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「誰だ」
ウエンは殺気で目が覚めた。誰もいないはずの部屋から現れたのはスミスだった。
スミスとはレイシャルの事務所で一度会っている。頭まで黒い衣装をすっぽり被り、眼だけを出している。その鋭い眼光は暗殺者特有の冷たさを含んでいた。なぜ気づいたのは、スミスが一度見たら忘れられないオッドアイだったからだ。
「初めて会った時から強いと思っていたけど、こんなわずかな殺気でも気づくなんて流石だね」
「スミス、お前の目的はなんだ?」
ウエンの手にはすでに剣が握られていた。
「殺しはしないよ。レイシャルお嬢様の手紙を届けに来ただけだ」
「それならば、普通に謁見を申し出ればいいだろう。なぜ王宮に侵入した」
「ただの男の嫉妬。もし、これで起きない腑抜けだったらお嬢様を奪って逃げようかと思ったのに残念」
スミスは事務所で会った時の人懐っこい顔に変わっていた。
「・・・・・」
「それにここに来たことも隠しておきたかったしね」
ウエンはガウンを被ると近衛隊長のワイアットだけを呼び出した。
「き、貴様!どこから侵入した」
部屋に来るなりワイアットは、自分たちの目をかいくぐった暗殺者に唖然としていた。
「この城の侵入は思ったより簡単だったよ。また時間がある時に侵入経路は教えるから怖い顔しないでよ」
「ワイアット声を落とせ、それより先ほどの話をもう一度してくれ」
「分かったよ。僕はミカエル、あっスミスは偽名ね。僕はミリュー王国のプール財務官に雇われて、レイシャル・オッドを暗殺する予定だったんだ。プール財務官の話だとオッド公爵は貧しいものを騙し、あくどい仕事をしていると聞いていたからね。オーロラ商会で従業員として働き出したら、聞いていた話と全然違うからビックリしちゃってさ~」
ミカエルは話をしながら勝手に飾り棚の扉を開けると、高級そうなお酒を選びグラスに注いた。
「妹が調べた方がいいと言うから、調べてみたらプール財務官の横領や着服の酷いこと。それと比べオッド公爵は貧しい人たちに富を与える善良な人間だし、お嬢様も天使みたいに優しいし・・・だから殺すのを止めたんだ」
ワイアットはミカエルの行動に憤慨しているようだが、話は聞いているようだ。
「そしたら、僕から返事が来ないことに焦ったプール財務官が、別の者を雇ったようだ。お嬢様に向けられた刺客は返り討ちにしたけど、まさか直接オッド公爵を暗殺するとは思わなかった・・・」
ミカエルは酒を口にすると、悔しそうに眉をしかめた。ワイアットも護衛の難しさは理解している。別々の場所にいる人間をひとりで守ることはできない。むしろレイシャル様を守り抜いたことを褒めるべきなのか。
「我々もオッド公爵の暗殺には不信感をぬぐえなかった。いくら盗賊といえどもオッド公爵は手練れの護衛を6人も雇っていた。その全員が殺されたのだ。プール財務官が雇ったのは誰だ」
「ウェスト王国から流れて来た品に、あの時旦那様が積んでいた荷物が混ざっていた。現場の足跡の数と切り口から恐らく人数は20名。切り口を見れば訓練を受けた騎士だと分かる。総合的に鑑みてウェスト王国の騎士団だと思う」
「なぜウェスト王国が関わっている?」
「ウェスト王国で一番大きなボーロ商会の売り上げが激減していると噂になっている。足元を見るようなあくどいボーロ商会から手を引き、良心的なオーロラ商会に乗り換えたんだ。それがプール財務官の思惑と一致したんだろ」
「それで、我々は何をすれば」
ウエン王子を見ると「レイシャルとオーロラ商会がシェド王国に移住する」と答えた。
「はあ?オーロラ商会が・・・」
王子から話を聞けば、オーロラ商会に関わる従業員やその家族2700人以上と、馬車が431台、大型船が52艇、小型船が40艇をすべてミリュー王国から誰にも気づかれずに移動させるというのだ。
オーロラ商会の噂を聞いていればそれなりに凄いとは思っていたが、改めて聞くとその規模もさることながら利益は軽くこの国の国家予算をしのぐ。ワイアットは眩暈がするようだった。
まずは、他国を回るルートの者から予定通り積み荷を運び、最終的にはシェド王国を目指す。彼らを先発隊として建築に従事しつつ住む場所を確保するのだ。それに合わせて、木材を載せた大型船がジェド王国に次々と到着する。海がないミリュー王国では、船を動かしても気づく者はいない。
偶然なのかオッド公爵の援助で、大型船が停泊できる港を3年前に完成している。国家プロジェクトとして始まった港の建設は、シェドの規模から考えても余りにも規模が大きすぎた。
シェドには果物ぐらいしか輸出できるものがない。陛下はこのことを心配して港を運営していけるのかと聞いたが、オッド公爵は『必ず役に立つときがくる』と陛下を説得した。
3年が経ち港の稼働率は低いまま、国民の中には港の建築は陛下の失敗ではないかと囁く者も増えていた。
「まさか、ここで役に立つとは・・・」
