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18 最後のイベント
夕食を摂る為にジェセーゼ兄上と緑の泰子と食堂へ向かっていた。
イベント開始時、欄干から落とされて落ちた池の向こうは紫色に染まっていた。
このゲームは二ヶ月程度のシナリオしか無いのに、食事に霊薬紫の腐花が入り体調不良者が多かった所為か、選霊の儀自体が延長されていた。
赤の泰子はサフリと上手くいっている様で、翼の毒牙に掛からず安心した。
サフリの話では、赤の泰子も暫く黒の巫女を探しているそぶりが有り、見えないと不安がっていたらしい。
日数が経つにつれそれも薄れ、黒の巫女に合わない様に体調不良を理由に赤泰家へ戻るようにしていた。
サフリは此処から赤泰家へ通っているらしい。
いつの間にかサフリの眼が赤色と知られており、赤泰家では歓迎されているとか。
赤泰家は長らく色合わせが上手くいかず、髪と眼の赤色が濁り掛けていた。
ゲームでの赤の泰子の悩みも赤眼の白の巫女を娶る様にと圧力が掛かっていて、それが悩みだったはずだ。
色が鮮やかで単色である程精霊力が増す。
サフリは願ってもない伴侶だろう。
というか赤の泰子とサフリはそういう仲になったのだろうか………。泰子っていう人種は手が早いのかな?
食事を終え、珍しく今日は翼達を見なかった。
いつもはこれ見よがしに目立つところで食事を摂りながらいちゃついている。
あれを見せつけられる度に、胸が苦しくなる。
青の泰子は最近見ないが大丈夫だろうか?
ジェセーゼ兄上は心配して日中ずっと一緒に居ようとする。
兄上にだけは黒の巫女との勝負を教えているので、いつ招霊門に落とされるか心配しているのだろう。
夜に歌っているのも本当はついて行きたいと言われた。招霊門は精霊殿にあるのに、毎日そこに行くのは危険だと言って。
兄上には緑の精霊王と約束をしたから、もし落人になっても心配しないで見守って欲しいと頼んだ。
精霊王が関わるならと渋々承諾してくれた。
知らない間にいなくならないでと言って。
こんなに仲良くなれるとは思っていなかった。
鈴屋弓弦に戻ってもジオーネルの記憶がちゃんと残ってるといいんだけど………。
愁寧湖に向かいながら此処を忘れない様にと景色を眼に焼き付ける。
人気の無くなった住宅街を進み、途中からいつもの様に湖へ足を進める。
向かう時に誰にも会わない様、緑の精霊王が空間を作ってやると言ってくれているので、安心して湖の敷地に入った。
だから、驚いた。
金色の光に。
「金の泰子?」
と、黒い翼がいた。
金の泰子は緩やかに微笑んだまま。
ジオーネルとして会う時は仏頂面で機嫌悪そうにしていたのに、今の泰子からは人間味が無くなっていた。
「こんばんは。」
翼は機嫌良さそうに挨拶をした。
答えない私へふふふと含み笑いをする。
翼は桃色の液体の入った瓶を、金の泰子へ渡した。霊薬虹色の恋花だ。
懐からもう一つ紫の液体が入った瓶を取り出す。
一本、二本、三本………。
「うーん、これくらい?ゲームじゃ何本入れたとか分かんないよね。」
霊薬紫の腐花を湖へ入れるつもりなのだろう。
今からシナリオを進めるつもりなのだと察した。
でもそれはジオーネルが嫉妬に駆られて湖に霊薬を落とす。
霊薬紫の腐花を入れて銀の精霊王を狂わせ黒の巫女を追い詰めようと考える。
正直何故そう考えたのかは分からないが、金の泰子に選ばれないと嫉妬したジオーネルは、黒の巫女を消したかったのだろう。
狂った銀の精霊王に黒の巫女の精霊力を取り込ませ様とでも考えたのか…。
翼はトコトコと近付いてきて瓶を三本渡してきた。
「はい、コレ。湖に入れてね?」
は?
