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5歳 カルペ・ディエムを繰り返して
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「……ぼく、は……」
「……あ、アイテール様!」
白い天井、花屋で買った小さめのスワッグ、大小様々なぬいぐるみ、ネットで一目惚れして購入した毛長のファーマットレス、最近は全く機能していない小さめのテレビ。目を開けると映るはずだった自室のその光景は、何一つとして合っていなかった。
ドアからベッドまで10歩は歩かなくては行けないほどの広い部屋、とにかく装飾が豪華で目に痛い大きい花瓶、価値が全く理解できないが高級そうな額に入っている絵画。一歩歩く度に家具を壊してしまわないだろうかと不安になりそうな部屋は、どこかぼんやりとする頭では理解が追いつかない。
……自分は日々心を殺しながら仕事をこなし、満員電車に詰め込まれているOLのはずだったが。……いや、男爵家の三男として恥ずかしくない生き方をしようと、既に責任を感じている5歳児だったか。私、いや……ぼく……? えっと……?
混乱する頭とまだクラクラする意識、流れ込んでくる二つ分の記憶に目をぱちぱちとしばかせていると、視界の端から女性が姿を現す。
「ああ本当によかった……ティアお嬢様、アイテール様が目を覚まされました!」
「……ほんとう? ……おこってる?」
「きちんと謝りましょう。ほら、ティア様」
目に涙を浮かべ、不安そうな瞳で恐る恐るこちらを覗く彼女を見た瞬間、驚愕でポロリと口から言葉が零れ落ちた。
「……クリス……?」
透き通る様な銀髪は、窓から暖かく注ぐ太陽の光に照らされ青く光っている。絹の様にさらりとした後ろ髪に反して、顔の横から耳にかけてのくるりとした癖毛と頭のてっぺんで揺れている一房の髪。顔は全てのパーツが人形の如く完璧に配置されていて、美しくもどこか恐ろしい印象を受ける。そして一等輝いているのが、涙に濡れ一層輝くサファイアを思わせる蒼い瞳。記憶の中より随分幼いが、人間離れしたその美しい容姿は完全にマーガレットの剣の主人公、クリスティア・レシュノルティアその人だ。
……一体どう言う事なのか。
困惑で再びズキズキと痛くなってきた頭を抑えていると、不安そうにずずいと顔を近づけてきた彼女の瞳に姿が映った。
ふわふわの髪に、愛嬌のある顔立ち。蒼の瞳に映されている為色はわからないが、この顔にも見覚えがある。
「アイテール・イベリス……」
そう、自分の名前はアイテール・イベリス。北の領地を任されている男爵家の三男で、今は公爵家であるレシュノルティア様のお屋敷に家族総出で訪れている。レシュノルティア家にはそれはそれは綺麗な双子がいて、兄は体が弱く会えないらしいので妹の方と挨拶を交わして、アイテールと同じ5歳だからね、仲良く遊んでおいでと言われて、でも彼女は見た目に反して相当にヤンチャな子で、木登り対決をしようと公爵家のお嬢様に頼まれては自分の立場では断りきれなくて仕方なく付き合った所無様にも手が滑って高いところから落下して――、
一気に流れ込んでくるはっきりとした記憶に、思わず目の前がくらっと回った。小さく唸りながら少年――アイテールはこめかみを押さえる。
……自分はたしかにアイテール・イベリスだ。では、先程から流れてくるもう一つのこの記憶は一体誰のものなのか。男と男の恋愛を見るのがなによりも好きで、乙女ゲームには興味はなかったがBLルートが追加されると知ってマーガレットの剣に手を出して見事にハマり、同じ趣味の仲間と出かける為雨上がりの街をスキップをしながら進み歩道橋で足を滑らし――、その後の記憶はプツリと途切れている。相当上の段から落下したのだ、恐らく助からなかったのだろう。
「……アイテール、くん……? 大丈夫? しんじゃった……?」
複雑にこんがらがっている記憶と戦っていると、目の前の少女がポロポロと涙を流しながら心配そうに声をかけてきた。先程から反応のないアイテールを不思議に思ったのか、周りにいるメイドも不安そうに顔を覗きにくる。
「いえ、しんだのはぼくではなく……あ、えっと……。……はい、大丈夫、です」
本当はズキズキと痛む全身に鞭を打ち、笑みを浮かべながら答える。
――いけない、しっかりしろアイテール。
色々な記憶が流れ込んできて混乱する頭を叱咤し、心の中で頬を叩き気合いを入れた。相手は公爵家のお嬢様で、ここは公爵家のお屋敷である。いくら誘いを断られなかったとは言え、木登り対決で女の子に負けた挙句落ちて意識を失っていただけでも相当だが、ゲームだの死んだだの言い出して気が狂ったと思われたら後世に語り継がれるほどの大失態だ。怒られるだけならまだいいが、やたら豪快な性格をしている父や兄姉に笑い飛ばされ、領地中にしっかり者で知られているイベリス家三男の年相応な恥ずかしエピソードとして広められる可能性がある。
もしそうなったら一生揶揄われ続け、今後の人生はどうなってしまうやら……いやもう今既に取り返しのつかない事になっているのでは……と遠い目をしていると、横から「アイテール様」と呼びかけられた。
「……あ、アイテール様!」
白い天井、花屋で買った小さめのスワッグ、大小様々なぬいぐるみ、ネットで一目惚れして購入した毛長のファーマットレス、最近は全く機能していない小さめのテレビ。目を開けると映るはずだった自室のその光景は、何一つとして合っていなかった。
ドアからベッドまで10歩は歩かなくては行けないほどの広い部屋、とにかく装飾が豪華で目に痛い大きい花瓶、価値が全く理解できないが高級そうな額に入っている絵画。一歩歩く度に家具を壊してしまわないだろうかと不安になりそうな部屋は、どこかぼんやりとする頭では理解が追いつかない。
……自分は日々心を殺しながら仕事をこなし、満員電車に詰め込まれているOLのはずだったが。……いや、男爵家の三男として恥ずかしくない生き方をしようと、既に責任を感じている5歳児だったか。私、いや……ぼく……? えっと……?
