落ちろと願った悪役がいなくなった後の世界で

黄金 

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神様のいいように

105 ジィレンの野望


 ひやぁあぁぁぉ~~~!という叫び声を聞いて、ツビィロランとアオガは急いで叫び声の方へ走った。
 アオガの目に頼ってテトゥーミの神聖力を追って来たのだが、テトゥーミの神聖力は花守主の屋敷の中に続いていた。

「入れるか!?」

「うっわ、無理かも。かなり強い結界だよ。」

 テトゥーミが張ったらしい結界で俺達は入れなかった。
 上空から羽音がして、見知った黎明色の羽が一枚落ちてくる。

「クオラジュ!この中っ!」

 飛んできたのはクオラジュとアゼディムだった。

「はい、こじ開けます。」

 クオラジュは鞘から剣を抜き上から切り裂いた。
 結界がパァーーと明るい緑色に光って切れるのが一瞬見える。

「何で来たの?」

 走りながら何でこんなタイミングよく来れたのか聞いたら、聖王陛下が花守主の屋敷に張っている結界に異常があると言ったからだという。中に穴が開いた。それは未だ背中に針が刺さったままのツビィロランの穴に似ていると言った。元識府護長ノーザレイと糸で繋がっていたが、死んだと同時に切れたはずだった。

「俺の糸が繋がってるのか?」

「いえ、多分ノーザレイの死体に穴が開けられたのかもしれません。」

「テトゥーミが中にいるかも!」

「はい、来た形跡がありますね。急ぎましょう。」

 四人で走りながらノーザレイを埋めたという場所に走った。
 天空白露に来たばかりの頃イツズと忍び込んだ花守主の屋敷だが、その時はまだ使用人や護衛達がいたのに今は誰一人いなかった。
 
 枯れた透金英の森の奥に翡翠色の髪の毛が見える。

「テトゥーミ!!」

 叫ぶと泣きそうな目で顔だけツビィロラン達を振り返った。

「……っ!引き摺り込まれます!」

 掘り返されたように土が盛り上がり、中からノーザレイの上半身が出て来ていた。テトゥーミの足を握って引き摺り込もうとしている。
 アゼディムがテトゥーミの身体を抱き込みそれ以上引っ張られないように引き止めた。
 クオラジュが躊躇いなくノーザレイの首を切り落とす。

「ひえぇぇぇっ!」

 首っ!!初めて首チョンを見てツビィロランは震える。いや、ラワイリャンの昔の記憶とか、クオラジュが戦ってるとことか見たけど、遠かったし、こんな近距離じゃなかったのだ。悪夢見るかも……。

「ダメっ!まだ動く!」

 アオガは叫んで一緒にテトゥーミの腰を抱き込んで抑えた。

「テトゥーミの神聖力に反応したようですね。吸い込んでいます。」

 クオラジュは冷静に判断していた。そしてツビィロランの腕を掴む。

「神聖力をください。」

「お、おうっ、いいぞっ!」

 よく分からないが身体の中に力を溜める。
 首がなくなったノーザレイは胸の辺りにモヤモヤと穴が空いていた。その穴にクオラジュは剣を突き刺す。
 ズズッと力が抜ける感覚がした。
 





 ザワザワとした喧騒に覚えがあった。
 人の騒めきと、機械音。電車の走る音、何かのアナウンス。
 ピロンッと音が聞こえ、俺の声が話し出した。

「うん、うん。え?もう着いてるの?」

 楽しそうな弾んだ声だ。自分の声なのに自分ではないと明らかに分かる。

「あははは、そうなんだ?」

 パチっと目を開けると目の前にスーツ姿の俺がいた。
 誰と話しているのかと思えば携帯で喋っていたらしい。
 俺が選ばないような爽やかな感じのスーツを着ている。リュックを肩にかけ、コンビニで何かを買うつもりのようだった。

「マナブ。」

 お腹に腕が回ってくる。グイッと力強く引かれ、それがクオラジュだと気付いてホッとした。

「これ、どういうこと?」

 コンビニで買い物をする俺は俺達に気付いていない。

「マナブの魂が引っ張られました。私は咄嗟についてきたのですが、長居は出来ません。」

「うん。なんか、俺の身体に引っ張られている気がする。」

 さっきから目の前で買い物をしている元の俺の身体に引き寄せられる感覚があった。以前ラワイリャンに連れられて来た時にはこんなことなかったのに、何故今は引き寄せられるのかと疑問に思う。

「……説明は後で。戻りますよ。」

 クオラジュが少し慌てている。あまりいい状況ではないようだ。

「ああ、戻ろう。」

 俺がそう返事をすると、クオラジュは背に羽を広げてブワッと飛んだ。
 コンビニの景色が小さくなっていく。
 クオラジュが離すまいと抱き締めているから大丈夫だが、結構元の俺の身体に引き寄せられる力が強くて苦しい。
 苦しいというか背中がズキズキする。
 小さくなっていく俺がハッと気付いて俺達の方を見たが、俺は息苦しくなりそれどころではない。
 
