4 / 23
5歳 カルペ・ディエムを繰り返して
4
しおりを挟む
「……光魔法で傷は塞がりましたが、まだ無理はなさらない方がよろしいでしょう。わたくしはイベリス男爵様とご主人様をお呼びいたします。……いいですか、くれぐれも安静になさっていてください」
側に控えていた、年老いたメイドがそう言って立ち上がる。すっと片手を上げ合図をすると、心配そうにアイテールを囲んでいた3人ほどのメイドも一斉に壁際へ下がった。変わらず顔を覗き込んでいるのはクリスティアのみになる。
「……」
「…………あの、えと……クリス……ティアさま。どうかお気になさらないでください。ぼくの力が弱かったのが悪いので、クリス……ティアさまがせきにんを感じる事では……」
どうにもやりにくいと感じながら、アイテールは安心させる様に笑みを深めた。思い出したもう一つの記憶によると、ゲームの中で目の前の少女は「クリス」と言う愛称で呼ばれていた。どうしてもクリスティアよりクリスと出てしまうのはファンとして当然なのだろうか。
「……せきにん……」
先程からメイドはクリスのことをティア様と呼んでいた。ゲーム本編では言及されないが、恐らくクリスティアは一般的にはティアと言う愛称で呼ばれているのだろう。そういえば彼女の兄の名前はクリストファーで、クリスと呼ぶと呼び分けがつかない。ゲームでアイテールがクリスと呼んでいたのは主人公の名前変更ができるシステムの関係だと思っていたが、咄嗟に「ティア」と呼ばないようになのかもしれない。
それにしても、とアイテールは顎に手を当てた。今まで当たり前のように過ごしてきたここがゲームの中の世界で、自分もゲームのキャラで。今後の身の振り方も含めて、時間をとって一旦整理した方がいいだろう。早くこの屋敷から解放されて1人になりたい。
「……せきにん……せきにんを……。取らなきゃ……『キズモノ』にしてしまったから……」
「……あの……クリス、ティアさま……? 先程から何を……」
ぶつぶつとアイテールを見つめながら何かを言っていたクリスティアは、ぱちりと一度瞬きをすると覚悟を決めた様にしっかりとした口調で告げる。
「クリス、でいい」
「……はい……?」
「さっきから、わたしのこと……クリスって呼ぼうとしてた……」
「……ああ、いやあの、ですが……。ぼくはだんしゃく家の三男で、クリスティア様はこうしゃく家のおじょうさまです。名前を呼び捨てになど……それもあいしょうで呼ぶとなると、周りからなんと思われるか……」
お気持ちだけありがたくちょうだいします、とにっこり微笑みながら続けたアイテールに、クリスティアは綺麗な顔をこれでもかと言うほど歪めた。眉間に皺が寄り頬は風船の様に膨らんでいる。
「わたしは、アイテール……くん? のことを『キズモノ』にしてしまった」
「……『キズモノ』……?」
まるで嫁入り前の女の子の様な言種に、何処かケガが残っているのかと顔を触りながら確認する。目立った傷はない。
「おでこ」
「……おでこ?」
言われて前髪を捲り触ってみると、たしかに小さくはあるが傷跡が残っていた。あまりに小さすぎて、光魔法でも治せなかった様だ。
「あの、このていどなら明日にでもしぜんに治ると思いますが……」
「……でも……。でも、わたし、初めてだったから」
「初めて?」
「……だれかを、ケガさせたの……」
先ほどまで不機嫌に歪んでいた瞳に、再びうるりと涙が浮かぶ。驚いたアイテールが思わず目を逸らすと、クリスティアのシーツを強く握りしめている小さな手が視界に入った。
――目の前で人が高所から落下するところを見てしまったのだ。相当怖い思いをしたのだろう。
「……クリス、ティア、さま……」
「……いたい、よね。ごめんなさい……」
ふるふると震えながら何度も謝罪をしてくる綺麗な顔立ちの小さい女の子に、アイテールの中に急に現れた社会人としての記憶が蘇る。
そういえば、ぼく……いや、私にも年の離れた妹がいたっけ……。
「もう、さほど痛くありません。……きちんと謝れて、クリスさまはえらいですね」
そのままポンポンと頭を撫でると、クリスティアの震えが止まった。しまった、流石に同い年の男の子に頭を撫でられるのは嫌だったかと目を逸らし手を離す。
「し、失礼しました……!」
「……クリスって、よんでくれた……」
喜びを隠せていないその声色に驚き正面を向くと、瞳をキラキラさせ撫でられた頭を嬉しそうに押さえるクリスティアと目が合う。
「……うれしかった、けどさまはいらない」
「……いえその、ですからそれは……」
再び押し問答だ。
「アイテール、くん。……じゃあこうしよう」
いいことを思いついたと言いたげな自慢げな顔を隠しもせず、クリスティアが人差し指を立てた。嫌な予感がして思わずアイテールはぶるりと震えた。
側に控えていた、年老いたメイドがそう言って立ち上がる。すっと片手を上げ合図をすると、心配そうにアイテールを囲んでいた3人ほどのメイドも一斉に壁際へ下がった。変わらず顔を覗き込んでいるのはクリスティアのみになる。
「……」
「…………あの、えと……クリス……ティアさま。どうかお気になさらないでください。ぼくの力が弱かったのが悪いので、クリス……ティアさまがせきにんを感じる事では……」
