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3 銀玲とは誰だ?
しおりを挟む翼はいつの間にかここにいた。
目の前には開いた巨大な石造りの扉。
覗き込めば白いヒラヒラとした服を着た顔を隠した人達。
ただ驚いているのだけは雰囲気で分かった。
フーヘイルというサラサラヘアを胸辺りまで伸ばした黄緑色の髪と、茶色の瞳の司祭様が頬を染めて色々説明してくれる。
三十歳くらいの男の人だ。
神官様って感じの長い服を着ているが、どこか中国っぽい。
精霊殿と言われる場所も柱は朱色で天井は派手な竜とか彫られた天井画。
上は着物っぽい前合せの羽織で下はゆったりした足首の締まったズボン。その上にベストきたり長い羽織もの羽織ったり、泰子達は生地も高そうな刺繍入りのを着てたり。
巫女と言ったり、建物中国で名前は西洋とか和洋中を組み合わせた精霊のいる世界観……。
これってやってたスマホゲームじゃない?
よくある異世界召喚が自分の身に起きたのでは?
しかもこれ主人公枠!
このゲーム、主人公のデフォルト名なくて自分でつける。
ま、態々デフォルト名有っても名乗らないけどね。勿論攻略対象者には本名で呼んでほしい!
だってゲームの中じゃ、お前とか君とかで表現されるけど、現実だったら翼って呼んでもらえる!きゃー!!
僕の前には金の泰子、赤の泰子、青の泰子、緑の泰子が勢揃いだ。
金の泰子は金髪金眼 人々を導く泰家の子であろうとする真面目な人。
赤の泰子は赤髪赤眼。身体が一番大きくて頼もしい、溌剌とした人。
青の泰子は青髪青眼。ほっそりとした女顔の美青年。きつい性格だけど仲良くなってくると優しくなる。
緑の泰子はあまり周りと関わらず過ごす人。自由人だが金の泰子と仲が良い。
銀の泰子は流石にいないか……。銀の泰子は隠れキャラだから四人ともハッピーエンド迎えないと出てこない仕様になっていたもんね。
勿論皆んなかっこいい!
僕が黒の巫女だから最初から好感度高め。モードが優しいになってるかもしれない。
この後重要な選択が出てくる。
誰をメインに攻略するかだ。
顔なら勿論金の泰子!でも、最後を考えるとなぁ~。
このゲーム、無課金ならハッピーエンドか友情エンドしかない。課金するとR18が入る。
これって無課金状態?課金状態?
友情エンドで終わるつもりはない。だって、友情エンドは誰にも選ばれず元の場所に帰っちゃうからだ。普通の大学生になって、あれはなんだったんだろう?って夢オチ状態になる。
冗談じゃない!
こんな美形集団に囲まれて誰とも結ばれないなんて!
しかもこんな貴重な体験が夢で終わるとか有り得ない!
恋人の蒼矢には悪いけど、ここは頑張らせてもらう。
悩んだ挙句に、結局皆んなおんなじようなもんかと開き直り、僕は金の泰子を選んだ。
「君の歌舞音曲は歌なんだね。私と一緒だ。」
金の泰子の声はバリトンボイスだ。
真面目なキャラに信頼と安心感のある少し低めの声に、ゾワゾワっとする。
「は、はいぃ!」
上擦った返事にクスリと笑われてしまった。笑顔最高!
例え知らない世界でもゲームの内容知ってるので落ち着いたものだ。
夜になり、精霊王に献上した蒸留酒が下げ渡されるので、それを飲み交わす為のお食事会に参加させてもらった。
そそくさと金の泰子の横をゲットする。
白の巫女の演芸があるので、会場は精霊殿の中だった。
そーいえば僕も選んだ攻略対象者の好きな芸事を披露しなきゃだったんだ。
金の泰子は歌。
歌かぁ~~~そこまで上手ってわけじゃない。まぁ、普通ー。
さぁさぁ、どうぞとフーヘイル司祭が巫女服を持ってきた。
仕方なし着替えて白の巫女達を差し置いて一番最初に歌う。
歌は最近覚えたばかりの流行りのバラードだけど。大学生なってカラオケ行ったら歌おう思ってたやつ。
なんか知らんけどウケたみたい。
「聴いたことのない歌だったけど凄く良かったよ。」
金の泰子も褒めてくれた。
実はこれも選択肢なんだよね。どんな歌、歌う?で『楽しい』『悲しい』『怒り』『優しい』の四択なんだ。
金の泰子は『悲しい』が一番好感度が上がる。現実世界でも失恋ソングとか人気でるし『怒り』や『優しい』よりはいいかなと思う。最初の選択で『楽しい』にして微妙な褒め方されたんだよね。
それとゲームではそこまで分からなかったけど、黒の巫女が白巫女装束着る必要あるのかな?髪が黒だからなんとなく透けてそうだし、歌声とか向こうの歌でバレバレだと思う。
ま、言われた通りやるけどね。
着替えて戻ってくるうちに何人かの演目が終わっていたらしい。
拍手の中金の泰子の隣に素早く戻った。泰子はお疲れ様と律儀に労ってくれる。
手元を見ると一枚の紙を持っていた。
「それ何ですか?」
「ああ、これは今日の白の巫女の演芸の順番だよ。」
そんなもんがあったんだ。
「金は銀玲(ぎんれい)の歌を楽しみにしてたからな。」
金の泰子の更に奥から緑の泰子が顔を出した。
中国系のカッコいい顔って感じの人だ。こんなスッキリした顔も大好き!
