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「ねえ、ミカエル。最近顔が緩んでいるわよ」
「そんなことはない。俺は立派に役目を果たしている」
「じゃあ、なんでここに付き合わないといけないのよ」
「レイシャル様もウエン王子の雄姿が見たいと思って」
「そりゃ、見たいかと聞かれれば見たいわよ。でも、ここからだとウエンの姿は一切見えないじゃない」
先ほどから騎士達との手合わせでワイアット様が勝つたびに、胸の前で小さくガッツボーズをするミカエルは可愛いと思っているけど、ウエンが訓練しているのは隣の練習場なのだ。
「ちっ、しょうがねえな」
ワイアット様とミカエルの婚約が決まった。ミカエルには幸せになってもらいたいと心から願っている。だけど、いざふたりの仲睦まじい姿を見ると、胸やけ寸前になるのが不思議だ。
(ふたりの婚約が決まりウエンまで何か挙動不審だし、私に言えないことでもあるのかしら)
来週には1番遠方に行っていた大型船が戻ってくる。船が一堂に揃ったところでレセプションパーティーが開催されることが決まった。その時にシェド王国の貴族達も招待され、ワイアット様の婚約者としてミカエルが紹介される予定だ。新たな爵位を与えられるリリアンのデビューの日でもある。
ワイアット様は婚約をすっ飛ばして結婚したかったようだけど、陛下から短くてもいいから婚約期間を設けるようにと言われ流石に断れなかったようだ。
私は爵位を返上したので今は平民になる。しかし、今回はオーロラ商会の代表として出席することが決まった。
(平民になれば社交の場にでる必要もないと思っていたけど、今後は仕事で出席することがあるかもしれないわね)
隣の練習場に着くとノル王国から来ている騎士達と訓練をしているウエンが見えた。ウエンは私が来たことも気づかないほど真剣な顔で剣を握っている。
「強いな、ウエン王子は」
「強いのね・・・こんなに真剣なウエンの顔は初めてよ」
訓練中のウエンは動きやすいシャツとズボンという軽装だが、それが返ってウエンの鍛えられた筋肉に視線が向いてしまうのだ。恥ずかしくなってレイシャルが視線を外すと、ちらほらと若い令嬢が見学に来ているのが見える。
ウエンが勝つとその令嬢たちから黄色い声があがるのだ。
(あっ、あの人・・・)
木陰で侍女と一緒に腰を掛けている令嬢が私に手を振っている。話したこともない令嬢だが、レイシャルも手を振って返す。
(あの令嬢、王宮でもよく見かけるわよね)
彼女の肌は、レイシャルの健康的な肌と違って透けるように白い。その儚げな姿を見ていると彼女を守ってあげないといけない気持ちになってくるから不思議だ。
「それにウエン王子って努力家だよな。忙しいのに朝早くからジジと手合わせをしているからな」
「ジジって女性騎士よね?」
「ああ、めちゃくちゃ強い」
ミリュー王国には女性騎士はいない。レイシャルもシェドに来て初めて女性騎士を見たのだ。髪を纏め軍服を着こむ女性騎士は、女性から見ても美しいと感じた。
「早朝にね・・・」
(最近朝起きてもウエンがいないと思ったら女性と会っていたのね。ウエンの本命って誰なのかしら)
レセプションパーティーには、ノル王国から応援に来ている騎士達も招待されている。このレセプションが終われば騎士達は帰路に就く予定だ。
「もう十分だわ。ワイアット様のところに戻りましょう」
「え?いいのか」
「ええ」
(それにしてもウエンはモテるのね)
子供の頃はいつも一緒にいたけど、大人になればそうもいかない。シェドに来てから自分の知らないウエンがいることに気づいた。これが大人になるという事なのだろうか。
「あ~あ、行っちゃいましたよ」
「何がだ?」
「いいえ(面白いので)もう少し練習に付き合いましょうか?」
「いや、今日はレセプションの打合せがある。ここまでにしよう」
ノル王国の騎士との練習は実戦的で勉強になる。男性騎士とは五分五分だが、女性騎士は体格をカバーする為に特殊な武器や独自の戦い方をする。レイシャルを守る為には様々な訓練を怠らない真面目なウエンだった。
「訓練の邪魔をして悪かったな」
「いえ、いつでもどうぞ」
ワイアット様が訓練をしている練習場でしばらくミカエルとおしゃべりをしながら、見学をしていたが時間になったので私たちも会議に向かうことにした。
***
「レイシャルお嬢様!」
「ベンハー、ルビー。久しぶりね」
「ええ、お嬢様もお元気そうで」
ベンハーはシェドの気候に合わせた涼し気なシャツを着ていた。色は相変わらず派手だけど。
「そうね。ふたりもシェドに慣れたようね」
「ああ、寧ろミリューよりも物価も安いし、国民の人柄もいい。本当にいい国だな」
「私もそう思うわ」
「おう、ミカエルも元気か?」
「お陰様で元気だ」
「この前アンヌ殿に連れられて、リリアン嬢がドレスやら靴を注文しに来たぞ。お前の妹も別嬪だな」
「当たり前だろ、俺の妹だぞ」
話をしながら会議の場所に着くとウエンはすでに来ていたようだ。
「お久しぶりです、ウエン王子。本日は我々のレセプションの為に参加いただきありがとうございます」
「いや、レイシャルの為なら私も喜んで参加しよう」
「まあ、ウエン王子はお嬢様のことが本当に大切なのですね」
(それって妹としてよね)
その日の会議でレセプションは2週間後に決まった。準備は主にオーロラ商会が行う。
「お嬢。ミカエルのあの腕輪はいつからだ?」
「ああ、最近ワイアット様に求婚されて婚約が決まったのよ」
