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ライトサイド 第9話 「水晶花を求めて 後編」
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物の価値・価格は、需要と供給によって決められる。
例えばあちこちにダイヤモンドや金の鉱石が転がっていたとすれば、それを有り難がる者は居ない。
供給量が少ないからこそ価値があるのであって、誰もが簡単に拾えるのなら、それらは道ばたの石ころと大差ない。
今、帝都で蔓延している疫病の予防薬は比較的安価で手に入る。
求めている人に対して、ある程度の数を用意できるからだ。
だが、発症してしまってからの治療薬はきわめて高価である。
これは逆の理由、原料となる水晶花の数が圧倒的に足りてないからだ。
『水晶花』
それは未開拓地域の森の中でしか採取することが出来ず、いまだその生態は解明されていない。
栽培が上手くいっていないことや、過去の乱獲により、その数は激減している。
今となっては森に住む獣人族たちが、その生息場所を知っているのみ。
そして、その獣人族の巫女の案内によりたどり着いた広場。
その名の通り水晶のような透き通った花が咲いていると思っていた場所。
しかし、そこの花々はどれも固いつぼみのような状態で、黒く、重く垂れ下がっている。
「……これは」
枯れているのではないか、という言葉がリュークスとニアの喉元までせり上がってくる。
絶望がじわりと広がりそうになる中、だが、そんな二人の不安を打ち消すように青年の背から、少女スゥの声がする。
「大丈夫デス! 明日になれば、透き通るような花を見られます! ワタシが3年前に儀式をする前も、これと同じような状況でした」
安心してください、と少女は言う。
「あぁ、そうなんですね……というか儀式?」
「リュークスサン! ワタシを広場の真ん中へ降ろしてください」
「あ、はい」
言われるがまま、軽いスゥの体をゆっくりと降ろす。
「あ、もうちょっとこっち……ばっちりデス」
今は黒く、枯れかけているような花をできるだけ踏まないように、少女が座る。
すでに太陽は沈み、岩に囲まれたその広場は周りよりも一足先に夜を迎えようとしている。
獣人族の巫女の指示により、目立たないように設置されたかがり火が灯された。
暗闇に浮かび上がるその場所は、幻想的に三人を照らすステージのよう。
「ニアサン……あっちの奥にもかがり火があって…」
「おっけー。あたしが火を点けてくるわ」
「僕は何かすることありますか?」
背中の羽をパタパタと火を点けに行く妖精を見送りながら、リュークスが尋ねる。
「あとは特には……………あ、目をつぶってその場に座ってくれますデスか?」
「? こうですか……?」
薄い灯りでは分かりにくいが、スゥの頬はわずかに上気している。
彼女の猫のような耳も、緊張でぴんと立っているのだが、青年は気づかない。
「……ん」
座る青年の影に、膝立ちの少女の影が一瞬だけ重なる。
リュークスの口に、触れるか触れないかの微妙な柔らかな感触。
「ハイ……もう大丈夫デス」
スゥのはにかむような笑顔に、唇の感触。
「へ? ……え?」
状況を把握できない、いや、あれ? 口づけ? と、リュークスの脳裏には色々な言葉が浮かぶのだが、目の前の獣人族の巫女はすっかりいつも通りの微笑を浮かべるのみだ。
「お待たせ~」
ニアがパタパタと戻ってくる。
「ありがとデス。…これから儀式に入ります。巫女のワタシがこれから祈りを捧げます。そうすれば、水晶花は透き通るような花を咲かせるデショウ」
「あぁ、だから族長は、スゥを連れてけって言ったのね」
ニアがぽんと(昭和感満載で)手を打つ。
「祈りを見られるのは恥ずかしいデス。……お二人は明日の昼過ぎ頃に、また来てください」
スゥの口調は、どことなく固い。
獣人族の巫女の祈りとは、そんなに緊張するものなのだろうか?
もっとも数日同行しただけだから、ただの気のせいかもしれない。
ニアはそう考えていたし、リュークスに至っては、
(え、さっきのキスだよね? いや、自意識過剰? 妄想とか幻?)
と、上の空であった。
だから、二人がそれに気づかなかったことを責めるのは酷というものだった。
獣人族の社会では、身体能力が権力、地位に大きく関係する。
いまだに狩猟がメインの生活を考えれば、それは当然ともいえる。
だが、例外も存在する。
それが『獣人族の巫女』である。
「っ……」
スゥは用意していたナイフを、指先に滑らせる。
ぷつっと溢れる血の玉を、自らの太ももから腹、二の腕、喉、そして頬に塗っていく。
次いで周囲の黒いつぼみに、血液を垂らす。
スゥは小柄である。
彼女が生まれて間もなく他界した父親もそうであったらしく、母親もまた小柄だったらしい。
らしい、というのは母親も少女が物心つく前に儀式を行ったから、記憶に無いのだ。
スゥを育てた族長からの話で、そうであると知った。
「っ……」
少女が息を飲む。
ゆっくりゆっくりと黒い蔦が伸びてくる。
ゆっくり、と表現したがそれは植物としては考えられないほどに早い。
彼女の太ももから腹にかけて、血のマーキングを目指して蔦が這う。
最初に垂らした血液が呼び水となり、彼女に絡みつく。
「………」
痛みはない。
水晶花は血を吸っているわけではなく、スゥの命そのものを吸っているからだ。
もしも痛みがあれば、それは死への覚悟( 生への諦め)を決められるのだが、無痛であることが逆に恐怖を掻き立てる。
3年前の儀式の時は、彼女の足だけで済んだ。
だが、今回は……
「………」
恐怖を鎮めるために、スゥは大きく深呼吸する。
おそらく明日の朝頃には、儀式は終わっているだろう。
リュークスとニアに、昼過ぎに来てくれと伝えたのは、万が一にも儀式が終わってなかった時に気まずいからだ。
黒い蔦は、静かにスゥに絡みつく。
すでに首元までに絡みついたそれらは、ある種の装飾のようにも見える。
「………」
儀式を終えた彼女を見た時に、二人はどんな顔をするだろう?
よくやったと褒めてくれるだろうか?
それとも、なぜ伝えなかったのかと怒るだろうか?