当たり前の様に手に握らされる。
「な、………入れるわけないだろう?」
翼はニコニコと無邪気に笑う。
「入れないと金の泰子に虹色の恋花飲ませちゃうよ?」
金の泰子は翼に渡された桃色の霊薬を大事そうに持っていた。
「今すこーしずつ飲ませてるんだ。でも一本一気に飲ませると強過ぎるのかバカになっちゃうんだよね~。そんな事ゲームに書いてないからさ、青の泰子はダメになっちゃった。」
無邪気にそう嘯く。
ダメに?最近見ない青の泰子はどうなっているんだろう……。
人を駄目にして何も思わないのか。
「たから、はい、君がやるんだよ。金の泰子バカになっちゃうよ?」
金の泰子を人質にするつもりで連れて来たのか。
翼とはこんな怖い人間だったのか。
血の気が引いてぐるぐると眼が回った。
私は言われた通りに紫の液体を落とした。
トポトポと落ちて紫に広がり湖の水に混じってしまう。
この後がどうなるのか分からない。
ゲームでは突然戦闘シーンが始まるだけで、ジオーネルが霊薬を入れた場面も銀の精霊王が暴れ出した場面もない。
息を飲んで待っていると、ユラユラと水が揺れ出した。
湖の底から何か大きな物が上がって来ている。
白?銀?
水面を激しく波立たせ上がって来たのは大きな蛇だった。
口をあんぐりと開けて見上げる。
銀の大蛇。
あれ?銀の精霊王って魔王みたいな顔で描かれてたけど人型だったよな?
「な、なにこれ………。」
蛇は頭を大きく上げた。空を見上げる様に。
ピィィィィィィィィーーー!
細く高く鳴く声は鼓膜を破る勢いで頭に響いた。
緑の精霊王が作った空間が破れ、住宅街の方から喧騒が聞こえだす。
なんだ?とか、銀の精霊王か?とか聞こえるので、人が集まり出しているのだろう。
「こっちです!」
翼が何か言っていた。
いつの間にか精霊殿の人達を呼んだ様だった。司祭フーヘイル様も来ていた。
「彼がまた霊薬を使っているところを見ました!愁寧湖に紫色の毒を入れてたんです!金の泰子と見ました!」
なる、ほど?
銀の精霊王が蛇だし暴れないしでゲームと違っても、翼の行動はブレないらしい。
「きっとあの鳴き声は銀の精霊王に攻撃したんですよ!」
え?皆んな信じるの?
いや、信じてる様だ………。
翼の隣に金の泰子がいるのも信憑性を増しているのかも?
そんな騒ぎの事などどうでも良さげに、銀の蛇はゆるゆると動き出した。
巨大な身体を空に浮かし、移動しようとしている。
シュルシュルと音を立てて飛んで行ってしまった。
「ジオーネル様、精霊殿へお越し下さい。」
硬い司祭達の言葉に私は頷いた。
ああ、今日が最後の日だと思って。
逃げもしないのに周りを司祭達が取り囲む。
それを見やる天霊花綾の人々は困惑と嫌悪に満ちていた。
翼の言葉を信じるなら、私は銀の精霊王に霊薬紫の腐花という毒を盛った不届者。神にも近い存在に刃を向けた者だ。
金の泰子は私に侮蔑の目を向けるばかり。
ジオーネルとしてはついぞ好意的に見てくれる事が無かったなと悲しくなった。
この視線が例え虹色の恋花のせいだとしても、元から好かれてはいなかった。
精霊殿へ向かいながら、それでも緑の精霊王との最後の約束を果たそうと思った。
助けたくないのか?
聞かれた質問に、私は助けると答えた。
じゃあ歌えと、精霊達に運ばせるから、歌えと言われた。
私に出来るのは歌う事だけだ。
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