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21 可愛い親子
しおりを挟むイデェはなんとなく流れで任されてしまったテチーオ、ナツ親子を連れて町の中を散策していた。
ビチュテがアルエンツと出かけたと聞いて、二人がズルいズルいと騒いだからだ。
二人の見た目は可愛らしい。大きな黄色い目がイデェを見上げて訴える姿は女子のようだ。テチーオなんて三十五歳だというのに、何故こうも若々しいのか。親子というより兄弟……、いや姉妹に見える。
「二人はどこ行ったんだ?」
ナツがちょこちょこと歩きながらイデェを見上げて尋ねる。
「あ~、さっき部下から武器屋に行くって報告入ったよ。」
「なんだぁ、武器屋なんだぁ。」
じゃあつまんないとテチーオが呟いた。武器屋じゃなかったら乱入するつもりだったんだろうか。
ここは傭兵が集まる町なので、普通の貴族令嬢が喜びそうなカフェでお茶を飲むことも買い物を楽しむことも出来ない。
「外に出たはいいが、二人は何したいのかな?」
とりあえず要望を聞こうとイデェは考えた。イデェは幼い時から星殿に通い、早くから星殿騎士になった為、大人にもまれて生きてきた。子供らしい付き合いをする経験がなかったので、同性だろうが異性だろうが何をしたらいいのかわからない。
テチーオだけなら売春宿とか、夜なら酒を飲みにとか思いはしたが、十歳のナツがいる子持ちなのでそれはマズイだろうという良識はある。
折角訊いたのに、二人はキョトンとして顔を見合わせた。
「市場行く?」
「食べ歩きくらいしか出来ないや。」
二人もあまり遊んでいない気がした。この見た目ならそこら辺を彷徨くのも危険かもしれない。
普通の男物の服を着ているのに、チラチラと視線が二人に集中していた。ナツなんて子供なのに?とちょっと怖くなり手を繋ぐことにした。なにせ主な視線の主は男が多かったからだ。ここは屈強な傭兵が集まる町。体格のいい男達の視線からどうやって守ろうかと汗が流れてくる。
イデェは一緒についてきた部下達に目配せした。
「手ぇ、繋ぐの?」
「……うん、なんかね。」
二人はふぅ~んと首を傾げている。こんな風にのほほんとしてるから攫われて売られそうになるのではと思った。
結局食べ歩きをして二人の服を買って宿に戻った。
宿に戻って一階の風呂場を使わせてもらい、テチーオとナツ親子は自分達の部屋に戻った。
この宿は一階と二階をアルエンツの部隊が貸切にしている。三階と四階は全て空き部屋となり、五階にアルエンツとビチュテが泊まる部屋、テチーオとナツが泊まる部屋、イデェが一人で泊まっている部屋と三部屋だけ使われていた。
風呂が一階にしかないのが不便だが、使う時は貸切にしてくれるし、周りをアルエンツの部隊が警護しているので安心だ。
「このままついて行くの?」
ナツは父親に尋ねた。二人で濡れた薄桃色の髪をタオルで拭きながら、テチーオはコップに水を入れてナツに渡す。
「うん、行くよぉ~。」
ビチュテが行くというのだからついて行くつもりだ。
「信用できる?」
息子の心配にテチーオは笑って頷く。
「警戒心強いビチュテがついて行くって言うからねぇ。」
確かにね~とナツも頷いた。
テチーオ達はビチュテに恩がある。
二人瀕死の状態で攫われて、治癒も間に合わず檻の中に入れられた。手足に封印具をつけられて、精霊術も使えずにどう逃げようかと、もう無理なのかと諦めかけていた時ビチュテが見つけてくれた。
外側から檻を壊し、テチーオ達の封印具も壊して、今は作戦中だから抜けられないと説明してくれた。
近くにあった布を二人に被せて、精霊術で治癒と保護、認識阻害の術を掛けてくれる。ここに行けと手早く書いた地図を渡されて、テチーオ達は必死に逃げた。
ボロ屋の様な狭い部屋だが、清潔なベッドに二人で倒れ込み寝てしまった。
それからビチュテはテチーオ達の面倒をみてくれた。まだ十六歳と聞いてテチーオが働くと言ったが、ナツがいるから家のことをして欲しいと頼まれた。