たった数日同行しただけの二人だが、多分後者だろう。
(ごめんなさい。ワタシのわがままだから、二人は自分自身を責めないで欲しいデス)
スゥは先に謝っておく。
二人には伝わらないけれど……
「………」
少しずつ周囲の黒かったつぼみが、首をもたげる。
その花弁も少しずつ黒から白へ、そして透明度を増していく。
悲しんでくれるだろうか?
泣いてくれるだろうか?
ふぅと、大きく息を吐く。
じわりじわりと無痛の死は、獣人族の巫女に広がっていく。
(…海……見たかったデス…)
スゥの意識は、ゆっくりと眠るように薄れていった。
リュークスに確たるものがあったわけでは無い。
それは本当に偶然で、あったとしても虫の知らせ程度のものだった。
深夜、あと数時間ほどで夜が明ける。
本来であれば一番深い眠りに落ちているはずの時間帯に、青年は目を覚ました。
(スゥさんの儀式は、どうなってるかな? 邪魔だから出て行けって言われ……いや、祈りを見られるのが恥ずかしいって理由だよな。……ちょっと様子を見てこようかな)
不眠不休で祈りを捧げているのだろうか?
そうだとしたら、小腹が空いているかもしれない。
「………」
周囲に魔物の気配がないことを確認し、スヤスヤと眠っている妖精の少女を起こさないように、リュークスは広場へと向かった。
既にかがり火は消え、辺りを照らすのは薄い月明かりのみ。
その薄蒼い光の中、水晶の花が咲く。
獣人族の少女を囲むように、透明な花が咲き乱れる。
座って祈りを捧げていたはずのスゥは、その花々の中に横たわっている。
結んでいたはずの長い黒髪が広がり、蒼い闇よりも黒く少女の肌を際立たせる。
血の気の失せたその白い肌は、なお一層白く栄える。
「っ!?」
リュークスは、そこで直感的に全てを悟った。
不可思議な勇者の力か、生気を失った彼女の様子にか、あるいはその両方でか。
スゥに駆け寄り、その小柄な上半身を抱き起こす。
「スゥさん!?」
彼女に絡みついている蔦を剥がし、揺さぶり声をかける。
呼吸はしているが、ひどく弱々しい。
「……ん…ぅ」
獣人族の少女は、うっすらと目を開ける。
「良かった、気がついた。僕が分かりますか?」
「……リュークス…サン?…………あぁ…気まずい……デスね」
呟くのも億劫(おっくう)そうに、力なくスゥが応える。
「なんで………いや」
青年は首を振る。
なんでこんなことをしたのか? 水晶花を咲かせるために決まっている。
なんで相談してくれなかったのか? 他に方法が無かったからに決まっている。
なんでこの事を伝えなかったのか? リュークスとニアを傷つけたくなかったからに決まっている。
「これで……いいんデス。……一番多く…人が助けられる…です」
一人の犠牲で、その何十、何百倍もの人が助けられる。
人の命の価値に差は無いのだから、より多くを救うのが常識だろう。
計算するまでもなく正しい。
だが、リュークスは叫ぶ。
「良くない! なにがいいんだ! こんなのあんまりだ!」
ゆるゆるとスゥの手が、青年の頬に触れられる。
少女の体からは、熱が、生気が、命が失われていた。
事ここに至っては、水晶花の蔦を剥がしたところで、あと数時間でスゥは息絶えてしまうだろう。
今、意識を取り戻したことさえ奇跡に近い。
もう充分過ぎるくらい命を受け渡したというのに、獣人族の巫女はうわごとのように言う。
「蔦を……ワタシに戻して………残りかすでも………ちょっとは……」
この期に及んでもなお命を捧げようとする彼女の言葉に、腹が立つ。
いや、それ以上に、どうしようも出来ない自分にもっと腹が立つ。
(何か、何か手は無いのか? 考えろ、考えるんだ、僕!)
なんの犠牲も無く、誰一人失わずに済ませようとするのは、青臭い子供のわがままかもしれない。
それでも、『誰かの犠牲の上に成り立った』成果なんて、認めたくない。
リュークスがよく見る夢の中の、おそらく昔の勇者であった青年の言葉。
「っ!?」
そこで気がつく。
(『勇者』、勇者の力! ……………迷ってる暇は無い)
いつ力尽きてもおかしくないスゥを見ながら、青年はそれを行動へと移した。
「スゥさん、嫌だったらごめん。…文句は後で聞く」
聞こえているのかそうでないのか分からないぐったりとした少女に、リュークスは口づける。
「……ん……ぷぁ……」
柔らかい唇を感じる。
スゥが身じろぎするが、それは抵抗からなのか反射なのかは分からない。
青年は、少女の口を通して、体の奥へ命を流し込むイメージで、キスを続ける。
「んっ……んんっ…」
少女はおそらく無意識に、リュークスの舌を受け入れる。
舌と舌とが触れ合い、絡み合う。
「…ん……くちゅ………んんっ…」
湿った水音と吐息が響く。
獣人族の巫女は、やや強く男の舌を吸う。
「んっ……あ………っ……あふっ…」
スゥの吐息に甘いものが混じる。
こんな時だと言うのに、いや、こんな時だからこその女の甘い吐息に、青年の鼓動は高まる。
「…んんんっ……ぷあっ……」
長い接吻が終わり、口が離れる。
「…ぁ……ん」
名残惜しそうな声が少女から漏れ、もじもじと太ももを動かす。
体からの欲求の動きは本能的なものであり、その仕草は混じりっけ無しの女の情欲を感じさせる。
リュークスはスゥを静かに横たわらせると、その衣服に手をかける。
「………う」
いまだはっきりと意識を取り戻していない無抵抗な少女の衣服を脱がす。
沸き上がる罪悪感は、興奮を加速させる。
(ええっと確か、お互い感じた方が効率良く力を受け渡しできる……んだっけか)
罪悪感に脳内で言い訳しながら、彼女の上着を脱がし終え、シーツ代わりに少女の体の下に敷く。
やや小ぶりな形の良い乳房が晒される。
「………ん……」
先端の突起、乳首を舐める。
「あ………ひゃん……」
まだまだ弱々しい反応だが、少女の体がかすかに跳ねる。
スゥのやや冷えた体に熱を伝えるかのように、リュークスは口内でそれをなぶる。
「ん……あ……っ……んんっ……にゃっ…」
強く吸って、舌先でつついて、もう一方は掌で揉みしだく。
「あっ……んんっ……んっ………はぁ……あん」
彼女の声が熱を帯び、それが青年を高める。
