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36 新たなる任務

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 魔水晶玉が光を放ち、白い壁に映像が映し出される。

「やっほ~ぉ! ギルド長。こちらバッカスのミィーシャ。とても大変だったのよ~。」

 映像と共に流れる声に、冒険者ギルドマスターのランドグリスは、こめかみをひくひくさせた。

「大酒のみのアサシンですか」

 ランドグリスの横に座る紳士が、コホンと咳払いしながら言った。

「ミシェル・・まぁ腕は確かな奴だから」
「存じておりますよ。」

 商業ギルド長であるミシェル・クラウドはそう言うと、映像に視線を戻した。

 ミィーシャの報告は、やっとワースティアの街からも人手が来て、通信が出来るようになったから始まる。
 そこからは、どれだけS級冒険者であるヘルヴォル・アルヴィトルの無茶ぶりを、弾丸トークとなり、各ギルドの新人達の活躍ぶりや、職人達の頑張り、そして他の街よりも迅速かつ優秀な働きを身振り手振りで語った。

「では、私は、引き続きバカンスじゃなく・・こほん! まだまだ人手はいりますので残ります。できれば、マリアンヌをよこして頂くと、非常にたすかります。彼女は冒険者ギルドの優秀な受付嬢かつ、商業ギルドに所属する者ですので。この地では、良質な温泉が湧きだしたのです!ふふふっ。もうここまで言えばわかりますよね。では!」

 ぶちっと音声と映像が切れてしまった。

「あいつ・・」

 ランドグリスは、はっきりとバカンスと言ったミィーシャの言葉を覚えていた。

「酷いダメージを受けた町の復興になれば・・ですか」

 ミシェル・クラウドの頭の中で計算が始められている。

「では、各ギルド長は、今回支援に貢献した者に、それなりの報酬を、お願いします。皆が無事でなにより」

 貴婦人は席を立つ。
 彼女はこのプラトーの街の領主夫人。
 領主であるエリック・スワンは神都へ行っていて留守だった。
 夫の不在の間、妻であるエリザベスがプラトーの街を預かる。
 
「エリザベス様。先程の報告で、マリアンヌをあちらに行かせたいのですが・・。勿論冒険者ギルドマスターの了解を得てからです。」

 ちらっとミシェル・クラウドはランドグリスを見た。

「ランドグリス」

 エリザベスに声をかけられランドグリスは席を立つ。

「はっ! 」
「ミシェル・クラウドは温泉で、儲けようと算段していますよ」
「算段とは!」

 ミシェル・クラウドも慌てて席を立つ。

「断れませんよ。俺が何を言っても決定だろう。あなた方、姉弟の頭の中で、今回の支援の赤字を、出来るだけ回収するって事になっているんだろ?」
「ほほっ。ではよろしくお願いします。」

 優雅に微笑みエリザベスは会議室を出た。

 そう、領主のお嫁さんはミシェル・クラウドの実の姉だった。
 プラトーの街が、活気ある人気の地に発展しているのも、夫人の力が大きい。
 商家の生まれで、しっかりと領主の懐を握っている。
 出すところは思いっ切りよく。
 絞めるところはしめるである。

「まぁ、マリアンヌなら、ちゃんとやってくれるだろうが・・お抱え冒険者がな・・」

 特に問題はカーラ達だ。
 カーラの過保護な保護者が問題なのだ。

「もしや、あの赤毛のお嬢様ですか?」
「あぁ・・なんせ保護者がな・・」
「ロイ様ですか?」
「いや・・まぁそれも・・それよりも・・な」

 歯切れが悪いランドグリスだった。

「赤毛のお嬢様が、今回温泉を掘り当てた。それにヘルヴォル・アルヴィトルと共にトワンティーレプスの群れを狩り、大事に至らなかった。ワースティアの街の領主の息子も救った」
「あぁ・・。聖職者ギルドからの派遣登録にしている」

 チラッと聖職者ギルドマスターを見る。
 青のディアナと呼ばれる女は、書類に目を向けていた。

「まぁ、冒険者ギルドは今回支援に参加した青銅のカードの者をブロンズカードにするさ。しかし、実力がまだまだだろうから、そこはこちらで鍛えながらだろうな」

 これまた大変だとランドグリスは扉を開き、会議室を後にしたのだ。



====================


 私のカードに、聖職者ギルドのブロンズ昇進の文字が記入します。

 やっほ~い!
 頑張ったよ。
 産まれて初めて熱を出したくらいにね。
 メインの冒険者カードはブロンズのまま。
 ナンバーは一つ上がっただけ。
 ノアはD-5になったのにさ。
 私は、D-2。
 聖職者ギルドからの派遣だったし、そっちを上げる為に参加したのだから。
 でもでもでもーーーー!
 サクがアイアンカードになっていたんだよ。
 
