ライトサイド

タカヤス

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ライトサイド 第16話 「殺戮人形」

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「戦士ゼロだな?」
唐突に投げかけられた声に、男の歩みが止まる。
「……だとしたら?」
ゼロと呼ばれた男はゆっくりと振り返る。
その顔には皮肉めいた笑みが浮かんでいる。
「秩序を乱す者として、お前たちを捕らえる」
ガシャガシャという耳障りな金属音と共に、複数の足音が響いた。
全身を甲冑で包んだ屈強な男たちが、周囲を囲む。
「ちょ、秩序って! あんたたちは魔王に従ってるのよ? 分かって…」
抗議の声をあげる妖精の少女に割り込むように、ゼロは腰の剣を抜く。
「邪魔だ、下がってろ……ニア」
青年は悠然と歩みを進める。
狭い路地裏で、各自が武器を構える。
「家畜同然の生活であろうとも命の保証はされてる…ってとこか」
嘲るような青年の声に、男たちは殺気立つ。

厳しい生活ではあっても、それが公平であれば人々は従う。
魔獣はあくまでも猟犬として扱われ、管理がされている。
制定された法に従えば、命の保証はされ、最低限の生活は許される。
そういった統治方法としては、この地域は魔王ジュダよりもよく治められていると言える。
分かりやすい法が制定、頒布されており、それを破った者は特例なく罰する。
やや厳しいものもあるが、魔獣が放し飼いにされ、死の恐怖に怯える他の地域よりは数段マシな地域。
それが、ここ『闇の娘 殺戮人形』オルティアが管理する地域である。

「黙れ! 我々は家畜じゃない。ルールを守る人間だ! それが出来ぬ貴様の方が獣だ」
激昂する兵士たちに、ゼロは変わらないニヒルな笑みを浮かべる。
「そのルールとやらがどんなものかも考えもせず、盲目的に従うのは楽だろうさ」
なおも口を開こうとする兵士たちに先んじて、青年が続ける。
「ぐだぐだ話はもういいか。俺と討論しに来たわけじゃないんだろ? 俺たち獣同士は、獣らしく争う事にしようぜ」
狭い路地裏の中、怒声が響き渡った。



「…そうですか。ご苦労様でした」
部下の報告を聞き、女性は労(ねぎら)いの言葉をかけてやる。

亜麻色のくせのない長い髪、整ったその顔立ちは、まさしく人の理想が具現化した姿。
整いすぎている所が逆に人間味を損ねている彼女は、人間とはやや異なる。
かつての遺失技術がもたらした人造人間、『闇の娘』オルティアである。

やはり思った通り。
彼女はそう呟く。
勇者リュークス、いや、今は剣士ゼロを捕らえるよう人間に命じた。
結果、重軽傷者は出たものの死者は出ていない。
人を守る『勇者』は、基本的には人を殺さないようだ。
ならば魔獣を使うよりも、人間をけしかける方が効果的。
手加減して戦えば、それは精神の摩耗に繋がり、疲労を呼び起こす。
彼らを使えば捕らえる事は出来なくても、その力を弱体化させる事は可能なはずだ。
同じ『闇の娘』であったレジーナは、配下に魔獣たちを従えていた。
しかしレベルが違いすぎた為に、力を削る事もかなわなかったらしい。
ナーディアは一騎打ちに近い戦いを求め、撃破された。