なかば本能の赴くままに、リュークスは少女のスカートを脱がしにかかる。
現れた白い飾り気のないショーツは機能性を重視するものだが、逆にリアルな感覚で青年を欲情させる。
「…んっ……はぁ…はぁ…あ……んん……」
外側からゆるゆると、スゥの柔らかい肌と下着を擦る。
ショーツのスリット部分は熱く、湿り気を感じる。
「あ……あ…ん………ああっ…ん」
青年の手がショーツの中に侵入し、一際大きくスゥが喘ぐ。
しとどに濡れた秘所の熱さと水音は、リュークスの理性を粉々に打ち砕く。
「スゥさん……ごめん、もう我慢できない」
下履きを脱ぎ、誇張した一物を出す。
少女のショーツを脱がすのももどかしく、布地をずらし、モノを突き入れる。
「……んにゃ!?………あくっ…ん…あっ…」
スゥのそこは充分に濡れそぼっており、入口付近まではなんなく入った。
だが、その先は突き入れる側にとっては心地よい膜の抵抗を感じる。
「あ……んくっ……ああっ……ん……」
青年の怒張したモノは半ば以上挿入された。
二人の結合部は、少女の蜜と処女であった証の薄い血とが混ざっている。
きゅうきゅうと締め付けてくる狭い膣内を、ゆっくりと前後する。
「…んっ……ああっ…っ……あ……」
お互いの一番敏感な部分が、これ以上ないほど密着されたまま擦れる。
あふれ出るスゥの蜜が潤滑油となり、男には更なる快楽を与え、女には痛みの軽減をもたらす。
それでも痛みはあるのか、少女の体に力が入り強張る。
(初めてって、女の人は痛いんだよな……ゆっくり出来るだけ痛くないように…)
痛みから逃げようとする細い少女の腰に手をかけ、ゆるやかな抽送を繰り返す。
「んあっ……ああっ……ん……ああ…あ…」
くちゅりと水音が響く。
リュークスは派手に動かず、じわりと押し込むように腰を入れる。
密着が長く続き、それに比例するかのように快楽が上ってくる。
「…んくっ…はっ…あ……ああっ…………」
スゥの目から涙がこぼれ落ちる。
声にも痛みを我慢するものを感じ、青年の動きが止まる。
「……リュークス…サン………続けて…欲しいデス」
それに気づいたのか、少女は青年を迎えるように手を伸ばす。
「うん……ごめん、スゥさん」
リュークスの顔が近づき、二人は繋がったまま、再び長い口づけを始める。
「んっ……んうっ……んんっ………ん…っ」
舌と舌が、ちゅぷちゅぷと音を立てる。
彼女の舌、歯、口内さえも愛しくて舌を這い回らせる。
それに応えるように、スゥからも舌を差し入れてくる。
「…はっ……ん……んんんぅ……ぷあっ…」
少女は上気した肌と上目遣いで、青年を見上げる。
「んっ…今は……今だけは………さん、を付けないで……スゥって」
「分かった。……続けるよ、スゥ」
宣言するとリュークスは、腰を揺らす。
前後の出し入れは痛みが強いと判断し、ゆるやかに上下左右あるいは奥へと突き当てる。
「あぅ…くっ…ああっ……んああっ……それ……いいっ…」
結果的に少女の膣内をかき回すような、より深い接触となる。
青年の動きに合わせるように、スゥも腰を動かす。
「…ああっ……あん…あ…ああっ……気持ちいいっ……ああっ…リュークス」
触れ合うたびに快楽の波が蓄積されていく。
命を分け与えるという名目を忘れそうになるくらいの心地よさが、股間を中心として全身に広がってくる。
「くっ……スゥ…いくよ」
「あっ……あ…ああっ……んあっ…ああ………来てっ…」
何度経験しても飽きることのない快楽がリュークスを包む。
最上の恍惚に流されそうになる中、それでもできる限りの生命を少女に渡したい。
そんなことを思いながら、スゥの中へ精を放つ。
「ああっ……ん……にゃああああああっ」
びくりと少女の体が震えたのと、リュークスが達したのはほぼ同時だった。
とりあえず持てるだけの水晶花を持って、獣人族の村へと戻った一行は驚きで迎えられた。
水晶花への道中に居た魔物(アルラウネ)は退治され、儀式は無事終わり大量の水晶花の確保がされたうえに、巫女スゥが無事に帰って来たのだ。
獣人族の村にとって良いことは、これらだけではない。
帝国の『七聖剣将ケルナー』が、我を取り戻し、水晶花の栽培と固定価格での買い上げを約束したのだ。
彼はここ最近は迷走しているような振る舞いが見られたが、元来は約束を守るモラルある人物だ。
加えて『七聖剣将筆頭ベルン』と『蒼の軍師アニエス』が連帯保証したことも大きな後押しとなった。
「…じゃあ、座って目をつぶって、歯を食いしばって欲しいデス」
獣人族の少女スゥはそう言って、ぶんぶんと腕を振る。
シュッと風を切るその拳は、意外に破壊力がありそうである。
「ううっ……それでスゥの気が済むのなら」
リュークスはおっかなびっくりその場に正座し、目を閉じる。
成り行きとはいえ少女の純血を奪った形となったのだから、やむを得ないだろう。
殺されたとしても文句は言えない状況だ。
「行くデス!」
「よっしゃあ、来いぃ!」
青年は覚悟を決め、来るであろう衝撃に備える。
「…………ん?」
リュークスの両頬にスゥの手が優しく添えられ、唇に柔らかい感触がする。
「んっ………」
先日のような触れるか触れないかではなく、しっかりとした口づけ。
少女の舌がちろちろと、青年の唇を這う。
「んんんんっ……!?」
このままずっとこうしていたい気持ちを抑えスゥが口を離す。
だが、代わりにリュークスの胸に飛び込む。
予想していなかった(いや、多少は妄想してたけど)展開に、少女に押し倒されるような形になり倒れ込む。
青年の目の前には、長い黒髪と猫のような耳がある。
倒れ込んだ土の匂いと、スゥの香りがする。
「頭を…撫でて欲しいデス」
「うん」
少女の求めに応じ、リュークスは優しく撫でる。
「…………にゃぁ」
安心したのか、スゥが脱力し体を預けてくる。
「……………」
どれくらいそうしていただろうか。
獣人族の少女がぽつりと呟く。
「……リュークスの旅が一段落したら、海を見せて欲しい…デス」
「うん、見に行こう……海」
風が静かにそよいでいた。
ルコナーア教の女性神官、100年に1人と言われた聖女フィリスが、目を開ける。
