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5歳 カルペ・ディエムを繰り返して
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今日もさわやかな天気が広がっていた。雲一つないご機嫌な色をしている青空が、太陽の周りを嬉しそうに彩っている。暖かな太陽の光と冷たい風。絶好の訓練日和だ。
アイテールが訓練場に向かうと、既に2人は準備を終わらせていた。クリスティアはさらりとした髪を頭の上で邪魔にならないよう簡素に纏め、白いシャツにハイウエストの黒いパンツ、膝下までのヒールのないブーツを履いている。アイテールと背格好があまり変わらないので、予備の訓練用服を貸しているのだ。髪飾りは勿論フリルや刺繍の一つもない簡素な格好は、人形のような美しく繊細な顔に全く似合わない。
「おくれて申し訳ございません。本日もよろしくおねがいします」
「おねがい、します」
「いや、時間通りだぜ。それにしてもお嬢ちゃんも懲りねえよなぁ。アイテール坊ちゃん、いつか追い越されちまうんじゃねえのか? がっはっは!」
武術が何よりも大事だとされているイベリス家は、剣術の講師は代々有名な人物を雇っている。この豪快な講師も、元は王立騎士団の1隊を纏める隊長だった。小麦色の肌に丸めた頭、鋭い目つき、190は超える大柄な体格は現役時代から全く変わっていないと言う。右目に大きく入った傷が無ければ、今も王国で部下を叱咤激励しながら街を守っていたことだろう。除隊してからしばらくは騎士団学校で若手を育てていたらしいが、昔からの悪友であるイベリス男爵から声をかけられ今に至ると聞いている。
「まずは手馴しの素振りからだ。嬢ちゃん……は置いておいて、坊ちゃんはしっかり課題、やってきたか?」
「はい、もちろんです!」
剣を振る姿勢を正しく思い出すために、前回課題と評して素振り200回をやるようにと言われていた。落下の怪我でしばらく講義を休んでいたアイテールは、今までの勘を取り戻すべく毎日真面目に勤しんでいる。家の事は勿論だが、来るべき王立士官学校への入学、世界の危機のためだ。200と言わず300回は夢中で振っていた。
よしじゃあ成果を見せてみろと言われたので、頷き剣を握った時、隣にいたクリスティアがすっと手を上げる。
「わたしもやってきた」
だからわたしもみてほしい。とアイテールと同じ構えを取った。
「……え?」
「……は?」
思わず、二人とも固まって動けなくなる。
「…………え、っと……? クリス、家にもぎとう……あるの?」
何で強制されていないクリスティアもやったのか、本当に200回もできたのか、そもそも過保護そうな父親に何も言われなかったのか……。言いたいことが浮かんで消えていくうちに、アイテールが口に出せたのは全く関係なさそうな疑問だった。そこじゃないだろ、と講師が苦笑いを浮かべる。
「ううん。おとうさまに買ってもらった。……ちゃんとたくさんつかってる」
ほら、とクリスティアが掌を広げて見せた。
子供特有の柔らかで滑らかな肌を想像していたアイテールは、沢山の皮剥けや剣だこができたそれを見て息を呑んだ。既に所々皮が硬くなっている。剣の稽古は3日に1回、クリスと共に受けるようになってまだだったの3回だ。今はまだ剣を振るより基礎体力作りが大半の講義だけで、ここまでの状態になるとは思えない。
「……は、はは……嬢ちゃん、お前凄いな……」
褒めると言うよりは若干引いている講師に、アイテールは苦笑した。全く同じ気持ちだ。
「すごくない。……アイはもう、かわが固くなってる。わたしもはやくそうなればいいのに」
「ぼくは何年かやりつづけてるから……」
「それより嬢ちゃん、痛くねえのかそれ。光魔法かけてやろうか?」
一部の痛み止めは光魔法の初歩も初歩で、全く適性のない人間以外なら誰でもできる。この豪快な見た目の講師も流石にかけられるらしい。
「……だいじょうぶ。ほんとうにけんがにぎれなくなったら、その時に使う」
