ライトサイド

タカヤス

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ライトサイド 第15話 「雷神公女」

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きぃ……ん。
澄んだ鋼の音色が響く。
それは一つの勝敗が決した音。
折れた剣先がくるくると円を描きながら、地へと突き刺さる。
「見事……」
折られた剣の主、老将が膝を付く。
折った方、若い剣士はゆっくりと振り返る。
その場面において改めて老将、アムンゼルは青年を観察する。
(孫が居ればこんな感じに育っていただろうか?)
そんな詮無い事を考えながら、老将は語りかけた。
全力を出しきり、それに真っ向から応えた若い青年に。
「最後に少し語らせて貰って構わないかね? 何、すぐに終わる」
「………聞くだけなら」
いつもの自嘲の笑みは見せず、ゼロは自分の何倍もの人生を歩んできた老将を見る。
『生真面目な武人』
そんな言葉を連想させる老将アムンゼルは、静かに語り始めた。



ライトサイド 15



それの始まりは、いつからだっただろうか?
二年前に帝国が『魔王』により支配され、多くの兵士の命が失われた時から。
いや、エリィという名の才女が行方不明となった時から。
否、ジュダという男がロゼッタ軍騎士団長となった時からか。
それよりも前……
一番最初の選択で、老将は選んだ。
親友だった、前ロゼッタ領主との約束を。

『娘を……頼む』

名君と呼ばれ、多くの民に慕われた男は、最後の最後で娘を託した。
高齢になってから生まれた娘は、前ロゼッタ領主にとって最愛の存在であったのだろう。
それまで自分の命以上に大切なものは、領土の民たちであった。
だが、その男は死の間際に初めて内心を吐露したのではないだろうか。

『娘を……頼む』

何をおいても『領民と領土』が口癖だった男が、死の間際にアムンゼルにだけ頼んだのが娘。
最愛の娘、クレア・ロゼッタ。
その日からクレアはアムンゼルにとって娘以上の存在であり、守るべきものとなった。

兵士の多くが失われた。
人間たちにとって最悪の世界が訪れた。
しかし、それでも老将は選んだのだ。
ロゼッタ領主にただ従う臣下となる事を。
クレア・ロゼッタを命がけで守る事を。



「もしも私の命で一つだけ願いが叶うというのならば……
 領主クレア・ロゼッタを殺さないで欲しい。
 彼女は……魔王ジュダに操られているだけなのだ」
内心の全てを吐き出し、老将は晴れ晴れとした顔をしている。
「……………」
(心地よい)
ゼロは内心でのみ呟いた。
自分の全てをかけ、人生をまっとうしようとしている男。
願わくば、こんな生涯を迎えたい。
羨望とも嫉妬とも言える思いを感じる。
しかし…
ゼロは自らの胸の傷を思い出す。
(俺は守れなかった……)
重い空気を吐き出しながら、ゼロは別の言葉を口に出す。
「俺は正義の英雄様じゃない。敵対する、しかも『闇の娘』を殺さないとは約束出来ない」
「……………」
「だから……それが不満なら、簡単に死ぬ事を考えるな。這ってでも止めに来い」
ゼロは剣を収め、広間へと続く道へと歩み始める。

「……………」
その言葉は、高度な気遣いの言葉である。
『守る為に死ぬ』
そんな甘い言葉で容易に自害する事を、青年は許さなかった。
侵入者であるゼロを止める、という生きる目的を与えたようなものだ。
ふっ、とアムンゼルは笑みを漏らす。
「若い者に説教されるとは…私もまだまだ修行が足りない……」
軋む身体に力を入れる。
(そうだな…まだ戦えるというのに楽をして、お前との約束を破るわけにはいかんな)
年老いた身体は、アムンゼルの思う通りには動かない。
それでも、心はかつてない程に高まっている。

勇者が進んだ先では、戦いの始まりを告げる轟音が響いていた。



時はわずかに戻る。
「クレア様……」
不安げに少年は少女を見上げる。
少年は旧ミリヨヒ領主のたった一人の息子エリック。
魔王の策略により人質とされている少年である。
栗色のさらさらとした髪は肩あたりで整えられ、細身の体と相まって一目見ただけでは少女と見間違える者も居るだろう。

