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9歳 サルウェ、愛しき子よ
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「お、お母様!?」
「……お母様。お久しぶりです」
その勢いのまま双子を抱き締め頬擦りをしている女性に、アイテールは目を丸くする。
「れ、レシュノルティア公爵夫人!?」
「あら、あなたが噂のアイテールくんね。うふふ、こんにちは!」
からっとした真夏の太陽のような明るい笑顔を向けられたが、アイテールの頭は大混乱だ。
目に眩しい濃い赤毛を緩く結び、そばかすの浮いた愛嬌の溢れる公爵夫人の顔は、嬉しそうにこれでもかと綻んでいる。くるりとした大きな瞳はオレンジで、服装は動きやすさ重視のシンプルなドレス。高そうな生地だが所々にカラフルな絵の具が飛び散っているのが見えて、アイテールは心の中で悲鳴を漏らした。
レシュノルティア公爵と、クリストファーと、クリスティアと、目の前の公爵夫人。4人が血のつながった家族という事実に、アイテールは固まった。母親の遺伝子が2人に全く引き継がれていない。
「あ、お、お初にお目にかかります。イベリス男爵の三男、アイテールと申しま、」
「もう、堅苦しい挨拶は要らないわ! ここは社交界なんかじゃなくて、私達の家。今は一家団欒の時間なんだもの! ね?」
「は、はい……」
公爵夫人ににっこりと至近距離で明るく微笑まれ、思わずたじろいだ。
「2人共、手紙で貴方のことずっと書いているの。仲がいいお友達ができてほんと良かったわ! これからもあの子達のこと、よろしくね」
そう言って、夫人はバチコンとウインクをした。苦笑いを浮かべながらも「もちろんです」と頷く。
手紙のことは勝手にバラされたらしく、後ろで兄妹が珍しく顔を赤くして何やら言っている。彼女は全く意に介していないが。母は強しとはよく言った物だ。
「それにしても、トファーもティアも一段と可愛くなっちゃって! 後でスケッチしてもいい?」
スケッチ、と聞いてすっと2人の赤かった顔から表情が消えた。
「……暇だから、嫌」
「僕もずっと同じ体制でずっといるのは……」
「やだ、お母さん振られちゃったわ~! じゃあアイテールくんにしようかな!」
「……えっ」
兄妹の反応からして良いものではなさそうだ。なるべく波風立たずに断らねば……。
「ええと、あの……」
「……シーア。それより話すべきことがあるだろう」
ジリジリとアイテールににじり寄る妻を嗜めたレシュノルティア公爵が、ドアの斜め後ろを向いた。渡りに船である。
「……あら、そうだった。すっかりはしゃいじゃったわ! ……紹介するわね。こちらテディ。今日から貴方達兄妹の弟よ!」
恐る恐ると言った表情で部屋の中を覗くその少年を見た時、アイテールは心の中で叫んだ。
……すっかり忘れてた……!