「……あっはっは、そうか! 小綺麗な見た目と違って豪快な性格してんだなぁ、お前」
「……クリス、ほんとにだいじょうぶ……?」
「うん」
傷はかなり痛そうだが、彼女は本当にけろりとした表情をしていた。表情が読み取りづらいのは父親の血を受け継いでいるのだろうか。
「……戦いにおいては表情1つで有利不利が決まっちまう。嬢ちゃんのその……無表情……いや、鉄仮面……いや、ポーカーフェイス! は役立つと思うぜ!」
「むひょうじょう……」
「てっかめん……」
口を滑らせた講師は誤魔化すように大きな声で笑っている。気にしないほうがいいよとアイテールがクリスティアに声をかけようとしたが、予想に反して彼女は目を輝かせていた。
「わたし、けんの才能、ある?」
「ああ、嬢ちゃんはセンスと相手に突っ込んでく度胸がピカイチだ。だが力と身体の大きさはどうにもなぁ……」
良くも悪くもはっきりとモノを言う彼にアイテールは内心冷や汗をかいている。クリスティアが剣術など全く必要ない公爵家のお嬢様と言うこともそうだが、メキメキ上達してローズルートに突入してしまったらどうする。
「力、からだ……。どうすればいい」
「そうだなぁ……力は何より基礎体力作りだ。体力もつけなきゃいけねえ」
「木登りなら、とくい」
嫌な思い出が蘇り、アイテールはピクリと肩を動かした。
木登りに誘われた時は何事かと思ったが、周りも止めなかった上今の発言。きっと日常的に登っていたに違いない。本当に段違いなじゃじゃ馬である。
「あっはっは、そうか木登りか」
勿論例の一件を聞いている講師が、生暖かい目でアイテールを見てきた。……勘弁してくれ。
「からだはどうすればいい」
「ん? あー……。お嬢ちゃんは女の子だから何ともなぁ……。飯をたらふく食って良く寝る、これに限るな! 後は勉強や魔法も疎かにしちゃいけねえ。戦いに使えることもあるからな」
「ごはん……。べんきょう……。まほう。わかった」
じゃあくんれんのつづき、やろう。と剣を構えたクリスティア。
「……いやぁ、坊ちゃん、本当に抜かれちまわねえようにがんばれよ……」
「……はい……」
どうにも嫌な予感が止まらない。
背筋をぴっしり伸ばし、お手本のように綺麗な動きで剣を振り下ろす彼女を見ながら、アイテールは数年後を思い嘆いた。
アイテールが訓練場に向かうと、既に2人は準備を終わらせていた。クリスティアはさらりとした髪を頭の上で邪魔にならないよう簡素に纏め、白いシャツにハイウエストの黒いパンツ、膝下までのヒールのないブーツを履いている。アイテールと背格好があまり変わらないので、予備の訓練用服を貸しているのだ。髪飾りは勿論フリルや刺繍の一つもない簡素な格好は、人形のような美しく繊細な顔に全く似合わない。
「おくれて申し訳ございません。本日もよろしくおねがいします」
「おねがい、します」
「いや、時間通りだぜ。それにしてもお嬢ちゃんも懲りねえよなぁ。アイテール坊ちゃん、いつか追い越されちまうんじゃねえのか? がっはっは!」
武術が何よりも大事だとされているイベリス家は、剣術の講師は代々有名な人物を雇っている。この豪快な講師も、元は王立騎士団の1隊を纏める隊長だった。小麦色の肌に丸めた頭、鋭い目つき、190は超える大柄な体格は現役時代から全く変わっていないと言う。右目に大きく入った傷が無ければ、今も王国で部下を叱咤激励しながら街を守っていたことだろう。除隊してからしばらくは騎士団学校で若手を育てていたらしいが、昔からの悪友であるイベリス男爵から声をかけられ今に至ると聞いている。
「まずは手馴しの素振りからだ。嬢ちゃん……は置いておいて、坊ちゃんはしっかり課題、やってきたか?」
「はい、もちろんです!」
剣を振る姿勢を正しく思い出すために、前回課題と評して素振り200回をやるようにと言われていた。落下の怪我でしばらく講義を休んでいたアイテールは、今までの勘を取り戻すべく毎日真面目に勤しんでいる。家の事は勿論だが、来るべき王立士官学校への入学、世界の危機のためだ。200と言わず300回は夢中で振っていた。