その少年に見上げられている少女。
亜麻色の髪に白い肌。
ひらひらとしたドレスを纏う姿は、愛玩用の人形を彷彿とさせる。
しかしその性格は勝ち気なものであるから、悪戯好きな妖精という言葉の方が合ってるだろうか。
魔王配下、『闇の娘 雷神公女』クレアはエリックを安心させる為に、笑みと共に頭を撫でる。
「心配などいらないわ、エリック」
労りの笑みを一瞬だけ浮かべると、すぐにいつもの自慢げな笑みへと変える。
「だいたい貴方ごときが、妾(わらわ)の心配など10年早いわ」
「ごめんなさい………でも………」
少年は俯きながら、しかし、クレアの服の裾を掴んだままだった。
その手を離してしまえば、少女は二度と戻って来ない気がしたから。
「貴方は何も心配しなくていいわ。妾が負けるとでも思っているの?」
御伽話の妖精のような無邪気で、少し意地悪な笑み。
その笑顔は『ロゼッタ領主クレア』というよりは、『聞き分けのない弟に笑いかける姉』のもの。
「いえ……思いません」
ゆるゆると少年の指が離れる。
ドレスの裾がふわりと踊る。
「さあ、行ってくるわ」
クレアはいつもの高飛車な口調で言う。
その表情にはわずかでも不安は見られない。
本当に自信があるのか、それともエリックに心配させまいとしているのか。
「……行ってらっしゃい、姉上」
少年の声が、閉まる扉に呼応するかのように途切れる。

この部屋を出た瞬間から、彼女は『闇の娘』へと戻る。
それは強大な魔力により作られた『雷』の使い手。
少女に迷いは無い。



轟音と閃光。
それを視覚で回避するのは、到底不可能。
目の前の『闇の娘』の狙いを予測し、一呼吸前に移動と回避を行う。
幸いにもクレアは戦闘経験が少ない為に、その狙いは予測し易い。
躱したゼロの背後の柱が、落雷により崩れる。
「…っ!」
攻撃後の一瞬の隙をつき、剣士は距離を縮める。
「はあっ!」
最速の踏み込みからの、神速の斬撃。
しかし、ゼロの振り下ろす刃は少女のドレスの裾を浅く斬るにとどまる。
お返しとばかりのクレアの雷の閃光は、青年の頬をかすめる。
「!?」
距離を離さずに追い討ちをかけようとするゼロが、唐突に背後へと飛び退く。
刹那、雷を操る少女の周囲に雷の柱が発生する。
「ちっ、素直に喰らいなさいよ!」
「無茶言うな」
返答の言葉と一緒に、ゼロが腕を振る。
発生する氷の塊が、襲いかかる雷と激突し、互いに削り合う。
氷が溶けた事による蒸気、あるいは雷撃による土煙が周囲を包み込む。

闇の娘『雷神公女』クレアは強大な『雷』の精霊力を持つ。
しかしそれだけが彼女の能力では無い。
目立たないながらも、彼女は恐ろしく俊敏である。
一定の距離を保ちながら『雷』を放つ戦法は、基本に忠実かつ効果的である。
普通の相手であれば、それで難なく倒せてしまう。
強力な飛び道具と、相手の攻撃が届かない距離を保つ敏捷性。
攻守ともに強力な能力を持つ彼女は、見た目以上に優秀な能力者だ。

だが、それゆえに彼女の弱点が見えてくる。

付かず離れずクレアの射程距離ぎりぎりの所で、ステップ。
業を煮やした少女の雷撃を、剣と魔法壁で逸らす。
とばっちりを食った壁が、一撃で砕けて落ちた。
「こんな程度か? そらっ!」
拾っておいた小石を投げつける。
「こんなもの!」
クレアの雷の壁が、それを粉砕する。

あまりにも強力な『雷』の精霊は、ほとんど一撃で勝負を決める。
(事実、ゼロにとっても直撃すれば一撃で瀕死状態となる。
 余裕のある口調は演技であり、内心は冷や汗をかいている)
彼女には戦闘経験が少ない。
そう呼べるほどに実力の伯仲した戦いが、あまりにも少ないのだ。
それゆえに、クレアは長時間の戦闘に備えての威力調節が出来ない。
攻撃も防御も常に全力だ。
ゼロの最小限の攻撃を、最大限の防御で弾く。
逆にクレアの最大限の攻撃を、ゼロは最小限の力で回避する。