「針が痛みますか?」

 針に痛みがあるなんて言ってなかったのに、クオラジュが針のある背中を支えながら聞いてきた。

「………うん、ズキズキ……。」

 黙ってない方が良かっただろうかとチラリとクオラジュを見る。

「私の為に黙っていたのですよね?次からは言ってくださいね。」

「おー…、ごめんな?」

 クオラジュはいいえ、と静かに返事をした。








  柊生しゅうせいが出張で出てしまったので、今日のお昼はケータリングかコンビニか食べに出るか…。
 この世界に来て十年が過ぎた。一人で定食屋はハードルが高かった。なんというか入ってどこに座ればいいのか分からないし、店員に見られるのもちょっと怖い。
 決して人見知りではなかったはずなのに、皆んな同じ黒い目で見てくるのでなんとなく気後れしてしまうのだ。
 元の世界では黒い髪なんて奇跡のような存在だったのに、こっちでは当たり前だった。むしろ向こうの世界のように様々な髪の色や瞳の色をした人間はいなかった。
 まずそれに驚いた。
 そして文化の違いにも戸惑った。津々木学の身体にはしっかりと記憶が残っていたから暮らせていけたが、最初この世界で目覚めた時はパニックに陥った。
 コンビニって便利だよね~。
 一つ一つになんでこんなに力の入った商品が生み出され作られるのか意味がわからない。兎に角便利で人の心をくすぐる物ばかりが存在する。
 向こうなんてこんなデザート一つ食べられるのは王族や貴族ばかりだった。天空白露でも贅沢はさせて貰えたけど、やっぱり一番豪華な食事を食べていたのは十三歳まで育ったロイソデ国の王城だったなと思う。
 王城で食べていたデザートとさして変わらない出来栄えのデザートが棚に並んでいるのを見て、この世界ってほんと凄い……、と感心していた。
 このスフレ美味しいのかな?
 柔らかそうな生地をみてデザートに買っていこうかなと迷う。
 いや先にお昼ご飯選ばないと…。
 クルッと反対の棚に陳列されたお弁当類を見た時、ドッと何かが押し寄せてきた。
 胸をギュウと締め付ける感情。


ーーーあれ?、こんなとこにノーザとレイの子供が倒れてる。ーーー

ーーーうわ、生きてる?大人呼ぶ?ーーー

ーーー大人がやったんだろ?関わんない方がいいよ。ーーー

 少年たちの声がいくつか聞こえた。
 お腹が空いて、何か欲しいと訴えたら腹を蹴られた。何も食べてないから胃液が少しだけ出て、口の中に苦い味が広がった。
 助けてとは言ったらダメ。
 言ったらまた怒られるから。

 

 目の前には色んな食べ物が並んでいた。
 あの時これだけの食べ物があったら、どんなに幸せだっただろう………。
 涙がツウーと落ちてきて自分の思考が不思議になる。

「なんで……。」

 ハッとして上を見た。
 ちょっと前に 釆茂とも君に連絡をもらった。津々木学本人の魂が来ていると。
 なんとなく上を見上げたが何もない。
 気のせい?でも……、じゃないとこの感情は……?
 この記憶は………。
 ジワジワと涙が溢れてくる。これでは変な人だ。急いでコンビニから出た。
 ああ、どうしよう。止まらない。
 震える手でスマホを取り出す。さっき着いたと連絡があったばかりだった。
 歩いているのにまるで水の中を歩くように足がふらついている。
 もう一度声を聞きたい。聞いて安心したい。
 コールが鳴り直ぐに向こうと繋がる。

「学?」
 
 ホッと息を吐く。自分は本当は津々木学ではない。だけど今の津々木学は自分だ。名前を呼ばれて漸くここに立っている気がした。さっきまでふわふわと揺らいでいたのが落ち着いてくる。

「うん、ごめんね。ちょっと……。」

 なんと言おうと悩む。衝動的にかけてしまった。

「大丈夫か?なんかあった?」

「…ううん、ごめん。声が聞きたくなったんだ。」

 謝ると凄く心配してくれる。
 柊生がいてくれたからなんとかこの世界に馴染むことが出来たのだ。
 この便利な世界は相変わらず怖いけど、もう向こうに帰りたいとは思わない。