ビチュテがテチーオ達を助けて今でも世話を焼いてくれるのは、自分達に星の花アジファラがあるからだ。なかったら助けはしても世話までは焼いていない。
それでも助けられたことに恩を感じている。ビチュテのおかげでナツと共に過ごすことが出来ているのだから。
テチーオ達がいる前で過去の話や星殿の話をしたのも、知らないより知っていて保護されるのがいいというのと、知ったからには保護するしかないだろうという目論見があったからだと思う。
ビチュテの星の花にそんな過去があるとは知らなかったが、ビチュテも自分達と同じ様に辛い思いをしてきたのだと知り、もっと力になってあげたいと思った。
だからついて行く。
「俺はお父さんの決めた通りについてく。」
ニコーと笑うナツに、テチーオもニコッと笑い返した。
コンコンッとノックの音が響く。この部屋に来れるのはアルエンツ、ビチュテ、イデェの三人しかいないが、鎖で繋がったアルエンツとビチュテはほぼ来ないので、ノックの主はイデェしかいない。
椅子からぴょんと飛び降りて、返事もなしにナツが開けると、イデェが困った顔で立っていた。
「こら、誰が来るかわからないのに確認もせずに開けたらダメだよ。」
ナツはめっ!と怒った顔を作る若草色の瞳を見上げた。怒っても全然怖くない。モスグリーンの短い髪の青年は、ここに来てからナツ達の世話をしてくれているが、面倒臭がる様子は見られない。
「イデェしか来ないもん。どーしたの?」
入るかなと思い扉を大きめに広げたが、イデェは手を振った。
「ほら。」
なにやら箱を渡される。
「なあに?」
「あ、デザートだから振ったらダメだよ。」
「デザート!」
わっとナツは喜んだ。
「お父さんと食べな。」
喜ぶナツの薄桃色の髪をくしゃくしゃと撫でてイデェはおやすみと言って出て行った。
「イデェ君って紳士だよねぇ。」
ととと、とデザート入りの箱を慎重にテーブルに乗せたナツへテチーオは話しかける。ナツはうんと返事しながらも、デザートに集中していて何を話し掛けられたのか聞こえていない。
「ケーキとゼリーっ!」
箱の中には生クリームのケーキが二つと、果物が乗った綺麗なゼリーが入っていた。
「お父さんはどっち食べる?」
微妙に飾られた果物の種類と大きさが違うからか、ナツはどっちが欲しいか確認してくる。
「好きな方をどうぞ~。」
わぁ~と喜びナツはケーキとゼリーを一つずつ取り出し、残った方のケーキとゼリーをテチーオの前に並べた。小さな小皿とフォークも入っていて用意がいい。
フォークで生クリームをとってペロリと舐める。
ふむ、特に変なものは入っていない。媚薬も睡眠薬も入っていない普通のケーキだと確認できたので、テチーオも食べ始める。ナツは既に半分食べていた。
「ちゃんと確認しなよ。」
「イデェは何もしないよ?」
ナツはイデェを信用しているようだ。イデェは確かに優しい。子供のナツをちゃんと子供として扱ってくれている。それがナツには嬉しいのだろう。
テチーオもビチュテも勿論ナツのことを子供として扱うが、イデェは全くの他人。身体も逞しく少し歳上で、優しい雰囲気があるので頼り甲斐があるように感じるのは仕方がない。
信じすぎて後で悲しい目に遭わないかが心配だ。
それにしてもこのケーキ美味しい。ちゃんと生クリームも本物だ。この町にはケーキ屋なんてないのに、どこで手に入れたのだろうとテチーオは考える。
ケーキを食べれるのは上流階級の人間だ。
あとは………、ああ……と閃く。接客業かぁ。それも金の掛かる接客業。ここは傭兵が多いので、必然的に男性が多い。女性の傭兵もいるが、数はどうしても少ない。だから男性相手の夜の接客業を営む店は多いのだ。そこそこいい値段の店ならケーキも置くだろう。
「……行ってきたのかな?」
「んぐんぐ、どこに?」
なんでもないよ~とテチーオは黙っておくことにした。子供に失望感を与えたくはない。ケーキはケーキ屋さんで購入したと思うのがよろしい。ウンウンと頷くテチーオに、ナツは不思議そうに首を傾げていた。
数日後に町から出ると言われていた通り、テチーオ達は車に乗って転送装置のある場所まで移動することになった。
