トンネルを抜けると異世界だった~荒れ狂うと言う名を持つ乙女~

ゆき

文字の大きさ
35 / 36

35 ウール様のこだわり

しおりを挟む
 パチパチと焚き木がはぜる。
 美しい顔が焚き木の灯りで、よりいっそう深める。

「サク、この煮込みは美味しいですよ」
「ありがとうございます。ヴェルジュ様」

 褒められると嬉しい。
 とても穏やかで優しい微笑みをむけられると、お尻の付け根がむずがゆくて、長く黒い尾が、ゆっくりと揺れるんだ。
 この優しくて綺麗なヴェルジュ様は実は、竜。
 それもアルビノの竜で、戦闘はからっしきダメだと豪語している。
 女に見えるがれっきとした雄だ。
 彼は俺の命の恩人であるカーラの育ての親だと言う。
 俺は豹族の獣人。
 名はカーラがつけてくれた。
 幼い頃、人攫いにさらわれて、奴隷となった。
 この国で冒険者の荷物持ちとして買われ、ダンジョンで、足止めとしてモンスターの餌になるところを、カーラが助けてくれたんだ。
 日焼けしたような肌に緑色の瞳が綺麗な赤毛の女の子。
 俺よりも少し年上なのに強い。
 彼女は俺を冒険者の仲間として受け入れ、その上家族のように、一緒にいてくれる。
 今は同じ仲間のハーフエルフの少女ノアと、北の地に復興支援にでかけている。

「シグルーン様、おかわりです」
「ちがーう!」

 捕らえた魔獣の煮込み料理を、気に入ってくれたはずの筋肉美女はいきなり立ち上がり、鋭い目で俺を睨んだ。
 思わずその鋭い眼光に飛び上がりそうになるが、グッとこらえることが出来たのだ。

「えっ・・おかわりではなかったのですか?」
「おかわりだ!」

 ぶんっと長い腕が伸び、俺の手から煮込みが入った器を奪った。

「俺様は・・旨い! 今は・・柔らかいな。」
「ちゃんと飲み込んでから話なさいな」

 ヴェルジュが美しい瞳をシグルーンに向けた。

「・・ゴクッ。俺様はウールヴェへジンだ! 」
「はいはい~。サク、今はシグルーンではなく、冒険者のウール様って言いたいらしですよ」
「あ、はい。ウール様でした。」

 俺は頭を下げた。

 シグルーンこと、ウール様は、本当は大狼。
 伝説とされるフェンリルなのだ。
 彼じゃなくて、彼女もまたカーラを育てた一人。
 あと一人、俺の料理人としての師匠である伝説のブラックスミス! ロイ爺様がいる。
 三人で赤ちゃんのカーラを育てたと聞く。

「あの・・。」
「なんだ?」
「どうして、名前を分けるのですか?」

 別にウール様でもシグルーンでも良いと思う。
 仮面で顔を隠しても、俺はシグルーンだとわかる。

「・・うんなもん! カーラにばれるだろう」
「ばれたらダメなんですか?」
「あったりまえだ」

 何がダメなのか?
 きっとカーラなら大喜びだ。
 大好きなシグルーンが同じ冒険者としてそばにいる。
 ヴェルジュと共に一緒に冒険者として暮らしたいだろう。

「カーラは一人立ちしたのです。ですから私達とずっと一緒には・・・ね。前にも言いましたが、私達とサクやカーラは違うのですよ。」
「そうだ・・。だから俺様はお前を鍛えてやっているんだ。俺様達のかわりにとな」

 そう言った二人の表情は寂しい。
 
「何をお前まで、しょぼくれているんだ! お前はさすが、豹族の獣人だぜ。身体能力がカーラより上だ。」
「そうですね~。カーラは魔力が人にしては多く、不器用ながらも魔力を絡めた戦闘ですね。親として回復系の魔法をもっと勉強し、治癒師として安全に生きて欲しいですけどね~」
「ロイ爺もそんな事を言っていたが、全くロイ爺の基準値には達しなかったと嘆いていたぜ」

 かっかっかーと笑うシグルーンじゃなく、ウール様だ。
 ここがウール様のこだわりだろう。

 ロイ爺様の基準値・・・。
 それは本当に高すぎだよ。
 料理人としてのロイ爺様のレベルは、本人曰く基礎的だそうだが、その基礎的がゴールドカードなのだ。
 得意は言うまでもなく鍛冶。
 続いて木工や装飾に宝飾に彫師に裁縫、調合等々。
 こだわりの性格らしい。

「俺、料理人としても頑張ります。」
「それは良いですね~。甘い菓子も頑張ってくださいな」
「雌は胃袋を掴め!っていうしな」
「それは雄ではなかったですか?」

 そこは竜と大狼だろう。
 
 カーラ達が戻るまでに、どれだけ成長できるかわからないけど、一緒に連れていって欲しいから。

「明日は、ロイ爺のクエストをこなすぜ」
「あ、はい!」
「毒耐性がなければ死にますよ?」
「俺様が蜘蛛に負けるってかぁぁーー!」

 ウール様は蜘蛛と言うが、それは巨大な毒蜘蛛のような魔獣。
 S級冒険者達が挑むであろうモンスターなのだ。
 
 俺・・生きてカーラに会えるのかな・・。
 夜空は何処までも美しい星が、宝石のように輝いている。
 手を伸ばせば届きそうなほど近くに感じる。
 そう・・
 ここはこの世界の中心にある神々の山脈のふもとだ。
 ふもとと言っても空気は薄く、寒い。
 ヴェルジュが作り出す防護の魔法がなければ、俺なんか既に凍死しているだろう。
 はっきりいって人が暮らすには超厳しい場所。

「やっぱ、この気温が俺様は動きやすいぜ」
「はいはい。明日は頑張ってくださいね~」

 大きな欠伸をヴェルジュはし、ちょいちょいと俺を手招きした。

「あなたはもう、おやすみなさい。」
「・・はい」

 ヴェルジュ様の膝枕で眠る。
 回復系の魔法を施してくれているのだろう・・な。
 目覚めたらその日の傷は無くなり、頑張れるんだ。
 蜘蛛・・
 怖いな。
 だけどカーラと一緒にいたいから・・。
 
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足でお城が崩れる!? 貴族が足りなくて領地が回らない!? ――そんなギリギリすぎる領地を任された転生令嬢。 現代知識と少しの魔法で次々と改革を進めるけれど、 なぜか周囲を巻き込みながら大騒動に発展していく。 「領地再建」も「恋」も、予想外の展開ばかり!? 没落領地から始まる、波乱と笑いのファンタジー開幕! ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

処理中です...