後ろで緑の長髪をゆったり纏めて簪で留めている。適当にやったんだろうって感じて後毛がいっぱい落ちてるのにそれがまた似合っていて感動!
「全員見てるが?」
「銀玲以外は見てるだけだろ?」
茶化すように話す緑の泰子に、金の泰子は苦虫を噛み潰したような顔で答えている。本当に仲良いんだなぁ。
「ぎんれい?」
名簿を見せて貰うと一番最後に出てくるらしい。
銀玲は精霊名で、白の巫女の二つ目の名前だ。精霊力に優れた者は精霊王から名を貰うことが出来る。白の巫女は白髪の時点で精霊名がある。
名は本人しか分からず、伴侶が決まるまで伏せられている。
説明によると最後になる程、精霊力のある巫女なんだとか。
芸目に歌と書いてあった。
この世界は歌や踊り、花道や書道と言ったら芸術事に優れた人間が尊ばれる。
「金の泰子は銀玲が好きなんですか?」
「好きというか、歌がな。私も歌うが銀玲の歌は誰とも比較できないほど素晴らしい。」
「今年は白の巫女が三十人もいるから待つの大変だけど、黒の巫女も食べながら待っとくといい。」
緑の泰子の勧めでゆっくり食事を摂る事にした。
ゲームにこんな流れ無かったけどな?
あまり攻略に関係ない話って事かな?
不思議に思いながらも、泰子達とお喋りしながら待った。
最後らへんになると金の泰子がソワソワし出して、緑の泰子が揶揄っている。
そんなに楽しみなんだろうか?
漸く最後の巫女が出てきた。
さっきまでざわめいていた会場が、一気に静まり返ってくる。
白巫女装束を引きずるサラサラとした音だけが響くほどに鎮まった空気に、注目していたのが金の泰子だけでは無いのだと分かった。
白い手袋をした巫女の手が胸の前で組み合わさり、小さな息遣いが聞こえた。
小さく高く始まる高音の声が伸びやかに空気を振るわせる。
歌う歌は愛の歌。
感謝と慈愛の込められた、誰かを何かを愛する歌。
一小節という短い時間で変化が起き始める。
こぽりと地面が揺れた。
フワフワと白い光が現れる。
光が舞い、地面から草木が生え出した。
花が咲き乱れ、花びらが次々散っては風に舞う。
光蝶が生まれ、大気を小鳥が走った。
樹木は大木となり、そこかしこに精霊達が集まっていた。
美しく羽を生やした少女であったり、長い白髭を蓄えた老人であったり、姿は千差万別でも分かることは清廉で美しい。
それは、光と自然が舞う幻想の世界だった。
ーーーこれはっーーー
ゲームのエフェクトだっ。
主人公黒の巫女が修練を積んで精霊力が上がってくると、エフェクトが追加されていく。
最初は全くのゼロ。段々と光、花、樹木、蝶、鳥と増えていくのだ。
ゲーム上分かりやすくされただけのエフェクトと思っていたが、現実ではこんな幻想的な光景になるだなんて!
これは黒の巫女がやるはずだった光景だ。
誰だ、これは!?
銀玲なんて名前の奴ゲームには出なかった。
モブだなんて有り得ない。
だって金の泰子が顔を赤らめて恍惚として聴き入っている。
目の前を光る蝶がハタハタと飛び、翼の前に煌めく鱗粉を落としていった。
とてもリアルなのに向こう側が透けて見える。
銀玲が歌い終わると、幻視はゆっくりと元に戻り出した。
一礼し、巫女服の裾をフワリとはためかせ銀玲は退出していく。
遅ればせながらパチパチと拍手が鳴り出し、白い影が消えても鳴り止まなかった。
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