オルティアは分析する。
彼の主と同等の剣技に、彼女らを倒し手に入れた『精霊の力』。
前述した人間の部下を使って体力と精神力を削っての弱体化。
それらを加味して単純に戦った場合、彼女の勝率は五分と五分だと計算している。
「…それでも私はあの方をお守りする」
口に出し、言葉にする事で自らの存在意義を再確認する。
彼女、『殺戮人形オルティア』を形成する主要にして、不可欠な誓い。
オルティアは主であるジュダを助ける為ならば、自らを省みない。
死すら喜んで享受するだろう。
ジュダの為になるならば、自分を含め他の人間をどれほど犠牲にしようと構わないという思考。
最も純粋で、最も一途なその想いは、見方を変えれば最も厄介かつ非人道的な思考となる。
「戦士ゼロに対する賞金額を倍にして下さい。生死は問いません」
人間を統治するには、分かりやすい法規制と公平感。
そして飴と鞭の使い分け。
彼女の主の言葉を思い出し、それを実践する。
「それと……期日までに捕らえられなかった場合には、住人にペナルティーを」
胸の奥にちくりと感じる痛みを無視しながら、オルティアはそう命じた。



「あ、あんた一人が大人しくしてくれりゃあ、こ、この街は救われるんだ!」
「ここは放っておいてくれ! オルティア様は理知的な統治をして下さる!」
「犠牲になってくれ、俺たちの為に」
「戦士ゼロだな? お前さえ捕らえれば…」
「死んで頂戴、あたしたちの為に」
人気のない路地裏に背を預け、青年はずるずると座り込む。
オルティアのかけた賞金額とそれを放置した際の罰則は、街中の人々を狩人へと変えている。
優しく宿を提供してくれた女主人の表情が歪む。
酒場で酒を飲んでいた男の瞳の色が変わる。
何の変哲もない善良な人々の憎悪が噴き上がる。
「リュークス……」
妖精の少女、ニアが気遣うように呟く。
青年は疲労の色が濃い。
守るべき人々に駆り立てられる日々が続いている。
落ち着いて眠る事も、食事を取る事も満足に出来ていない。
それは声をかけた妖精ニアも同様ではあるが、まだ男よりはマシである。
「…俺をそんな名前で呼ぶなって言っているだろう」
拗ねたように剣士ゼロが答えた。
そんな彼を包むように、妖精の少女はゼロの顔を抱きかかえる。
「この街はもういいじゃない……あなたが頑張ってるのは彼らの為だってのに……
 こんなに一生懸命だってのに……」
「……………」
声に涙が混じる。
二年前の気丈だった彼女からは想像も出来ない。
「もう…戦いなんて……」
「ニア」
遮るようにゼロが口を開く。
こんな状況だというのに、からかうような楽しげな口調で。
「胸が当たってる。お前もいちおう女なんだな。いい香りがする」
「なっ……」
驚きやら羞恥やら怒りやらで、妖精の首から上が紅く染まる。
反射的に青年の顔から飛び退いた。
「大体、お前はいつからそんなキャラにチェンジしたんだ? 似合わねえ。
 あぁ、こりゃあ雨降るな。ひょっとしたら雪かも」
「な、な……」
「大体な、その小さな身体を活かしてメシでも調達してきてくれよ。
 それがパートナーっても…がっ!」
ニアは、ゼロの顔面へと跳び蹴りをかます。
「ああ、もうあんたこそキャラチェンジじゃないのさ!
 心配して損した。ああ、もうあたしってば、ああ!」
ぷんぷんと怒り顔を背ける妖精の少女に、青年は一瞬だけ笑みを向ける。
穏やかな、かつてリュークスと呼ばれていた青年の柔らかな笑み。
「…ニア」
「ん?………っ!?」
青年の指が少女の目の前に突きつけられる。
同時に、彼女はふらふらと力を失う。
地面に叩き付けられないように柔らかく手が支える。
「リュ、リュー……ク…ス」
彼女の視界の先は、黒い幕が降りていく。
抗うように手を伸ばす。
しかし身体全体に重りを付けるような重圧が、ニアの意識を奪っていく。
「……………」
少女がすぅすぅという寝息を立てるのを確認すると、傍らにマントと一緒に寝かせてやる。
青年のものではない知識で、魔法による結界を作り出す。
「本当に見つからないんだろうな?」
<今の君と同レベルの魔力を持つ者なら見つける事は出来るけれど、そうでなければ気が付く事は無い>
ゼロの脳裏に、声が響く。
それを普通にあるべきものとして、青年は受け入れている。
「…終わらせるとするか」
本調子の6,7割といった程度の体力だろうか。
だが、常にベストコンディションで戦えるとは考えていない。
戦いは実際に剣を合わせる前から始まっているのだ。
<君は偽悪者だね>
脳内の声がそんな事を呟く。
敢えて悪く振る舞う事で、相手を労る者。
不器用な優しさだと言う声に、青年はうんざりといったような表情を浮かべる。
「俺の中の『勇者』様は、今日は饒舌だな」
<君が望めば、僕はそれに答える。それだけだよ>
悪意など欠片も無い口調。
実体があれば、きっと優しく微笑んでいただろう。
「…なら、黙っててくれ」
だがそれは、今のゼロには不要のもの。
表面的な労りなど、なんの意味も成さない。
今必要なものは純粋な力。
『奴』を倒す為の力。
利用出来るものは全て利用する。
例えそれが勘に障る『偽善者』の力であっても。
<……………>
ゼロは静かに立ち上がると、オルティアの居る城へと歩き出した。



