状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!―加筆修正版―

三〇八

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状況の人、異世界で無双する

状況の人、奪還中3

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 まだ魔法が使えるほどでは無いが、何とか歩けるまでには回復していた洋子とイーミュウは、ロイに介護されながら馬車から降りて外へ出た。
 歩くには問題は無いが、やはり頭は重いままの上、時折り頭痛も起きるので魔法を使うにはもう少し時間が必要そうだ。
「洋子、無事か!? 遅くなってすまん!」
 龍海がマスクを脱ぎながら洋子に詫びを入れた。
 対して洋子は、重い頭を軽く横に振った。
「ううん。助けに来てくれるとは思っていたけど、意外と早かったなって……ありがとうシノさん、あ!」
 礼を言いつつ、砂利に足を取られる洋子。前につんのめってしまう。
「洋子!」
 銃を落とし、思わず抱きとめる龍海。洋子も龍海のジャケットにしがみ付く。
「大丈夫か!?」
「ああ、ごめん。まだちょっと薬が残ってるかも? うん、大丈夫。立てるよ」
 龍海を見上げ、にっこり微笑む洋子。今までに無い、思わず愛おしくなるほどの洋子の笑顔であった。
 が、今の龍海は、彼女が無事でいてくれたこと、そちらの方に心底安堵した。それが何よりうれしかった。
「身体はどう? 何とも無い?」
「うん、頭は重いし、まだ魔法は使えないけどね。ケガとかはしてないし」
「そうか……よかった……イーミュウも無事で何よりだね」
「ご心配おかけしましたシノさま。おかげさまで命拾い致しましたわ」
 うん、うん……龍海は笑顔で頷いた。
 とにかく全員無事、これが何よりだ。

