【完結】呪いを受けた少女は今日も元気です(子豚になったけど呪われたままでいいかも)

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穏やかな日々と騒がしい日々

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「お嬢様、何ですかその日焼けは。マーガレットの子供と遊ぶのはいいですがせめて帽子だけでも」

「そうよね~。一応、帽子は持って出たのよ。だけど、子供と遊ぶにはちょっと邪魔でしょ・・・だから、少しの間ね。帽子を被り忘れたのよ」

「私が休みをいただくとすぐこれです。お嬢様も・・・農夫じゃないんですから」

数日前メイドのマーガレットから相談を受けた。マーガレットの旦那さんは流行り病で亡くなり、ひとりで4人の子供を育てる。肝っ玉お母ちゃんだ。幸いなことに近所に姉が住んでいるようで、昼間は姉に子供を預けていた。その姉が出産で2週間いないらしい。

「流石に子供だけでお留守番も心配なので、姉が帰ってくるまで2週間ほど休みを頂戴してもいいですか」

「まあ、お姉様がご出産なのね。おめでとう・・・休みを取るのは構わないけど、マーガレットもひとりで大変でしょう?ここに連れてくれば、私が面倒を見るわよ」

「でも・・・そんなこと頼んだら奥様に怒られます」

「そんなことで怒らないわよ、お母様も子供が好きだし。きっと、いいと言ってくださると思うわ」

次の日マーガレットは4人の子連れで出勤してきた。一番上のロナルドは6歳、双子のハビーとビリーは4歳、一番下のキャロルは1歳7カ月の女の子だ。
キャロルは子育て経験のあるお母様が世話をしてくれることになった。

やんちゃな男の子たちは、午前中執事のベンに読み書きを教わる。3日も経つと子供たちは自分の名前が書けるようになった。コツは集中力が切れかかるタイミングを見計らって、ベンが手品を使って耳の後ろや服の中から飴やチョコを出すのだ。最初は子供たちも驚いていたが甘いお菓子に大満足して、また勉強を始めるそうだ。

ベンは優秀な教師だった。食いしん坊のビリーはいつもベンの手の中に何かが入っていないか確かめている。4・5回に1回わざとチョコを持っていたりするので、そんな時のビリーは全身で喜びを表現するので、いつも厳しいベンも笑いが殺せないでいる。

お昼をいっぱい食べたら、お昼寝タイムだ。
子供たちに割り当てた部屋で、思い思いに寝ているが寝やすいソファーを使うのはロナルドとビリー。ハビーは何故そんなところに!と言いたくなる場所で器用に寝ているのだ。

「子供の発想は面白いものだわ」

「お嬢様もいずれはご結婚されるのですから、子育ての練習になりますね」

「結婚ね~、私はリサの子供の面倒を見るぐらいが丁度いいわ」

お昼寝が終わると中庭で鬼ごっこやちゃんばらを楽しむ。

「隠れてもすぐ見つかっちゃうわね。みんな凄いわ」

「だって、エレーナは太っているから、隠れているつもりでもバレバレだよ」

「うっそ、隠れてなかったのか~」

様子を見に来たマーガレットが青い顔になって「こら、お嬢様に向かってそんなこと言っては駄目でしょう」とロナルドの頭を拳骨でぐりぐりすると、ロナルドが「ごめんなさい」と申し訳なさそうに謝った。

「マーガレット、拳骨は駄目よ。子供は正直が一番よ。本当のことだからロナルドも謝らないで」

「でも、エレーナは太っていても可愛いよ」

「こらロナルド!エレーナお嬢様を呼び捨てにしては駄目でしょ。躾がなっていなくて申し訳ありません」

「いいのよ。ロナルドとはお友達だから」

「・・・・・お嬢様。本当にありがとうございます」

帰る時間になるとお母様がキャロルを連れて来た。お風呂に入ってこざっぱりしたキャロルはドレスを着ていて、まるでどこかの令嬢のようだ。

「奥様これは・・・」

「キャロルがげっぷをした時に少し服に付いちゃったから、お風呂に入れて着替えさせたの。服はエレーナのお古だからもらってくれれば嬉しいわ」

明らかに高級そうなシルクの子供用ドレスに焦るマーガレットを横目に、子供たちが「キャロルがお姫様みたい」と喜んでいる。お風呂で気持ち良くなったキャロルも嬉しそうにキャッキャッと手足を元気に動かしご機嫌だ。

「奥様がそう言ってくださっているのだから、受け取りなさい」とベンが言うと、何度も頭を下げてマーガレットは子供たちを引き連れ家に帰って行った。

子供たちも屋敷に慣れたころ、マーガレットのお姉様が戻ったようだ。少し寂しかったけど、2カ月後の双子の誕生日会を屋敷でしようと約束して、子供たち「またね~エレーナ」と言って帰って行った。