オルティアが戦場を室内に設定したのは、理由がある。
彼女が用いる『鋼』の精霊は、鉄や鋼といった金属を強化、あるいは作り出すものだ。
そういった金属は屋外より、室内の方が多い。
そしてもう一つの理由として、ゼロが用いる精霊『雷』対策だ。
『精霊』の力は、無から発生させるのと既にあるものを利用するのでは当然労力が異なってくる。
オルティアにとって、『雷』の精霊力は弱点と言える。
その威力を少しでも抑える為には、やはり室内での戦いが良い。
「あの…」「オルティア姉ちゃん……」
静かに佇む『闇の娘』に、子供たちの声がかかる。
戦争により家族を失った子供達。
そんな彼らをオルティアは養っていた。

慈悲からの行動では無い。
以前、彼の主に問われた時、彼女は冷徹に答えた。
忠実な兵士を作るには、幼少期から教育を施すのが良い。
教育・訓練次第で人間は、魔獣を越える能力を発揮する場合がある、と。
主である男は、何故か薄い笑みを浮かべそれを許した。

「何?」
オルティアは表情を変えぬまま答え、子供達が武器を持っている事に気付く。
「敵が襲って来るんだろ? 俺たちがやっつける!」「あ、あたしも…」
冷静かつ冷酷なオルティアの思考が囁く。
『非力な子供たちを使い捨ての壁にすれば、世間的にも精神的にもダメージを与えられる』
人間達は剣士ゼロという男を許さないだろう。
直接的武力を用いずに、彼を殺す事が出来る。
こいつらは、目的遂行の駒に過ぎないのだ。
成長してから使おうと思っていたが、思わぬ所で使い所が出た。
冷静かつ理性的な彼女の思考は一つの結論を出している。
『考えの足りない子供たちを、ゼロと戦わせる』
あるいは、子供達を殺しそれをゼロがやったと説明する。
生かしておくよりも、殺した方が有益な子供たち。
「…今のあなたたちでは、まだ力不足。だから、ここは一時撤退し力を付けてからにしなさい」
だというのに、彼女の口から出た言葉は理性の結論とは逆の言葉。

エラー。
再思考の要請。

「そんな…」「やだよぉ……」
口々に言う子供達の、最年長の少年に声をかける。
無機質な声では無い。
聞き分けない子供に言い聞かせる母親のような、穏やかな声。
「あなたは特に重要な役割がある。みんなを無事に逃がすという役割……分かるわね?」
少年はしばらくの沈黙の後、しぶしぶ頷く。

エラー。
いいえ、エラーでは無い。
人間たちの中に、魔族側の人間を作る事は有効。
そして彼らは成長してこそ、力を発揮する。
これは慈悲や感情からの行動ではない。
この私の笑顔も言葉も全ては偽りのもの。
効率よく人間を操る為の、最良かつ最適な手段。
私は彼らを利用している。
感情的では無い。
極めて理性的な判断。
…だから、問題は何も無い。