 シグルーンとの特訓により、鍛えられたサクは、ヴェルジュの紹介で、S級女冒険者のウール様と一緒に任務をこなしたと言う。
 なんと羨ましいの。
 ノアは勿論、他の冒険者達も、羨ましくサクを注目していた。

「何度も死にかけて、とても怖かった・・。だけど・・」

 ぎゅっと自分の中の気持ちを確かめるように、サクは私を見る。
 数か月会わないだけで、成長したのだろう。
 出会ったのが八歳だったはず。
 なのにこの数か月の間に彼は九歳になった。
 年齢はたった一歳、年を重ねただけなのに、とても強い意志の輝きと言うか、男の子が青年へと移ろう感がある。
 ってまだ九歳ですがね~。


「では、サクの昇進と誕生日を祝ってカンパ~い」

 ノアの掛け声で、グラスを掲げた。
 アパートの六人がけのテーブルには、ごちそうが並ぶ。
 勿論、作ったのはサクです。

「胡桃パンはわたさない!」
「ふん! わらわは肉じゃ」
「あの・・僕まで」

 それはレグルスです。

「仲間登録したんだし、たくさん食べて。」

 取り皿に、お肉をよそってあげただけだが、顔を赤くして何度も礼を言うんだな。

「カーラ、こっちにもよこせ」
「はい」

 カウチではシグルーンが、ジョッキになみなみとミルクを次いで飲み干していた。
 その横では、ヴェルジュが、ギルドマスターに頂いた真っ白なプリンを、とろけそうな表情で食べている。

「なんかいいな~」
「何がじゃ」

 私の横に座るロイ爺さんが、お酒を飲みながら、トワンティーレプスのお肉をしゃぶしゃぶしています。

「皆が揃って・・幸せ」

 そう言うと、ロイ爺さんは、哀れな子を見るように見つめるのよ。

「そんな・・つぎはぎの服を・・うっう・・」

 えっ!?
 自分の中では可愛く出来上がっている、お揃いの部屋着だ。

「これはパッチワークでね・・」
「やはり冒険者での稼ぎはきついか?」
「えっ・・!?」

 そりゃ、ロイ爺さんの稼ぎと比べたら微々たるものだけど、ちゃんとご飯は食べれるし、こうして装備以外でも部屋着もある。

「大丈夫だよ~。トワンティーレプスの毛皮で、今度は大きなクッションを作るんだ。フォレスタの街で絹を買って、砂漠の国の砂の花を中に詰める。ステキです~」

 言いながら、制作途中のクッションカバーをロイ爺さんに見せた。

「・・・・・!!」

 ロイ爺さんはプルプルと震えている。
 やはりトワンティーレプスの毛皮が欲しいのだろう。

「やり直しじゃーーーーーっ!」

 その一言で、パッチワーク部分は解体された。

「なんじゃ?この縫い目は! 荒い! 雑! それに最高級の毛皮じゃ。それをこんなド下手な解体をしょって!」

 私は、正座させられた。

「解体はナイフが・・」
「サク! カーラに解体用のナイフを返せ。へっぽこハンターにも渡せ」
「ノアですから」

 ノアはちゃんと自身の名前を名乗る。
 サクは言われた通りに解体用のナイフとホルダーを返してくれた。

「これはお前さんの誕生日祝いと、アイアンカードになった祝いじゃ」

 ロイ爺さんの収納袋から出てきたのは、二本の大きなナイフだ。
 何となく、日本刀のちびっ子サイズって感じ。
 鞘は、ホルダーと一体になり、二刀流で戦うサクの為の武器だった。