マーガレットから子供たちの様子を聞くと、今でもベンからもらった教科書で読み書きを続けているようだ。

ブラウン家はエレーナのために、新しい雇用にはとても慎重だ。そもそも労働条件のいいこの職場を辞めるものがいないので困ることはないが。歳をとって引退する頃には使用人たちの子供に引き継がせることも多く、3代続けてブラウン家に勤めている者もいる。

またいつかブラウン家で働く彼らを見ることもあるかもしれない。
そう思いながらエレーナは、少し寂しくなった中庭を眺めた。

***

「ヨハン、手伝うわよ」

「エレーナお嬢様手が汚れます」

「体力が有り余っているのよ。何か手伝わせて」

「嬉しいですが、旦那様に怒られない程度にしてくださいよ」

「そうね・・・前に大鉈(オオナタ)を振り回して怒られたから、今回は雑草抜きぐらいにしておくわ」

「上手に使いこなしておられましたが、さすがにドレスに大鉈は良くなかったかもしれませんな」

「そうね」

魔法がわずかに残るこの国で、お父様もお兄様も魔力を持っていた。魔石で簡単に魔力を図る道具がある。エレーナは呪いにかかってからではあったが、魔力を調べる機会があった。結果は魔力ゼロ。残念がるエレーナだったが、ある日自分が思いのほか力持ちであることに気づいた。

この屋敷には古くから務める年配の者も多い。ヨハンも親の代から働いているが、最近腰に痛みを感じる年になった。エレーナもヨハンの腰を心配して、大鉈で雑草を刈っていたところをお父様に見つかった。

「エレーナ。使用人を家族と思うのはいいが、お前も一応令嬢としての振る舞いを忘れてはいけないよ」

「はい。お父様」

懲りずに1週間後、コックのハーベルがワインの樽を馬車から下し、屋敷に運ぶため重そうに樽を転がしているところを見てしまった。どこまで重たいものが持てるか試したくなったエレーナが、樽を軽々と肩に担いで馬車から屋敷を往復しているところを、メイドのリズに見つかって、やっぱり怒られた。

「お嬢様、令嬢は扇子より重たいものは持ちません」

「だって、みんなが『お嬢様、凄い~!』と褒めるものだから、つい嬉しくなって・・・」

「ついじゃありません」

***

そんなエレーナにも14歳になり家庭教師が付いた。

「エレーナ、昔は貴族令嬢と言うと家庭教師を雇ってめったに屋敷をでなかったが、今は学園に通うものがほとんどだ・・・・」なぜか苦笑いのお父様。

「エレーナも王都学園に行きたいかい?」

「いいえ、もし家庭教師でいいのなら屋敷で学びたいです」
(だって、お兄様と比べられると絶対邪魔くさいことになるわよね)

5歳年上のお兄様が入学してから、屋敷にアポなしで訪れる令嬢や近所をうろつく年頃の女性が増えた。この屋敷には私が認識できない魔法がかかっているから見られることはないけど、ベンやメイド長がやんわり断っているのに『一目アレン様に会うまで帰りません』と粘る令嬢に、うんざりしていたお兄様を見ている。

お兄様も名前を言われても分からないようで『会う必要はない』と何度も断っていたが、余りにもしつこい令嬢にはお父様から抗議の手紙を送った。

「アレン・・・リンドル男爵から『お詫びがしたので一度お会いしたい』と手紙が来ている」

「はああああ・・・・」

「・・・・・・・・・」

それでも懲りない令嬢は、両親と一緒にお詫びをしたいと正式なアポを取るのだ。ブラウン家も貴族社会にいる以上断れるわけはなく、結局お兄様は令嬢と会う羽目になる。

1番インパクトがあったのはリンドル男爵令嬢のモニカ様だろう。
我が家でも伝説の令嬢だ。

両親と一緒に来るなり「アレン様~、私のために時間を取ってくださってありがとうございます」と言って、抱き着こうとするモニカ様の頭を押さえて、一定の距離を保とうとするお兄様。

執事のベンに促され応接室に座ると、リズが1番安いお茶を用意した。お茶請けもただ練って成形したクッキーで『早く帰れ』と促すが、モニカ様はニコニコで効果はなさそうだ。

「いや、君のために時間を取ったわけでは・・・」

「君がブラウン宰相殿の一人息子のアレン君か。流石にモニカが見初めた人だな。いやあ~うちのモニカが君と付き合いたいと言って聞かないものでね。ぜひ、付き合ってはもらえないだろうか」

「いや~ん、お父様恥ずかしい」

モニカ様は晩餐会にでも出席するのかと思うほど着飾っていた。ふわりと柔らかいピンクの髪を大きなリボンで括り、胸元にも大きなリボンがひとつ。胸をどこまで強調したいのだろう。