アルエンツの部隊は移動に車を使うとは聞いていたが、その台数に驚く。最近金持ち相手に増え続けてきたとはいっても、十台も所有するのはなかなか出来ることではない。作るのにも動かす為の聖星石を集めるのにも相当なお金がかかってしまう。
しかも半分は幌つきの輸送車で、物資や兵士を運ぶ車両だった。燃料は聖星石になるし、特殊な車両を作るにはオーダーメイドになるのでその費用は計り知れない。
「これなにー?」
「それはタイヤ。」
「いっぱいついてる。」
「悪路でも走れなきゃだからねぇ。」
ナツはイデェにこれなに?の質問攻めだが、イデェは部下に指示しながらもナツの相手をしてくれている。
実はショタの変態かと危惧したが、あの後二回ほどデザートを持ち帰ってきたことから、ナツをそういう目で見ているわけではなさそうだとテチーオは安堵していた。その頻度で娼館通いは若者なら普通だろう。たんに可愛い弟として扱っているようだ。
テチーオ達はイデェが運転する車に乗ることになった。見た感じは四角くゴツゴツとしている。後部座席に機関銃が設置されていて、ナツが触ろうとして怒られていた。
同乗した隊員に狭くてすみませんと謝られたが仕方がない。この車は金持ちが乗る様な洗練された高級車ではなく、軍用の重装備車両なのだから、装甲も厚い。その為車内は狭いし乗り心地は悪い。
何故か助手席に座らされたナツには座布団とクッションを渡して少し快適にされていた。イデェの気遣いなのだが、三十五歳のオジサンにはその気遣いはなかった。少し悲しい。
数時間で着くと言われて原生林の中を走っていた。車が走ればいっぱいいっぱいの狭い土を固めただけの道だ。
なんとか踏ん張り耐えていると、ドーンッ!という音と振動に急ブレーキがかかる。
「ーーーうわっ!」
イデェはナツの頭を押さえつつ、バッと周囲を見回した。ザザッと通信機から音が鳴る。
「側面敵兵!応戦しろ!」
通信機からアルエンツの声が飛んできた。
後部座席の二人の兵士が機関銃に飛びつき一列に並んだ車両の横を撃ちだした。
ダダダダーーーダダッッーー!
割れるように響く銃声にテチーオは耳を覆う。何かを頭に被せられた。両耳を覆う耳当てだ。ヘアバンドの様に頭の上にバンドがついている。
ナツにも被せられているが、子供のナツには大きい様で自分で耳の耳当てを押さえていた。
耳当てのおかげで喧しい銃声の音がマシになる。耳当ては通信機にもなっていて、あちこちから戦況が流れアルエンツの指示が飛んでいた。
アルエンツはビチュテと同じ歳と聞いていたが、その指示に迷いはなく、歳上の隊員達もその指示に忠実に従っているのがわかった。
機関銃の銃声が止み、前後にいた輸送車の中から隊員が銃を構えて次々と降りていく。森の中に入って追撃するつもりのようだった。
僕達はどうすれば?
そろりと頭を上げたテチーオに、イデェは運転席から振り返り耳当てを指差した。
テチーオは耳当てを片方だけ持ち上げる。
「殲滅してきます。車両を守る兵達と一緒にここで待機していて下さい。」
少し耳がポワンと聞き取りにくいが、言っている内容は理解したのでテチーオは頷いた。テチーオが理解したのを確認してイデェも降りて森の中に入っていく。
前方を走る車に乗っていたアルエンツとビチュテも森に入っていくのが見えた。
「置いてかれちゃったねぇ。」
一応僕も戦えないこともないんだけどなぁ。
そう思っていたら助手席のナツも同じことを思ったらしい。
「ついてく?」
しかし残った二人の兵士に止められた。
「危ないのでここにいて下さい!」
テチーオ親子の見た目では、戦闘員には見えないのだろう。確かに身体を動かす戦い方ではないので、テチーオもナツも身体付きは細身で柔らかい見た目だ。
待てと言うのだから待っていよう。危なくなったら戦えばいい。
ナツはテチーオの判断に普段から任せるので、大人しく一緒に待つことにしたようだ。
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