『自らを騙せるのも、人間の特技の一つ』
彼の主が言った台詞を、オルティアは聞いた事は無いだろう。
どんな行動にも異なる見解があり、そのどちらにも正しさを見つける事が出来る。
そんな矛盾を内包した存在が人間。
0か1かしかない単純な機械には、到達困難な答え。
「さぁ、早く行きなさい……私もすぐに追いつくから」
嘘だ。
追いつくはずが無い。
子供達は泣きそうな顔をしながらも、オルティアの言葉に従い動き始める。
(………これが悲しみ……か)
少女オルティアは子供達を逃がし、外敵に備えた。





「手間取らせてくれたもんだ。まだ伏兵はあるんだろ?」
僅かに疲労の色を顔に出しながらも、ゼロは薄く笑みを浮かべる。
「それを教える義理はありません」
向かい合う少女の姿をした存在、『闇の娘』オルティアはそう答える。
「あんたに直接的な恨みは無い……が、命とその精霊力を貰う」
男は踏み出す。
その歩みに戸惑いや逡巡は一欠片とて無い。
(強い瞳。そうせざるを得ない理由があるのでしょうね…)
内心で呟きながら、彼女は別の言葉を吐き出す。
「一つ聞いておきたい事があります。
 この世界はすでに我が主、ジュダ様によって統一されています」
オルティアの静かな声が響き渡る。
理性的に、かつ事実のみを淡々と語る。
「この統一された安定した世界を揺るがしているのが今の貴方。
貴方一人が無駄に抵抗しているが為に、多くの人間が苦しんでいます。
この状況だというのに、なぜ貴方は抵抗するのですか?」
相手の戦意を削ぐ問いかけ。
理知的な言葉により、肉体ではなく精神へダメージを与える。
だが、それに対する答えは至極単純なものだった。
「俺が魔王ジュダを殺したいからだ」
「……………」
ゼロの歩みは止まらない。
「安定した世界? 周囲の人々の為? そんなの関係無い。
 俺は『正義の味方』でも『偉い勇者様』でもない。俺の大切なものを奪ったあの男を殺す。
 その為ならば、俺はどんな事でもしてやる。何にでもなってやる。
 復讐の鬼にでも、殺戮の悪魔にでも…」
剣が抜かれる。
一瞬だけ光を反射する磨かれた剣は、「悪」とされる他人を傷付ける行為の為にのみ造られたもの。
殺す為の道具。
「…そうですか。やはり懐柔は適わないようですね。
 貴方にとっての充分な理由ですから」
オルティアは僅かに息を吐き出す。
「ですが理由ならば私にもあります。
ジュダ様をお守りする……その為ならば、私もどんなものにもなりましょう。
復讐の鬼を追い返す番人にも心を持たない殺戮人形にも……」
少女の細い腕が優雅に動く。
次の瞬間にはその両手に魔術加工された剣が現れる。
「上等だ」
それを合図に、閃光が交錯した。


― ◇ ― ◇ ― ◇ ―


決着は直接叩き込まれた『雷』の精霊力だった。
「あっ………く…」
オルティアの身体がのけぞり、ゆっくりと倒れる。
「はぁ、はぁ……は……はぁ…」
ゼロも無傷というわけでは無かった。
呼吸を整えようとするが、力の消費に目の前が霞む。
(まだだ…まだ、倒れるわけには行かねえ)
簡易的な治癒魔法でとりあえずの傷を癒すと、ゼロは倒れた少女を見る。
胸が上下しているのを見れば、死んでいないのはすぐに分かった。

オルティアの身体は遺失技術により作られている。
この世界の住人にはあまり馴染みのない高度な機械技術が用いられているが、『電撃』によるダメージは身体の自由を奪っているようだ。