一週間ほど意識が混濁するほどの高熱に襲われていたので、それらが嘘のように消え去っている今の状態は夢だろうか、などと疑ってしまう。
疫病に倒れた時に、リュークスとニアは治療薬の原料を取りに行ったはずだ。
「二人は事故死した」と告げられ愕然としたら夢だった、と安心したり。
目を覚ましても高熱は変わらず、二人の姿も無いことにがっかりしたり。
なぜかベッドで寝ているフィリスを俯瞰して見ているフィリスが居て、「残念ながら手遅れでした」と医者に宣告された、と思ったら夢だったり。
昨日の夜は、リュークスが、
「治療薬です。もう大丈夫だよ、フィリス」と言ってたりしていた。
ネガティブなこともポジティブなことも同じくらいの回数夢見たので、夢と現実の記憶が曖昧だ。
「………」
傍らに目を向けると、サイドテーブルで眠っている妖精のニアと椅子で寝ている青年リュークスの姿が見える。
(これも……夢なのかな)
フィリスは萎えた筋肉に違和感を覚えながらも上体を起こし……そこで「ふがっ」という声を聞く。
目を覚ましたリュークスと目が合う。
「………」
「………あの」
がばっと寝起きの青年が顔を寄せる。
「大丈夫!? 熱は!? ………良かった、下がってるみたいだ」
青年は慌ただしく彼女の額に手をやり、高熱でないことを確認する。
「ごめんなさい。ご迷惑を……お掛けしました」
フィリスは頭を下げようとするが、わずかにふらつく。
「無理はしちゃ駄目だ。もっと休んでて……お腹は減ってる? 何か胃に優しいものを持ってくる」
優しく少女の体を横たえると、リュークスは立ち上がる。
「ごめんなさい……私」
なおも謝ろうとする彼女に、びっと人差し指を立てて、青年は言う。
「フィリス、『ごめんなさい』じゃなくって、『ありがとう』って言って欲しいな。僕にもニアにも」
「ねえ、ニア。リュークスさん……ちょっと雰囲気、変わった?」
ドアの奥に消えた青年について、フィリスは友人の妖精に尋ねる。
「ん~? そうかもしれないわね。ちょっと逞(たくま)しくなったかも」
てっきり、そんなことないわよ、みたいな返答を予想していたのでニアの言葉に驚く。
そんなフィリスの様子に気づいたのか、照れくさそうに妖精が付け加える。
「あいつ、一人で洞窟の魔物を倒したみたいだし、毎日剣の素振りしてたり……わりと頑張ってるのよね。ちょっとは認めてやんないと」
本人に聞かれたら調子に乗りそうだから秘密ね、と笑う。
「私、『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』って言って欲しいと言われた。……その通りだと思う」
フィリスは聖女と呼ばれてはいるが、自分ではまだまだ未熟で不完全な存在だと思っている。
失敗するし、気分が落ち込むこともある。
そんな彼女を傷つけることなく、甘やかすわけでもなく、元気づけてくれたリュークスを見直したというのが正直な感想だ。
「私ももっと頑張らなきゃ………ぃたっ」
ニアはフィリスに軽いデコピン。
「フィリス、あんたは色々抱え過ぎだし、頑張り過ぎよ」
そうなんだろうか。
聖女と呼ばれているわりには、まだまだ努力は足りてないんじゃないだろうか。
そうは思ったが、疫病にかかって周囲の人に迷惑をかけてしまったばかりなので、何も言えない。
「まぁ、どうしても努力したいって言うんなら、きちんと休んで早く本調子に戻すことね」
ぐうの音も出ない正論に、フィリスは大人しく従うことにした。
(それにしても『聖女』かぁ……かつて勇者とともに魔王を封印した聖女様だったら、どういうふうに立ち回ってたのかしら)
帝国未開拓地域、北東部。
動植物の命が希薄な荒れ地に、その女は立っている。
「くすくすっ……」
黒いローブからわずかに覗く真っ赤な唇が、楽しげに笑う。
「グ…グガァアアアアアッ!!」
獣の苦しげな咆吼があがる。
黒いローブ姿の女は、魔王配下の『闇の娘、黒霧』。
彼女に相対するのは、褐色の肌の女戦士と岩の巨獣。
「…………」
岩の巨獣の外見を説明すると、一番分かりやすいのは体が岩でできた亀だろうか。
もっともその大きさは4メートル以上のものであり、自然界に存在するものではない。
『大地の精霊』との契約を望む『黒霧』に対して、褐色の女戦士姿の精霊が召喚したものが、岩の巨獣である。
「これで私の力を認めてくれるかしら?」
だがその巨獣の四肢は、いかなる手段を用いたのか、全てもがれている。
そこまでであれば、高レベルの実力者であれば再現は全く不可能というわけではない。
だが、そこから先は到底真似のできない技だ。
地面にひっくり返された亀さながらに、巨獣が引っ繰り返されているのだから。
「……認めよう。我を従わせるに充分な力を示した」
女戦士の姿をした大地の精霊が一瞥すると、もがいていた巨獣は元の岩となり、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「くすっ、こんなに力を使うのは久しぶりだから、ちょっと汗かいちゃった」
ぱたぱたと手で扇ぐ。
やや癖のある亜麻色の髪の一房が覗く。
「さぁて、次はどんな趣向を凝らそうかしら? くすくすっ……」
闇はここにも、浸食を広げていた。
To Be Continued・・・
あとがき
ニアやリュークスが眠っている時は、わかりやすく鼻ちょうちんです(溢れる昭和アニメ臭)
『獣人族の巫女』は、ぶっちゃけると「生け贄」ですね。
族長のシーンとかが、さらっとしか書いてないのは、わざとです。
ろくに狩りができないスゥを巫女に仕立て上げたパターンと、実はスゥは族長の本当の孫で巫女にはさせたくなかったパターンとを考えたのですが、話が長くなりそうなので意図的にカットしました。
そのせいで、スゥがリュークスに好意を持つイベントもカットされてしまったので、なんか辻褄があってないような気がしますけど(ぎゃー)
でも、族長にイケニエ、ダメ、絶対! って論破しちゃうと、スゥとのエロイベントが発生しないんだもの。
例えばあちこちにダイヤモンドや金の鉱石が転がっていたとすれば、それを有り難がる者は居ない。