「へえ~婚約ね。あのミカエルが・・・」
「そんなことはない。俺は立派に役目を果たしている」
「じゃあ、なんでここに付き合わないといけないのよ」
「レイシャル様もウエン王子の雄姿が見たいと思って」
「そりゃ、見たいかと聞かれれば見たいわよ。でも、ここからだとウエンの姿は一切見えないじゃない」
先ほどから騎士達との手合わせでワイアット様が勝つたびに、胸の前で小さくガッツボーズをするミカエルは可愛いと思っているけど、ウエンが訓練しているのは隣の練習場なのだ。
「ちっ、しょうがねえな」
ワイアット様とミカエルの婚約が決まった。ミカエルには幸せになってもらいたいと心から願っている。だけど、いざふたりの仲睦まじい姿を見ると、胸やけ寸前になるのが不思議だ。
(ふたりの婚約が決まりウエンまで何か挙動不審だし、私に言えないことでもあるのかしら)
来週には1番遠方に行っていた大型船が戻ってくる。船が一堂に揃ったところでレセプションパーティーが開催されることが決まった。その時にシェド王国の貴族達も招待され、ワイアット様の婚約者としてミカエルが紹介される予定だ。新たな爵位を与えられるリリアンのデビューの日でもある。
ワイアット様は婚約をすっ飛ばして結婚したかったようだけど、陛下から短くてもいいから婚約期間を設けるようにと言われ流石に断れなかったようだ。
私は爵位を返上したので今は平民になる。しかし、今回はオーロラ商会の代表として出席することが決まった。
(平民になれば社交の場にでる必要もないと思っていたけど、今後は仕事で出席することがあるかもしれないわね)
隣の練習場に着くとノル王国から来ている騎士達と訓練をしているウエンが見えた。ウエンは私が来たことも気づかないほど真剣な顔で剣を握っている。
「強いな、ウエン王子は」
「強いのね・・・こんなに真剣なウエンの顔は初めてよ」
訓練中のウエンは動きやすいシャツとズボンという軽装だが、それが返ってウエンの鍛えられた筋肉に視線が向いてしまうのだ。恥ずかしくなってレイシャルが視線を外すと、ちらほらと若い令嬢が見学に来ているのが見える。
ウエンが勝つとその令嬢たちから黄色い声があがるのだ。
(あっ、あの人・・・)
木陰で侍女と一緒に腰を掛けている令嬢が私に手を振っている。話したこともない令嬢だが、レイシャルも手を振って返す。
(あの令嬢、王宮でもよく見かけるわよね)
彼女の肌は、レイシャルの健康的な肌と違って透けるように白い。その儚げな姿を見ていると彼女を守ってあげないといけない気持ちになってくるから不思議だ。
「それにウエン王子って努力家だよな。忙しいのに朝早くからジジと手合わせをしているからな」
「ジジって女性騎士よね?」
「ああ、めちゃくちゃ強い」
ミリュー王国には女性騎士はいない。レイシャルもシェドに来て初めて女性騎士を見たのだ。髪を纏め軍服を着こむ女性騎士は、女性から見ても美しいと感じた。
「早朝にね・・・」
(最近朝起きてもウエンがいないと思ったら女性と会っていたのね。ウエンの本命って誰なのかしら)
レセプションパーティーには、ノル王国から応援に来ている騎士達も招待されている。このレセプションが終われば騎士達は帰路に就く予定だ。
「もう十分だわ。ワイアット様のところに戻りましょう」
「え?いいのか」
「ええ」
(それにしてもウエンはモテるのね)
子供の頃はいつも一緒にいたけど、大人になればそうもいかない。シェドに来てから自分の知らないウエンがいることに気づいた。これが大人になるという事なのだろうか。
「あ~あ、行っちゃいましたよ」
「何がだ?」
「いいえ(面白いので)もう少し練習に付き合いましょうか?」
「いや、今日はレセプションの打合せがある。ここまでにしよう」
ノル王国の騎士との練習は実戦的で勉強になる。男性騎士とは五分五分だが、女性騎士は体格をカバーする為に特殊な武器や独自の戦い方をする。レイシャルを守る為には様々な訓練を怠らない真面目なウエンだった。
「訓練の邪魔をして悪かったな」
「いえ、いつでもどうぞ」
ワイアット様が訓練をしている練習場でしばらくミカエルとおしゃべりをしながら、見学をしていたが時間になったので私たちも会議に向かうことにした。
***
「レイシャルお嬢様!」
「ベンハー、ルビー。久しぶりね」
「ええ、お嬢様もお元気そうで」
ベンハーはシェドの気候に合わせた涼し気なシャツを着ていた。色は相変わらず派手だけど。
「そうね。ふたりもシェドに慣れたようね」
「ああ、寧ろミリューよりも物価も安いし、国民の人柄もいい。本当にいい国だな」
「私もそう思うわ」
「おう、ミカエルも元気か?」
「お陰様で元気だ」
「この前アンヌ殿に連れられて、リリアン嬢がドレスやら靴を注文しに来たぞ。お前の妹も別嬪だな」
「当たり前だろ、俺の妹だぞ」
話をしながら会議の場所に着くとウエンはすでに来ていたようだ。
「お久しぶりです、ウエン王子。本日は我々のレセプションの為に参加いただきありがとうございます」
「いや、レイシャルの為なら私も喜んで参加しよう」
「まあ、ウエン王子はお嬢様のことが本当に大切なのですね」
(それって妹としてよね)
その日の会議でレセプションは2週間後に決まった。準備は主にオーロラ商会が行う。
「お嬢。ミカエルのあの腕輪はいつからだ?」
「ああ、最近ワイアット様に求婚されて婚約が決まったのよ」
「へえ~婚約ね。あのミカエルが・・・」
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