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32 簡単任務

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 去って行くS級冒険者と治癒師見習い。
 私はサーシャ。
 これでもモモンガ族では、美人だと言われたC級冒険者。
 族性質上、夜目も効くし、空中を飛べる。
 冒険者ギルドでの戦い方は暗殺者。
 そして商業ギルドにも登録していた。
 冒険者ギルド受付カウンター嬢のマリアンヌとは、酒飲み仲間プラス商業ギルド絡みから顔馴染みね。

「俺達置いてけぼりか?」
「サーシャさん、追いかけなくちゃ」

 ヒヨコの冒険者達が、ピヨピヨとうるさい。
 冒険者ギルド長と商業ギルド長に頼まれたのは、ヒヨコ達や、生産職ギルドからの者達の行動などを、魔道具に撮影しろと言う依頼だった。
 引率責任者はS級冒険者のヘルヴォル・アルヴィトルなのだ。
 そのリーダーが、勝手気ままに無茶しやがってーーーー!
 船でもそう。
 カーラが、いなければ、船は木っ端微塵。
 どこよりも早く着いたけれど、雪なんて聞いてなかったし、防寒具の手配やら、ソリの手配やらしないといけない。
 とても忙しいのに、責任者が行ってしまい、後の事は私?
 好きな酒も思う存分飲めないってのに!

「ざけんじゃねよーーーー!」

「「「ひぃーーー」」

 ヒヨコ冒険者達を怯えさせてしまった。

「物資は先に出発した赤毛のカーラが持っている。怪我人も多いだろう。治癒師見習い達を先にとヘルヴォルさんも思ったんだろうな」

 って一応庇う。
 何だかんだ無茶苦茶だが、雲の上の人なのだから。

「ひどいです~」
「無茶苦茶だよ」

 ソリから落ちた冒険者達が、雪で助かったとお尻をはたいていた。

「皆さん、急いで追います。防寒着を着こみ、そりに乗り込む。何日かかかりますが・・・食料や野宿の用意も必要じゃないーーーーぃ」

 ガクッと真っ白な雪に膝をついた。
 カーラの収納ポーチがあれば・・・。
 食料だって入っていたのに。

「ヘルヴォルーーーーっ!」

 ムカつく気持ちが大声となった。





 馬車よりもソリの方が早いとは聞いたが、それでも半壊の町に到着したのは五日後だ。
 
「サーシャさん! 」
「ダニエル。ヘルヴォルさんは? それと、この五日間の事を教えて欲しい」

 ギルド長から、ちゃんと記録しろと言われた一人。
 冒険者のダニエル、ガイル、ミラーはちゃんと見なければならない人物だ。
 お金欲しさで、新人冒険者達を育てるのではなく、潰してきた。
 ダンジョンでの出来事なので法で罰しれない。
 ギルド長は、最初で最後のチャンスを彼らに与えたのだ。
 
「ヘルヴォル様は、リズちゃんを肩に乗せてミラーの所で見ました。ガイルは、まだ動きづらい人の介助。他の見習い達も、それぞれに出来る事をしています。」
「そう。カーラとノアは?」
「ノアは、矢を作るのに忙しいらしく、カーラは・・その・・」

 その後、ダニエルは言葉をためらう。

「何かあったの?」
「・・ノア曰く呪いの裁縫に没頭しているんだ」

 呪いの裁縫?
 ここには災害で大変な思いをしている人々の助けに来たというのに。
 裁縫をしている?
 シーツやら、衣服やらが足らないからか?
 いや、それは物資の中に大量にある。

「皆さん疲れているから、先にミラーの料理でも食べて、今後の復興支援の計画を話し合ったらどうかな?」
「そうね。ダニエル」

 中々、落ち着いている。
 人を気遣うことも。
 以前のダニエルではない。





 広場には即席だが、テーブルやベンチなどたくさん置かれて、簡単だが雪や雨を防ぐ屋根もある。
 廃屋を利用して、そこでミラーは料理をしているようだ。

 一つのテーブルで食事しているヘルヴォルを見つけた。
 彼の広い肩の上には、真っ白なふわふわのウサギ耳付きフードを被る幼女がいる。
 カボチャパンツまで、真っ白なふわふわだ。
 彼らの前で、せっせと矢を作るハーフエルフの少女ノアもまた、真っ白なふわふわの帽子を被る。
 耳もすっぽりと覆われていて、丸いぼんぼりが両サイドから垂れ下がる。

「ヘルヴォルさん!」

 声をかけると、ウサギフードのリズが、口いっぱいに薄皮の食べ物を頬張り、ヘルヴォルもまた薄皮をクルクルと巻いたものを食べていた。

「おう~そなた遅かったの。クレープはもうないぞ~。ミラーよ! おかわりじゃ~」
「もう食べたの?」
「うむ。バターとハチミツが旨い。」
「野菜とか、お肉とか巻いても美味しいってカーラが言ってたね・・サーシャさん!」

