悪役令息が戦闘狂オメガに転向したら王太子殿下に執着されました

黄金 

文字の大きさ
254 / 255
番外編

255 長い長い話の終盤


 夜空が薄ぼんやり白み始めた頃、まだ出ぬ太陽を二人で静かに待っていた。
 小さな部屋に置いた長椅子には、大量のクッションを置いて、ゆったりと腰掛けられるようにしている。
 最近は子供と孫達がほとんどの仕事を終わらせてしまう為やることがない。
 なのでナリシュとオリュガはよくこの部屋で寛いでいた。
 昔隠し部屋に置いていた記録を全てこの部屋に持ってきて、書き足し修復しながらたまに読んでいる。
 見たければ見ていいよと家族には言っている。
 数十年も昔のこと。
 これを見ても何のことだか分からないだろう。
 長男のロラシュはよく理解したなと思うが、あの頃はまだ記録と事実が近かったから信じることが出来た。今では数十年も昔のことで、誰も事実とは思わない。創作の世界だとしか誰も思わず、孫達も絵本代わりに読んでいた。
 お陰でこの部屋は幼い子供の落書きがいっぱいだ。
 それもまたいい思い出。
 自分達もそうだが、子供も孫も結婚が早かった。だから今ではひ孫までいる。
 
「ねぇ、最近ミルク少なめになったの歳かなぁ~。」

「若くはないからね……。」

 苦笑しながらナリシュが答えると、オリュガは年甲斐もなく唇を尖らせる。
 なんとなく二人は目が覚めて、この部屋で時間潰しに紅茶を飲んでいた。
 特に何かあるわけではなく、何かをするわけでもない。
 早く起きると慌ただしく使用人達が動かなければならないので、静かに起床の時間を待っているだけだ。
 よくこうやって起きてしまうから、自分達用の小さなキッチンをこの部屋には置いていた。
 観葉植物を置いて、窓から入る陽の光はクリスタルガラスの光が入るようにして、柔らかで暖かい色合いのソファと、白と青のクッション。大きな本棚には手作りの冊子が並び、可愛い小物も置いている。
 二人だけの二人が作った空間だ。

「ナリシュ、朝が来るよ。」
 
 今日も一日が始まる。
 クリスタルガラスの幾何学模様に、太陽の光がゆっくりと当たっていく。

「……………本当だね。」

 あとどれくらいのこうしていられるのだろう。
 ナリシュはぼんやりとその光を見ていた。
 あとどれくらいオリュガといられるだろう。
 永遠に続けばいいのに。
 朝を毎日、永遠に見ていたい。
 今はまだ健康で、多少の無理も平気だけど、そのうち終わるのだろうか。
 
「……オリュガは来世を信じる?」

 唐突なナリシュの質問に、オリュガは緋色の瞳をパチパチとさせた。どんなに歳をとり皺が増えても、オリュガの瞳は若々しく綺麗だ。

「当たり前だよ?だって僕には前世がある。」

「来世は覚えてるかな?」

 ああ…。
 来世に記憶があるのか。
 ナリシュがポツリと覚えていたらいいのにと呟いた。
 ガラスに陽の光が徐々に昇る。その様を暫く二人は眺めていた。

「覚えてたほうが攻略しにいく。」

「………そうだね。」

 力強いオリュガの言葉に、ナリシュはほんのり笑って頷いた。

「僕の方が覚えてるに一票。」

「ふふ、…そうだね。」

「賭けになんないや。」

 ふふふ、と二人で笑い合う。
 
 カチャ、パタパタ…。
 数人の話し声と子供の声が聞こえだす。

「今日は誰が来たかな?」

「………毎日誰かしら来るね。」

 ナリシュは苦笑した。
 毎朝毎朝、誰かしら起床に合わせて起こしに来る。未だにもういい歳したロラシュやミフィケが来たりするので、来た人間と朝食を摂るようになっている。
 裏では誰が起こしに行くのか密かに攻防戦が繰り広げられているらしい。
 もう殆どのものを手放している自分達に、皆んな何故か慕ってくれている。
 立ちあがろうとしたオリュガの手をナリシュは掴んだ。
 オリュガはどうしたのかと振り返る。

「オリュガ……。」

「うん?」

「覚えてたら、私を見つけて。」

 群青色の瞳は優しく、でも真剣にオリュガを見上げていた。
 今世だけでは足りない。
 もっと一緒にいたいのに。
 オリュガはまだ座るナリシュの前に立ち、自分と同じように歳をとったナリシュの頬を両手で挟んだ。
 顔を近付け額を合わせる。

「必ず攻略しに行くよ。」

 さあ、と伸ばされる手をナリシュは握った。
 自分よりも小さいのに力強い手を。
 この手にずっと助けられた。返せない程の感謝がある。
 次があるのならば、返せるだろうか。

 手を引かれ、ふわふわと香るオリュガの匂いを追いながら、ナリシュはずっとこの時が続けばいいのにと思った。






感想 1,711

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)