戦闘開始からどれほどの時が経ったか。
実際の時間にすれば10分程度だろうが、両者にはそれ以上に長く、あるいは短く感じたことだろう。
「はっ、はあっ、はっ……っ!」
(頃合いか)
肩で息をし始めたクレアに、ゼロが迫る。
クレアは無防備に迫る剣士に雷を放とうとし、目眩を覚える。
「!?」
それは大きな隙となり、それを見逃すほどゼロは愚かでは無い。
「悪いな……終わりだ」
肉体的には普通の少女と変わらない、その首筋に手刀の一撃。
「あ………」
一言だけを漏らしながら、少女はゆっくりと倒れる。

戦闘が終了した。





「ん………」
クレアの視界に見覚えのある天井が映る。
「お目覚めか、お姫様?」
傍らからの男の声に、跳ね起きようとして、身体がベッドに拘束されているのに気付く。
射殺すような、きつい視線だけを向ける。
「お前っ……くっ………」
「ああ、手足を縛ってるのはこの部屋にあったやつだ。
その効果は、お前さんが一番良く知ってるだろ?」
ゼロは、呻くようなクレアの声に飄々と答える。

部屋にあった魔法使い用の拘束具(何に使っていたかは不明だが)を、その持ち主に使用しているのが今の状況だ。
「は、離せっ! 離しなさいよ!! このっ!」
がちがちと拘束具が鳴るが、肉体的には普通の少女であるクレアにそれは外せない。
「言うことを聞く筋合いは無いな」
これからの精神的疲労を考え、ゼロは溜め息と一緒に言葉を吐き出す。
「お前、一体これから何を……」
「するのか、か? 『闇の娘』であるお前なら分かるだろ?」
男の言葉に、クレアはわずかに息を飲む。
「分かったのならば、余計な抵抗はするな。静かにしてればすぐに終わる」
死刑の宣告にも似た言葉を吐き出すと、ゼロは静かにクレアへと近づいた。









「くっ、離せ、やめろっ!」
今にも噛みつきそうな勢いでクレアが喚く。
しかしそれは無力であり、意味を成さない。
「……お前たち『闇の娘』に遠慮はしない」
ゼロの手が乱暴に少女の身体をまさぐる。
控えめの胸を荒々しく揉みしだく。
「っ…嫌っ! 痛い! 妾はやめよと言っている!!」
さらさらとした高級なドレスの肌触りと、小振りながら弾力に富む膨らみを堪能する。
クレアは身をよじって手から逃れようとするものの、それを許す男では無い。
「『やめてくれ』、そう言ってお前たちに殺されたのが何人居るか」
少女の言葉に冷ややかな対応をしながら、その手はゆっくりとスカートの裾を掴む。
「やっ、馬鹿っ! やめろ! 駄目だと言って…んんんっ!?」
やかましい口は、ゼロの口により塞がれる。
そちらに注意がいった所で、スカートがたくしあげられる。
「んっ、んんんっ……んむぐっ………んんっ!!」
いやいや、とするように首を振ろうとするがそれすらも許されない。
全てを支配していた少女は、今は全てを支配されている。
せめてもの反撃に、目の前の男の舌を噛みきろうと口を深く交わらせる。
「ん…んぐっ……ん……んんっ……んんんん」
そんな仕草を敏感に察知しながら、長いキスが続く。
長い長い接吻の後、ゼロの顔が離れる。
「…なっ………なに…を……んっ…ぁ……」
クレアの表情は劇的に変化していた。
頬には赤みが差し、呼吸は浅く早くなっている。
身体に沸き起こる感情を制御しきれない様子で、苦しげに喘ぐ。
「さっきから質問ばかりだな。お前たちがいつもしている事だろ」
男は呆れた様子で、答える。
答えながら拘束されている少女の服を外していく。
「く…ふ……いや……いや……いやあっ……」
ぶんぶんと首を振るが、それが何かの効果をもたらす事は無い。
手足が拘束されている分、完全に服を脱がす事は出来ない。
それゆえに少女の身体には服の欠片がまとわりついている。
「や…み、見るな!……う………っ……ううっ…く」
クレアの抗議を聞き流しながら、作業は続けられる。
下着が露わになり、その下着もまた乱暴に取り除かれる。
膨らみかけの小さめの胸が、男の前に晒される。
その先端は、ピンク色の突起。
動けない少女の胸に舌を這わせる。
「ふぐっ……つ…あっ…や…ジュダ様以外に……いやぁ……」
柔らかい膨らみから、焦らすように舌を下へと滑らせる。
肉付きの薄い腹から脇腹あたりを舐める。
ぴくりと反応する様子を見ながら、再び膨らみの上部へ、そしてその先端に軽く歯を当てる。
「ひっ…ん……ふあっ!」
男の『魅了』により、クレアの望まない欲望が身体を巡る。
その熱は乳首を刺激されることにより、更に加速する。
「あ………っ…いっ…ぃぃ……あ……ああっ……やぁ…」
少女の身体は抵抗の為、身じろぎしようとする。
だが、それすらも拘束された今の状態では許されない。
「…あ………くっ……は……あ…ああっ……ん」
執拗に舌が先端を刺激する。
突(つつ)くように動いたかと思えば、吸うように動く。
少女の喘ぎを引き出すように、ゼロの顔と手が胸をまさぐる。
「………っ…いやっ………いやぁ……ああ…妾は……うぁ…」
男の手が触れる度に、ぴくりとなめらかな肌が反応する。
「うっ……っ…あっ…あああっ………」
今度は無意識なのか、クレアの身体が動く。
だが、ぎしぎしと音がするだけで、やはり彼女の身体は男に晒されたままだ。
「はぁ……は……あ……………」
ゆるやかに、繊細なガラス製品を扱うようにゼロの腕が動く。
もどかしい感覚を引き起こさせるように、穏やかに静かに。
「ん…………あああああっ!……はっ、そ、そこは……」
一度は緩やかになったゼロの責めは、ほんの一時的なものだった。
なだらかな膨らみから、ゆっくりとクレアの下半身へと舌が蠢く。
下半身を隠す最後の布が、静かに取り払われた。

