BLルートは絶対に回避してみせます!

おうち帰りたい

文字の大きさ
13 / 23
9歳 サルウェ、愛しき子よ

6

しおりを挟む
「クリス!?」
「あ、アイ、どうしよう、テディが……!」

 急いで窓によると、2人の姿が目に飛び込んできた。
 隣の部屋と同じようなレイアウトをしているそこの、ドア付近に2人はいた。こちらに聞こえるほどヒューヒューと大きな呼吸音を立てながらぐったりとしているテディ。必死に声をかけているクリスティア。

 ――ひと目見ただけで、ただどこではないと分かる状況だった。

「テディ、しっかりして、テディ」
「テディ様!」

 アイテールが駆け寄ったことで、クリスティアは少し安心したようだ。「部屋に入ったら、テディが、倒れてて、」と拙いながらも説明をする。

「……クリス、人を呼んできてくれ」

 クリストファーの体調は常に安定しない為、この屋敷は光魔法使いの医者が常駐している。一刻も早く見せなくては。足の速さも、屋敷の誰に声をかければ良いのか分かっているのも、クリスティアの方が適任だ。

「分かった」

 自身も青い顔をしながら、クリスティアは走り出した。
 クリスティアの姿が見えなくなってからも、アイテールはテディの名前を呼びかけ続ける。

 ――体は触れても良いのだろうか? 楽な体勢は?

 前世でも応急処置の経験などない。

「魔法が使えたら良かったのに……!」

 アイテールはまだ9歳で、魔法の訓練が始まるのは来年だ。
 焦ったような声が漏れてしまった自分に、しまったと心の中で舌打ちをする。こちらが慌ててしまってはダメだ。落ち着いて対処をしなければ。

「テディ様、しっかりしてください。今クリスがお医者様を呼んでくれてます。もう少し、もう少しです。テディ様」

 安心させるように、アイテールは柔らかい声色を意識して声をかける。意識して声を絞り出したが、語尾が少し震えてしまった。

「テディ様」

 荒い呼吸は掠れていてリズムが安定していない。ぎゅっと閉じている目尻に涙を浮かべているが、両手はだらんとしていて身体を押さえている様子はなかった。どこかが痛むわけではないらしい。

「……もしかして、これ……過呼吸?」

 前世でも一度見たことがあった。あれはまだ学生の時。体育の授業で長距離を走り終えた友人が、息を荒くして苦しそうにしたのだ。その時はすぐ側にいた教師が対応をしてくれたが、確か――。

「テディ様、俺の声に合わせて呼吸してみてください。できますか?」

 返事はない。だが迷っている時間もない。

「吸って……、大きく吸って下さい」

 ぜいぜいと苦しそうな息を何度か繰り返した後、すう、と小さい呼吸音が響く。こちらの声が聞こえるくらいには意識があるらしい。

「吐きましょう。ゆっくり、時間をかけて」

 今度ははぁ、と息を吐く音。拙いながらも、大きい深呼吸ができた。

「上手です! もう一度やりましょう。吸って――」

 今度は途中で途切れることなく、綺麗に吸うことができた。吐いて、と言う指示にもしっかり対応している。
 安定しつつある呼吸を何度か繰り返していると、苦しそうにしながらもテディが目を開けた。涙に濡れた大きな薄紅が、ぼんやりとこちらを見つめている。
 手は触っても良いだろうか。いや、過呼吸の時は手足が痺れてしまうと教師が言っていた。なら……。
 ぽん、と頭に手を置きゆっくりと撫でる。慎重に、あくまで安心させる為に。

「テディ様、きっともう大丈夫です。深呼吸を続けましょう」

 意識が戻ってきたテディと深呼吸を3度ほど繰り返していると、部屋の外から大勢の足音が聞こえてきた。

「アイ、テディ……! お医者様、呼んできた」
「テディ様……! なんと……!」

 開けたままだった扉から、クリスティアと医者、何人かの使用人たちが入ってくる。

 よ、良かった……。

 医者はすぐにテディに駆け寄り、脈拍を調べている。息は先ほどよりしっかりしているが、苦しそうな表情は変わっていない。

「……あの、テディは……」
「大丈夫。大きな病気ではありません。過呼吸……過度なストレスで息がうまく吸えなくなってしまったようですね。……今は呼吸も安定しています。すぐに良くなりますよ」

 とりあえずベッドに運びましょう、と続けた医者と使用人達の邪魔にならないよう、アイテールは扉のそばに立っているクリスティアに駆け寄った。
 いつも涼しい顔で剣を振っている彼女が、息を乱している。肌も少し汗ばんでいるようだ。そして何より、目尻にはまだ乾いていない涙の跡が浮いている。

「クリス」
「アイ、テディの様子、見ててくれて……ありがとう。……私が、残ってたら、たぶん……何もできなかった……から」
「クリス……。クリスこそ、みんなを呼んでくれてありがとう」
「うん」

 全く気がつかなかったが、雨は勢いを増していたらしい。窓を打つざあざあと言う音が2人の間に流れる。
 テディ・レシュノルティアは、部屋から出て来ないのではなく、出ることができなかったのではないだろうか。ドアへ歩み寄ると過度なストレスがかかり、今のように人知れず過呼吸を繰り返していたのではないか。
 もしそうだとしたら。助けられて本当に良かったと、アイテールは心の底から思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ
BL
 異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。  しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。  漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。 「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」  え、後天的Ω?ビッチング!? 「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」  この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!  騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

学園ものに転生した悪役の男について

ひいきにみゐる
BL
タイトルの通りにございます。文才を褒められたことはないので、そういうつもりで見ていただけたらなと思います。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
※未完 4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...