偽りオメガの虚構世界

黄金 

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10 お互い苦労するね

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 朝から教室に入ると、鳳蝶の機嫌が凄ぶる悪かった。

「………おはよう?」

「………………はよ。」

 返事が返ってきたのでどうやら僕の所為では無いらしい。
 珍しくお菓子もパンも食べていなかった。

「どうしたの?具合悪いの?」

 心なしか顔色が悪い気がする。
 鳳蝶はゆるゆると首を振った。
 どうしたんだろう、と心配していると、窓際の方で識月君達がまた騒いでいた。

 内容は二つ。
 一つ、識月君がジンとデートした。
 二つ、青海君がアゲハとセックスした。

 ……………ん?…………………んん!?

 アゲハはアルファで青海君のサブ垢もアルファで……………。

(ちょ、ちょちょちょ………まって!しちゃってるの!?)

 僕の慌てた質問に、鳳蝶は観念したようにコックリと頷いた。
 マジですか。
  
 昼休み聞かせてね!
 今日は生憎の雨だけど、教室から移動して無理にでも聞く事にした。









 昼休み、僕達は屋上庭園の屋根付きテラスの端っこを掴み取った。
 アゲハを急かして急いで走りました。
 
「ちょっと、待って。まだケツに入ってる気がする…………。」

 鳳蝶の苦情に、僕は顔を引き攣らせた。

「ええ~、仮想の身体なのに現実に残るの?」

 間違いなくアゲハの方が挿れられたのだと思い、何やってるのとビビった。まさかオメガだけでなくアルファ同士でもやっちゃうなんて!

「うう………成り行きで。もうしねー。」

 軽く昨日の顛末を聞き、鳳蝶はログアウトしてから寝れなかったらしい。
 お陰で今日は鳳蝶のお母さんが作った小さなお弁当だった。足りるのかな。

「うちの親が初めてのヒートかって騒ぎ出して、違うって説得するのに時間掛かった。」

「なに?余韻的なものがあったの?いつもはオメガ相手でもそんな感じないのに。」

 鳳蝶にもよく分からないらしい。
 相手がアルファだったから、元々のオメガ性が引っ張られたのかもと結論付けたみたい。
 
「いや、オレよりジンの方はどうなんだよ?」

「あ、うん、バレてないよ。バレてないけど、なんか頑張る宣言されちゃって………。」

 鳳蝶の目が半眼になった。
 お互いはぁと溜息を吐く。
 ここは屋上とはいえ校舎内の一部なので、スクリーンを出して自動討伐は出せない。
 もう、ゆっくりしよう、とお弁当を食べて二人で時間が来るまでダラダラと過ごした。







 学校が終わると速攻で帰宅した。
 玄関に入ると既に荷物が用意され、出掛ける直前のようだった。

「ただいま~。」

「あ、お帰り~。もう出ちゃうけど大丈夫?晩御飯は二日分作り置きしたからね。後はいつも通りね。」

 今日から父さんが発情期で夕方からホテルに向かうと言っていたので、急いで帰ってきた。

「もうっ、用意しなくてもいいのに。晩御飯くらい自分で作れるよ?」

 父さんは廊下に顔を出して僕を確認すると、スクリーンを出してタクシーを呼んでいた。
 行き先まで打ち込めば、無人タクシーが直ぐ側の裏門までやって来るはずだ。

「ウチで過ごしてもいいよ?僕の時は父さんがやってくれてるのに。」

「だぁめ!父さん親だから当たり前なのっ。昼間は仁彩いないし、ホテルは至れり尽くせりなんだから気にしない!…あ、来たから言ってくるね~。」

 開け放した玄関から門の外にタクシーが見えた。
 いってらっしゃい~と言って送り出す。
 父さんは現役高校生の僕より元気で可愛らしい人だ。
 一週間一人かぁ~。
 寂しいと言う気持ちもあるが、やはり保護者が居ないという開放感も楽しいので、これはこれで楽しもうと、自分の部屋へ向かった。







 建ち並ぶビル群の中に、巨大なホテルが存在する。
 電車、バスが併設され、通路で商業区、多目的会館、役所、銀行が全て繋がっていた。
 直通で空港に行くことも出来る事から、海外からの重鎮やセレブ達も数多く利用され、一室予約するのに数ヶ月待ちは当たり前、という超高級ホテル。
 雲井 雫が発情期で使うホテルである。
 勿論手配しているのは実兄の皓月だ。
 当初はスイートルームを用意していたのだが、雫から殆どベッドの上なのに勿体無いと拒否され、サブスイートにランクダウンした。それでも寝室三部屋、浴室二つ、キッチン、バーカウンター、トイレ五つ、露天風呂、シアタールームまでついている。
 その手配をしているのは息子の識月だった。
 時期が近付くとその部屋を空けるように調整しているのだが、ここの経営自体、識月が任されているので片手間にやっている。
 