 ズシャ!
 地を蹴る音がした。
 洋子たちが無事であることに胸を撫で下ろし、気を抜いたほんの一瞬だった。
「ひゃあ!」
 イノミナの悲鳴が飛んできた。
「動くなよ!」
 ラリが後ろからイノミナの首に腕をまわし、右手に持ったナイフを突きつけている。
「わかってるよな? 下手な事したらこの猫耳の命は無いからな!」
 ――ち!
 舌打ちする龍海の視界の隅で、マティのニヤける顔が映る。
「だ、旦那ぁ……」
「何やってんだよイノミナ! お前の体力ならすぐ逃げれただろ!? 宿から逃げた時の素早さは、どこ行ったんだよ!?」
「ごめん……頭が重くって……」
「はぁ?」
 頭が重い……龍海は例のガスを吸った時の症状を連想した。
 しかし、今度はそれに備えて防護マスクを装着した。
 イノミナにもちゃんと渡していたし、装着もしていたはず……
 ――いや、まさか?
「イノミナ! マスク装着した後に中の空気、噴き出すのを忘れたんじゃないだろうな!?」
「あ……し、してない、かも?」
「く!」
 龍海、思わず歯噛み。
 防護マスクはガスを感じてから遅くとも8秒以内で装着するように訓練される。素早い者なら4~5秒で完了する。
 で、装着したら息を吸う前に排気側を手で塞いで一息吹き、内部に残留している汚染された空気をマスク側面等から排出するという手順を忘れてはならない。その後、吸気も塞いでマスクの密着度を確認するのだが。
 ロイやカレンには夕べから練習させておいたから今も無事だが、イノミナには時間が少なかったのは確かだった。
「バカ! これが致死性の毒ガスなら死んでたぞ!」
「ごめんよぉ。旦那ぁ、助けてよぉ」
「勝手に喋ってんじゃねぇよ! マティ! 魔石と牙、取って来いよ! あれだけでも金に替えりゃあ半年は困らねえよ!」
「おお! お見事だぜラリ! へへ、残念だったな、ぁ、ひっひっひ!」
 マティのいやらしくニヤけた顔が鼻息も荒く、龍海に背を向ける。
 しかし、
バン! バン! バン!
「ぐわ!」
拳銃三連射の音と共にマティはその場に崩れた。
 龍海の手にはまだ、ほんの少し硝煙が纏わりついているCZ P-09が握られていた。
「て、てめぇ!」
 龍海の、予想外の反撃にラリは狼狽した。
 人質を取って形勢逆転、一気に優位に立ったつもりだったのに。
「ぐ……ぐぉぉ……」
 バン! バンバン!
 更に臀部に三発。
 急所は外してあるのでマティはまだ生きていた。
 とは言え、腹と脚の付け根に尾骶骨、大腿骨骨頭に9mm弾を次々撃ち込まれては、しものオーガも立ってはいられなかった。激痛で悲鳴も上げられない。
「いい加減、ブッチ切れるぞ手前ら……」
 怒り心頭の龍海。これ以上は無いってほどの、凶眼さながらの目付きでラリを睨む。
「こ、この野郎! こいつがどうなってもいいのかよ!?」
「旦那ぁ……見捨てないでよぉ……」
 狼狽しているのはラリだけではない。
 イノミナも思いっきり涙目である。
 得意の瞬発力を封じられては、もはや成す術はない。龍海の慈悲に縋るしかない。
 しかし龍海と自分はあくまで商売上の付き合いだし、日もそれほど深いわけでは無い。
 おまけにこの事態は自分の不始末。大損してまで要求を飲んでくれとは虫のいい話である。
 でもまだ死にたくはない。みっともなくても命乞いするしか。
 だが龍海は言った。
「誰が見捨てるか」
「!」
 イノミナの目が見開いた。
「お前は俺たちに必要不可欠な人間だ。俺はお前の情報屋としての仕事に満足している。今、洋子たちを助けられたのもひとえにお前のおかげだ。心底感謝しているぞ」
 龍海はラリを見据えながら淡々としゃべった。
 嘘も誇張も無く、今の自分の胸中をそのまま吐露していた。
「だから見捨てない。必ず助ける」
「旦那ぁ……」
「てめぇ、何言ってんのかわかってんのか!? そこから少しでも近寄ったらこのナイフぶっ刺すぞ!」
「よく見てろ……」
 龍海は、ゆっくりとP-09を右真横に構えた。腕を45°に降ろし、直近の地面に銃口を向ける。
「俺の指先を見ろ」
 ラリは泳ぎまくる眼で龍海の指を追った。
 もちろん、龍海やロイが襲い掛かって来る事には十分配慮したうえで。
 だが、そんな警戒心も、やがて木っ端微塵に吹っ飛んでしまう事になる。
 龍海は指に力を入れた。
 バン!
 さっきと同じ、けたたましい銃声と共に、銃弾が大地を抉るさまがラリの目に突き刺さる。
 ラリは今、なぜ大黒熊や魔狂牛が倒されたか、なぜマティが血を流しながら倒れたのか全てをハッキリ理解した。
 あの、妙な黒い棒だか塊だかを握ってちょいと指に力を入れれば、何か礫のようなものが飛び出し、体の奥深くに食い込んで破壊してしまうのだ。
 乾いた表面が吹っ飛び、すり鉢状に出来た穴から見える湿った土が彼女には、まるで血肉のように見えた。
 ――指先にちょっと力を入れるだけでこんな大穴……
 これと同じ穴が自分にも空けられてしまう……それくらいは瞬時に連想出来た。自分の顔、眼の辺りが弾けて、この穴と同じ様に……
 そうなったら当然、生きていられる気など全く起こらない。体の震えが止まらない。
 そんな魔法も魔道具も、生まれてこの方見たことが無い。威力も速度も自分の繰り出すフレイムブレットどころでは無い。
 やがてそれが、龍海の持つP-09がゆっくりラリの顔に向けられる。
 銃口奥の暗闇が、まるで死神の出入り口に見えてくる。
「お前がナイフに力を入れるのと、俺の指先が動くのと……どちらが早いかなんぞ、言うまでもないよなぁ?」
「ひ……ひ……!」
 今のラリは蛇に睨まれた蛙どころではない。
 頭の中も全く整理がつかず、対処法など考えられない。立っている事すら、不思議なほどだ。
 もう、ラリは何も考える事も感じる事も出来なくなって、ただただ、震える事しかできなかった。既に失禁してしまっている事すら気が付かないくらいに
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