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19 真実を話す
しおりを挟むアルエンツはビチュテをベッドの方へ引っ張って行った。
机も椅子もあるのに何故ベッド?と疑問に思いつつも、ビチュテは大人しくアルエンツに促されるままベッドに腰掛ける。
二人で並んでベッドに腰掛けたわけだが、アルエンツが無言になってしまったのでビチュテは困ってしまった。
信頼する努力をビチュテの方がするべきなんだろうか…。枷を付けられているのはビチュテなのに、それは何か違うはず…とビチュテも無言で考える。
「………ビチュテはその枷は嫌か?」
「え………?はい、嫌です。」
キッパリ言ったらアルエンツが固まった。
「…………じゃあ、外す。」
渋々といった感じでアルエンツはビチュテの手枷に触れる。しかし留金はなかなか外してくれない。
微妙にブルブルと震えている。
「あのぉ…、手枷外すのそんなに緊張しますか?」
アルエンツの顔色がわるい。
本当にどうしたの??
「緊張するに決まってる。もしまた俺のいないところで何かあってるんじゃないかと思うと気が気じゃないんだ!」
「はぁ…………。なにかって何ですか?」
「怪我してたりとか、襲われたりとか、悲しんでたりとかしてないか、ずっと心配で………。」
んんん?心配だから枷と鎖を使って側に置いているということかな?
ビチュテの中の第二の人格が、コイツはヤンデレか!?と叫んでいる。ヤンデレってなに?ふんふん、病んでる人がデレデレ?あれ、でもそれってアルエンツが僕のこと好きじゃないと使えない言葉なんじゃ?しかもデレてないよ。
「コレがないと安心できないんだ。」
コレってコレね。今僕の手首とアルエンツの手首を繋ぐ枷と鎖ね。こういった部分は確かに病んでいる!
「えぇ~と……?そんなに心配してくれるくらい僕たち仲良かったですかね…?」
折角心配してくれてるのに何やら申し訳ないが、何故そんなに心配してくれるのか分からずビチュテは尋ねた。
尋ねたらアルエンツが絶望的な顔でショックを受けていた。
ええ~~~~?
なんで?とビチュテは汗をかく。
「…………っ。ごめん、まずは、謝る。」
「……はい?えっと、なにを?」
ポツポツとアルエンツは話し始めた。
本当はビチュテと仲良くなりたかったこと、枯れた星の花を皆んなの前で晒してしまったこと、無意味に苛立ってビチュテと争っていたこと、ルエルンを傷付けたと思って顔を殴ってしまったことなどなど……。
話を聞いていると、アルエンツはなかなか不器用な人間だった。もっとサラリと人の心に入り込んで弄んでいそうな見た目をしているのに、これ以上話し掛けたら余計なことをしてしまい更に嫌われそうな気がして素直にビチュテに話し掛けられなかったらしい。
そして漸く決心したらビチュテは星殿に捕えられてしまったと……。それだけではなく、捕まったビチュテを処刑の日に攫うつもりだったと……?
なかなかの無計画っぷりだが、考えてみれば当時のアルエンツは十五歳。僕もだけど。
僕の中の第二の人格が、コレはツンデレだったのか!?と騒いでいる。うるさいな。何かが僕の第二の人格の琴線に触れているようだ。
でもツンツンとは違うような……。
「それで今度こそビチュテを探し出したら絶対に離れたらダメだと思い続けて……。それを殿下に言ったら王家の宝物庫にこういうのがあるんだっていう話になって、前に報酬でお願いして貰ったんだ。」
貰った、と言いながらジャラ…とアルエンツは鎖を掴んでみせる。
誰だよ、殿下。何いらんこと言ってるんだよ。というか殿下って?星の花を持つ聖者の精霊術を封じちゃうような道具を簡単にあげるなよ。
「すみません、殿下ってどの殿下ですか?」
国王陛下以外の王族はみな殿下と敬称をつけるので、どの殿下のことなのかを尋ねた。
「ユジヒル・ヴィザル・ラグンデリーン。」
「それ王太子殿下の名前じゃないですか。呼び捨ては不敬ですよ。」
というか何故王太子殿下?アルエンツは王宮騎士になっているから?
「聞いてないからいいんだ。」
「よくないですよ。」
その話から僕が処刑から逃げた後の話を聞いた。
つまりアルエンツは王太子殿下の直属の部下のようなもので、星殿に極秘で動いてるんだ?
表向きは各地の抗争の鎮圧という名目で出撃しているらしい。聖星国ダネトは資源豊かな国だから、周辺諸国から狙われやすい。
「あれ?じゃあアルエンツが最近国境を広げてるっていう噂は……。」
アルエンツは頷いた。
「ビチュテを探すついでに邪魔する奴等を潰して回っていたら国土が広がっていった。」
…………そんな簡単な。下手したら十年以上も続く戦争もあっていたはずだ。そこに乱入して勝利してきたのかな?それも僕を探すついでに。
「学校はどうしてるんですか?」
「休学してる。」
行ってなかったのか…。確かにあれだけの戦果を上げているなら、通う暇もなかったのか。
「……………信じてくれたか?」
物凄く期待した目で見てくる。
これで首を振ろうものなら、アルエンツはもっと絶望しそうだ。
「…………………まぁ、はい。」
なし崩しにビチュテは頷いた。信じたというか、信じてやらないと目の前の男が何するか分からないというか。
アルエンツはパァっと嬉しそうに笑った。
「…………そうかっ!」
ぐっ………、イケメン、眩しいな!?
