星の衝動

Tachibana

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居室に戻る前に喫煙室に寄ると、堺がいた。
椿さんに会って少し話したことと、
確かに良い子だと思ったという旨を伝えた。
「やっぱりそうですよね。けど葉山さんもついに出会っちゃったかー」
「出会ったって言っても俺はお前みたいに、あわよくばとか思ってないからな。お前らを応援してるよ。」
そう。どんなに良い子だとしても、俺には全く関係のない人だ。彼女からも俺への熱視線を感じることはなかった。

「葉山くん。今日ご飯いかない?」
名古屋育ちの派遣の女性が
喫煙室を通った時に話しかけてきた。
年は少し上だが、可愛いと言われるタイプの女性だ。
こういうのを熱視線という。
「すみません、今日は先輩が東京から遊びに来てるんでまた。」
適当な嘘をついてかわすのが一番だ。
残念、またね。と言いながら去る華奢な後ろ姿を見て堺がつぶやく。
「いいなぁ葉山さん。あんな可愛い人に誘われてみたいですよ」
「お前はまず椿ちゃんを誘えよ」
そうなんですけどね、と笑う堺をどこか羨む自分がいた。



夏になりかけの時期、
続々と新人が初仕事を終えたという知らせが入ってきた。
松本も小さな広告スペースを担当して、
もうすぐ公開されるという。
その前にいち早く作品が世に出たという椿ちゃんの
処女作品を見させてもらおうと11階に行くことにした。
作品を見て感想を伝えるのが、
先輩というよりもこの仕事に就いた同僚の使命、
と教わってきたからだ。

11階にも可愛がっている後輩はいるが、
ここ最近は忙しくて会いに行くことが減っていた。
少しだけ緊張しながら向かう。
椿さんはいなかったが、
よく知っている派遣スタッフの足立さんがいた。
「足立さん、久しぶりです」
「あー葉山くん!最近来てなかったね。どうしたの?」
「1年目の処女作を見せてもらおうと思って。誰かいます?」
言い切る前に、椿ちゃんが戻ってくるのが見えた。
「あ、椿ちゃんって知ってる?今戻ってきた子なんだけど、聞いてみるね。」
「あ、知ってるんで俺が言います。ありがとうございます。」
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