 ミラーはサーシャを見ると大皿を落としそうになっていた。

「サーシャさんもどうですか? カーラが教えてくれたレシピで作ったんです」
「ダメじゃーーー!これはわらわのじゃ。欲しければ自分で頼め」

 にょきっとリズの頭から蛇が出てくる。
 大皿を守るように渦をまいた。

「とらないから。ゆっくり食べてよ。それよりもヘルヴォルさん! 私に何か言う事はないかしら?」

 マイペースで食べるS級冒険者を真っ直ぐに見つめる。

「あっ! サーシャさん。トワンティーレプスの群れを狩りましたよ。お肉が美味しくって~」
「はぁ?」

 ノアが、作りかけの矢をテーブルに置いて、その時の様子を話始める。

「この帽子も、リズが着ているのも、トワンティーレプスの毛皮で、作ったカーラの自信作。このミトンも」

 よく見れば、ノアの手には真っ白なふわふわのの指だし手袋。
 だが、手の甲のボタンにかけていた、紐の輪を外すと、すっぽりと指先を覆うミトンになる。
 それはカーラとお揃いとノアが喜んでいた。

 ・・・・トワンティーレプス?
 そう言った。

「ええええっーーーーっ」

「騒がしいの~」

 あえてフードのウサギ耳を押さえるリズだ。
 彼女も気に入っているのだろう。

「・・トワンティーレプスの群れが発生した。それを狩った。小さな村々は全滅。それとヴェルジュも来た。直ぐに帰った・・以上」
「・・・ってそれだけ? ねぇ? トワンティーレプスの群れなんて聞いてないわ」
「今言ったが・・」
「・・そうね。ってちがーう!」
「うるさいぞ。小娘、このかわゆいウサギ耳がトワンティーレプスの毛皮で、作ったと言っておる。証拠ならまだカーラのポーチに入っておるぞ。・・そうじゃ! トワンティーレプスの肉を巻くと旨いはずじゃ」
「・・・そうだな」

 すくっとリズを乗っけたまま、ヘルヴォルは立ち上がった。

「ダメだよ。カーラは呪いの裁縫に没頭しているから。」
「うむ。じゃがノアよ・・食べたいの?」
「・・うむ」

 いつの間にかヘルヴォルとリズは仲良くなったようだ。
 これも一応報告だろう。

 私の鑑定スキルでも、ちゃんと真っ白なふわふわはトワンティーレプスだとわかる。
 一個体は弱いが、群なすトワンティーレプスは恐ろしい。
 その価値を考えずに攻撃するならば、炎の魔法を使えば良いが、毛皮は最高の手触りで、その肉はとろけるほど旨いと聞く。
 確保するとなると強敵である。

「ミラーさん、肉は置いておきます。直ぐに毛皮をカーラさんに届けるので」

 ミラーの調理場から、金髪少年が顔を出す。

「あの人はレグルス・グラディウスって言う聖騎士。私達のパーティーメンバーに入りたいんだって」
「グラディウス・・グラディウスってこの地の領主の家名じゃない!?」
「そのようだ」

 ノアの説明にヘルヴォルが肯定する。
 だが、領主の息子が冒険者のパーティーメンバーって!?
 それもブロンズカードの冒険者と?

「へっぽこ騎士はへっぽこを克服したいって泣いて頼み込むからの~。わらわが、了承してやったのじゃ。カーラは呪いの裁縫で忙しいし、ノアもへっぽこハンターじゃ。まぁ、へっぽこをパーティーと言う名にしたらよかろう。じゃが、サクだけはへっぽこではないぞ。わらわの料理人じゃからな」
「ひどいリズ! 私だって今回.頑張ったし。ちょっとは動くトワンティーレプスに矢がささったんだからね」

 へっぽこ自体を否定しないノアだ。
 ちゃんと自分の欠点を知り、努力している。
 これも報告だ。

「ミラー、レグルスが捌いたのはトワンティーレプスじゃろ。その肉をクレープに巻いてたもう」
「ダメ。これは夕食に皆で食べる食材よ」
「むむむっ! レグルス!」

 呼ばれた金髪の聖騎士は、たくさんの真っ白な毛皮を持っていた。

「カーラにもっとトワンティーレプスをと伝えるのじゃ」
「わかりました。ですが先ほど、残りはロイ爺さん・・にとか言っていました」
「むむむっ・・ロイへの土産か。それはしかたがないの。そもそもじゃ! そなたが、トワンティーレプスを一掃するから少ないのじゃぞ」
「すみません。」

