が出ました」
「な、なんでぇぇーーー!?」

 作戦会議はこうだ!
 ロイ印のウエストポーチから、余っている森狼の肉を散らばれせ、トワンティーレプスを誘う。
 私のドローシとレージングルで、感電させた所で、ノアが、高い位置から射撃!
 獲物の回収は、リズと、彼女の蛇のチュール。
 ヘルヴォルは、逃した獲物を完全撃退です。

「リズさん、ロイ印のウエストポーチを預けます。」
「任せるのじゃ~。チュールも頑張るのじゃぞ。」

 リズの頭からでてくる、薄い青色の蛇は、こくこくと頷いている。

「矢も回収して、回して欲しい」

 あきらめたのかノアが、チュールに言った。
 するとチュールは、わかるのだろう、こくこくと再び頷くのだ。

「焼けば簡単なことだが・・」
「ヘルヴォルさん! それだとフェンリル抱き枕が作れません」
「・・・そうか」
「そうです!」

 くわっと振り向き、ヘルヴォルに強く言った。
 ちゃんと言っておかなくては、丸焦げにさせかねませんから。



 ノアが、大きな木の上から、スタンバイ完了と手を上げた。
 ロイ印のウエストポーチから、リズが、肉をばら撒く。
 ついでに燻製を食べているけど。

「ドローシ!レージングル!うずまきショック」

 これは、鳴門のうずまきでしょう。
 中々の器用さを要求される小技集。 
 そこに放電させると!

 電撃蚊取り線香に早変わりだ。

 肉に釣られて、トワンティーレプスがどどどーっと押し寄せる。
 それはそれでとても怖い。
 だが、放電鎖に触れると、これまたスッキリするくらい感電して倒れるのだ。
 そこに、ノアが、急所を一撃し、蛇のチュールが、矢と得物分別回収。
 リズは、ロイ印のウエストポーチを開いている。
 うずまきを抜けたトワンティーレプスは、もれなくヘルヴォルに一撃された。
 
 ノアの矢が雨のように降る。
 ちらっと見ると、目を血走らせ、美少女なのに、今は夜叉のよう。

「わ、わたし過労死するわ! もう何が何やらぁーーーー」

 叫んでいる。

「チュール! 頑張るのじゃぞ。」

 働き者の蛇は、せっせとロイ印のウエストポーチに、獲物を入れては、矢を回収し、ノアに届ける。
 ご主人様であるリズは、ウエストポーチの口を開いているだけだ。
 強い相手ではないが、数が多すぎで、蜂の巣を突っいたようなで、キリがない。

「カーラ! もう、無理よぉぉぉーーー!」

 大木の上からノアの悲鳴のような声。

「チュールや、疲れたかえ?」

 せっせと働く、蛇も動きが鈍くなる。

「私も攻撃します。」

 ノアが、倒すよりも、絶対に素材を痛めてしまう。
 だが、弱い雪うさぎでも、群がられたら、命が危ない。

「ドローシ!」

 電撃ショックはやめて、攻撃する。
 五本の鎖が、次々にトワンティーレプスに突き刺さった。
 やれると思ったんだ。
 一撃だったし。

「カーラ!」

 ノアの声に横を向くと、そこに尖った牙が無数にあった。
 不覚にも頬に一撃をくらい出血した。
 かすっただけなのに、血が流れる。

「チュールパンチ!」

 リズの声で、蛇が、一発体当たりした。
 だが、左腕に何匹か、トワンティーレプスが、食らいつく。

「レージングルショック!」

 レージングルに魔力を放つ。
 左腕には、盾にもなる、ロイ印の幅広籠手付きレージングルなんだな~。
 運が良かっただけだけど、取り敢えず頬に傷はあるが、回避に成功だろう。
 だけど、このままじゃ、食べられてしまう。
 こうなれば、高級素材は諦めて、魔力を最大値にし、電撃強化しかない。