足の付け根あたりから中心へと向かって行くように、男の顔が動く。
「く…うぁ……あっ…ああ………ふぅ…くぅ……」
秘所を舐められる度に、敏感に少女の身体が反応する。
湿り気を帯びてきた箇所を、さらに潤わせるように、執拗に責める。
「んくっ!……ふ…あ………はぁ………あああっ……」
柔らかな淫裂を広げられ、薄紅色の突起に触れられた瞬間にクレアの顎が上がった。
溢れ出る甘くない蜜を、羞恥心を煽るように音を立てて舐める。
「……あ……はぁ……ふぅ………ん……んんっ……はぁ……」
クレアの腰が刺激から逃れようとするが、やはりその逃げ場所は存在しない。
ぎしぎしとベッドが、彼女の動きを無骨な音にして伝える。

「……………」
男に言葉は無い。
なぜなら、それは愛や欲望からの行為では無いから。
男、ゼロにとっては仇敵を打倒する為にしている事に過ぎない。
奪われた四大精霊に対抗すべく、代わりとなる四精霊の力を得る為の行為。
愛の言葉も、労りの言葉も、行為を高める為の言葉も全ては不必要なものだ。
ただ少女から、望まない無理矢理引き出された音が響くのみ。

「…………そろそろ、いいようだな」
どこか冷めた口調で男が呟く。
少女の秘所はゼロの唾液と、それ以外の密により充分に濡れている。
「!? な…ふ、ふざけ…るな。わ、妾はそんな事を……認めてい……」
なおも喚こうとするクレアを完全に無視しながら、その小さな腰を抱える。
媚薬の行き届いた身体は、僅かに抵抗を見せるが、それほど大きな抵抗ではない。
「う…つっ…………ん……ああああっ!」
ゼロの腰が、容赦なく突き入れられる。
柔らかな肉壁は、液体により男の剛直を受け入れる。
充分過ぎるほどに濡れたその中は、それだけで達してしまいそうになるほどの熱を持っている。
簡単に抱えられるほどの身体の、狭い膣内は当人たちの意志に無関係に刺激を与える。
それはゼロにも、クレアにも。
「あ…くっ………う…はぁ……あ…あぐっ……んぅ……」
無言のまま、男は腰を突き入れ、引き抜く。
少女のきつい中は、男の動きを制限する。
「くぅ……あ………は…あ………ああっ…あ……ああ……」
抵抗は刺激となり、刺激はうずくような熱と変わる。
男根が完全に抜けきる前に、一時動きを止める。
「く…は………ああっ………はぁ…はぁ……ん…」
男根のかりの部分が入口を圧迫する刺激に、クレアから声が漏れる。
だが、それは一時的なものであり、刺激になれ始めた身体は落ち着いた呼吸になる。
「うあっ…あ…ああっ……は…はぁ……っくん………」
呼吸が整いそうになった所で、再び押し入れる。
お互いの下腹部が密着し、一際大きい熱を伝え合う。
「は…はぁ……っく……あ…は……はぁ…はっ……ああ……あああ…」
ぴしゃぴしゃという音とくちゅくちゅという音とが響き合う。
少女の高い喘ぎ声を添えるかのように、男の動きは繰り返される。
身体中に流れる悦楽に耐えるように、それともそれを味わうようにか、クレアの身体が動く。
「は…はぁ…あ………あ…ああっ……ぅ…んん……ああ…あ……」
