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21 ミゼミ生きてる!

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 で、何故こんなに商人呼びつけてお買い物しているのか?
 その答えは移動先にあった。

「行くぞ。」

 ルキルエル王太子殿下の号令で俺達はゾロゾロと移動する事になった。
 後は殿下が連れて来た別の側近が諸々処理してくれるらしい。あんな人もモブでいたなぁ~。名前無しで。出来ればそこの位置が良かった。そうしたら王太子と主人公のラブ展開が見放題だったのに!

 ルキルエル王太子殿下の目が俺を見た。
 俺ですか?
 お前だ。
 目が語る。目力強い。
 と言うか、おれぇ!?
 こんなシナリオあったっけ?俺は首を傾げながらついて行くしか無かった。
 そして殿下のスキルってちょっと便利だなと思いました。だって近道出来るんだもん!

 殿下が応接室の壁に近付いて手をかざすと、壁が半透明になってたわんだ。縦にユラユラと揺れている。
 スキル『絶海』を使ったのだろう。
 手を差し出されたので無意識に握ると、引っ張られてしまった。そのまま壁の中に進んで行く。
 ドプンと身体が入ってしまった。
 中はほんのり青く薄暗い。城内の壁や廊下の景色が流れては消えて行く。不思議な水の世界だった。
 その後をソマルデさんと旦那様、ラビノアの順でついてくるのだが、何故俺だけ手を引かれてるのでしょう?
 手を繋がないと入れないのかと思って繋いだのに、皆んな離れてますね?

 そ、そ、ソマルデさぁ~~~ん!!
 心の中で救いの言葉を叫ぶ。
 申し訳なさそうな顔をされてしまった。どうにも出来ないらしい。
 その後ろには無表情の旦那様が見える。ラビノアは物珍しいのかキョロキョロしていた。はぐれないでね?
 漫画の中のエジエルジーン団長なら、絶対手を繋ぐかエスコートするシーンだろうに…。完全に話が変わってしまっていた。

 多分一分程度歩いて目的地に着いた。
 外に出たのだ。
 殿下のスキルは近道にも使えた。漫画でこんなの使ってたっけ?
 
「ここはどこですか?」

 出たのは薄暗い部屋だった。
 
「ミゼミ・キトルゼンの部屋だ。」

 ミゼミ!?『隷属』スキル持ちのミゼミの部屋!?

「え!?生きてるんですか!?」

「お前が言ったんだろうが。フード取ったところを見てみたいと。」

 あー言ったような?
 でもでもミゼミは漫画の中では既に死んでいるキャラだ。ラビノアの『回復』が炸裂して、『隷属』スキルが押し返されたミゼミは、よろけて座り込んでいたところをエジエルジーン団長に危険と判断され切られてしまうのに!
 
「と、捕えたんですね~。てっきりバッサリ団長にでもやられちゃったのかと思ってました。」

「目の前にいた両団長はお前が派手な音を立てて倒れたから、お前の方に走って来たな。ミゼミはラビノアの力に押し負けて朦朧としていたから捕まえた。」

 えぇ?俺のとこに来ちゃったの!?
 でもそのお陰でミゼミは生け捕りになったのか。
 旦那様を見るとフイ、と顔を逸せてしまった。そんなに部下思いだとは知らなかった。だから俺の頭の怪我も心配してくれるんだろうなぁ。良い上司だ。前世の俺に分けてあげたい。

 それにしてもこの薄暗い部屋がミゼミの部屋?
 ミゼミはどこにいるんだろう?
 部屋は俺が今使っている部屋より少し広い。風呂もトイレも備え付けられた客室といった感じで、身分の高い人を泊める為の部屋なんだろう。

 ルキルエル王太子殿下はスタスタと歩いてクローゼットを開けた。
 そこは小部屋かと思える程度の空間になっており、中は棚などの他には何も無かった。
 そして奥に蹲る一つの塊。

「ユネに手伝ってもらいたいのはこれだ。」

「…………これ?」

「ミゼミの世話だ。」

 塊はミゼミだったらしい。
 
「お、俺、人の世話なんてやった事ないですよ?」

 しかも『隷属』スキル持ち!

「下手にスキル無しの人間には任せられない。かと言って今スキル持ちは我々だけだ。俺は忙しいしラビノアは保護対象だ。耐性持ちの黒銀団長には他にやるべき事がある。ならばお前しかいないだろう。」

「えぇ!?俺はスキルがあると言っても単なる『複製』ですよ!?」

 喋っていたルキルエル王太子殿下の真っ赤な瞳が俺を見る。そんな人殺しそうな流し目はやめて下さい。

「お前は『隷属』にかかっていても喋れたじゃないか。」

 た、確かに喋ったけど…。

「あれくらい、誰でも………!」

「いいか?俺も『隷属』の影響下にいたが、声は出せなかったぞ。だがお前は喋ったな?格下の『複製』のくせに俺より先に言葉を発する事が出来たんだ。」

 と言う事でお前がやれと言われてしまった。
 ええ~~~。仕方ないなぁ。

「私も手伝いますので大丈夫ですよ。」

 うう、ソマルデさんがいるなら平気か……。
 とりあえずミゼミにはクローゼットから出て来てもらおう。
 
「あのぉ、今日から?今から?お世話しますユネと申します。よろしくお願いします。」

 ぺこりと頭を下げると、クローゼットの中の塊がモゾモゾと動いた。
 あ、背中なのか。
 背を丸めて後ろ向きに縮こまっていた。
 でも顔をこちらに向けているけど、目深に被ったフードが邪魔で顔が見えない。
 どうせなら確認したい。
 ミゼミ・キトルゼンがモブ扱いなのか、それとも名前ありのキラキライケメンなのか!
 
