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8 白銀騎士団長アジュソー
王国白銀騎士団長アジュソー・リマリネ。天使のような柔らかな美貌とサクゼーナ地方にあるリマリネ伯爵家当主という地位から、とてもモテる人物だ。
ミルクティーベージュの髪と若葉色の瞳は優し気で、二十五歳という年齢は妙齢のお嬢様方に大人気だ。
白銀騎士団長アジュソーはまだ結婚していない。
来るもの拒まずなので優男のような印象も強いけど、戦になれば物凄く強い。『女装メイドは運命を選ぶ』情報だけど。
彼は主人公ラビノアの三人目の男だ。
その出会いは城下町!
主人公がエジエルジーンに出会った夜会の後日にある、町人主催のフェスティバルで出会う。フェスティバルは城下町の商店街から中央の大広場で行われて、サーカスや大道芸、屋台に夜の花火にと一般市民が盛り上がるお祭りだ。
主人公ラビノアは仕事の後に、屋台やお店で売られるお土産目当てに一人お城を外出する。
仕事仲間達は夜の当番の仕事があったので、ちょうど仕事明けになったラビノアが、お土産を頼まれて外出したのだ。
屋台や店舗で頼まれたお菓子や香水を買い込み、少し買い過ぎたかなと舌を出しながら早足に城へと帰宅する。
大広場には集まった人々がいて、皆んな夜空に浮かぶ花火を歓声と共に見上げていた。
そんな中には家族や恋人達の姿が見えて、一人性別を偽って働くラビノアは、少し悲しくなって早足になった。
誰にもバレてはいけないと思いながらも、王太子にバレてしまって不安が募る。しかもスキルを持っている事まで知られてしまった。黒銀騎士団長はスキルの事は黙っててくれると言ってくれたけど、今後どうなるか分からない。
俯いていたラビノアは、いつの間にか男達に囲まれていた事に気付いていなかった。
叫び声は花火の音に掻き消される。
逃げても追いかけてくる男達は、最近噂になっていた人攫いだろうかと考えながら、ラビノアは必死に走った。
背中に背負った皆んなへのお土産を捨てて走ろうか…、そう思った時、ラビノアと男達の間に飛び込んでくる人影があった。
王国白銀騎士団長アジュソーだ。
鎧を着ているとは思えない軽やかさで倒していく姿に、ラビノアは魅入ってしまう。
助太刀に来た騎士達も混じってあっという間に男達は捕まり連れて行かれてしまった。
「大丈夫?お嬢さん。」
微笑みを乗せてラビノアに手を差し出すアジュソーに、無意識に手を乗せてしまうラビノア。
「あ、ありがとうございます…。」
「これっ、これこれこれこれっ!あの軽やかに舞うような剣捌き!生で見たかったんだぁ~!!そして見て見てっ、ラビィをヒョイと腕に抱き上げちゃうんだよ!?」
そう、今まさに主人公ラビノアは白銀騎士団長アジュソーの腕の中にいた。
因みにラビィとはラビノアが王宮で使っている偽名である。
見た目からは想像出来ない力強さに、ラビノアは声を失って陶然としている。
なにしろ天使様かと思えるような美しい顔なのだ。
この前の旦那様の微笑みも天使かと思ったけど、アジュソー団長の微笑みはまた別種の美しさがあると思う。なんて言うか穢れを知らなそうな微笑みを浮かべるくせに、女遊びはやっちゃうし、パーティーみたいな集まりも好きで、よく顔を出している。
腹黒キャラとか言われてた気がするな?
でもそれがまた人気の一つでもあった。
ああやってラビノアを軽々と抱えて、乱れた髪を整えてあげてるところなんか、手慣れているなぁと思う。
「ユンネ様はエジエルジーン様よりあんな優男がお好きなのですか?」
今回も覗きについて来たソマルデさんが、隣でボソリと尋ねてきた。
「え?違うよ?」
違う違う、俺が見たいのは主人公ラビノアが頬を染めて襲われるところだ。
でも今回は単なる出会いなんだよねぇ。
お互い名前を教え合って、襲われるのは明日!
明日王宮の廊下でワゴンを押していたラビノアを、アジュソー団長が空き部屋に連れ込む。
可愛いラビノアはダメダメ言いながら服の中に入り込む手を押さえ切れずに、結局アジュソーに男だとバレてしまう。
「今日は残念ながらここまでなんです。」
しょぼんと俺が言うと、ソマルデさんは何が?と不思議そうにする。
「明日!明日に期待しましょう!」
「いえいえ、何をでしょうか?」
明日はその為に休日を当ててもらったのだ!心ゆくまで空き部屋で待機するつもりだ。
帰り出した俺にソマルデさんは渋々ついてくる。
ほんとソマルデさんって心配症で優しいなぁ~。
へへへ、と笑いかけると苦笑して隣を歩いてくれた。本当の家族みたいだ。
「明日は楽しみですね!」
「本当に何するつもりでしょうかねぇ。」
ソマルデさんと手を繋いで帰るのだった。
シンと静まり返った暗闇の中、俺達は空き部屋のクローゼットの中で待機した。
「多分朝食後の食器回収だと思うんです。」
漫画の中には時間とか描かれてはいなかったけど、鳥がピピピと鳴いて、太陽が明るく照らす描写があったのだ。多分あれは朝だと思う。そして食べ終わった食器から、ラビノアは食べ終わりの食器を回収していたのではと思えるのだ。
「いえいえいえ、本当に何をするつもりですか!?」
ソマルデさんは不安顔だ。でも安心して欲しい。単に覗くだけなのだから!
