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1 連れ去られた婚約者
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僕の可愛い婚約者、エステル・ダンシェルドは、隣国ダンシェルド王国の王女だ。
僕が14歳、エステルが12歳の時に婚約した。ダンシェルドとの国境には深い森があり、両国の行き来にはかなりの日数がかかる。
妃教育のためという名目で、エステルは婚約後すぐに我がセイデリア王国で一緒に暮らすことになった。
実は、僕がワガママを言ったんだ。
エステルがとっても可愛くて、ずっと一緒にいたかった。馬を飛ばしても何日もかかるダンシェルドにいては、会いたい時にすぐに会えない。
長い栗色の髪に、切れ長の目。ダンシェルドには美女が多いと言うけれど、エステルもその例にもれず、たった12歳でこの美しさだ。
年の割に随分大人びて見えるけど、話すとのんびりしていてとても穏やかな性格。僕の他愛もない話も一生懸命来てくれて、花が咲いたような優しい笑顔でこたえてくれる。
少しおっちょこちょいなところも彼女のチャーミングポイント。すぐに道に迷うし、物は失くす。思い込みも激しい不器用さん。僕が近くにいて守ってあげなければと思わせる存在だ。
そんな彼女が愛おしくて、早くエステルが18歳にならないかなと毎日思っていた。18歳になれば、結婚できるから。
乗馬の練習もかねて、ダンシェルドの国境にある森の近くまで遠乗りするのが、僕たちの休日の過ごし方。森の手前には広大な花畑があって、そこに敷物を敷いてランチをするところまでが定番だ。
「エステル、僕が君とずっと一緒にいたいとワガママを言ったから、家族と離れ離れになってしまってごめんね」
「フェリクス様! 私はダンシェルドを出て、父や母とは離れてしまいましたが、フェリクス様が私の家族なので、全く寂しくありません」
サンドイッチを食べ終わったエステルは、片づけをしながら僕に微笑む。
広大な花畑で、僕たちはかくれんぼをして遊んだ。
僕の腰くらいの高さまで伸びて、今を盛りと咲き誇る菜の花に隠れて、エステルの姿が見えなくなった。
春のそよ風に吹かれながら、エステルの栗色の髪を探す。太陽の光に目を細めて遠くを見ると、馬をつないである方向で騒いでいる従者たちが目に入った。
(なんだろう……あんなに血相を変えて……)
何を言っているかまでは聞き取れないが、何か事件が起こったのだろうと察した。
(エステルは大丈夫かな? 早く探さないと)
そう思った瞬間、随分と遠くの方で、菜の花の間からひょこっとエステルが顔を出した。エステルの無事な姿を確認してホッとしたのも束の間、エステルと共にダンシェルド王国からセイデリアに来ていた護衛騎士のイルバートが、エステルを抱きかかえるのが見えた。
「イルバート! どうした!」
焦った様子でエステルを馬に乗せ、イルバートも同じ馬に乗る。訳が分からないと言った表情のエステルがこちらを見るが、イルバートは構わずに馬で森の方向に走り始めた。
「……エステル!!!」
僕の渾身の叫びも空しく、エステルをのせたイルバートの馬は、あっと言う間に森の奥深くに消えて行った。
後から聞いた話だが、どうやら僕たちが花畑で遊んでいる時、セイデリアとダンシェルドの国境付近で争いが起こったようだ。ダンシェルドの兵が個人的な諍いからセイデリアの兵に剣を向けてしまい、そこから戦闘に発展。
エステルを人質に取られる前にダンシェルドに連れ戻せという指示が、イルバートの元に届いたらしい。
まだ14歳だった僕は、この突然の出来事に手も足も出なかった。
あれだけ大切に想っていた婚約者のエステルを、ほんの一瞬の間に奪われたのだった。
僕が14歳、エステルが12歳の時に婚約した。ダンシェルドとの国境には深い森があり、両国の行き来にはかなりの日数がかかる。
妃教育のためという名目で、エステルは婚約後すぐに我がセイデリア王国で一緒に暮らすことになった。
実は、僕がワガママを言ったんだ。
エステルがとっても可愛くて、ずっと一緒にいたかった。馬を飛ばしても何日もかかるダンシェルドにいては、会いたい時にすぐに会えない。
長い栗色の髪に、切れ長の目。ダンシェルドには美女が多いと言うけれど、エステルもその例にもれず、たった12歳でこの美しさだ。
年の割に随分大人びて見えるけど、話すとのんびりしていてとても穏やかな性格。僕の他愛もない話も一生懸命来てくれて、花が咲いたような優しい笑顔でこたえてくれる。
少しおっちょこちょいなところも彼女のチャーミングポイント。すぐに道に迷うし、物は失くす。思い込みも激しい不器用さん。僕が近くにいて守ってあげなければと思わせる存在だ。
そんな彼女が愛おしくて、早くエステルが18歳にならないかなと毎日思っていた。18歳になれば、結婚できるから。
乗馬の練習もかねて、ダンシェルドの国境にある森の近くまで遠乗りするのが、僕たちの休日の過ごし方。森の手前には広大な花畑があって、そこに敷物を敷いてランチをするところまでが定番だ。
「エステル、僕が君とずっと一緒にいたいとワガママを言ったから、家族と離れ離れになってしまってごめんね」
「フェリクス様! 私はダンシェルドを出て、父や母とは離れてしまいましたが、フェリクス様が私の家族なので、全く寂しくありません」
サンドイッチを食べ終わったエステルは、片づけをしながら僕に微笑む。
広大な花畑で、僕たちはかくれんぼをして遊んだ。
僕の腰くらいの高さまで伸びて、今を盛りと咲き誇る菜の花に隠れて、エステルの姿が見えなくなった。
春のそよ風に吹かれながら、エステルの栗色の髪を探す。太陽の光に目を細めて遠くを見ると、馬をつないである方向で騒いでいる従者たちが目に入った。
(なんだろう……あんなに血相を変えて……)
何を言っているかまでは聞き取れないが、何か事件が起こったのだろうと察した。
(エステルは大丈夫かな? 早く探さないと)
そう思った瞬間、随分と遠くの方で、菜の花の間からひょこっとエステルが顔を出した。エステルの無事な姿を確認してホッとしたのも束の間、エステルと共にダンシェルド王国からセイデリアに来ていた護衛騎士のイルバートが、エステルを抱きかかえるのが見えた。
「イルバート! どうした!」
焦った様子でエステルを馬に乗せ、イルバートも同じ馬に乗る。訳が分からないと言った表情のエステルがこちらを見るが、イルバートは構わずに馬で森の方向に走り始めた。
「……エステル!!!」
僕の渾身の叫びも空しく、エステルをのせたイルバートの馬は、あっと言う間に森の奥深くに消えて行った。
後から聞いた話だが、どうやら僕たちが花畑で遊んでいる時、セイデリアとダンシェルドの国境付近で争いが起こったようだ。ダンシェルドの兵が個人的な諍いからセイデリアの兵に剣を向けてしまい、そこから戦闘に発展。
エステルを人質に取られる前にダンシェルドに連れ戻せという指示が、イルバートの元に届いたらしい。
まだ14歳だった僕は、この突然の出来事に手も足も出なかった。
あれだけ大切に想っていた婚約者のエステルを、ほんの一瞬の間に奪われたのだった。
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