吐き出される吐息の間隔が次第に狭まっていく。
それは互いの刺激が徐々に高まっていく証。
「…あうっ……くっ…はぁ……はっ……ああん……はぁ……ん……」
吐息に甘いものが混じる。
きゅうきゅうと締め付けるような感覚を味わいながら、男はスパートをかける。
「は……あ…あ……ああ……あん…あ…ああん…あ……」
涙に潤んだクレアの赤い瞳が見える。
迫り上がってくる抗いがたい快楽を感じながら、ゼロは精神を集中させる。
(失敗しても………恨むなよ!)
「ああ……ぅうん…………ああああああああっ!」
少女の脚と身体とが、微弱の電流を流されたように反る。
クレアの絶叫に近い声を聞きながら、ゼロは液体を放出する。
視界の全てが徐々に白く染まっていくような感覚。
心地よい、といしか表現出来ない脱力感。
「………………は」
ぐったりと男と少女の身体がベッドに沈み込んだ。







「あっ、わ、妾は………エリィ…あ、ああああああ……」
少女は顔を覆い隠す。
『闇の娘』であった少女は、人間へと戻された。
だが、記憶が消えているわけではない。
自らのしたことの全てを記憶したまま、彼女は人間へと戻った。
ロゼッタの独立、戦争、殺戮、闇の娘。
様々なキーワードと記憶とがクレアを襲い、またリアルにその感覚を思い出させる。
闇の娘であった時には感じなかった良心の呵責とでも言うべきものに、少女の心は崩壊寸前だった。
「う……うあああああああああっ!!」
クレアはナイフを自らに突き立てようとする。
だが、面倒くさそうにしていたゼロにナイフを持つ手を蹴られ、取り落とす。
「勝手に死のうとするな。10回に1回の当たりを引き当てたほどの労働をしたんだからな」
魔王により作り替えられたその身体を、ゼロは再び人間へと戻したのだ。
純粋に能力差を考えると、成功率は10%を切っていただろう。
もっとも、記憶を持ったまま人間に戻され、その絶望を味合わせるという意図があったのかもしれないが。
「………して……」
「あ?」
クレアの消え入りそうな声を、不機嫌そうにゼロが聞き返す。
「どうして、殺してくれないのよ……妾は……もう、世界の敵なのに……
死んで詫びる以外に……もう…ひっく………おし…まいよ……」
涙を流しながら、罪の重さに耐えかねたように少女は力無く俯いている。
「エリィも……ロゼッタの人たちも……もう………妾にはもう何も……」
男はゆっくりと立ち上がると、感情の無い声で言い捨てる。
「俺の用事は済んだ。倒した敵がどうなろうと興味の無い話だ」
ゼロの足音と少女の嗚咽だけが響く。
「………が、一つ間違いを訂正しといてやる。
 お前の命一つで償えるほどに、お前のしてきた事は軽い事だと思っているのか?」
「………え?」
「お前が本当に罪の重さを知り、償いたいと思うのならば生きて苦しめ。
 多くの人から罵声や石を投げつけられ、いっそ死んだ方がマシだと思っても苦しめ。
 もしも苦しまずに死ねば、お前は最後まで最低の存在だ」
扉が閉じられる。
少女の嗚咽だけが部屋から響いていた。