「く……私………は……」
それでも少女は苦しそうに呻き、身体を動かそうとする。
もはや普通の人間の少女と同レベルの力しか無くとも。
勝敗は明らかに決していたとしても。
「……………」
身体の自由が利かない、ひ弱な少女を犯す。
(はっ、そんな事で悩むなよ。俺は偽善勇者リュークスじゃないだろ?
 ジュダという男を殺す、その為なら何だってするって誓っただろう?)
亜麻色の髪が床に広がっている。
最愛の存在であった女性を思い出しそうになり、頭から追い払う。
(そうだ、俺は記憶の中ででも彼女を思い出す事は出来ないはずだ…
 俺にはそんな資格は無い……全てを無くしたゼロなんだから)
男はゆっくりと近付く。
身動きの取れない『闇の娘』オルティアの近くに。
「やっ……」
既にあちこち破れかけた服に、手をかける。
「いやあああああっ!」
服を裂く音が響いた。









「はっ、離せ! 離しなさい! ジュダ様以外の男に触れられるなど!」
口調は強いが、彼女の身体はそれほどに強くは動いてくれない。
戦いの傷はオルティアの自由を奪っているからだ。
暴れるその細い手を掴み、床へと押しつける。
「……………」
口内で詠唱を行い、その腕の自由を封じる。
「く……ぅうう………」
呻く声が漏れる。
覆い被さる男に抵抗しようと身体をよじるが、拘束が無くなるはずはない。
動かない両腕の代わりにせめてもの抵抗を続ける両脚の中に身体を割り込ませる。
床に磔(はりつけ)にされた少女の服を剥ぐ。
豊かな胸の膨らみと丸みを帯びた女らしい身体。
理想的な曲線を描く腰の部分は、同性からも溜め息が出るだろうほどにくびれている。
「や、やめろ! 見るなっ!」
脚を閉じ、男から見える部分を少しでも減らそうとするのだが、それは逆にひどく扇情的な光景となる。
柔らかなふとももを抑えながら、ゼロはオルティアの胸を鷲掴みにする。
「っ!……く……や、はな…せっ!」
弾力と柔らかさとを含んだその感触は、男であれば嫌いでは無いもの。
力が加わる度に形を変える乳房を、存分に味わう。
「く……私は…わたし……はっ………」
呻く少女を無視し、ゼロは露わになった先端をゆっくりとした様子で舐める。
舌の先でつつくように、幼子のように吸うように、そして優しく噛む。
「はぁ……っく…………うぅ……ん………」
うっすらと涙を浮かべながら、オルティアはそれらに耐える。
同時にゼロの指は少女の下腹部へと伸びる。
「ひあっ!………く……」
薄い茂みの奥は柔らかくはあるが、乾ききっている。
苦痛の表情を浮かべる彼女に、ゼロは言い捨てる。
「先に言っておくが、どんなに泣き喚こうが無駄だ。俺は決して止めない」

そのほんの一瞬。
青年の顔は、彼女の主が一度だけ見せた顔と重なった。
例えようのない悲しみを滲ませる顔。
この世の仕組みとでもいうものに抗えない無力感、寂寥感、悲哀…
どんな事で気を紛らわせようとしても不可避な、とてつもない重圧を背負う孤独な顔。
普段はとてつもなく強い存在なのに。
いつも不敵に笑っているのに。
けれどその一瞬は、無力な助けを求めて泣いている幼子のように。
虚飾と虚勢とで塗り固められた世界の、本当の一部分。
彼の本質。
それは彼の主がたった一度だけ見せた悲しみの顔。
「………………」
オルティアが脱力する。
ゼロの役割とジュダの役割と、そして彼女自身の役割を無意識ながら認識したからかもしれない。

「………?」
何かの罠の可能性に思い至り、ゼロは動きを止める。
「今更新しい罠というわけではありません。諦めたから……早めに済ませたいだけ」
青年の心を読んだかのように、少女はつまらなそうに呟く。
彼女の言葉の全てを信じたわけでは無いだろうが、結局は行為を継続するしかないと判断する。

