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おうち帰りたい

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5歳 カルペ・ディエムを繰り返して

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「……光魔法で傷は塞がりましたが、まだ無理はなさらない方がよろしいでしょう。わたくしはイベリス男爵様とご主人様をお呼びいたします。……いいですか、くれぐれも安静になさっていてください」

 側に控えていた、年老いたメイドがそう言って立ち上がる。すっと片手を上げ合図をすると、心配そうにアイテールを囲んでいた3人ほどのメイドも一斉に壁際へ下がった。変わらず顔を覗き込んでいるのはクリスティアのみになる。

「……」
「…………あの、えと……クリス……ティアさま。どうかお気になさらないでください。ぼくの力が弱かったのが悪いので、クリス……ティアさまがせきにんを感じる事では……」

 どうにもやりにくいと感じながら、アイテールは安心させる様に笑みを深めた。思い出したもう一つの記憶によると、ゲームの中で目の前の少女は「クリス」と言う愛称で呼ばれていた。どうしてもクリスティアよりクリスと出てしまうのはファンとして当然なのだろうか。

「……せきにん……」

 先程からメイドはクリスのことをティア様と呼んでいた。ゲーム本編では言及されないが、恐らくクリスティアは一般的にはティアと言う愛称で呼ばれているのだろう。そういえば彼女の兄の名前はクリストファーで、クリスと呼ぶと呼び分けがつかない。ゲームでアイテールがクリスと呼んでいたのは主人公の名前変更ができるシステムの関係だと思っていたが、咄嗟に「ティア」と呼ばないようになのかもしれない。
 それにしても、とアイテールは顎に手を当てた。今まで当たり前のように過ごしてきたここがゲームの中の世界で、自分もゲームのキャラで。今後の身の振り方も含めて、時間をとって一旦整理した方がいいだろう。早くこの屋敷から解放されて1人になりたい。

「……せきにん……せきにんを……。取らなきゃ……『キズモノ』にしてしまったから……」
「……あの……クリス、ティアさま……? 先程から何を……」

 ぶつぶつとアイテールを見つめながら何かを言っていたクリスティアは、ぱちりと一度瞬きをすると覚悟を決めた様にしっかりとした口調で告げる。

「クリス、でいい」
「……はい……?」
「さっきから、わたしのこと……クリスって呼ぼうとしてた……」
「……ああ、いやあの、ですが……。ぼくはだんしゃく家の三男で、クリスティア様はこうしゃく家のおじょうさまです。名前を呼び捨てになど……それもあいしょうで呼ぶとなると、周りからなんと思われるか……」

 お気持ちだけありがたくちょうだいします、とにっこり微笑みながら続けたアイテールに、クリスティアは綺麗な顔をこれでもかと言うほど歪めた。眉間に皺が寄り頬は風船の様に膨らんでいる。

「わたしは、アイテール……くん? のことを『キズモノ』にしてしまった」
「……『キズモノ』……?」

 まるで嫁入り前の女の子の様な言種に、何処かケガが残っているのかと顔を触りながら確認する。目立った傷はない。

「おでこ」
「……おでこ?」

 言われて前髪を捲り触ってみると、たしかに小さくはあるが傷跡が残っていた。あまりに小さすぎて、光魔法でも治せなかった様だ。

「あの、このていどなら明日にでもしぜんに治ると思いますが……」
「……でも……。でも、わたし、初めてだったから」
「初めて?」
「……だれかを、ケガさせたの……」

 先ほどまで不機嫌に歪んでいた瞳に、再びうるりと涙が浮かぶ。驚いたアイテールが思わず目を逸らすと、クリスティアのシーツを強く握りしめている小さな手が視界に入った。
 ――目の前で人が高所から落下するところを見てしまったのだ。相当怖い思いをしたのだろう。

「……クリス、ティア、さま……」
「……いたい、よね。ごめんなさい……」

 ふるふると震えながら何度も謝罪をしてくる綺麗な顔立ちの小さい女の子に、アイテールの中に急に現れた社会人としての記憶が蘇る。
 そういえば、ぼく……いや、私にも年の離れた妹がいたっけ……。

「もう、さほど痛くありません。……きちんと謝れて、クリスさまはえらいですね」

 そのままポンポンと頭を撫でると、クリスティアの震えが止まった。しまった、流石に同い年の男の子に頭を撫でられるのは嫌だったかと目を逸らし手を離す。

「し、失礼しました……!」
「……クリスって、よんでくれた……」

 喜びを隠せていないその声色に驚き正面を向くと、瞳をキラキラさせ撫でられた頭を嬉しそうに押さえるクリスティアと目が合う。

「……うれしかった、けどさまはいらない」
「……いえその、ですからそれは……」

 再び押し問答だ。

「アイテール、くん。……じゃあこうしよう」

 いいことを思いついたと言いたげな自慢げな顔を隠しもせず、クリスティアが人差し指を立てた。嫌な予感がして思わずアイテールはぶるりと震えた。
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