供給量が少ないからこそ価値があるのであって、誰もが簡単に拾えるのなら、それらは道ばたの石ころと大差ない。
今、帝都で蔓延している疫病の予防薬は比較的安価で手に入る。
求めている人に対して、ある程度の数を用意できるからだ。
だが、発症してしまってからの治療薬はきわめて高価である。
これは逆の理由、原料となる水晶花の数が圧倒的に足りてないからだ。
『水晶花』
それは未開拓地域の森の中でしか採取することが出来ず、いまだその生態は解明されていない。
栽培が上手くいっていないことや、過去の乱獲により、その数は激減している。
今となっては森に住む獣人族たちが、その生息場所を知っているのみ。
そして、その獣人族の巫女の案内によりたどり着いた広場。
その名の通り水晶のような透き通った花が咲いていると思っていた場所。
しかし、そこの花々はどれも固いつぼみのような状態で、黒く、重く垂れ下がっている。
「……これは」
枯れているのではないか、という言葉がリュークスとニアの喉元までせり上がってくる。
絶望がじわりと広がりそうになる中、だが、そんな二人の不安を打ち消すように青年の背から、少女スゥの声がする。
「大丈夫デス! 明日になれば、透き通るような花を見られます! ワタシが3年前に儀式をする前も、これと同じような状況でした」
安心してください、と少女は言う。
「あぁ、そうなんですね……というか儀式?」
「リュークスサン! ワタシを広場の真ん中へ降ろしてください」
「あ、はい」
言われるがまま、軽いスゥの体をゆっくりと降ろす。
「あ、もうちょっとこっち……ばっちりデス」
今は黒く、枯れかけているような花をできるだけ踏まないように、少女が座る。
すでに太陽は沈み、岩に囲まれたその広場は周りよりも一足先に夜を迎えようとしている。
獣人族の巫女の指示により、目立たないように設置されたかがり火が灯された。
暗闇に浮かび上がるその場所は、幻想的に三人を照らすステージのよう。
「ニアサン……あっちの奥にもかがり火があって…」
「おっけー。あたしが火を点けてくるわ」
「僕は何かすることありますか?」
背中の羽をパタパタと火を点けに行く妖精を見送りながら、リュークスが尋ねる。
「あとは特には……………あ、目をつぶってその場に座ってくれますデスか?」
「? こうですか……?」
薄い灯りでは分かりにくいが、スゥの頬はわずかに上気している。
彼女の猫のような耳も、緊張でぴんと立っているのだが、青年は気づかない。
「……ん」
座る青年の影に、膝立ちの少女の影が一瞬だけ重なる。
リュークスの口に、触れるか触れないかの微妙な柔らかな感触。
「ハイ……もう大丈夫デス」
スゥのはにかむような笑顔に、唇の感触。
「へ? ……え?」
状況を把握できない、いや、あれ? 口づけ? と、リュークスの脳裏には色々な言葉が浮かぶのだが、目の前の獣人族の巫女はすっかりいつも通りの微笑を浮かべるのみだ。
「お待たせ~」
ニアがパタパタと戻ってくる。
「ありがとデス。…これから儀式に入ります。巫女のワタシがこれから祈りを捧げます。そうすれば、水晶花は透き通るような花を咲かせるデショウ」
「あぁ、だから族長は、スゥを連れてけって言ったのね」
ニアがぽんと(昭和感満載で)手を打つ。
「祈りを見られるのは恥ずかしいデス。……お二人は明日の昼過ぎ頃に、また来てください」
スゥの口調は、どことなく固い。
獣人族の巫女の祈りとは、そんなに緊張するものなのだろうか?
もっとも数日同行しただけだから、ただの気のせいかもしれない。
ニアはそう考えていたし、リュークスに至っては、
(え、さっきのキスだよね? いや、自意識過剰? 妄想とか幻?)
と、上の空であった。
だから、二人がそれに気づかなかったことを責めるのは酷というものだった。
獣人族の社会では、身体能力が権力、地位に大きく関係する。
いまだに狩猟がメインの生活を考えれば、それは当然ともいえる。
だが、例外も存在する。
それが『獣人族の巫女』である。
「っ……」
スゥは用意していたナイフを、指先に滑らせる。
ぷつっと溢れる血の玉を、自らの太ももから腹、二の腕、喉、そして頬に塗っていく。
次いで周囲の黒いつぼみに、血液を垂らす。
スゥは小柄である。
彼女が生まれて間もなく他界した父親もそうであったらしく、母親もまた小柄だったらしい。
らしい、というのは母親も少女が物心つく前に儀式を行ったから、記憶に無いのだ。
スゥを育てた族長からの話で、そうであると知った。
「っ……」
少女が息を飲む。
ゆっくりゆっくりと黒い蔦が伸びてくる。
ゆっくり、と表現したがそれは植物としては考えられないほどに早い。
彼女の太ももから腹にかけて、血のマーキングを目指して蔦が這う。
最初に垂らした血液が呼び水となり、彼女に絡みつく。
「………」
痛みはない。
水晶花は血を吸っているわけではなく、スゥの命そのものを吸っているからだ。
もしも痛みがあれば、それは死への覚悟( 生への諦め)を決められるのだが、無痛であることが逆に恐怖を掻き立てる。
3年前の儀式の時は、彼女の足だけで済んだ。
だが、今回は……
「………」
恐怖を鎮めるために、スゥは大きく深呼吸する。
おそらく明日の朝頃には、儀式は終わっているだろう。
リュークスとニアに、昼過ぎに来てくれと伝えたのは、万が一にも儀式が終わってなかった時に気まずいからだ。
黒い蔦は、静かにスゥに絡みつく。
すでに首元までに絡みついたそれらは、ある種の装飾のようにも見える。
「………」
儀式を終えた彼女を見た時に、二人はどんな顔をするだろう?
よくやったと褒めてくれるだろうか?
それとも、なぜ伝えなかったのかと怒るだろうか?
たった数日同行しただけの二人だが、多分後者だろう。
(ごめんなさい。ワタシのわがままだから、二人は自分自身を責めないで欲しいデス)
スゥは先に謝っておく。
二人には伝わらないけれど……
「………」
少しずつ周囲の黒かったつぼみが、首をもたげる。
その花弁も少しずつ黒から白へ、そして透明度を増していく。
悲しんでくれるだろうか?