「………やめてくれ。俺はただ、気に入らなかったから訂正しただけだ」
城の通路、深々と頭を下げる老将が居た。
ゼロは静かに傍らを過ぎ去ろうとする。
「ロゼッタはこれから生まれ変わる。
遅いのかもしれんが、この老骨のわずかな余命をも捧げましょう」
「……言うだけなら、なんとでも出来る」
皮肉げに言う青年に、老将アムンゼルはきっぱりと答える。
「必ずや。……正直に言えば私一人では、荷が重すぎた。
 だが、あの子たちならきっとやり遂げてくれましょう」
老将は自慢げに、そして誇らしげに微笑した。



「姉上……」
部屋で泣きじゃくる少女に声をかけたのは、少年エリックだった。
「う……エリッ……ク……ぐ………」
入ってきた少年に気付き、クレアは無理矢理に嗚咽を止めようとする。
少女の顔に、ふわりとハンカチが当てられた。
「…っ……本当の姉弟では無い……のよ」
「知っています。けど、僕が『姉上』と呼びたいし、本当の姉上だと思っています」

魔王に統治され、闇の娘として過ごした二年の間、ロゼッタとミリヨヒとは幾度も対立があった。
魔獣の力による侵攻が行われ、ミリヨヒは今や存在しない場所となっている。
いわばエリックの故郷をクレアが滅ぼしたという事になる。
それでも少年は静かに少女が泣きやむのを待つ。

「姉上は一人じゃありません」
静かに諭すように、エリックは語る。
「もしも姉上が悪い人なら、僕も同じです………
 だから、姉上と一緒です。償うなら僕も一緒に。
 そして死ぬのならば……正直怖いけど、僕も一緒に」
少年の瞳に嘘は無い。
まっすぐにクレアを見据える。
(妾は、エリックをずっと弟と思って守ってきたつもりだった。
 けど……守られていたのは妾の方だったのかも)
「う……うえええええぇ………」
クレアは涙を止めるのを止めた。
弟の肩を抱きながら、少し前とは異なる涙を流し、泣きじゃくる。


ロゼッタが再び『人の国』となり、魔王軍に対して宣戦布告する事になるのは、これからしばらくしてからの事である。








To Be Continued……

































あとがき

毎回迷う事ですが、どこまで細かく文章を書くのがいいんだろうか。
具体的に言えば、俺はバトルスキー(戦闘描写大好き)なので、戦いの描写はすごく長くなる場合があります。
後で読み返して文章を短くしたり、ぶった切ったりする事はしょっちゅう。
逆にエロシーンは、
「そうして、二人は重なった」
の一言で終わらせたいくらい(←ぶっちゃけすぎですよ!)

文章の量は短すぎると、あらすじだけの文章になるし、長いと書く気力が薄れる(つーか、バトル描写が異様に細かくなりそう)
そこらへんの加減が出来るのが、面白い文章を書ける人の必須能力の一つなんだろうなぁ。

しかし、「面白い文章」というのは人によって異なる。
おそらく読み手の精神レベルとか、趣味趣向に影響されるのだろうけれど、それは千差万別。

短い文章が好きだという人も居れば、長い文章が面白いと言う人も居る。
さっぱりした文章が好きな人もいれば、こってりした文章が好きな人も居る。
同一人物でも、「昔は面白かったけど、今はそうじゃない」あるいはその逆とかあるし。
だから「百人が百人とも面白い、と言えるような作品は作れっこない」というのが俺の持論。
だから正解はありっこない。
無いのだけど、「多くの人が面白い」というものはある。
明確には分からないけれど、多くの人に通じる何かは存在すると思う。
文章量にしても、その何かを無意識的に理解している人が多くの人から支持されて、『面白い文章』として紹介されるのだと思う。

これはもう、具体的なアドバイスを貰える話では無いので、結局書き手が自分の気力やら能力やらと相談しながらやるしかないのだが……
それでもやはり、俺は毎回迷う。
いったい、どこまで細かく文章を書くのがいいんだろうか。

「あと○文字減らせば良い(あるいは増やせば良い)」とかいう答えは無い。
だが、自分なりの黄金律とでもいうべきものが存在はするだろうし、それに近づける努力を怠ってはならないんだろう。

現状維持はすなわち停滞、そして退廃へとつながっていくのだから……





……と、なんだか難しくまとめようとしたけれど、作者の能力に見合わないのでやめ。
あーーー、もう適当でいいよね? てへっ(←可愛らしく、ごまかそうとして失敗。そして台無し)。


ちなみに友人の台詞。
「小説? 面白ければ、長くても読むよ」
ああ、そうかい。役に立たねえな、こんちくしょー。

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