「っ…………あ……ぁ………は……」
かすかに甘い吐息が漏れ、それに呼応するかのように湿った音が聞こえ始める。
何が原因なのかは、ゼロには分からない。
だが、互いが望まない行為は早めに終わらせてしまうに限る。
青年はそう判断すると、余計な思考を中断させ、その均整の取れた少女の身体を弄り始める。
滑らかな肌は、心地よい熱と弾力とを感じさせる。
覆い被さるような姿勢ゆえに、目と目とが合う。
オルティアはそっと目を閉じる。
「…ん……んむぅ………ん……」
抵抗らしい抵抗は見られないままに、口づけを交わす。
舌がわななき、直接的刺激と禁忌を犯しているかのような罪悪的刺激とを与える。
少女の体液がまるで媚薬であるかのように、ゼロの鼓動を早める。
同時にオルティアの表情にも羞恥とはまた違った赤みが差し始める。
「んく………んっ……」
唇が一度離れ、そして再び交わる。
ちゅくちゅくという湿っぽい音が響く。
少女の身体に先程の強ばりは無い。
ゼロはオルティアの言葉通り、それを『諦め』だと思った。
「……いい心がけだ」
囁くように呟くと、形の良い耳元へと舌を這わせる。
ぴくりと反応する様は『闇の娘』ではなく、初(うぶ)な少女としか思えない。
やや冷たいその身体を暖めるように、腕の中に抱く。
「あ………ふぅ…ん………」
応えるように、挟み込むように両脚が青年を迎える。
輝く金の髪、整った顔立ち、均整の取れたプロポーション。
全てが完成された芸術品のようで、それに触れ傷付ける事に罪悪感さえ覚える。
「ここまで完璧だと……嫉妬するな」
「…ん……個性が無いと……そういう捉え方もされます……」
不完全さが、逆にその人の個性となる。
そういう考え方もあるのかと、感心しながら誇張した己のモノを押しつける。
「んっ!?…………あ…」
押しつけられた男性器に、わずかに戸惑いの声が上がる。
だが、それもすぐに無くなり、少しひんやりとする腹は弾力と心地よさを与えてくれる。
オルティアが身じろぎするだけで、心地よい肌触りがゼロの身体を刺激する。
滑らかな肌、柔らかな膨らみ。
張りと柔らかさが完全に調和された身体を、存分に味わう。
「んぅ…あ…………ふぅ……くんっ…………」
途切れ途切れに漏れる吐息は、甘い少女のもの。
ゼロは密着した身体を離し、脈打つ剛直を少女の下腹部へと宛う。
「…………くっ……」
オルティアから快楽による甘さと恐怖の混じった声が漏れる。
それは自らの命を奪い取る行為。
例えれば、死刑執行の首つり用の縄をかけられた状態に等しい。
「…入れるぞ」
濡れた裂け目に押しつけながら、青年は宣言する。