泣いてくれるだろうか?
ふぅと、大きく息を吐く。
じわりじわりと無痛の死は、獣人族の巫女に広がっていく。
(…海……見たかったデス…)
スゥの意識は、ゆっくりと眠るように薄れていった。
リュークスに確たるものがあったわけでは無い。
それは本当に偶然で、あったとしても虫の知らせ程度のものだった。
深夜、あと数時間ほどで夜が明ける。
本来であれば一番深い眠りに落ちているはずの時間帯に、青年は目を覚ました。
(スゥさんの儀式は、どうなってるかな? 邪魔だから出て行けって言われ……いや、祈りを見られるのが恥ずかしいって理由だよな。……ちょっと様子を見てこようかな)
不眠不休で祈りを捧げているのだろうか?
そうだとしたら、小腹が空いているかもしれない。
「………」
周囲に魔物の気配がないことを確認し、スヤスヤと眠っている妖精の少女を起こさないように、リュークスは広場へと向かった。
既にかがり火は消え、辺りを照らすのは薄い月明かりのみ。
その薄蒼い光の中、水晶の花が咲く。
獣人族の少女を囲むように、透明な花が咲き乱れる。
座って祈りを捧げていたはずのスゥは、その花々の中に横たわっている。
結んでいたはずの長い黒髪が広がり、蒼い闇よりも黒く少女の肌を際立たせる。
血の気の失せたその白い肌は、なお一層白く栄える。
「っ!?」
リュークスは、そこで直感的に全てを悟った。
不可思議な勇者の力か、生気を失った彼女の様子にか、あるいはその両方でか。
スゥに駆け寄り、その小柄な上半身を抱き起こす。
「スゥさん!?」
彼女に絡みついている蔦を剥がし、揺さぶり声をかける。
呼吸はしているが、ひどく弱々しい。
「……ん…ぅ」
獣人族の少女は、うっすらと目を開ける。
「良かった、気がついた。僕が分かりますか?」
「……リュークス…サン?…………あぁ…気まずい……デスね」
呟くのも億劫(おっくう)そうに、力なくスゥが応える。
「なんで………いや」
青年は首を振る。
なんでこんなことをしたのか? 水晶花を咲かせるために決まっている。
なんで相談してくれなかったのか? 他に方法が無かったからに決まっている。
なんでこの事を伝えなかったのか? リュークスとニアを傷つけたくなかったからに決まっている。
「これで……いいんデス。……一番多く…人が助けられる…です」
一人の犠牲で、その何十、何百倍もの人が助けられる。
人の命の価値に差は無いのだから、より多くを救うのが常識だろう。
計算するまでもなく正しい。
だが、リュークスは叫ぶ。
「良くない! なにがいいんだ! こんなのあんまりだ!」
ゆるゆるとスゥの手が、青年の頬に触れられる。
少女の体からは、熱が、生気が、命が失われていた。
事ここに至っては、水晶花の蔦を剥がしたところで、あと数時間でスゥは息絶えてしまうだろう。
今、意識を取り戻したことさえ奇跡に近い。
もう充分過ぎるくらい命を受け渡したというのに、獣人族の巫女はうわごとのように言う。
「蔦を……ワタシに戻して………残りかすでも………ちょっとは……」
この期に及んでもなお命を捧げようとする彼女の言葉に、腹が立つ。
いや、それ以上に、どうしようも出来ない自分にもっと腹が立つ。
(何か、何か手は無いのか? 考えろ、考えるんだ、僕!)
なんの犠牲も無く、誰一人失わずに済ませようとするのは、青臭い子供のわがままかもしれない。
それでも、『誰かの犠牲の上に成り立った』成果なんて、認めたくない。
リュークスがよく見る夢の中の、おそらく昔の勇者であった青年の言葉。
「っ!?」
そこで気がつく。
(『勇者』、勇者の力! ……………迷ってる暇は無い)
いつ力尽きてもおかしくないスゥを見ながら、青年はそれを行動へと移した。
「スゥさん、嫌だったらごめん。…文句は後で聞く」
聞こえているのかそうでないのか分からないぐったりとした少女に、リュークスは口づける。
「……ん……ぷぁ……」
柔らかい唇を感じる。
スゥが身じろぎするが、それは抵抗からなのか反射なのかは分からない。
青年は、少女の口を通して、体の奥へ命を流し込むイメージで、キスを続ける。
「んっ……んんっ…」
少女はおそらく無意識に、リュークスの舌を受け入れる。
舌と舌とが触れ合い、絡み合う。
「…ん……くちゅ………んんっ…」
湿った水音と吐息が響く。
獣人族の巫女は、やや強く男の舌を吸う。
「んっ……あ………っ……あふっ…」
スゥの吐息に甘いものが混じる。
こんな時だと言うのに、いや、こんな時だからこその女の甘い吐息に、青年の鼓動は高まる。
「…んんんっ……ぷあっ……」
長い接吻が終わり、口が離れる。
「…ぁ……ん」
名残惜しそうな声が少女から漏れ、もじもじと太ももを動かす。
体からの欲求の動きは本能的なものであり、その仕草は混じりっけ無しの女の情欲を感じさせる。
リュークスはスゥを静かに横たわらせると、その衣服に手をかける。
「………う」
いまだはっきりと意識を取り戻していない無抵抗な少女の衣服を脱がす。
沸き上がる罪悪感は、興奮を加速させる。
(ええっと確か、お互い感じた方が効率良く力を受け渡しできる……んだっけか)
罪悪感に脳内で言い訳しながら、彼女の上着を脱がし終え、シーツ代わりに少女の体の下に敷く。
やや小ぶりな形の良い乳房が晒される。
「………ん……」
先端の突起、乳首を舐める。
「あ………ひゃん……」
まだまだ弱々しい反応だが、少女の体がかすかに跳ねる。
スゥのやや冷えた体に熱を伝えるかのように、リュークスは口内でそれをなぶる。
「ん……あ……っ……んんっ……にゃっ…」
強く吸って、舌先でつついて、もう一方は掌で揉みしだく。
「あっ……んんっ……んっ………はぁ……あん」
彼女の声が熱を帯び、それが青年を高める。
なかば本能の赴くままに、リュークスは少女のスカートを脱がしにかかる。
現れた白い飾り気のないショーツは機能性を重視するものだが、逆にリアルな感覚で青年を欲情させる。
「…んっ……はぁ…はぁ…あ……んん……」