これがデレというやつかもしれない。
「食事をしよう。」
アルエンツは気分がいいのか、微笑んだままビチュテの手の上に自分の手を重ねた。
そして顔が近付いてくる。
ん?
頬にチュッとキスをされた。挨拶のような軽いものだが、今それをする理由は?
手を繋がれ立ち上がったが、ビチュテは何をされたのかすぐには理解できずに手を引かれるままに扉まで歩いた。
アルエンツが扉を開くと廊下で三人は待っていた。
「あ、話は順調に済んだ?」
イデェがアルエンツの顔を見て、何か進展したことを察して笑顔で訊いてきた。
「ああ、説明した。」
「………んで、鎖は取らないのかな?」
機嫌良く返事をしたアルエンツに、イデェはまだつけたままの枷と鎖をみて尋ねる。
「もう少し………、このままがいい。」
アルエンツの視線がチラチラとビチュテを見る。ビチュテはその視線を受けつつ、ええ~とぉ、と返事をした。
「………はい、アルエンツはヤンデレなのだと理解しました。」
イデェ達は、ヤンデレとは?と揃って首を傾げていた。
隣の部屋に食事が用意されていた。なんと宿屋ごと丸ごと貸切にしていたらしく、廊下に出ても他の客はいなかった。
一度テチーオとナツを助けに出た時は明け方だから静かで誰もいないのかと思っていたが、他の宿泊客がいなかっただけだった。
晩御飯を食べながら今後のスケジュールを教えられた。
聖星国ダネトに戻る予定だが、ビチュテの身柄は秘密裏に王宮で保護することになっているらしい。その間はアルエンツの部隊が専属護衛になる予定だった。
急遽テチーオ親子も同行することになったが、それは一緒に連れて行き保護するので問題ないと言われた。既に王太子殿下には報告済みで許可もとっているらしい。
「お兄ちゃん仲良くなれて良かったなぁ~。」
「なんかムカつくな。」
「いひゃいんだけどぉ~?」
ナツのおかげで話が出来たのが気に食わないのか、アルエンツはナツの頬っぺたをグニィと掴んでいる。
「それじゃあ、星殿が何をしてるのか教えてもらってもいいのかな?信用はしてもらって……る?かな?」
まだしっかりと手首に枷と鎖がついているので自信なさげにイデェが確認してきた。
「………はい。」
ビチュテも苦笑しながら頷く。食事の前にもう一度アルエンツに外させようとしたのだが、アルエンツは手枷を掴んだまま固まってしまったので、ビチュテの方が諦めた。暫く付けておくしかなさそうだ。
何故捕まっているビチュテの方が気を遣わなくてはならないのか…。理不尽さを感じる。
食事をしながらビチュテはさてどこから説明するかと考えた。
「うーん。そうですね……。」
ビチュテがどう説明しようかと悩んでいると、アルエンツが質問形式にしようと言った。悩んでいたビチュテは、じゃあそれでと頷き同意する。
「ビチュテの星の花が咲いている理由を知りたい。何で前は枯れてたのに咲きだしたんだ?」
咲いた理由?それは勿論…。
「元々僕の星の花アジファラは奪われたことによって枯れていたんです。精霊に取り戻したいと願ったら咲くようになりました。」
ビチュテはスプーンを持っていた右手を上げて見せる。今のビチュテの右腕には、指先から肘の上あたりまで綺麗な模様となって星の花が咲いていた。大輪の銀の花と力強く伸びる蔓と濃い緑の葉が絵画のように肌に浮かんでいる。
「ナサナの星の花って綺麗だよね~。」
ナツが言うと、ウンウンとテチーオも頷いた。
「奪われていた?どういうことだ?」
続けてアルエンツが尋ねた。
「父に言われて小さい頃に姉に渡しました。精霊術で。」
イデェがガタンと立ち上がる。
「はぁ?精霊術でって…!姉って大聖女ラエリーネじゃ!?」
ビチュテはそうだと返事をした。
「あの女はそれを知っててやってるのか?まさか、伯爵家が家ぐるみでやってるのか?」
あの女…?ラエリーネは大聖女と言われ敬われているのに、アルエンツはあの女呼ばわりしている。ビチュテの記憶ではアルエンツと姉には接点がなかったはずなんだけど。
不思議に思いつつもビチュテはアルエンツの疑問に正直に話すことにした。
八歳で父親に請われて姉に星の花を渡したこと。それまでずっと部屋に閉じ込められていたこと。十歳に学校に入ったところまで話した。
「ビチュテ………、その。」
途中でアルエンツが何か言いたそうに口を挟んだが、やっぱりいいと口を閉ざした。イデェが変な顔をしている。
「えっと、その後はアルエンツも知っている学校生活と家の往復です。十五歳で星殿に捕まりましたが、僕はその時初めて気付いたんです。」
