文章練習ノート

【描写】濁流と女神

　凍りつくような水が私の体温を奪って行く。私は空気を求めたが、水流が身体をもみくちゃにする。私の身体は引き裂かれるのだろう。水の音が私の頭をかき回す。しばらくすると別の音が聞こえてくる。金属の音、剣の音、金貨の音。長兄の笑い声、親父の足音、雨の音、今は鳴らなくなった尖塔の鐘。私は闇につつまれていた。


……闇の中に見える。カフサの街で見た葬儀の列、そしていつも見上げていた尖塔の影、黄色い太陽、大小の２つの月、親父や兄達の顔、美しい王女の姿、次々と浮かび消えていった。

　太陽が私を見ていた。私の顔に光が射しこんでくる。するとなぜか雨が強く地面を鳴らす音が聞こえた。
知らない男が立ち私を見下ろしている。私は寝床で横たわっていた。（私は透明になってふわふわと浮きながら、目を閉じた己自身を見ていた）
　私は男に、私を起こすように嘆願したが、男は私の事に気付かず、何かを呟いている。すると今度は親父が現われて男と何かの話を始めた。
　気が付くと兄貴達もいて、いつものようにナイフを研いだり、金貨をかぞえたりしていた。しばらくすると彼らはカードをしている。だれも私に気が付かなかった。私は寝ているまま　大声を上げていた。

……どのくらい声を上げていたのだろう、、いつの間にか夜になっている。
　２つの月が私を見ていた。まだ雨の音が続いている。

　しばらくすると扉から美しい少女が現われ、部屋の中へと音も無く進んで来る。それは忍び歩きではなく、音が彼女から逃げているような、そんな感じだった。
　親父や兄貴たちの居ない部屋の中で、少女は私の隣に立ち、ゆっくりと屈み私の顔に手を当てた。

　冷たく滑らかだった。

　少女は顔を近づけると透明な重なりあう声で私を「「※※※※」」と呼んだ。
　それから静かに少女達はそっと触れるような優しい口付けを重ねた。

　雨の音は消え、鐘の音が聞こえる。私は寝ているはずなのにまた眠たくなり、景色が閉じていった。