「リズさん!ヘルヴォルさんの所まで投げます。素材集めは終了」
「なんじゃとぉぉぉ」

 言うが、早いかリズを思いっきりヘルヴォル目掛けて投げる。

 よし!
 トワンティーレプスを回避しながら魔力を高める。
 足に魔力を高め、ホッピングジャンプと思った時だった。
 横を金色の風が走った。

「我が女神よ、レグルスの名にかけて魔を裁く!ホーリー・ジャッジーーーー!」

 魔法の詠唱だろう。
 詠唱と共に光と炎の魔法が、金髪少年の剣から放たれる。
 それは一振りしただけなのに、広範囲な攻撃力で、トワンティーレプスを一層してしまったのだ。
 残ったのはトワンティーレプスの小さな魔石だけ。

「恩返しがしたくて。お怪我はありませんか?」

 不発に終わった私に、金髪少年は声を掛けてきました。

「あ・・はい。ありがとうございました。」

 一応頭を下げてお礼を言う。
 助けられた・・のだから。
 でもね!
 私だってできたかも知れないって思うのよ。
 高めた魔力は不発弾って事だよ。
 もやもやが残りつつも顔を上げて、金髪少年を見た。

「・・・・ふはぁ~」

 そう言いながら彼は真っ青になり、ぶっ倒れました。

「大丈夫!?」

 起こし、また目を開けたかと思うと、力なくぐったりとする。

「助かったわね。その子、カーラが助けた子じゃない。落ちている魔石は頂くわよ」

 ちゃっかりとしているノアだ。

「・・中々の魔力だ。」
「わらわの旨い肉をよくも消してくれたなーーーっ!チュールパンチじゃ」

 リズはヘルヴォルに抱えられていたが、肉の恨みとばかりに、倒れる少年に蛇パンチをおみまいしようと暴れている。

「ちゃんと怪我が治っていないのですか?」

 聞くと少年は首を横に振る。

「ち、血がダメなのです。血を見ると、力が入らなくて・・」

 私の頬の傷から出た流血が、原因だったみたいだ。
 リズからロイ印のウエストポーチを返してもらい、中から、布を取り出して血を拭いた。
 後は治癒魔法で、自分の傷を治す。
 これくらいの傷ならば、傷跡も残りません。

「おぬし聖騎士のくせに血が苦手とは~うははぁ! へっぽこ騎士じゃな」
「ぐはぁ!」

 少年は胸を押さえた。
 まるで矢が当たらないノアと重なる。
 
「誰も欠点はありますよ」
「そうじゃな~。カーラは寝不足だと使い物にならんしな」
「ぐはぁ!」

 私もまた胸を押さえた。
 リズは、旨い肉を半分以上回収不能にされてしまったので、ご機嫌斜めだったのです。

「見てみて~。小さいけど大量の魔石だよ。これで矢の資金にしてもいいかな? あれ?どうしたの」

 欠点を指摘され塞ぐ私とレグルスに、ノアは不思議顔です。
 あなたも同じなのだからね!
 と言いたい。

「あれ?」
「どうした」

 高い丘の上をノアは見る。
 ヘルヴォルもその方向を見た。

「どうしたの、ノア?」

 私も見るが、また雪がチラチラと降ってくるばかり。

「誰かいたような気がしたんだけどな・・?」
「・・・・魔物や魔獣ではないようだ」

 ヘルヴォルは町へ帰ろうと、まだぐったりしていたレグルスを、軽々と担いだ。
 






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 そこからはトワンティーレプスの群れがよく見える。
 このまま行けば、半壊の町もすぐにトワンティーレプスの群れに襲われ、その次はワースティアの街へ数を増やし向かうだろう。
 サングリーズルの復活は派手な助走にすぎない。
 個体自体は弱いが、集団では、イナゴの大群と同じように、食らいつくすトワンティーレプスの群れ。
 食べては増える魔獣だ。
 その魔獣の価値を知るならば、欲との闘いだろう。
 男は立ち去ろうとした。
 だが、四人組の冒険者達が、トワンティーレプスの群れを狩り始めたのだ。
 その中に真っ赤な髪の少女がいた。
 ルリジオン神国の者ではない肌の色。
 