 識月の母方もまた資産家でホテルや不動産を各地に持っていた。政治家にも繋がる家系から、雲井皓月と政略結婚したわけだが、皓月の愛情は実弟の雫に全振りされている。
 お互い政略結婚と割り切った関係だった筈で、母親も納得していたはずなのに、母はより優れたアルファである皓月にのめり込んだ。
 愛しても返ってこない愛情。
 分かりきっていた筈なのに、アルファという矜持が雫を排除しようとした。
 そしてそれを許す皓月ではなく、母は押さえつけられ嫉妬に心が歪んでしまった。
 母が結婚時に持ってきたホテル経営も不動産も、皓月はまだ子供の識月に管理するよう言いつけてきた。
 またそれを識月も可能にする能力があってしまった為、母は権力も資産も何もない、お飾りの妻となった。
 


 識月がサブスイートのある階の廊下で待っていると、直通エレベーターから父皓月が出てきた。
 
「なんだ、待つ必要はないぞ?」

 皓月の声掛けに、識月は無表情に視線をやった。
 ホテルのキーは予約した時点で使用者しか解錠出来ない。
 鍵、という物は廃れて等しい。
 皓月の名義で部屋を確保した時点で、開けられるのは皓月かその弟、雫のみしか開けられない事になってる。
 態々ここで待っていたのは、来るだろうと予測出来たから待っていただけだ。

「聞きたいことがあって。」

 およそ親子とは言えない距離感で二人は話す。
 皓月は目線のみで、どうぞと促した。

「やはりジンの素性は教えて貰えないのですか?」

 皓月は質問内容を予測していたのか、感情の見えない笑顔を浮かべた。
 勿論教えるつもりはない。
 その笑顔に答えを見た識月は溜息をついた。

「そんな重要な人物には思えませんが?」

「………そんな、重要そうに見えない人間に固執するのはお前自身だがな。」

 質問は終わったとばかりに皓月は歩き出し、識月は道を譲った。
 
 皓月が扉の前に立つと音もなく解錠される。
 中から白い腕がフワリと皓月に抱きついてきた。迷うことなく皓月はその小柄な身体を抱き止める。
 濡れた黒い瞳、紅潮した頬。
 少し汗ばんでいるのか猫毛の黒髪が頬に張り付いて、それが色気を醸し出していた。

 何度かこの叔父の姿を同じ様に見た事はある。なんなら皓月に用事がある時は、必要に駆られて中に入った事もあるのだが、入れるのは息子の識月だけなので、全て識月が間に入る事になってしまっていた。
 識月もアルファだ。あまり入りたくはないが、番持ちの雫のオメガフェロモンを感じ取れない事は救いだった。

 オメガの発情期。
 叔父は項を番に噛まれている。
 噛まれたオメガは番のアルファしか受け付ける事が出来ない。
 他のアルファに触られれば、痺れや吐き気、時には失神したりするくらい拒絶反応が出る。
 
 叔父である雫は、皓月を拒絶しない。
 発情期になるとこの部屋で皓月は雫と共に過ごす。
 それが、何を意味するのか………。

「仁彩は…………。」

 思わず識月は従兄弟の名前を出してしまった。
 今迄この二人の関係に何も思う事は無かった。まあ、そうなんだろう、くらいにしか捉えていなかった。
 だが、無性に今、気になってしまった。

 愛しい者を前に、無視するつもりだった皓月は、可愛い甥の名前に横目で視線だけ動かした。

「仁彩は、貴方達の子供では無いのですよね?」

 皓月は何を今更と目を細める。

「流石に、そこら辺のモラルは守っている。仁彩は雫の元夫との子供だ。…………番になったのは仁彩を産んだ後だかな。」

 皓月はそれだけ言うと、雫を抱き上げて中に入ってしまった。

 


 識月はあの二人の関係を否定するつもりはない。
 皓月のアルファの執着が、実の弟に向いた結果なのだろうと、それが法律的にもモラル的にも世間に公表出来ないものだとしても、関係ないと思っていた。

 自分は今、『another  stairs』の中で一人の人間に執着している。
 本当のジンの姿は知らない。
 男なのか、女なのか、アルファかオメガかベータか、全く分からない。
 父は年齢や性別で批判する様な人間では無いが、だからこそジンという人間を予測する事も出来ずにいた。

 もし、父の様に求めてはいけない人間だったどうするか……。
 
 父の様に堂々と自分も囲い込んでしまうのか。
 もし、相手がかなりの年上だったら?
 もし、相手に恋人がいたら?家族は?もしかしたら男性で結婚して子供もいたりすれば?
 識月の家族はバラバラだ。
 それを知っていて、他人の家庭を壊してでも、手に入れたいと思うだろうか?

 皓月の実弟を見る目は異常だ。
 例え息子でも不快感を覚えるくらいに、狂っていると思う。
 そう見えるくらいの異常な執着を、自分もジンに向けてしまうのだろうか……。
 そうなりたく無いという理性が、本能をどれだけ押しとどめる事が出来るだろうか。

 ジンは誰だろう?
 早くジンに会いたくて、焦りばかりが識月の中を駆け巡っていた。













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