ウエンは殺気で目が覚めた。誰もいないはずの部屋から現れたのはスミスだった。
スミスとはレイシャルの事務所で一度会っている。頭まで黒い衣装をすっぽり被り、眼だけを出している。その鋭い眼光は暗殺者特有の冷たさを含んでいた。なぜ気づいたのは、スミスが一度見たら忘れられないオッドアイだったからだ。
「初めて会った時から強いと思っていたけど、こんなわずかな殺気でも気づくなんて流石だね」
「スミス、お前の目的はなんだ?」
ウエンの手にはすでに剣が握られていた。
「殺しはしないよ。レイシャルお嬢様の手紙を届けに来ただけだ」
「それならば、普通に謁見を申し出ればいいだろう。なぜ王宮に侵入した」
「ただの男の嫉妬。もし、これで起きない腑抜けだったらお嬢様を奪って逃げようかと思ったのに残念」
スミスは事務所で会った時の人懐っこい顔に変わっていた。
「・・・・・」
「それにここに来たことも隠しておきたかったしね」
ウエンはガウンを被ると近衛隊長のワイアットだけを呼び出した。
「き、貴様!どこから侵入した」
部屋に来るなりワイアットは、自分たちの目をかいくぐった暗殺者に唖然としていた。
「この城の侵入は思ったより簡単だったよ。また時間がある時に侵入経路は教えるから怖い顔しないでよ」
「ワイアット声を落とせ、それより先ほどの話をもう一度してくれ」
「分かったよ。僕はミカエル、あっスミスは偽名ね。僕はミリュー王国のプール財務官に雇われて、レイシャル・オッドを暗殺する予定だったんだ。プール財務官の話だとオッド公爵は貧しいものを騙し、あくどい仕事をしていると聞いていたからね。オーロラ商会で従業員として働き出したら、聞いていた話と全然違うからビックリしちゃってさ~」
ミカエルは話をしながら勝手に飾り棚の扉を開けると、高級そうなお酒を選びグラスに注いた。
「妹が調べた方がいいと言うから、調べてみたらプール財務官の横領や着服の酷いこと。それと比べオッド公爵は貧しい人たちに富を与える善良な人間だし、お嬢様も天使みたいに優しいし・・・だから殺すのを止めたんだ」
ワイアットはミカエルの行動に憤慨しているようだが、話は聞いているようだ。
「そしたら、僕から返事が来ないことに焦ったプール財務官が、別の者を雇ったようだ。お嬢様に向けられた刺客は返り討ちにしたけど、まさか直接オッド公爵を暗殺するとは思わなかった・・・」
ミカエルは酒を口にすると、悔しそうに眉をしかめた。ワイアットも護衛の難しさは理解している。別々の場所にいる人間をひとりで守ることはできない。むしろレイシャル様を守り抜いたことを褒めるべきなのか。
「我々もオッド公爵の暗殺には不信感をぬぐえなかった。いくら盗賊といえどもオッド公爵は手練れの護衛を6人も雇っていた。その全員が殺されたのだ。プール財務官が雇ったのは誰だ」
「ウェスト王国から流れて来た品に、あの時旦那様が積んでいた荷物が混ざっていた。現場の足跡の数と切り口から恐らく人数は20名。切り口を見れば訓練を受けた騎士だと分かる。総合的に鑑みてウェスト王国の騎士団だと思う」
「なぜウェスト王国が関わっている?」
「ウェスト王国で一番大きなボーロ商会の売り上げが激減していると噂になっている。足元を見るようなあくどいボーロ商会から手を引き、良心的なオーロラ商会に乗り換えたんだ。それがプール財務官の思惑と一致したんだろ」
「それで、我々は何をすれば」
ウエン王子を見ると「レイシャルとオーロラ商会がシェド王国に移住する」と答えた。
「はあ?オーロラ商会が・・・」
王子から話を聞けば、オーロラ商会に関わる従業員やその家族2700人以上と、馬車が431台、大型船が52艇、小型船が40艇をすべてミリュー王国から誰にも気づかれずに移動させるというのだ。
オーロラ商会の噂を聞いていればそれなりに凄いとは思っていたが、改めて聞くとその規模もさることながら利益は軽くこの国の国家予算をしのぐ。ワイアットは眩暈がするようだった。
まずは、他国を回るルートの者から予定通り積み荷を運び、最終的にはシェド王国を目指す。彼らを先発隊として建築に従事しつつ住む場所を確保するのだ。それに合わせて、木材を載せた大型船がジェド王国に次々と到着する。海がないミリュー王国では、船を動かしても気づく者はいない。
偶然なのかオッド公爵の援助で、大型船が停泊できる港を3年前に完成している。国家プロジェクトとして始まった港の建設は、シェドの規模から考えても余りにも規模が大きすぎた。
シェドには果物ぐらいしか輸出できるものがない。陛下はこのことを心配して港を運営していけるのかと聞いたが、オッド公爵は『必ず役に立つときがくる』と陛下を説得した。
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「まさか、ここで役に立つとは・・・」
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