スプーキージャッジメント!

丸玉庭園

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4 そんなことするはずないのに

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「あっ、うん」
 姿勢を正す等々力にならって、出口もピンと背筋を伸ばした。
「ふたりとも、これを見てみてくれ」
 画面のすみにあった、ハスの花のマーク。
 それをタップすると、『ゴクラクパッド』についての説明文が出てきた。

◆ゴクラクパッドの使い方◆

※ 懺悔機能について
『懺悔』を入力し、極楽に送信できることができます。
 あなたの心のうちに溜めこんだおもいを、極楽にうちあけましょう。
 心をこめて懺悔すれば、天はあなたを見放すことはないでしょう。

※ 善行ポイントについて
『善行ポイント』を貯めることができます。
 よいおこないをすると、一日一ポイントを進呈します。
 十ポイントためることができれば、あなたの望みはきっと叶うでしょう。

「十ポイントで、望みが叶うっ?」
 等々力が、ゴクラクパッドを握りしめる。
 出口も、説明文を何度も読み返している。
「善行っていうのは、等々力のいうとおり、見返りを求めないものらしい。それをやれたとき、善行ポイントがつくことになるんだと、おれは思ってる」
「なるほど。ゲーセンのポイントみたいな感じね。クエスト達成したら、クレーンゲームがワンプレイ無料、みたいな」
「欲望のかたまりである、ゲーセンに例えるのって、あってるのか? まあ、とりあえず」
 ふたりを前に、おれは昨日から考えていたことを打ち明けた。
「おれ、この善行ポイントを使って、みんなを地獄から連れ戻せないかと思っているんだ」
 おれの考えに、ふたりは少しだけ目を見開いた。
 自分のことながら、ブッ飛んだアイデアだと思っていたので、当然の反応だと思う。
 だが、等々力も出口も、すぐに顔を見あわせ、明るい表情になった。
「たしかに、これはいけそうだよな。それにさ、十ポイントなんて、すぐじゃん? なあ、でぐっちゃん」
 等々力に話を振られ、出口は一拍遅れて「う、うん」と答えた。
「だけど、『善行』ってさ、見返りを求めちゃだめなんだろ? おれ、できるかな? おれ、欲望まみれだからなー」
「うーん。ためしに今、なにか、やってみるか」
「えっ、今できんの?」
「たぶん。ちょっと待っててくれ」
 驚く、等々力と出口。
 おれは部屋を出て、リビングに向かい、『あること』をした。
 数分経ってから、部屋に戻る。
 待ちかねたように、等々力がベッドから立ちあがった。
「何やってたんだよー」
「いや、ちょっと。リビングのそうじ……」
「なるほど!」
 出口が、うなずく。等々力も「へー」とあごに手を添えている。
 どきどきしながら、三人でゴクラクパッドをのぞきこんだ。
 しかし、何も起こらない。
「なんでだ? まあ……他に方法があるんだろうが」
『アハハ、そんな善行じゃだめだよ。ぜんぜんね』
 ゴクラクパッドに、チャットアプリのメッセージが表示された。
 送信してきた相手のアイコンに、見覚えがあった。
『ウシトラ』だ。
「なんで……ウシトラが?」
 等々力が、ゴクラクパッドに向かって、いい放つ。
 返信する間もなく、続けてチャットが送られてきた。
『善行は、見返りを求めないのもそうだけどね。人知れず行うものなんだよ。みんなが見ている前で、いいことしましたアピールしても、善行にはならないってこと』
「い、いいことしましたアピールだなんて!」
 出口が、納得いかないとばかりに、めずらしく声をあらげた。
『おっ、怒ってる~。まっ、せいぜいがんばってね~』
 そのまま、ウシトラとのチャットは途切れた。
 おれたちは呆然と、ウシトラとのやりとりをながめていた。
 しばらくして、おれは黙って、アプリを閉じた。
 すっかりどんよりしてしまった場に、等々力がやたらと大きな声でいった。
「やろうぜ」
 わざとらしいほど、強く、前向きな言葉だった。
 あんなことをいわれたのに、等々力は等々力のままだった。
「大丈夫だって! おれ、ゲームのログイン毎日すんの、苦じゃねえ派だし!」
「等々力くんてば。またゲームといっしょにしてる。いいのかなあ?」
 出口が、苦笑する。
「わり、わり。でもさ、あきらめないよりはマシじゃね?」
 そんな等々力に、おれと出口は顔を見あわせ、うなずいた。
「……そうだな。続けよう」
「あたし……ごめん」
 なぜか急に、出口が頭を下げた。等々力が、きょとんとしている。
「でぐっちゃん?」
「あたし……さっきちょっと、いやだなって、思っちゃったんだ。だって、それって……白金さんも戻ってくるってことでしょ。それは、いやだなって、なっちゃったんだ。さいてい、だよね」
 おれと等々力は、出口の気持ちを悟って、少しだけ黙った。
「出口」
 人間は、他人の心を読むことなんてできない。
 そんなことができたら、ケンカもいさかいも、なにもない平和な世界になるのだろうか。
 だが、こうして出口は、自分にキバを向いてきた相手のために考え、後悔している。
「出口は、やさしい人間だ。さいていなんかじゃない」
「でも……」
「はっきりいう。白金を許す必要なんて、ない。白金を助けたら、今度は白金と違う世界で生きればいいんだ。白金が戻って来て、また何かあったら、おれたちを呼べ。出口はもう、ひとりじゃない。おれが、白金を叱ってやるから」
 出口は、静かに涙をこぼした。
 何度もうなずいて、そしてぽろぽろと泣いた。
 ゴクラクパッドに、何かが表示されている。

『善行ポイントが、ひとつ、溜まりました』



おわり
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