よしじゃあ成果を見せてみろと言われたので、頷き剣を握った時、隣にいたクリスティアがすっと手を上げる。
「わたしもやってきた」
だからわたしもみてほしい。とアイテールと同じ構えを取った。
「……え?」
「……は?」
思わず、二人とも固まって動けなくなる。
「…………え、っと……? クリス、家にもぎとう……あるの?」
何で強制されていないクリスティアもやったのか、本当に200回もできたのか、そもそも過保護そうな父親に何も言われなかったのか……。言いたいことが浮かんで消えていくうちに、アイテールが口に出せたのは全く関係なさそうな疑問だった。そこじゃないだろ、と講師が苦笑いを浮かべる。
「ううん。おとうさまに買ってもらった。……ちゃんとたくさんつかってる」
ほら、とクリスティアが掌を広げて見せた。
子供特有の柔らかで滑らかな肌を想像していたアイテールは、沢山の皮剥けや剣だこができたそれを見て息を呑んだ。既に所々皮が硬くなっている。剣の稽古は3日に1回、クリスと共に受けるようになってまだだったの3回だ。今はまだ剣を振るより基礎体力作りが大半の講義だけで、ここまでの状態になるとは思えない。
「……は、はは……嬢ちゃん、お前凄いな……」
褒めると言うよりは若干引いている講師に、アイテールは苦笑した。全く同じ気持ちだ。
「すごくない。……アイはもう、かわが固くなってる。わたしもはやくそうなればいいのに」
「ぼくは何年かやりつづけてるから……」
「それより嬢ちゃん、痛くねえのかそれ。光魔法かけてやろうか?」
一部の痛み止めは光魔法の初歩も初歩で、全く適性のない人間以外なら誰でもできる。この豪快な見た目の講師も流石にかけられるらしい。
「……だいじょうぶ。ほんとうにけんがにぎれなくなったら、その時に使う」
「……あっはっは、そうか! 小綺麗な見た目と違って豪快な性格してんだなぁ、お前」
「……クリス、ほんとにだいじょうぶ……?」
「うん」
傷はかなり痛そうだが、彼女は本当にけろりとした表情をしていた。表情が読み取りづらいのは父親の血を受け継いでいるのだろうか。
「……戦いにおいては表情1つで有利不利が決まっちまう。嬢ちゃんのその……無表情……いや、鉄仮面……いや、ポーカーフェイス! は役立つと思うぜ!」
「むひょうじょう……」
「てっかめん……」
口を滑らせた講師は誤魔化すように大きな声で笑っている。気にしないほうがいいよとアイテールがクリスティアに声をかけようとしたが、予想に反して彼女は目を輝かせていた。
「わたし、けんの才能、ある?」
「ああ、嬢ちゃんはセンスと相手に突っ込んでく度胸がピカイチだ。だが力と身体の大きさはどうにもなぁ……」
良くも悪くもはっきりとモノを言う彼にアイテールは内心冷や汗をかいている。クリスティアが剣術など全く必要ない公爵家のお嬢様と言うこともそうだが、メキメキ上達してローズルートに突入してしまったらどうする。
「力、からだ……。どうすればいい」
「そうだなぁ……力は何より基礎体力作りだ。体力もつけなきゃいけねえ」
「木登りなら、とくい」
嫌な思い出が蘇り、アイテールはピクリと肩を動かした。
木登りに誘われた時は何事かと思ったが、周りも止めなかった上今の発言。きっと日常的に登っていたに違いない。本当に段違いなじゃじゃ馬である。
「あっはっは、そうか木登りか」
勿論例の一件を聞いている講師が、生暖かい目でアイテールを見てきた。……勘弁してくれ。
「からだはどうすればいい」
「ん? あー……。お嬢ちゃんは女の子だから何ともなぁ……。飯をたらふく食って良く寝る、これに限るな! 後は勉強や魔法も疎かにしちゃいけねえ。戦いに使えることもあるからな」
「ごはん……。べんきょう……。まほう。わかった」
じゃあくんれんのつづき、やろう。と剣を構えたクリスティア。
「……いやぁ、坊ちゃん、本当に抜かれちまわねえようにがんばれよ……」
「……はい……」
どうにも嫌な予感が止まらない。
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