 目を覚ますと布団に寝ていた。

「だから、ツビィロランの目の前で首刎ねるのは辞めた方がいいよ。」

 アオガが熱弁している。

「…そうですか…。ついいつもの様に手が出てしまいました。怖がるでしょうか?」

 アオガの話し相手はクオラジュらしい。
 珍しいことに二人が熱心に語り合っている。

「ツビィロランってこう平和主義とも違うんだけど、血生臭いことは嫌いでしょ?見えないとこでやらないと。」

「そうですね。以後気をつけます。」

 なんだがいつもと立場が逆だな?
 パチっと目を開けると自分の部屋だった。聖王宮殿の中だ。

「ああ、目が覚めましたね。」

「大丈夫?」

 クオラジュとアオガは俺を挟んで頭の上で喋っていたらしい。どうりでよく聞こえるわけだ。

「うん、平気……。」

 クオラジュが背中を支えながら起き上がらせてくれた。

「どのくらい寝てたんだ?」

 ボーとしながら尋ねると、そう寝ていないと言われた。花守主の屋敷から直ぐに戻って寝かせたところだという。
 あの後引き摺り込まれた俺と追ってきたクオラジュが戻ったのを確認して、ノーザレイの身体はテトゥーミによって結界で封印したらしい。
 今も引き続き封じているのでテトゥーミは花守主の屋敷に神聖軍と一緒に待機している。

「ノーザレイの身体は燃やして灰にしてから埋めたのですが、身体が元に戻っていました。切った首も直ぐに元通りになって穴は空いたままになってしまったので封印することにしました。」

「不老不死的な?」

「死者の身体が元に戻るようになっていました。ジィレンが作ったのでしょう。天空白露に入り込む為に作ったのでしょうが、今回ノーザレイの身体を利用したのでしょうね。」

「………死体を弄るなんて趣味悪いな。何するつもりなんだろう。」
 
「ノーザレイは元のツビィロランかもしれません。」

 え!?

「時期が合います。ツビィロランが生まれた後、ノーザレイは天空白露に来ました。ジィレンはノーザレイの魂をツビィロランの中に入れたのです。そして死体は作り直してジィレン自身が入ったのでしょう。それから天空白露へ来て直ぐに開羽し天上人となり、識府護で勤めるようになっています。元々の目的はツビィロランの身体を観察する為かもしれませんが、貴方とツビィロランが入れ替わったのを知り、運良くスペリトトを捕まえてはかせ状況を把握したのではと思います。」

 最初、俺とクオラジュは妖霊の王ジィレンが、向こうの世界にいるシュネイシロを呼び寄せるつもりだと思っていた。
 だがファチ司地が言ったことを元に考えた。

『妖霊の王は天空白露を世界の壁にぶつけて穴を開けるつもりです。』

 それが本当なら天空白露は消滅するし、そこに住む人達も死んでしまう。そればかりかこっちの世界は神聖力という不可視の力が基準になった世界なので、その衝撃を受けて何が起こるか分からない。
 クオラジュの予想では向こうの世界は神聖力が無いので、もしかしたら向こうの世界だけ何も起こらない可能性もあると言っていた。
 そうなるとジィレンは何がしたいのか。
 天空白露を犠牲にする程の穴となるとかなり大きい。世界と世界は行き来しにくい。今日穴に吸い込まれ俺は向こう側を見たけど、それは見ただけで行ったわけではない。その前にクオラジュが捕まえたからだ。
 実際に魂が完全に行くには、魂に神聖力がない状態か、神聖力があるなら大きな穴を作るしかない。
 ジィレンは天空白露をぶつけて大きな穴を作るつもりだろう。それから考えると、ジィレンは向こうに行きたいんじゃ無いだろうかという結論に至った。
 スペリトトが一度呼び寄せようとして失敗しているから、自分の方が行くのではと。
 ジィレンも向こうの世界に渡り、シュネイシロの近くに行きたい。神聖力のない世界にジィレンが行ってもどうなるか分からないのに、それでもやろうとしているかもしれない。
 その足掛かりとしてツビィロランの身体を使っている。身体に針を刺し、この身体と向こうの世界の津々木学の身体に入っているツビィロランを繋ぎ、天空白露をそれに沿ってぶつける。
 その為に万能薬を作るための器で何を作るのか?
 それは向こうで生きれる身体じゃないだろうか……。ということになった。
 神聖力がなくても生きられる身体。色無ではない、普通の健康的な身体を作る。死体でもなく、生きている身体を。
 無茶苦茶なと思ったが、やりそうで怖い。

「じゃあ俺の魂と身体だけじゃなくて、ノーザレイの身体と魂も橋渡しに使うつもりなんだ?」

 クオラジュは頷いた。

「ツビィロランの魂は元々この身体の魂ではなく、ノーザレイの魂だったのだとしたら、ノーザレイの身体を経由させて向こうと繋いだのではないでしょうか。」

「じゃあ、ノーザレイの身体にある穴は?」

 アオガも説明を聞きながらクオラジュに質問する。

「あれは広がろうとしています。」

 広がる?
 俺とアオガはクオラジュの言葉を待った。

「天空白露を飲み込み世界の壁にぶつける穴があれなのでしょう。」










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