 幼女に、ひたすら頭をさげる聖騎士。
 それも領主の息子。
 トワンティーレプスを一掃とは。
 首からぶらさがる証明書を見せてもらうと、聖職者ギルドに登録する聖騎士であるクルセイダー。
 戦士ギルドにもサブ職として登録され、どちらもC級であるアイアンカードだ。
 十四歳と言う若さで、アイアンカードでも上位。
 もっと身体もできあがるとB級、いやA級も早そうだ。
 へっぽこ騎士には見えない。
 しかしカーラが変則的だから普通でもへっぽこ扱いなのか?
 幼女の姿にしか見えないリズ。
 召喚獣の蛇・・ね。
 これも報告だろう。

「・・できあがらない・・足らない・・」

 ふらふらと色鮮やかな布を継ぎ足し、トワンティーレプスの毛皮も見える。
 そんな大きな袋のようなものを抱きかかえ、真っ赤な髪のカーラが、目の下にくっきりとクマを張り付かせて広間にやって来た。

「カーラ!」

 ノアが駆け寄る。

「・・ノア、できないの・・。私の理想の抱き枕が出来ない。等身型シグルーンはあきらめたよ」
「そうね。うん。ヒト型抱き枕ってね」
「だから、人をダメにするクッションをと思ったんだ」
「人をダメにしたらダメじゃないの?」

 一人はしくしく泣き、一人は一応慰めているつもり?
 
「カーラさん。毛皮が足らないなら」

 レグルスは、一生懸命に捌いたトワンティーレプスの毛皮をカーラに差し出す。

「ありがとうレグルス。だけど毛皮は、もういらない。それはサクの帽子用。レグルスも何か作りますか?」
「いえ、僕はその気持ちだけで嬉しいです。」

 レグルスがカーラを見つめる青い瞳が、気になるところ。
 これはマリアンヌに報告してあげよう。
 レグルスがこのパーティーメンバーになるならば、彼女が受け持ちになるだろうから。
 樽酒とはいかないが、大ジョッキーくらいの価値はあろう。

「この中に入れる素材が欲しい」

 大きな袋を空いているテーブルの上に広げたカーラだ。
 それは楕円形の立体裁断されたような袋だった。
 寝ころび、身体を包む部分はトワンティーレプスの毛皮を、それは丁寧に縫い付けられている。
 他の部分はこれもまた丁寧かつ丈夫に、色々な布地が縫い付けていて、普通にコットンを入れたら可愛くふかふかなクッション。
 
「これはカバー。中にもっときめ細かい布地も欲しい。そしてそのきめ細かい布地の袋の中に、サラサラで、砂のような種子のような、とても軽い素材を詰めたいのです」
「きめの細かい布地なら絹でしょう」
「そうなの? レグルス」
「はい。」

 きらり~んとカーラの緑色の瞳に輝きが戻る。

「でも高いわ。まだフォレスタの街で買えばプラトーの街より安いかも」
「そうなの? ノア」
「シルクの生産地だしね」

 ガッツポーズするカーラ。
 
「でも中の素材が・・」

 サラサラした砂や種子ならあるだろう。
 だが、とても軽い素材となれば難しい。
 あの袋いっぱいだと相当な量になる。
 綿を入れたとしても。

「それより、治癒師見習いとしてやっているのかしら?」
「はい! 僕は彼女に命を助けられました」

 カーラのかわりにレグルスが答える。
 え・・っと。
 まぁ、初日に頑張って、その後魔獣退治し、それからは趣味に没頭って事。
 これも一応報告だね。

「カーラ! 職人達が到着したよ。ここからは職人達の指示で、あなたには物資を出し入れしてもらうから」
「・・・・はい」

 全くやる気がみられない。
 ただ、制作した大きな袋を悲しげに見ている。

「南の地にあるサハラーァ王国。広大な砂漠が広がる世界。そこにはサンド・フラワー。所謂、砂の花って意味だけど、ふわふわとした小さな砂の花が舞う場所があるそうよ」
「それって!」

 カーラの緑色の瞳がキラキラしている。
 全く現金な子。

「では!私はサハラーァ王国に行きます。」
「ええええっーーーーっ」

 ノアがのけぞる。
 私も頭痛がしたわ。
 
「あのね、只今任務中よね? それにアイアンカードくらいにはならないと、行けない場所もある。冒険者だから好きな場所を冒険するのは賛成。意味はわかるよね?」
「・・・・・はい。」
「だったら」
「とっとと、やることをして、サハラーァ王国へですね。でもサハラーァ王国の前にフォレスタの街で布地を買って・・」
「・・・・・好きにして」

 もう、勝手にしておくれ。
 ただ、支援復興だけはちゃんとやってくれればよい。
 本人のやる気が出ればよし!

 簡単な任務なのに、疲れがひどい。
 私もとっとと、任務終了し、マリアンヌと樽酒を飲みたいわ。
 
  








 

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