「まさか・・・?」

 口から漏れる。
 また一人現れた仲間にトワンティーレプスの群れは壊滅させられる。

「・・・まぁ素材を重視しなければな」

 こうなる予想もしていた男は、最後にもう一度、赤い髪の少女を遠視した。

「・・・・おもしろい」

 雪が降り始める。
 男はその場から気配を消した。



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 町に戻るとヴェルジュの姿はどこにもなく、聖職者ギルドのシシリーが、帰ったと教えてくれた。
 彼女も残念そうだが、私も非常に残念です。
 トワンティーレプスをお土産にと思ったのに。

「カーラ、早くさばくのじゃ」
「はいはい」

 美味とされるトワンティーレプスのお肉が欲しいとリズにせかされた。
 厚化粧のミラーに、捌ける場所を借ります。
 大きな木のまな板の上にトワンティーレプスを出した。

「ちょっと! それってトワンティーレプスじゃない」
「はい。狩りました」
「わらわのだからな」

 すごんでいるが、可愛らしい顔のリズでは、凄味にかける。

「集中したいので、詳しくはノアか、ヘルヴォルさんに聞いてください」

 ミラーから解体用のナイフを借りた。
 自分のは、サクにあげたしね。
 ロイ爺さんに、トワンティーレプスの素材を渡して、解体用のナイフを一本と交換してもらえないかなと考えたわ。

 それくらい、ロイ爺さんの解体用のナイフと、ミラーのナイフでは、切れ味が違ったのです。
 二十匹を解体し、残りは新たなナイフを手にしてからにする。
 だって解体するなら、綺麗に解体したい派なのです。

「ミラーさん、トワンティーレプスの調理をお願い致します。」

 生でも、私は、大丈夫だが、ここはより美味しくいただきたい。

「いや・・こんな高級素材を調理したことなんてないわ。無理」
「なんじゃとぉー!小娘! わらわの料理人失格じゃ。サクを呼ぶのじゃ」

 ミラーにしたら、リズの料理人になった覚えはない。
 完全にとばっちりのワガママ爆発なだけ。

「だったら私がするしかない?」
「ノア・・やめて。素材が悲しむから」
「それを言うならカーラもだから」

 そうです。
 ノアと私は、料理人にはなれない。

 パチパチと火がはぜた。
 失敗しない料理があることに、私は気付く。

「バーベキュー!」
「バーベキュー?」
「それは旨いのじゃな?」

 長い鉄串に刺し、火に炙れば良いだけだ。
 味付けは塩と胡椒で十分。
 それを言うと、ミラーは自分は知らないと、鉄串と調味料は用意してくれた。

 ぶすぶすと鉄串にトワンティーレプスを串刺しにすると、知らないと言っていたミラーが、横から鉄串をぶんどるのだ。

「丸ごと? せめて切り分けるくらいしようよ? 後は野菜とかも刺せば、たくさんの人が食べれるようになる」

 全く考えていませんでした。
 改めて見ると、トワンティーレプスの肉を食べたそうに、町の人や、応援の人達が集まっている。

「わらわは丸ごと~」

 しかしリズの意見は却下された。
 私はミラーにお任せします。
 ぶすぶす刺すだけなら、簡単だと思ったが、料理はセンスも大事だと知った。
 いびつな刺し方より、ちゃんと均等に刺す方が、美味しそうなんだな。

 お肉が焼ける匂いが、広場を覆う。
 最初のお肉は、小さなリズに渡された。
 リズは、鼻をクンクンとし、そしてパクリとトワンティーレプスの肉を頬張った。

「‥‥はぁ~ぁ~何という旨味かえ。とろけると言うか・・とけるのじゃ」

 幸せオーラが全開のリズに、皆はごくりと喉をならす。

 次々と焼ける肉を私もノアも食べた。

「ふはぁ~」
「とろける~」

 それは、最高級ブランドのお肉。
 前世でも食べたことはないが、絶対にそんな感じのお肉です。
 噛むそばからとけてゆく~ぅ。

 食べた人々の顔は、リズと同じく幸せ全開の表情でした。

 
「おかわりじゃ~」
「・・・もう一本いただこう」
「僕もお願いします」

 ちゃっかりとヘルヴォルの隣でレグルスも食べていた。

 怖くて、悲しくてやりきれない事がある。
 だけど今は美味なる食べ物で一時的だけど、幸せな顔が出来た事を喜びたいですね。
 

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