「うふふふふ・・・」と笑いながらお兄様を見つめている。

「いや、今回はお詫びだと言うからお会いしたのです。僕は誰とも付き合う気はありません」

「モニカが可愛らしくって緊張しているのかな?この子は本当に優しい子で、繊細なところがあるが侯爵家の嫁として勉強も始めているところなんだ」

「そうです。アレン様に憧れて近づいて来る令嬢も私がいればみんな諦めますわ」

「君にも諦めて欲しいんだけど・・・」

「アレン様、照れなくても大丈夫です。ここには父と私しかいませんから」

「だからさっきから・・・」

「アレン様は女性とお付き合いしたことがございませんよね。だから、モニカが恋愛の楽しさを教えてあげます。モニカと付き合えばアレン様も私の良さがすぐに分かりますわ」

「そうだな。一度モニカと付き合ってみればいい」

たまりかねた使用人が、お茶のお代わりを持って来た。

「アレン様、奥様がお呼びです。お茶を飲んだらお部屋まで来てください」

「わかった・・・では、今日のところは」

「まあ、アレン様のお母様にもお会いできるのね。私も一緒に行きますわ、だって私のお母様になる方だもの」

「私も一緒に行こう。一度ゆっくり君の母君とお話をしたいと思っていたのだ」

「いえ・・・呼ばれているのはアレン様だけです・・・」

「まあ、気が利かない使用人ね。私がこの家に嫁いできたら辞めてもらってもいいのよ」

「どうです。アレン君、うちのモニカはしっかりしているだろう。しっかり者の妻がいれば君も安心して外を出あるけると言うものだよ」

ガチャ

「あ、奥様。今アレン様を呼びにきたのですが、遅くなって申し訳ありません」

「まあ、義母様。初めまして、私はモニカ・リンドルです。アレン様とお付き合いをさせていただいています」

「・・・・・・」

お兄様は涼しい顔で微笑んでいるように見えるが、目が笑っていないことに気づいていないモニカ様はあることないことお母様に話している。

扇子で口元は隠しているが、お母様も絶対怒っている。

「アレン、このお嬢さんが言っていることは本当なの?」

「いえ、私たちは今日初めてお会いしましたし、今までまともに話したことすらありません。もちろんお付き合いは断らせていただきました」

「え?アレン様?」

「なにか?僕は誰とも付き合わないと何度も言っているではないか」

「嫌よ。私はアレン様と付き合うの!」

「モニカと言うのね。アレンの母としてもふたりのお付合いは反対です。ドレスのTPOも分からない令嬢に侯爵家の嫁が務まるはずがありません」

「ええ、僕もそう思います」

どこがおかしいのか分からないモニカ様は不思議そうに自分のドレスを見つめると、あっと言うように「このドレスは私の普段着用なのです。もし、夜会に行くならもっと豪華なドレスを持っていますわ。男爵家と言っても羽振りがいいので驚かれたのですね。大丈夫です義母様」

モニカの父親も『そんなことか』とニコニコ笑っていた。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」



「失礼するよ」

そこで入ってきたのはお父様だ。真打登場に、お母様もお兄様もほっとしている。

「おお、ブラウン宰相殿ではないですか。貴方がいれば話が早い」

「ところで、リンド伯爵。今回のことがあったので少し貴方の家の状況を調べたが今年は領地の収入が減っているのに羽振りがいいようで、何か別の収入があるのか。もし身内になりたいと言うなら詳しく事情を聴きたいが、まさか奴隷売買などには手を付けていないだろうね」

「・・・・・そんな訳ないでしょう。はっはっ、モニカ今日はお詫びに来ただけだからこれで失礼しよう」

「はあ?お父様何を言って、私はアレン様と」

「さあ、今日はお会いできて良かった。モニカ帰るぞ」

慌てて帰っていく親子にやっと肩の力が抜けたお母様が「今までで1番酷かったわ」と言うとお兄様やお茶を運んだリズも大きく頷いた。

「いや、遅くなってすまなかった。あの家を調べてみると奴隷売買に関わっているようだな。この国は奴隷売買を禁止しているから、ちょうど家に着く頃に憲兵に捕まるだろう」

リンドル家は領民に重たい税をかけ、その税が支払えなくなると奴隷として隣国に売っていたようだ。元々マークされていたので、捕まるのは時間の問題だった。

リンドル家はお取り潰しになり、牢屋で裁判まで過ごしたがモニカ様が「私はアレン様の妻になるのよ。今すぐアレン様を呼んで頂戴」と叫んでいたそうだ。



そんな話を聞いて、誰が学園に通いたいものか。
お兄様の妹として学園に行けば笑いものになるだけではなく、お兄様目当ての令嬢にも何をされるか分からない。お父様に「屋敷で学びたい」と言うと、お父様もほっとしようだった。
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