BLルートは絶対に回避してみせます!

おうち帰りたい

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9歳 サルウェ、愛しき子よ

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 数刻もせず、あんなに降っていた雨は雲をつれてどこかへ行ってしまったようだ。今は真っ黒に染まった夜空に、ぽつぽつと星まで見えている。
 日が落ちて少しした頃、テディの容体を知ったレシュノルティア公爵と公爵夫人はすぐに屋敷へ帰ってきた。服も髪も乱れてる様子を見るに、本当に何もかも放り出して馬車に乗ったようだ。

「テディ……ごめんね、屋敷にきたばっかりで……怖かったわよね……」
「い、いえ。ぼくの方こそ……心配、かけて……ごめんなさい。……おかさ、さま」
「……! テディ……!」

 夫人が目尻に涙を浮かべながら、ぎゅっとテディの手を握る。

「ティアとアイテールくんも……本当にありがとう」

 テディの容態は安定しており、数刻ほど睡眠をとった後は喋れるほどに回復した。2人が駆けつけた頃には上半身を起こし、軽い食事まで取っていたほどだ。

「いえ。こちらこそ……客室を貸していただいて、ありがとうございます」
「当然だ。君には本当に感謝してもしたりない」

 すっかり夜遅くなってしまった為、レシュノルティア公爵に「今日は泊まっていくと良い」と言われ、アイテールは甘えることにした。明日は剣の稽古がある為、クリスティアと共に朝早く屋敷を出る予定だ。

「テディ、トファーお兄様も……心配、してたから。元気になったら、会いに行こう」
「……うん……」

 弱々しくも頷いたテディに、クリスティアの纏う雰囲気が嬉しそうに華やいだ。

「あ、でも、明日……は、剣の稽古。……そうだ、テディ。テディも、剣……習えばいい」
「ええ!?」
「けん……ぼく……つよくなりたいです……」

 ぐ、と拳を握りしめたテディと、その心意気だと続けたクリスティア。公爵夫人は先ほどまで涙を浮かべていた筈だが、今はにこにこと微笑ましそうに笑みを浮かべている。

「……アイ、だめ?」
「だ、駄目ではない……と……思う……?」

 いずれ来たる最終戦に向けて、テディの実力を高めていくのも必要だろう。テディ・レシュノルティアが剣術を習っていたと言う設定はどこにもないが。

 ……もう、きっと、今更だろうなぁ……。

 許しが出た、と喜ぶクリスティアとテディ。2人を見て表情を和らげる公爵と、相変わらず温かな笑みを浮かべる公爵夫人。そして、自室で休んでいるクリストファー。嬉しそうな一家の姿を見ると、どうも断ることができなくなってしまう。
 ……どうやら自分は、知らない間にレシュノルティア家に甘くなっているらしい。

「アイ……、テール」

 おずおずと、テディにそう声をかけられる。

「? はい、なんでしょうか」
「……ぼく……もっと、つよくなりたい」
「はい、さっき聴きました。俺の家の講師様は厳しいですから、一緒に頑張りましょう」
「……うん。だから……その……」
「?」

 歯切れの悪いテディに、アイテールは首を傾げた。視界の隅では、公爵夫人が顔を赤くしながら口元を押さえこちらを見ている。なぜか乙女の表情だ。

「こ、こんどは、ぼくがアイテールを……まもるから」

 一世一代の告白をしているような表情に、さすがのアイテールも危機に気づいた。テディは顔をりんごのように赤く染め、モジモジと指を遊ばせながらこちらをじっと見ている。思わず顔が引き攣った。
 初恋泥棒だ、とボソリとクリスティアが呟くのが聞こえた。テディは確か7歳だ。流石に初恋ではないだろうと、現実逃避のツッコミを心の中で入れる。
 ……どう答えればいいのだろうか……。
 先程はレシュノルティア一家に甘いと言ったが、それとこれとは話が違う。勿論子供の勘違いには違いないが、彼は攻略対象なのだ。もし、万が一、ローズルートに入ってしまった時のために。もう二度とそんな気が起きないよう、ここでこっ酷く振っておくのが良いのではないか。
 仕方ない、可哀想だと思うけど……。やるか……。

「テディ様」
「……うん」
「……俺は……クリスには敵いませんが、男ですし……幼い頃からずっと剣術を鍛えてきています。なので、テディ様の助けは……そうですね、えっと……い、」

 隣から、鋭い冷気。

 ……ああ、デジャブ……。

 目を向けなくてもわかる。レシュノルティア公爵が、これでもかと自分に圧をかけている。かわいい息子のかわいい告白を、お前は断るのかと。
 だがアイテールにも譲れないものがあるのだ。平和になった世界で、家族やレシュノルティア一家に祝福されながら、小さな教会でかわいいお嫁さんと誓いを立てる。これだけはなんとしても譲れない。
 4年前は負けたが――、今は勝つ。いや、勝たねばならない。自身の貞操の為に。

「……い、いらない……ですので……!」

 言った。勝ったのだ。本編開始前にフラグを1つ摘み取ることができた。アイテールの心の中で、盛大にファンファーレが鳴り響く。
 そんなお祭り騒ぎな心の中とは裏腹に、横からさらに冷たさを増す冷気。温度差で風邪をひきそうだ。
 内心涙を浮かべながら、アイテールはテディの様子を見た。大きな薄紅の瞳はこぼれ落ちそうなほど開いており、ぽかんと口が空いている。作中でも特徴的だった八重歯は健在なようだ。

「……あの、テディ様……?」
「あらまあ。テディ……」
「……テディ、今、アイに振られ――」
「く、クリス!」

 ショックを受けている弟に追い打ちをかけようとする姉を嗜め、アイテールは不安そうにテディを見た。断ったはいいものの、大丈夫だろうか。これで再び部屋に閉じこもるようになってしまったら、今日の苦労が全て水の泡だ。

「…………か、」

 ポツリ。
 聞き逃してしまうほど小さな言葉を、彼はこぼした。

「……あの、テディ様?」
「……まえ、……か……」
「あの……?」
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