外側からゆるゆると、スゥの柔らかい肌と下着を擦る。
ショーツのスリット部分は熱く、湿り気を感じる。
「あ……あ…ん………ああっ…ん」
青年の手がショーツの中に侵入し、一際大きくスゥが喘ぐ。
しとどに濡れた秘所の熱さと水音は、リュークスの理性を粉々に打ち砕く。
「スゥさん……ごめん、もう我慢できない」
下履きを脱ぎ、誇張した一物を出す。
少女のショーツを脱がすのももどかしく、布地をずらし、モノを突き入れる。
「……んにゃ!?………あくっ…ん…あっ…」
スゥのそこは充分に濡れそぼっており、入口付近まではなんなく入った。
だが、その先は突き入れる側にとっては心地よい膜の抵抗を感じる。
「あ……んくっ……ああっ……ん……」
青年の怒張したモノは半ば以上挿入された。
二人の結合部は、少女の蜜と処女であった証の薄い血とが混ざっている。
きゅうきゅうと締め付けてくる狭い膣内を、ゆっくりと前後する。
「…んっ……ああっ…っ……あ……」
お互いの一番敏感な部分が、これ以上ないほど密着されたまま擦れる。
あふれ出るスゥの蜜が潤滑油となり、男には更なる快楽を与え、女には痛みの軽減をもたらす。
それでも痛みはあるのか、少女の体に力が入り強張る。
(初めてって、女の人は痛いんだよな……ゆっくり出来るだけ痛くないように…)
痛みから逃げようとする細い少女の腰に手をかけ、ゆるやかな抽送を繰り返す。
「んあっ……ああっ……ん……ああ…あ…」
くちゅりと水音が響く。
リュークスは派手に動かず、じわりと押し込むように腰を入れる。
密着が長く続き、それに比例するかのように快楽が上ってくる。
「…んくっ…はっ…あ……ああっ…………」
スゥの目から涙がこぼれ落ちる。
声にも痛みを我慢するものを感じ、青年の動きが止まる。
「……リュークス…サン………続けて…欲しいデス」
それに気づいたのか、少女は青年を迎えるように手を伸ばす。
「うん……ごめん、スゥさん」
リュークスの顔が近づき、二人は繋がったまま、再び長い口づけを始める。
「んっ……んうっ……んんっ………ん…っ」
舌と舌が、ちゅぷちゅぷと音を立てる。
彼女の舌、歯、口内さえも愛しくて舌を這い回らせる。
それに応えるように、スゥからも舌を差し入れてくる。
「…はっ……ん……んんんぅ……ぷあっ…」
少女は上気した肌と上目遣いで、青年を見上げる。
「んっ…今は……今だけは………さん、を付けないで……スゥって」
「分かった。……続けるよ、スゥ」
宣言するとリュークスは、腰を揺らす。
前後の出し入れは痛みが強いと判断し、ゆるやかに上下左右あるいは奥へと突き当てる。
「あぅ…くっ…ああっ……んああっ……それ……いいっ…」
結果的に少女の膣内をかき回すような、より深い接触となる。
青年の動きに合わせるように、スゥも腰を動かす。
「…ああっ……あん…あ…ああっ……気持ちいいっ……ああっ…リュークス」
触れ合うたびに快楽の波が蓄積されていく。
命を分け与えるという名目を忘れそうになるくらいの心地よさが、股間を中心として全身に広がってくる。
「くっ……スゥ…いくよ」
「あっ……あ…ああっ……んあっ…ああ………来てっ…」
何度経験しても飽きることのない快楽がリュークスを包む。
最上の恍惚に流されそうになる中、それでもできる限りの生命を少女に渡したい。
そんなことを思いながら、スゥの中へ精を放つ。
「ああっ……ん……にゃああああああっ」
びくりと少女の体が震えたのと、リュークスが達したのはほぼ同時だった。
とりあえず持てるだけの水晶花を持って、獣人族の村へと戻った一行は驚きで迎えられた。
水晶花への道中に居た魔物(アルラウネ)は退治され、儀式は無事終わり大量の水晶花の確保がされたうえに、巫女スゥが無事に帰って来たのだ。
獣人族の村にとって良いことは、これらだけではない。
帝国の『七聖剣将ケルナー』が、我を取り戻し、水晶花の栽培と固定価格での買い上げを約束したのだ。
彼はここ最近は迷走しているような振る舞いが見られたが、元来は約束を守るモラルある人物だ。
加えて『七聖剣将筆頭ベルン』と『蒼の軍師アニエス』が連帯保証したことも大きな後押しとなった。
「…じゃあ、座って目をつぶって、歯を食いしばって欲しいデス」
獣人族の少女スゥはそう言って、ぶんぶんと腕を振る。
シュッと風を切るその拳は、意外に破壊力がありそうである。
「ううっ……それでスゥの気が済むのなら」
リュークスはおっかなびっくりその場に正座し、目を閉じる。
成り行きとはいえ少女の純血を奪った形となったのだから、やむを得ないだろう。
殺されたとしても文句は言えない状況だ。
「行くデス!」
「よっしゃあ、来いぃ!」
青年は覚悟を決め、来るであろう衝撃に備える。
「…………ん?」
リュークスの両頬にスゥの手が優しく添えられ、唇に柔らかい感触がする。
「んっ………」
先日のような触れるか触れないかではなく、しっかりとした口づけ。
少女の舌がちろちろと、青年の唇を這う。
「んんんんっ……!?」
このままずっとこうしていたい気持ちを抑えスゥが口を離す。
だが、代わりにリュークスの胸に飛び込む。
予想していなかった(いや、多少は妄想してたけど)展開に、少女に押し倒されるような形になり倒れ込む。
青年の目の前には、長い黒髪と猫のような耳がある。
倒れ込んだ土の匂いと、スゥの香りがする。
「頭を…撫でて欲しいデス」
「うん」
少女の求めに応じ、リュークスは優しく撫でる。
「…………にゃぁ」
安心したのか、スゥが脱力し体を預けてくる。
「……………」
どれくらいそうしていただろうか。
獣人族の少女がぽつりと呟く。
「……リュークスの旅が一段落したら、海を見せて欲しい…デス」
「うん、見に行こう……海」
風が静かにそよいでいた。
ルコナーア教の女性神官、100年に1人と言われた聖女フィリスが、目を開ける。
一週間ほど意識が混濁するほどの高熱に襲われていたので、それらが嘘のように消え去っている今の状態は夢だろうか、などと疑ってしまう。