混乱する頭とまだクラクラする意識、流れ込んでくる二つ分の記憶に目をぱちぱちとしばかせていると、視界の端から女性が姿を現す。
「ああ本当によかった……ティアお嬢様、アイテール様が目を覚まされました!」
「……ほんとう? ……おこってる?」
「きちんと謝りましょう。ほら、ティア様」
目に涙を浮かべ、不安そうな瞳で恐る恐るこちらを覗く彼女を見た瞬間、驚愕でポロリと口から言葉が零れ落ちた。
「……クリス……?」
透き通る様な銀髪は、窓から暖かく注ぐ太陽の光に照らされ青く光っている。絹の様にさらりとした後ろ髪に反して、顔の横から耳にかけてのくるりとした癖毛と頭のてっぺんで揺れている一房の髪。顔は全てのパーツが人形の如く完璧に配置されていて、美しくもどこか恐ろしい印象を受ける。そして一等輝いているのが、涙に濡れ一層輝くサファイアを思わせる蒼い瞳。記憶の中より随分幼いが、人間離れしたその美しい容姿は完全にマーガレットの剣の主人公、クリスティア・レシュノルティアその人だ。
……一体どう言う事なのか。
困惑で再びズキズキと痛くなってきた頭を抑えていると、不安そうにずずいと顔を近づけてきた彼女の瞳に姿が映った。
ふわふわの髪に、愛嬌のある顔立ち。蒼の瞳に映されている為色はわからないが、この顔にも見覚えがある。
「アイテール・イベリス……」
そう、自分の名前はアイテール・イベリス。北の領地を任されている男爵家の三男で、今は公爵家であるレシュノルティア様のお屋敷に家族総出で訪れている。レシュノルティア家にはそれはそれは綺麗な双子がいて、兄は体が弱く会えないらしいので妹の方と挨拶を交わして、アイテールと同じ5歳だからね、仲良く遊んでおいでと言われて、でも彼女は見た目に反して相当にヤンチャな子で、木登り対決をしようと公爵家のお嬢様に頼まれては自分の立場では断りきれなくて仕方なく付き合った所無様にも手が滑って高いところから落下して――、
一気に流れ込んでくるはっきりとした記憶に、思わず目の前がくらっと回った。小さく唸りながら少年――アイテールはこめかみを押さえる。
……自分はたしかにアイテール・イベリスだ。では、先程から流れてくるもう一つのこの記憶は一体誰のものなのか。男と男の恋愛を見るのがなによりも好きで、乙女ゲームには興味はなかったがBLルートが追加されると知ってマーガレットの剣に手を出して見事にハマり、同じ趣味の仲間と出かける為雨上がりの街をスキップをしながら進み歩道橋で足を滑らし――、その後の記憶はプツリと途切れている。相当上の段から落下したのだ、恐らく助からなかったのだろう。
「……アイテール、くん……? 大丈夫? しんじゃった……?」
複雑にこんがらがっている記憶と戦っていると、目の前の少女がポロポロと涙を流しながら心配そうに声をかけてきた。先程から反応のないアイテールを不思議に思ったのか、周りにいるメイドも不安そうに顔を覗きにくる。
「いえ、しんだのはぼくではなく……あ、えっと……。……はい、大丈夫、です」
本当はズキズキと痛む全身に鞭を打ち、笑みを浮かべながら答える。
――いけない、しっかりしろアイテール。
色々な記憶が流れ込んできて混乱する頭を叱咤し、心の中で頬を叩き気合いを入れた。相手は公爵家のお嬢様で、ここは公爵家のお屋敷である。いくら誘いを断られなかったとは言え、木登り対決で女の子に負けた挙句落ちて意識を失っていただけでも相当だが、ゲームだの死んだだの言い出して気が狂ったと思われたら後世に語り継がれるほどの大失態だ。怒られるだけならまだいいが、やたら豪快な性格をしている父や兄姉に笑い飛ばされ、領地中にしっかり者で知られているイベリス家三男の年相応な恥ずかしエピソードとして広められる可能性がある。
もしそうなったら一生揶揄われ続け、今後の人生はどうなってしまうやら……いやもう今既に取り返しのつかない事になっているのでは……と遠い目をしていると、横から「アイテール様」と呼びかけられた。
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