流れ出た密が潤滑油の働きをし、やや狭いその中への侵入を果たす。
「……っ……くぅ…………ああっ……」
ぬるり、という音を聞くような錯覚を覚える。
熱く包まれるような感覚。
柔らかいのに刺激は過剰なほどに与えられる。
まとわりつくような快楽が陰茎を中心にして襲って来る。
「あ………うぅあっ…あ………はぁ………は……」
溢れ出るような熱と悦楽は、ゼロの一番敏感な部分を通して伝わる。
苦しく呻くような、それでいて艶っぽい女の喘ぎは男をさらに熱くさせる。
「っく!……あ………はっ…あっ……あんっ………ぅ」
身体と身体とがぶつかり合う度に、声が漏れ聞こえる。
普段表情を崩さない少女が、苦痛に喘ぐような悩ましげな表情をするのが、ひどく淫靡に見える。
入れているだけで熱いほどの熱が伝わってくるが、更なる刺激を求めて腰を突き入れる。
「…ふ……うぁ……あ……あん…………くっ……う……あ……」
それに呼応するように、少女の喘ぎが響く。
腰を引き、抜ける直前で再び突き入れる。
単純なまでに同じ動作を繰り返し、女を味わう。
「う………ん……ふあ………あ……あ………あっ…………ん…」
ゼロの動きに合わせるように、オルティアの身体が揺れる。
どこまで行っても到達しない最奥に向かうかのように、ただ愚直にその動作を繰り返す。
「あっ………あ………っく……はぁ…はぁ……あふっ…」
濡れた吐息が耳元で聞こえ、二人のペースを上昇させる。
性交を『繋がり』と表現した昔の人間は、的確に物事を表現している。
身体の繋がりは、吐息と精神までもを同調させるようだ。
特にゼロの場合は、相手の生命力、精霊力、そして記憶までもを同調させ奪う。
新しい命を誕生させる行為のはずなのに、それはその男にとっては命を奪う行為。
「…う……あ……は……あ……あん……あっ……あ、あぁん」
飽きることなく、ピストン運動を繰り返す。
時に『の』の字を描くように、時に『∞』を描くように。
より接触の度合いが高くなるように。
「く……うっ………は…あっ………あんっ……ああっ……」
より多くの力を奪えるように。
より多くの命を奪えるように。
「は…はぁ……あ………はぁ……」
叩き付けるような腰の動きを中断し、ゼロは少女の細い腰に手を回す。
繋がりを保ったままに、オルティアの体勢を変えさせる。
「あ…………んっ………」
四つんばいの格好にさせ、無駄な肉の無い身体に注送を再開する。
ぎゅっと締め付けるような膣内は熱さを失わず、刺激は体中を駆け巡る。
「…ん…あ……はっ……あん……っ…あっ……ああっ……」
獣のように交わる。
身体の求めに応じて何度も同じ前後運動を繰り返す。
「あ…かはっ………あ……こ…壊れ……るぅ……」
荒々しい行為に漏れた声さえ、艶を帯びる男を悦ばせるような音に聞こえる。
絡みつく刺激は二人を高まらせる。
「くぅ……あ……はっ…あっ……あっ…ん……ああっ…」
感覚の全てが一部分に集中し、そして絶頂へと近付く。
身体が求める行為は例外なく絶大な快楽をもたらす。
「う……あん……ゼ、ゼロ…んっ……むくっ………」
喘ぐように男の名を呼び、その唇が合わさる。
卑猥な水音が響き、迫り上がる享楽を貪る。
お互いの高まりが最大に近付いている事を示すように、腰と腰とがぶつかり合う。
「ん…あ……あっ……ああっ………あ……あああああっ…」
びくんと腰が震える。
無意識的に蠢く身体の先端に、血液が凝縮するような錯覚。
「くっ………貰う………ぞ」
「あっ……あああああああああ!」
どくんどくんと脈打つ度に、抗いがたい甘美な刺激が駆け巡る。
放出したはずなのに、流れ込むような奇妙な感覚。

ゼロの頬に柔らかい手が触れる。
オルティアは微笑んでいた。
少女の口が言葉を紡ごうとするが、それよりも早くその身体は水に溶けるように消えていく。
「…………」
恨み言の一つでも漏らしてくれれば、罪悪感は少しでも減るというのに。
身体に流れ込む『鋼』の意志は、穏やかに男の身体に流れる。

ゼロはオルティアを吸収した。








「なんて事をしてくれたんだ……」
絶望と怒りと罵倒が溢れる。
それはゼロが守るべき街の人々からのものだ。
この街はオルティアに制圧されており、魔物達に占領されていたものの、最低限の命の保証はあった。
それがこの侵入者の青年により、破られたのだから。
「……………」
ゼロは周囲に目を向ける。
人々の多くはその苛烈な視線に、うっ、と呻き目を逸らす。

