【完結】前提が間違っています

蛇姫

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転生ヒロインは最後まで乙女ゲームだと思っていた

危険人物(第三者視点)

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 学園長室で入学式での一件を含む些事を片付けていた時だった。何事かと思うほどに切羽詰まった勢いで扉をノックする音が聞こえる。緊急事態でもあったのかと、儂は急ぎ扉を開いた。

「何事だ?」

 冷静な声を心掛けながら問いかけた先にいたのは、南棟の巡回を頼んでおいた教員の一人。
 南棟は王族を始めとした文字通り未来の国を背負う者たちが在籍する事になったばかりだ。何かあってからでは総てが遅い。

「まさか…………賊か?」

 儂の頭の中で最悪の事態が駆け巡る。最も避けるべきは殿下に危険が及ぶこと。我が学園において、これ以上の最悪はない。
 儂は教員が息を整え、言葉を発するのを待った。

「……南棟の馬車乗り場にて、危険な思考を有すると思われる女子生徒を一人…確認致しました」

 内心焦っているのだろう。声が僅かに震えている。

「危険と判断した理由は何だ?」

 問題は其処だ。何か…危険人物と判断するに値する状況や言動が見受けられたのだろうが、危険な思考と判断し得る材料は一つではない。宗教、国、個人的感情…思考とは人の数だけあるものだ。

「……リリー嬢を覚えておられますか?」

 本年度を受け持つ教員の中に「リリー」を知らない教員などいるわけがないだろう。唯一、貴族に混じって上位100位以内を勝ち取った平民の少女。彼女は合格発表の日に亡くなってしまった。

「無論………覚えておる。彼女の入学を楽しみにしておった教員は儂だけではなかろう」

 彼女は亡くなっているのだ。これには王家でさえも落胆の色を隠さなかった。たかが平民にと思う者もいるだろうが、彼女にはそれだけの潜在能力が秘められていたのだ。
 平民でありながら上位100位に入れたのだから、本格的に学べばそれ以上も夢ではなかっただろう。

「リリー嬢に見た目だけはよく似た女子生徒が、南棟の馬車乗り場で自分は未来の王妃だなどと騒いでいるのですが……」
「……其奴はリリー嬢の双子の姉で相違なかろう。ローウェン子爵家に強制帰宅させよ。無論……北棟の馬車乗り場からな」

 ローウェン子爵家は碌な教育を与えておらんのだな。……正確には子爵夫人が育てた息子は優秀な子だったのだから、子爵の育て方に問題があるのだろう。
 でなければ、子爵令嬢の分際で「王妃になる」などと、大層な夢物語に浸ったりはせんだろう。

「それから……南棟と北棟の出入りを禁ずる校則を発令する」

 念の為に校則として発令しておけば、これ以降は北棟の生徒が南棟にいるというだけで、罰則を与えることが出来る。
 何の罪もない生徒たちにまで影響を及ぼすことに関しては、大変申し訳なく思うが、安全面の確保のためとすれば、納得せざるを得ない面子が揃っておるのが不幸中の幸いといえる。

「承知致しました!直ちに強制帰宅させます!」

 教員が退室したのを見届けた儂は、窓から空を見上げ呟いた。

「……………双子でこうも違うのか」

 儂がリリー嬢に初めて会ったのは、試験会場ではない。学園長だと知られる前に……出会っているのだ。
 体調を崩して蹲っていた儂に「大丈夫ですか?」と駆け寄ってきてくれたのはお主だけだったな……。
 当時の儂は研究明けで小汚い恰好をしておっただろうに、嫌な顔一つせずに介抱してくれたこと……生涯忘れることはない。
 リリー嬢は優しく聡明で努力を惜しまぬ才媛だった。彼女の双子の姉が入学すると聞き及んだ時には、大いに喜んでしまったが、よく考えてみれば……双子といえども人間なのだ。
 違って当然ではないか。………此処までとは思わんかったが。

「危険人物として【リリア・ローウェン子爵令嬢】を教員及び生徒会諸君と共有しておく必要性が出てきたな」

 この時の儂は知らんかった。教員が見聞きした光景をドラグーン公爵令嬢が目撃しており、話している内容から殿下の危険を察知して、教員が儂に報告するよりも先に、殿下を含む生徒会諸君に危険人物の存在を話していたことを。

 ドラグーン公爵令嬢の危機察知能力には脱帽する。それが自分のためにも発揮されれば、言うことは何もないのだが、残念なことに自分にだけは発揮されない。
 ………リリー嬢が生きておれば、記憶力が異常に優れておるドラグーン公爵令嬢の良き理解者となっただろうに。
 そういえば、妃殿下はリリー嬢が子爵の隠し子である事をご存知だったが……深く詮索せぬのが長生きの秘訣。
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