あまり長い時間潜む必要もなく、部屋の中に誰かが入って来た。
白銀騎士団長アジュソーと主人公ラビノアだ。ラビノアはアジュソー団長によって手で口を塞がれていた。
「はうっ、来ましたよ!」
コソコソと叫ぶ。
ソマルデさんは何事が起きるのかと目を見開いていた。
クローゼットは斜め格子になっていて、隙間から部屋の様子が見えるので、間違って開けてしまわないように必死に態勢を維持しながら覗いた。
押し倒されるラビノアが見える。
ああぁぁぁーーーっ!いいっ!この角度最高!さすが俺!
実は確実に見えるように事前に押し倒されるソファの位置をずらしていた。
手伝わされたソマルデさんは、ずっと頭にハテナマークをつけていた。
ラビノアの潤む青い瞳と、ピンク色に染まる白い頬が漫画の通りだ!かんどぉ~~~!
感謝しますっ、神様!なんで俺ここにいるのか分からないけど、きっとこれを見せてくれる為にいるんですね!?
「……はっ!…君は、男性なのか!?」
アジュソー団長の驚いた声が響く。
うんうん、ここでバレちゃう。そしてアジュソーは泣いているラビノアに、バラされたくなければ大人しくする様に言うのだ!悪どい!あの天使の様な笑顔で毒を吐く!
「…うっ…、お願い、しますっ!騎士様!この事は黙ってて下さい!」
泣いているラビノアはどこからどう見ても女の子。でもはだけだ服からのぞく胸はぺったんこ。
その姿を見てアジュソー団長は舌なめずりしてるし。
あれ本当に押し倒されて下から見たら、怖いだろうなぁ~。主人公も顔を赤くしたり青くしたり忙しそうだよ。
「ユンネ様、これは見過ごせません。」
「え?」
ソマルデさんが呟いた。呟いて、静止する間もなくクローゼットから出ていってしまう。
「あ、あっ、ちょっと待ってっっ!」
止める間もなくソマルデさんはアジュソー団長の腕を取って押さえ込んでしまった。
騎士団長を取り押さえるとかソマルデさんって凄い人なのかなと感心したけど、それどころではないとハッとする。
仕方ないので俺はアジュソー団長の下で泣いていたラビノアを引っ張り出した。
うっ重い。意外と重たい!
アジュソー団長が軽々と抱っこしてたから軽いのかと勘違いしていた。
俺とラビノアの体格はあまり変わらないらしい。
え?て事は俺の身長って騎士団の中ではチビだけど、一般男性の中では普通なのだ。ラビノアは男性で、体格は一般男性と同じくらいなの?メイドさん姿が似合い過ぎてて気づかなかったけど、結構おっきめの女の人に変装してるって事?
気付かなかった!
でもやっぱり顔は美少女なんだよねぇ~。
潤んだ青い瞳が突然割り込んで来た俺達をオロオロと見ている。
「何だ!?お前達は!」
アジュソー団長が叫んでいる。
「誰かに知られなくなかったら大人しくしている事です。」
ピシャリとソマルデさんが言い切って、アジュソー団長の口を閉じさせた。アジュソー団長は悔しそうに唇を噛んでいる。
「ソマルデさん、ソマルデさん、俺達も怪しいんでここはお互いなかった事にした方が…。」
「それもそうですね。」
俺達はコソコソと相談したが、下に押さえつけられていたアジュソー団長には筒抜けだった。
「いいから、どけっ!」
うわぁ、漫画ではどんな場面でもこの綺麗な顔を崩さなかったのに、今は凄くドス黒い。これが二面性と言うやつかぁ。
解放されたアジュソー団長はミルクティーベージュの髪がボサボサになっていた。いつも綺麗に梳かしこんてるんだろうなぁ~。
呑気に眺めているとギッと睨みつけられる。
ヒィ!?
「お前達は誰だ!?」
まだまだ新米騎士なので顔が割れて無くて良かった。今日は非番なので服装は二人とも私服だ。
チラリとソマルデさんを見ると、ソマルデさんはにっこりと笑った。
ソマルデさんはまだ服が着崩れているアジュソー団長の足を思いっきり引っ掛けた。
ガタァンという派手な音を立ててひっくり返るアジュソー団長。
「またねっ。」
俺は手早く服を整え終えたラビノアに、バイバイと手を振って走り出した。その後をソマルデさんがついてくる。
流石にこれ以上アジュソー団長がラビノアを襲う事はないだろう。残念でならない。いや、ラビノアにしたら良かったのかな?
そうだよねぇ~義姉の所為でこんなとこで女装して働いて、いつバレるか分からない恐怖にビクビクして、ストレス半端ないか。
呑気に覗こうとするのは悪い事かもなぁ。
ソマルデさんが止めに入って良かったのかも。
「アジュソー団長をねじ伏せたソマルデさん、凄くかっこよかったです。」
使用人棟に走って逃げながら、ソマルデさんを褒めると、隣で凄く嬉しそうにイケオジが笑ってた。
「とんでもございません。」
走りながら余裕で軽くお辞儀までして見せるソマルデさんは、ほんとかっこいい俺のお爺ちゃんだ!
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