「あ、ありがとうございます。」
「手入れの仕方は知っておるの?」
「はい」
「それと・・」

 ロイ爺さんは自分と同じ袋をサクに渡す。

「カーラと同じのは材料がないから作れぬ。じゃが、調理器具や腐らぬものなら多少は入る。初期のものじゃ。あまり入らぬが・・な」

 それでも貴重なものだ。
 サクは何度もロイ爺さんにお礼を言いながら、嬉しそうに武器と袋をだきしめていた。

「ワシからのオーダーじゃ。レグルスと言ったな」
「はい。」
「では、お前さんもこのアパートメントに住むことを許す」
「あ・・しかし」

 ちらちらとレグルスが、私を見る。

「心配するな。」

 ポンとシグルーンがレグルスの肩に手を置いた。

「カーラに邪な事をしたら、その瞬間にお前の頭は俺様の腹の中だと思え」

 ポカっとシグルーンの頭をヴェルジュがはたく。

「彼は紳士ですよ~。ね?」
「ーーーーーーはい! 我が剣に誓います。」

 何故かレグルスは硬直し、ヴェルジュに誓いの言葉を述べている。
 ヴェルジュは満面の笑みを浮かべていたわ。

「うっほん! 良いか。オーダーはフォレスタの地に生息する七色蚕の繭。それと砂の花。カーラはクッションの中身にしたいようだが、あれは本来は壁材じゃ。それも極上のな。」
「そうなの?」
「そうじゃ。まぁ、あれで陶器なども作れる。難しいが」

 難しいがとても良きものができるそうだ。
 壁材に混ぜれば、空気清浄効果があり、心身共に癒される。
 なんと!
 王室御用達だそうです。
 因みに、このアパートメントにも使用。
 だからロイ爺さんの在庫が無くなってしまった。
 
「素材はストックしなくれはならんのじゃ。」

 だそうです。

「では、私達はそろそろ失礼しますよ~。そうそう。私達はしばらくバカンスに行きますから」
「えっ!?」

 私は、立ち上がった。
 私もと気持ちが立たせたのだ。

「ど・・どこに?」
「ダメですよ~。カーラはお仕事ですからね。今回はシグルーンとロイ爺さんの三人で南の国です。」

 しゅんと肩をおとしてしまう。

「俺様はデカい果物をとりまくるぜ」
「わらわも連れて行くのじゃーーー!」

 果物に釣られてリズがシグルーンに飛びかかる。

「誰が連れて行くかよ! ドちび」
「なぬーーこの年増が!」

 どたばたとシグルーンとリズがじゃれていた。

「あまり人世界の同じ場所で過ごすのはよくないのですよ。」

 こっそりとヴェルジュは私に教えてくれた。
 今回、サングリーズルの討伐から、結構目立ったヴェルジュだ。
 本来は放浪の治癒として人世界に少しだけかかわる。
 聖職者ギルドからのお仕事依頼がうっとうしくなったのだろう。

「いつか・・私も」

 ヴェルジュの袖口をつまんだ。

「そうですね~。カーラがせめてゴールドカードになったら行きましょう」

 キラリッと光るヴェルジュのゴールドカードが眩しい。
 続いてシグルーンも何故かカードを見せる。
 それはアイアンやシルバーではなく、プラチナカードだ。
 宝飾されていて目に眩しすぎた。

「バカタレ!」

 ロイ爺さんの木槌が、シグルーンにヒットした。

「こやつも、ワシの口利きでな。しかしまだまだじゃよ」

 そうしてロイ爺さんのブラックカードを見た私を含めた若者達は、あまりの眩さに目を細めた。
 ノアなどは神仏に祈るように拝んでいました。
 
 








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みんなの感想(2件)

kevin-ist
2020.10.28 kevin-ist

ステキな物語で、いつも更新を楽しみにしています。
人外だけど過保護で優しい家族。
カーラの成長が楽しみですね。

ゆき
2020.10.31 ゆき

暖かな感想をありがとうございます。
次回からは、プラトーの街からワースティアの街へです。
明日投稿は無理かも知れませんが、待っていてください。

解除
おそまつ茶トラ

10話以降のタイトルの数字が、何故か超小文字になってます。
普通サイズの文字の方が見やすいし、その方が字面的にも揃ってて良いかなと。

毎回楽しく読んでます!
3人中2人は自分は他の2人ほど過保護じゃない、と思ってそうですね。
カーラが可愛くて、どうしようもないデレのくせに(笑)
いやー、ツンが隠れてないデレデレですよね(笑)

ゆき
2020.10.31 ゆき

読んでいただき、本当にありがとうございます。
数字を一度頑張って記入してみます。
教えてくださりうれしいです。

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