テディ・レシュノルティア。マガつるの攻略対象の1人だ。
彼はレシュノルティア夫人が養子として連れてきた孤児である。くるりとした栗色の髪に、目尻が甘く垂れ下がった薄紅の瞳。そして特徴的な八重歯。身長は低めで、作中で何度も可愛らしい見た目と言及されている。そんな可憐な容姿に似合わず、性格は天才肌の変人と言うまさに芸術家で、部屋に引きこもり絵ばかり描いていた。士官学校に入学する際に、同じ屋敷に住んでいるにもかかわらずクリスティアとおよそ7年ぶりに顔を合わせる。自分の興味がないことはとことん無頓着で、姉が兄として入学する話すら聞かなかった。王都から生まれ育った孤児院を離れ養子として連れてこられたことも、絵が描ければそれでよかったと話すくらいである。
レシュノルティア公爵夫人が画家と言うことを聞いた際に、何か忘れていることがあるようなと引っ掛かってはいたのだがまさかこの事とは。あまりの平和ボケ具合に、アイテールは思わず頭を抱える。
「王都でこの子の描いた絵を見た時、ビビッと来ちゃって! もう絶対、すっごい才能があるわ!」
「そうなのですね。えっと……よろしく、テディ。僕はクリストファー。君の兄だよ」
ベッドから降りることができないクリストファーは、その場でにっこりとテディに笑いかける。
テディはパチリと大きな瞳を一度瞬かせると、さっとレシュノルティア公爵夫人の後ろに隠れた。
「あらあら。トファー、ごめんなさいね。この子もティアみたいに、人見知りみたいなの」
可愛くてたまらない、と言う表情を隠そうともせずに、夫人がこちらを見てきた。クリスティアもテディのようにアイテールの後ろに隠れている。
ちょうどいい、ついでに自分も挨拶をしよう。
「テディ様。クリス……クリスティアとクリストファー様の友人の、アイテール・イベリスと申します。こちらへはよく訪れるので、仲良くしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします」
……まあ、この子はこの後すぐ部屋に引きこもり、その後会うことはなくなるけど……。
夫人の、簡素ながらもしっかりふわふわと膨らんでいるドレスに半分以上体を隠したテディを見ながら、アイテールは目を細めた。
「アイテールくん、テディともお友達になってあげてね」
「勿論です。……クリスも、ほら挨拶しないと」
「……クリスティア。よろしく……」
クリスティアがおずおずと、アイテールに隠れつつもテディに手を伸ばした。握手をしたいらしい。
「……」
テディは、さっとさらに隠れてしまった。
「……まあ。ティア、振られちゃったわね」
「……難しい……」
姉になるの、難しい……。と真剣な表情で呟いたクリスティアに、クリストファーが安心させるように笑いかけた。
「僕もティアとは、兄妹と言うより双子だから……ちゃんとしたお兄さんになるのは初めてだよ。一緒に頑張ろう」
「お兄様」
「俺は末っ子だけど……いつでも頼ってくれ」
「……うん」
頼ってくれ、と言ったはいいものの。
――これでテディが部屋に引きこもらなくなった場合、ストーリーの流れに何か支障をきたしてしまうのではないだろうか。
ちくりと罪悪感を胸に抱きながらも、クリスティアを安心させるようににっこりと笑った。
「……お母様。お久しぶりです」
その勢いのまま双子を抱き締め頬擦りをしている女性に、アイテールは目を丸くする。
「れ、レシュノルティア公爵夫人!?」
「あら、あなたが噂のアイテールくんね。うふふ、こんにちは!」
からっとした真夏の太陽のような明るい笑顔を向けられたが、アイテールの頭は大混乱だ。
目に眩しい濃い赤毛を緩く結び、そばかすの浮いた愛嬌の溢れる公爵夫人の顔は、嬉しそうにこれでもかと綻んでいる。くるりとした大きな瞳はオレンジで、服装は動きやすさ重視のシンプルなドレス。高そうな生地だが所々にカラフルな絵の具が飛び散っているのが見えて、アイテールは心の中で悲鳴を漏らした。
レシュノルティア公爵と、クリストファーと、クリスティアと、目の前の公爵夫人。4人が血のつながった家族という事実に、アイテールは固まった。母親の遺伝子が2人に全く引き継がれていない。
「あ、お、お初にお目にかかります。イベリス男爵の三男、アイテールと申しま、」
「もう、堅苦しい挨拶は要らないわ! ここは社交界なんかじゃなくて、私達の家。今は一家団欒の時間なんだもの! ね?」
「は、はい……」
公爵夫人ににっこりと至近距離で明るく微笑まれ、思わずたじろいだ。
「2人共、手紙で貴方のことずっと書いているの。仲がいいお友達ができてほんと良かったわ! これからもあの子達のこと、よろしくね」
そう言って、夫人はバチコンとウインクをした。苦笑いを浮かべながらも「もちろんです」と頷く。
手紙のことは勝手にバラされたらしく、後ろで兄妹が珍しく顔を赤くして何やら言っている。彼女は全く意に介していないが。母は強しとはよく言った物だ。
「それにしても、トファーもティアも一段と可愛くなっちゃって! 後でスケッチしてもいい?」
スケッチ、と聞いてすっと2人の赤かった顔から表情が消えた。
「……暇だから、嫌」
「僕もずっと同じ体制でずっといるのは……」
「やだ、お母さん振られちゃったわ~! じゃあアイテールくんにしようかな!」
「……えっ」
兄妹の反応からして良いものではなさそうだ。なるべく波風立たずに断らねば……。
「ええと、あの……」
「……シーア。それより話すべきことがあるだろう」
ジリジリとアイテールににじり寄る妻を嗜めたレシュノルティア公爵が、ドアの斜め後ろを向いた。渡りに船である。
「……あら、そうだった。すっかりはしゃいじゃったわ! ……紹介するわね。こちらテディ。今日から貴方達兄妹の弟よ!」
恐る恐ると言った表情で部屋の中を覗くその少年を見た時、アイテールは心の中で叫んだ。
……すっかり忘れてた……!