母の写真を持っていた人は、昔母に世話になった人なのかもしれない。信心深い人は星の花を持つ者を崇めて写真を持ち歩いたり家に飾ったりするらしい。国の大事に聖者や聖者の写真や絵、星殿のシンボルなどを持っている人は多かった。母の写真はその中の一つだったのだが、それを見て、たまたま兵士が教えてくれてビチュテは知った。
「僕の母の名前はミフェンゼ・ナサナです。星殿の聖女と知って、僕は漸くラディニ伯爵が何をしたのか気付きました。」
母がどうやってラディニ伯爵に囚われたのかは知らない。ただ母もビチュテも星の花を奪われた。
そう気付いてビチュテは全てを切り捨ててしまおうと思った。
ただ一つ気掛かりだったのは、ビチュテはあの時点で星の花が一つ咲いていた。その分の星の花はラエリーネから消えているのかどうか。
「だからラエリーネの服を切って確認しました。」
「あの時バルコニーに上がったのはその為だったのか……。すまない、邪魔をしてしまって……。」
アルエンツの暗い顔に、ビチュテはフルフルと首を振った。
「それは当たり前です。あの時僕はどう見ても止められるべき人間でしたし。」
どうもアルエンツは過去を悔やみすぎて病んでしまった気がする。あの時は全ての人間が敵のように感じて苦しかったが、今思えばアルエンツもイデェも精霊術を使っていなかった。
ビチュテはアルエンツに勝てたためしがない。あの時アルエンツがその気になればすぐに捕えられたはずなのだ。
それだけでも気付けてビチュテは少し微笑んだ。
アルエンツは本当にビチュテを守りたかったのだと感じることができた。
トントンとアルエンツの手の甲に自分の手のひらを乗せて、またビチュテは話を戻した。
「それで、僕はラエリーネの肩を確認しました。そしたら僕の星の花一つ分空洞があったのだろうと思われる場所に、他の人の星の花があったんです。多分、ルエルンの星の花も。」
全員ハッとする。
アルエンツは立ち上がった。
「つまり星殿は最初からか途中からかは分からないが、ビチュテの星の花がラエリーネに渡っていることを知っていて、しかも他の星の聖者達の花をラエリーネに集めているかもしれないんだな?」
星の花を持つ聖者達の管理は星殿の務めだ。星の花の模様が変わったことに気付かないわけがない。そしてラエリーネの肌に違う星の花が咲いていることを公表しないということは、他の聖者達から星の花を奪っていると知っている可能性が高いということだ。いや、アルエンツは既に星殿が関わっているだろうと思っているようだ。
「はい、国で星の花が枯れている者が増えていると言うのなら、その可能性があります。僕の星の花がラエリーネに渡る精霊術は解術こそ出来ていませんが、あの時以上の星の花は渡らないようになっています。」
「分かった。すぐに王太子殿下に伝えよう。イデェ、あとは頼む。」
そう言って腕にはめた手枷を外してイデェに預けると、アルエンツは急いで元の部屋に戻って行った。
食事はまだ途中だったが、知りたかった情報なので急ぐのだろう。
星殿はまだラエリーネに星の花を集めているのだろう。被害者が増えているのがいい証拠だ。
「星殿もヤバいねぇ。だから首都の星殿所属の聖者達から星の花が枯れてるのかなぁ。大聖女に星の花を集めて何がしたいんだ?」
イデェの疑問にはビチュテも同じ考えだった。
「ラエリーネの星の花は増えてますか?」
ラエリーネが大聖女と言われるようになり、星殿の中でも絶大な権力を持っていると聞いているが、実際星の花はどうなっているのか気になった。
ビチュテ自身は右腕の星の花は順調に増えている。ある程度増えたらこの模様の増加は止まるらしいが、今のところまだ増え続けていた。
「首元と腕にはあったかなぁ?あんまり私達は星殿に行かないからね。ルツがキレたから。」
キレた?
ビチュテの顔を見てイデェは頬をぽりぽりとかいた。
「ルツの身体の中の穢れが凄いのは分かってると思うけど、どの星の聖者も聖女も癒せなかったんだよ。」
「え?僕は全部ではないですけど治癒しましたよ。それでさっきまで寝てたんですけど…。」
「そりゃーねぇ~。ビチュテ君だし。まぁ大聖女もルツを治癒しようとしたらしいんだけど、癒せないしルツをキレさせるし、それ以来星殿にはお世話になってないんだよね。ずっと治療薬と自然治癒の繰り返し。だからビチュテ君見つかって良かったよ~。」
イデェは心底良かったと思っていそうな顔をして言った。
今や大聖女と言われるラエリーネの治癒も効かない?どう言うことだろう。
後でアルエンツに確認してみようと思った。
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