疫病に倒れた時に、リュークスとニアは治療薬の原料を取りに行ったはずだ。
「二人は事故死した」と告げられ愕然としたら夢だった、と安心したり。
目を覚ましても高熱は変わらず、二人の姿も無いことにがっかりしたり。
なぜかベッドで寝ているフィリスを俯瞰して見ているフィリスが居て、「残念ながら手遅れでした」と医者に宣告された、と思ったら夢だったり。
昨日の夜は、リュークスが、
「治療薬です。もう大丈夫だよ、フィリス」と言ってたりしていた。
ネガティブなこともポジティブなことも同じくらいの回数夢見たので、夢と現実の記憶が曖昧だ。
「………」
傍らに目を向けると、サイドテーブルで眠っている妖精のニアと椅子で寝ている青年リュークスの姿が見える。
(これも……夢なのかな)
フィリスは萎えた筋肉に違和感を覚えながらも上体を起こし……そこで「ふがっ」という声を聞く。
目を覚ましたリュークスと目が合う。
「………」
「………あの」
がばっと寝起きの青年が顔を寄せる。
「大丈夫!? 熱は!? ………良かった、下がってるみたいだ」
青年は慌ただしく彼女の額に手をやり、高熱でないことを確認する。
「ごめんなさい。ご迷惑を……お掛けしました」
フィリスは頭を下げようとするが、わずかにふらつく。
「無理はしちゃ駄目だ。もっと休んでて……お腹は減ってる? 何か胃に優しいものを持ってくる」
優しく少女の体を横たえると、リュークスは立ち上がる。
「ごめんなさい……私」
なおも謝ろうとする彼女に、びっと人差し指を立てて、青年は言う。
「フィリス、『ごめんなさい』じゃなくって、『ありがとう』って言って欲しいな。僕にもニアにも」
「ねえ、ニア。リュークスさん……ちょっと雰囲気、変わった?」
ドアの奥に消えた青年について、フィリスは友人の妖精に尋ねる。
「ん~? そうかもしれないわね。ちょっと逞(たくま)しくなったかも」
てっきり、そんなことないわよ、みたいな返答を予想していたのでニアの言葉に驚く。
そんなフィリスの様子に気づいたのか、照れくさそうに妖精が付け加える。
「あいつ、一人で洞窟の魔物を倒したみたいだし、毎日剣の素振りしてたり……わりと頑張ってるのよね。ちょっとは認めてやんないと」
本人に聞かれたら調子に乗りそうだから秘密ね、と笑う。
「私、『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』って言って欲しいと言われた。……その通りだと思う」
フィリスは聖女と呼ばれてはいるが、自分ではまだまだ未熟で不完全な存在だと思っている。
失敗するし、気分が落ち込むこともある。
そんな彼女を傷つけることなく、甘やかすわけでもなく、元気づけてくれたリュークスを見直したというのが正直な感想だ。
「私ももっと頑張らなきゃ………ぃたっ」
ニアはフィリスに軽いデコピン。
「フィリス、あんたは色々抱え過ぎだし、頑張り過ぎよ」
そうなんだろうか。
聖女と呼ばれているわりには、まだまだ努力は足りてないんじゃないだろうか。
そうは思ったが、疫病にかかって周囲の人に迷惑をかけてしまったばかりなので、何も言えない。
「まぁ、どうしても努力したいって言うんなら、きちんと休んで早く本調子に戻すことね」
ぐうの音も出ない正論に、フィリスは大人しく従うことにした。
(それにしても『聖女』かぁ……かつて勇者とともに魔王を封印した聖女様だったら、どういうふうに立ち回ってたのかしら)
帝国未開拓地域、北東部。
動植物の命が希薄な荒れ地に、その女は立っている。
「くすくすっ……」
黒いローブからわずかに覗く真っ赤な唇が、楽しげに笑う。
「グ…グガァアアアアアッ!!」
獣の苦しげな咆吼があがる。
黒いローブ姿の女は、魔王配下の『闇の娘、黒霧』。
彼女に相対するのは、褐色の肌の女戦士と岩の巨獣。
「…………」
岩の巨獣の外見を説明すると、一番分かりやすいのは体が岩でできた亀だろうか。
もっともその大きさは4メートル以上のものであり、自然界に存在するものではない。
『大地の精霊』との契約を望む『黒霧』に対して、褐色の女戦士姿の精霊が召喚したものが、岩の巨獣である。
「これで私の力を認めてくれるかしら?」
だがその巨獣の四肢は、いかなる手段を用いたのか、全てもがれている。
そこまでであれば、高レベルの実力者であれば再現は全く不可能というわけではない。
だが、そこから先は到底真似のできない技だ。
地面にひっくり返された亀さながらに、巨獣が引っ繰り返されているのだから。
「……認めよう。我を従わせるに充分な力を示した」
女戦士の姿をした大地の精霊が一瞥すると、もがいていた巨獣は元の岩となり、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「くすっ、こんなに力を使うのは久しぶりだから、ちょっと汗かいちゃった」
ぱたぱたと手で扇ぐ。
やや癖のある亜麻色の髪の一房が覗く。
「さぁて、次はどんな趣向を凝らそうかしら? くすくすっ……」
闇はここにも、浸食を広げていた。
To Be Continued・・・
あとがき
ニアやリュークスが眠っている時は、わかりやすく鼻ちょうちんです(溢れる昭和アニメ臭)
『獣人族の巫女』は、ぶっちゃけると「生け贄」ですね。
族長のシーンとかが、さらっとしか書いてないのは、わざとです。
ろくに狩りができないスゥを巫女に仕立て上げたパターンと、実はスゥは族長の本当の孫で巫女にはさせたくなかったパターンとを考えたのですが、話が長くなりそうなので意図的にカットしました。
そのせいで、スゥがリュークスに好意を持つイベントもカットされてしまったので、なんか辻褄があってないような気がしますけど(ぎゃー)
でも、族長にイケニエ、ダメ、絶対! って論破しちゃうと、スゥとのエロイベントが発生しないんだもの。
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