テディ・レシュノルティア。マガつるの攻略対象の1人だ。
彼はレシュノルティア夫人が養子として連れてきた孤児である。くるりとした栗色の髪に、目尻が甘く垂れ下がった薄紅の瞳。そして特徴的な八重歯。身長は低めで、作中で何度も可愛らしい見た目と言及されている。そんな可憐な容姿に似合わず、性格は天才肌の変人と言うまさに芸術家で、部屋に引きこもり絵ばかり描いていた。士官学校に入学する際に、同じ屋敷に住んでいるにもかかわらずクリスティアとおよそ7年ぶりに顔を合わせる。自分の興味がないことはとことん無頓着で、姉が兄として入学する話すら聞かなかった。王都から生まれ育った孤児院を離れ養子として連れてこられたことも、絵が描ければそれでよかったと話すくらいである。
レシュノルティア公爵夫人が画家と言うことを聞いた際に、何か忘れていることがあるようなと引っ掛かってはいたのだがまさかこの事とは。あまりの平和ボケ具合に、アイテールは思わず頭を抱える。
「王都でこの子の描いた絵を見た時、ビビッと来ちゃって! もう絶対、すっごい才能があるわ!」
「そうなのですね。えっと……よろしく、テディ。僕はクリストファー。君の兄だよ」
ベッドから降りることができないクリストファーは、その場でにっこりとテディに笑いかける。
テディはパチリと大きな瞳を一度瞬かせると、さっとレシュノルティア公爵夫人の後ろに隠れた。
「あらあら。トファー、ごめんなさいね。この子もティアみたいに、人見知りみたいなの」
可愛くてたまらない、と言う表情を隠そうともせずに、夫人がこちらを見てきた。クリスティアもテディのようにアイテールの後ろに隠れている。
ちょうどいい、ついでに自分も挨拶をしよう。
「テディ様。クリス……クリスティアとクリストファー様の友人の、アイテール・イベリスと申します。こちらへはよく訪れるので、仲良くしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします」
……まあ、この子はこの後すぐ部屋に引きこもり、その後会うことはなくなるけど……。
夫人の、簡素ながらもしっかりふわふわと膨らんでいるドレスに半分以上体を隠したテディを見ながら、アイテールは目を細めた。
「アイテールくん、テディともお友達になってあげてね」
「勿論です。……クリスも、ほら挨拶しないと」
「……クリスティア。よろしく……」
クリスティアがおずおずと、アイテールに隠れつつもテディに手を伸ばした。握手をしたいらしい。
「……」
テディは、さっとさらに隠れてしまった。
「……まあ。ティア、振られちゃったわね」
「……難しい……」
姉になるの、難しい……。と真剣な表情で呟いたクリスティアに、クリストファーが安心させるように笑いかけた。
「僕もティアとは、兄妹と言うより双子だから……ちゃんとしたお兄さんになるのは初めてだよ。一緒に頑張ろう」
「お兄様」
「俺は末っ子だけど……いつでも頼ってくれ」
「……うん」
頼ってくれ、と言ったはいいものの。
――これでテディが部屋に引きこもらなくなった場合、ストーリーの流れに何か支障をきたしてしまうのではないだろうか。
ちくりと罪悪感を胸に抱きながらも、クリスティアを安心させるようににっこりと笑った。
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