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おうち帰りたい

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9歳 サルウェ、愛しき子よ

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「……隣の部屋、行こう」

 そう言い終える前に、クリスティアはテディの部屋の隣のドアを開けた。
 空き部屋だろうか。豪奢な家具はいくつか配置されているが、生活感は全くない。

「……クリス? 何を……」

 クリスティアはアイテールの手を離し、窓を開けた。風が先ほどよりもかなり強くなっていて、雲はもうすぐそこまで迫っていた。どんよりとした雲に青は追いやられてしまったらしい。今は灰色が空を塗りつぶしている。
 窓の外は簡素なバルコニーになっていた。「……行けそう」と呟き手すりに手をかけたクリスティアを、アイテールは慌てて彼女の腕を掴み止める。

「く、クリス!? まさか君、」
「ここ、行けそう」

 ここ、と指差した先は手すりの外の壁である。

「いや、いやいや、行けないから⁉︎」

 たしかに壁は足をかける出っ張りがあるようだ。近くには木もあり、万が一手を離してしまっても地面にそのまま叩きつけられることはないだろう。
 だが、ここは3階だ。

「セバスチャンに言って、合鍵をもらってこよう。きっとすぐ手配してもらえる」
「お屋敷、広い。合鍵、持って来てもらうより……こっちの方が、早い」
「いや、危険すぎる。早さに釣り合わないくらい危険すぎるだろ……!」
「じゃあアイは、見てれば良い」

 するりと掴まれている手から逃げ、クリスティアはその勢いのまま手すりを超えた。しっかりと壁を掴み、脚をかける。ドレスの裾がふわりと風で舞い上がった。
 この部屋のバルコニーとテディの部屋のバルコニーは、およそ1メートルだ。じりじりと進むクリスティアに、アイテールは見ていられなくなった。

「ああもう、俺もいくからな……!」

 できるだけ下を見ないように、手すりを乗り越える。

「ひえっ……」

 思ったよりも風が強い。だが足をかけている場所は安定していて、よっぽどのことがなければ落ちることはなさそうだ。
 一歩、一歩。お互い無言で集中しながら進んでいく。

「……よし」

 クリスティアは無事に向こう側へ辿り着いたようだ。不安そうにこちらを見たが、「テディ様の様子を見てきてくれ」と声をかけると頷き窓の方へ駆けて行った。
 これ、テディに窓から来ましたなんて言ったらなんで思われるだろうか……。というか、こんなことが知れたらレシュノルティア公爵にすっごく怒られるのでは……。
 今更そんなことを思いながら、アイテールもバルコニーの手すりへ辿り着いた。地面を足につけ、ようやく一息つく。4年前、木から落ちた時のことを思い出しそうだった。
 げんなりしていると、ぽつりと肩に雫が落ちた。

「雨……」

 降ってきてしまったらしい。壁を伝っている時でなくて本当によかった、とアイテールは胸を撫で下ろす。
 お昼時だと言うのに、分厚い雨雲が太陽を隠してしまっているらしく辺りはほんのり薄暗い。空いっぱいに雨雲は広がっているが、何時ごろ止むのだろうか。

「……そうだ。クリス、テディ様は――、」
「テディ!」

 悲鳴混じりの、クリスティアの声が聞こえた。
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