青年の腕の中で眠る妖精の少女が目を覚ましていたら、果たしてどんな事を言うのだろうか?
ゼロは軽く頭を振る。
分かり切っている事だった。
孤独に戦う男の為に、涙さえ流しながら言葉を発してくれるだろうから。
だから今は眠っていてくれて良かった。
こんな蔑んだ、荒んだ人々の目に晒させたくなかった。
唯一残った良心とも言える妖精を抱えながら、ゼロはゆっくりと歩みを進める。

ゼロは街の外へと歩きながら、宣言するように言い放つ。
「恨むなとは言わない。……豚のような生活は楽だろうさ」
ますます人々の憎悪は増して行く。
どこかから投げつけられた石が、ゼロに当たる。
能力を使えば石を回避する事も、傷を負わない事も可能だ。
だが敢えてゼロは石や罵声を浴びる。
そうすることが、せめてもの償いだとでもいうように。

守るべき人々に罵られ、石を投げつけられても……
だが、それでも俺は進まなければならないんだ。
あの男……ジュダを殺す為に。

倒すべき『闇の娘』は、あと二人。
残りの『精霊』は、あと一つ。







To Be Continued・・・






























あとがき

俺は待つのが嫌いです。
ものにもよりますが、「発売まであと○日」とかいう○日を待つのが苦痛なんです。
まぁ、そこらへんを待ってワクワクドキドキするのも楽しみの一つなんでしょうけど。
「出来てんなら、さっさと出してくれりゃあいいのに」
とか考えてしまうんですよねぇ…
そんなわけで、俺の文章も出来るだけ「一話完結」にして、それがちゃんと書き終わってから公開するというやり方をしてます。
続くのが待てない、お子ちゃまな俺なわけで(笑)

しかし、そうすると書き上がるまでは全く文章の更新がされないわけで…
気が付けば半年くらい放置とかいう状況になったりするわけです。
こまめに更新出来る能力があれば、わらわら更新するのですが、色々あるんですよ。
うん、ほんとほんと。

な、わけで(ここからが本題)更新速度を上げる場合は、文章の量を上げるか、あるいはもとある文章を細切れにするか、となるわけです。
前者が出来れば何も問題はありません。
みんなハッピー。
だけど、そうはいかず(作者の能力や自由時間の問題)
そうなると、完結しないで細切れという形になります。

俺自身が嫌いな分割方式なんですが、今回はちょっとテストみたいな感じであえてやってみました。第16話①とか。
「うむうむ。細かくってもいいから、マメに更新しろよ」
とか、
「ええ~、どうせ後でまとめて読むんだから、一度に全部更新しろよ~」
とか、
「ほっほっほ、私の戦闘力は53万ですよ」
とか色々あるかと。
人それぞれの楽しみ方がありそうですし、少数派を蔑(ないがし)ろにするつもりも無いんですけど、今後の参考までに「分割更新」…いや、「更新速度アップ」が望ましいか望ましくないかの意見でも貰えたらなぁ。
メールは無理でもウェブ拍手で、一言「頻繁更新希望」とか「まとめ更新希望」とか貰えたら参考にしたいと思います。

全く意見が貰えない場合、
『総勢0件のご意見を貰いました。今後の参考にします。ありがとうございました』
とかいう、見ていて痛いレスします(笑)

※ご意見ありがとうございました。
 やはり皆さん、焦らされるよりも「まとめて更新」を望む声の方が多いようです。
 おーけーおーけー、まとめてどどーんと更新してやるぜっ!……ぜ………ぜーはー(息切れ)

それでは、続けば次のお話でお会いしましょう。
ではでは~。






20年前の俺、楽しそうですね。
いや、今も楽しいですけど。

「待つことが苦痛」みたいに書いてありますが、今は待つのがそんなに苦ではないです。
なぜなら時間の流れが違うから。
20代の頃の数日って、けっこう長く感じますが、40代の数日って一瞬です。
年とともに時間の流れは加速していくらしいです。マジか。
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