 手を伸ばす俺の肩に、ソマルデさんが手を乗せる。

「何をなさるつもりで?」

「えへっ。」

 俺はミゼミのフードを握った。
 やっぱダメだよね。顔を出したく無いからフード被ってるんだろうし。
 そう思って諦めたら、ルキルエル王太子殿下の手が伸びてきて、無造作にフードを払ってしまった。
 ぱっ!ハラリと落ちるフード。
 
「……………っっつ!?!?」

 叫ばなかったのは褒めて欲しい。
 だって、すっごく驚いたけど我慢したんだよ!?
 怯えてるって直ぐ理解出来たし!
 
 それでも咄嗟に何も言えなかった。
 だって、だって、現れたのは骸骨並みにガリガリの人間だったんだもん~~~~!!








 

 その日は顔合わせだけで、次の日からミゼミ・キトルゼンのお世話をすることになった。
 ルキルエル王太子殿下の大量買いはミゼミが碌な私物を持っていなかった為、あらゆる物を揃えていたらしい。
 クローゼットや箪笥の中には大量のミゼミの服やら何やらが突っ込まれているが、俺にはそれを有効に使う知識がない。ソマルデさんがやってくれると言ってくれて大助かりだ。


 ミゼミはキトルゼン男爵家の四男だ。スキル『隷属』を持って産まれた為、忌み嫌われて物心つく前から地下牢に監禁されて育った。
 数年前にスヴェリアン公爵に売られるようにして引き取られこの城に来たけど、ここでも同じように地下牢に住まわされ、攫われて来た人達の監視役になっていた。
 攫ってくるのは基本、スキル持ちばかりだった為、ミゼミの高位スキル『隷属』で抑え込むことによって逃げられないように出来たらしい。
 不衛生な地下での長年の生活と、碌に与えられない食事でミゼミの容姿は骸骨だった。
 痩せ細った青白い肌、生気の無い灰色の瞳。元からそうだったのか、長い暗闇の生活でそうなったのか分からない真っ白の髪。
 生きているのが不思議な人だった。
 ミゼミはそんな生活を二十七歳の今まで続いていた。
 喋りかければ一応返事はした。でもずっとオドオドとして自信無さげだった。
 キトルゼン男爵はミゼミを死産扱いにしていた。
 実子の監禁と売買、貴重なスキル持ちの秘匿、他にも余罪をつけて爵位剥奪となった。
 ミゼミが生きているだけで、そこら辺の対処は漫画と同じだなと思う。

 ミゼミの身柄は王家預かりになった。犯罪を侵した件については、強制されたと言う事で罪に問わず、世間にも公表しないつもりだと説明を受けた。
 スキル持ちは何かと保護されるというが、こんなところにも適用されるのだなと驚く。


「ユンネ様、突然人様のフードをめくろうとしてはいけません。」
   
「はい。」

 俺は怒られ中だ。
 そうですね。フードを被る理由は、ちゃんとその時その人による理由があって被る物ですもんね。
 反省します。
 だって見たかったんだもん!
 でも最終的に捲ったのは殿下だよ?
 出てきたのは骸骨顔だけど、ミゼミは名前有りでもモブなのかなぁ。

「聞いておられますか?また変な事考えてませんよね?」

 フルフルフルフル。首を振った。

「……………ミゼミ様、大変痩せておられましたね。まるで骸骨のようでした。」

「!ですね!俺も思いましたっ!モブなのかキラキライケメンなのか迷いますね!」

「聞いてなかったようですね?」

「はっ!」

 暫く説教が続きました。反省します。

 俺達はミゼミの世話がしやすいように、ミゼミの隣の部屋に移動した。なのでミゼミと同じ部屋仕様のトイレとお風呂が付いている!

「お風呂入ってもいいですか?」

「はい、それではこれを使いましょう。」

 ソマルデさんが取り出したのは石鹸の塊だった。

「石鹸………。」

 一つ渡されて匂いを嗅ぐと、フワンといい匂いがする。

「薬用ですので傷があっても大丈夫ですよ。」

「へー、こんなのがあるんですね。」

「はい、エジエルジーン様に傷口が痒いと言われたのですよね?今日商人達が持って来た日用品の中に薬剤関係もありましたから探して購入したのですよ。これはエジエルジーン様が買われたので後でお礼を言って下さいね。」

 え!?旦那様が!?
 へー、ほー、ちょっと嬉しいかもしれない。
 値段的にはルキルエル王太子殿下購入分の方が遥かに高いけど、どっちが欲しいかと聞かれると石鹸の方が欲しい。
 備え付けの石鹸もあるみたいだけど、傷にいいという石鹸の方を使いたいもんね。

「じゃあ洗いましょう!」

 わーい、わーいと浴室に急ぐと、ソマルデさんもついて来た。

「傷口が塞がるまでは私が頭を洗います。」

「あ、はーい。すみません。」

 俺も後頭部は見えないので洗ってもらうことにした。だって傷口触ったらゴワゴワしててちょっと怖いんだよね。

 久しぶりのシャンプーも、石鹸の良い匂いも気持ちよかったです。あと浴槽もついてて最高でした!





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