どうにもやりにくいと感じながら、アイテールは安心させる様に笑みを深めた。思い出したもう一つの記憶によると、ゲームの中で目の前の少女は「クリス」と言う愛称で呼ばれていた。どうしてもクリスティアよりクリスと出てしまうのはファンとして当然なのだろうか。
「……せきにん……」
先程からメイドはクリスのことをティア様と呼んでいた。ゲーム本編では言及されないが、恐らくクリスティアは一般的にはティアと言う愛称で呼ばれているのだろう。そういえば彼女の兄の名前はクリストファーで、クリスと呼ぶと呼び分けがつかない。ゲームでアイテールがクリスと呼んでいたのは主人公の名前変更ができるシステムの関係だと思っていたが、咄嗟に「ティア」と呼ばないようになのかもしれない。
それにしても、とアイテールは顎に手を当てた。今まで当たり前のように過ごしてきたここがゲームの中の世界で、自分もゲームのキャラで。今後の身の振り方も含めて、時間をとって一旦整理した方がいいだろう。早くこの屋敷から解放されて1人になりたい。
「……せきにん……せきにんを……。取らなきゃ……『キズモノ』にしてしまったから……」
「……あの……クリス、ティアさま……? 先程から何を……」
ぶつぶつとアイテールを見つめながら何かを言っていたクリスティアは、ぱちりと一度瞬きをすると覚悟を決めた様にしっかりとした口調で告げる。
「クリス、でいい」
「……はい……?」
「さっきから、わたしのこと……クリスって呼ぼうとしてた……」
「……ああ、いやあの、ですが……。ぼくはだんしゃく家の三男で、クリスティア様はこうしゃく家のおじょうさまです。名前を呼び捨てになど……それもあいしょうで呼ぶとなると、周りからなんと思われるか……」
お気持ちだけありがたくちょうだいします、とにっこり微笑みながら続けたアイテールに、クリスティアは綺麗な顔をこれでもかと言うほど歪めた。眉間に皺が寄り頬は風船の様に膨らんでいる。
「わたしは、アイテール……くん? のことを『キズモノ』にしてしまった」
「……『キズモノ』……?」
まるで嫁入り前の女の子の様な言種に、何処かケガが残っているのかと顔を触りながら確認する。目立った傷はない。
「おでこ」
「……おでこ?」
言われて前髪を捲り触ってみると、たしかに小さくはあるが傷跡が残っていた。あまりに小さすぎて、光魔法でも治せなかった様だ。
「あの、このていどなら明日にでもしぜんに治ると思いますが……」
「……でも……。でも、わたし、初めてだったから」
「初めて?」
「……だれかを、ケガさせたの……」
先ほどまで不機嫌に歪んでいた瞳に、再びうるりと涙が浮かぶ。驚いたアイテールが思わず目を逸らすと、クリスティアのシーツを強く握りしめている小さな手が視界に入った。
――目の前で人が高所から落下するところを見てしまったのだ。相当怖い思いをしたのだろう。
「……クリス、ティア、さま……」
「……いたい、よね。ごめんなさい……」
ふるふると震えながら何度も謝罪をしてくる綺麗な顔立ちの小さい女の子に、アイテールの中に急に現れた社会人としての記憶が蘇る。
そういえば、ぼく……いや、私にも年の離れた妹がいたっけ……。
「もう、さほど痛くありません。……きちんと謝れて、クリスさまはえらいですね」
そのままポンポンと頭を撫でると、クリスティアの震えが止まった。しまった、流石に同い年の男の子に頭を撫でられるのは嫌だったかと目を逸らし手を離す。
「し、失礼しました……!」
「……クリスって、よんでくれた……」
喜びを隠せていないその声色に驚き正面を向くと、瞳をキラキラさせ撫でられた頭を嬉しそうに押さえるクリスティアと目が合う。
「……うれしかった、けどさまはいらない」
「……いえその、ですからそれは……」
再び押し問答だ。
「アイテール、くん。……じゃあこうしよう」
いいことを思いついたと言いたげな自慢げな顔を隠しもせず、クリスティアが人差し指を立てた。嫌な予感がして思わずアイテールはぶるりと震えた。
0
あなたにおすすめの小説
α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。
宵のうさぎ
BL
異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。
しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。
漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。
「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」
え、後天的Ω?ビッチング!?
「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」
この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!
騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
※未完
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる