軽音部の恋物語は音を奏でるだけでは成立しない?

ど~はん

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4.あの言葉

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放課後、音楽室。

「で、最後にするってなんのこと?」

「文化祭終わったら、作曲に挑戦する」

「作曲!?」

千瀬が最後にしたかったこと、それは既存の曲を弾くことだった。

「いずれしないといけない。CD出すならね」

「できるかな…」

「出来て貰わないと困る。じゃないと…」

「じゃないと?」

「なっ、なんでもない。さて、練習するよ」

出来て貰わないと困る。
その裏にあるのは…、

『成羽、あなたは言ったよね。あの時…』




過去へ―。

森下中学校 (放課後) 、軽音部

「さすがにこれだけ歌うと疲れる…」

「千瀬が延長って言ったんじゃないかぁ~!」

「さて、なんのことか」

「しらばっくれるし…」

この日は、まるで空が青ではなくオレンジだったかのように、窓から見える景色が素晴らしかったのをふたりは覚えている。

「ねぇ、成羽?あなたはなんで軽音部に?」

そんな素晴らしい景色をより近くで見ようとするかのように、ゆっくりと窓に近づいていく千瀬。

「え~、恥ずかしいから言えな~い」

「言わないと帰らせないよ」

「そうきたか…」

窓から空を見上げている千瀬の背中に、成羽は背中を向けた。
そして言った。

「夢…をみたんだ、小学校の時に。俺はその夢である歌手を見ていた」

「大きな会場とかで?」

「よく…覚えてないんだ。ただ、その歌手の歌に夢中だった。音楽とは全く縁のないこの心を動かした、その歌声に…。
でも当然あんなことは自分じゃできない。ふとその歌手の後ろを見た。するとそこにはキーボードを弾いている人が見えたんだ。
考えればこの素晴らしい歌を裏で支えているのはこの人なんだって。その人には届かないかもしれない、でもその人のようになれるんじゃないか、そう思ったんだ」

成羽が軽音部に入ったきっかけ、他の人が聞くと笑うだろう、無理だと言われるだろう。

「なんだ。ちゃんとしたの持ってるじゃない」

しかし、千瀬はそれを笑うことも、諦めろと言うこともなかった。

「千瀬は?」

「私?まぁ、音楽が好きだからそれが入部の理由。でも、大きな夢があるの」

「大きな夢?」

「CD売り上げのランキングあるでしょ?それに名を載せたい何位でもいいから。叶いっこない夢だけど…」

空を見ていた千瀬が、背中を向けている成羽の方を向いた。

そして成羽に問う。

「あなたがその素晴らしいキーボーディストになるんだったら、私の夢、叶えてくれる?」

「なるんだったらじゃないよ。なってみせる。ランキングに載せるだけじゃない狙うならトップ10でしょ!」

「えっ?」

千瀬はその強気な発言に驚いた。

「叶えてやるよ!その夢。2人でバンドやるからにはそこまで行こうぜ!」

千瀬は無言で、再び窓の外を向いた。

しばらくは沈黙が続いた。
千瀬は成羽にわからないようにして、軽く笑っていた。
面白くてではなく、嬉しくて。

「まぁ、冗談だけどね。片付けて帰るよ」

そう言って片付けを始めた千瀬。

えっ……という顔でしばらく千瀬を見ていた成羽。
そのうち急いで片付けに取りかかった。


現在へ―。

『あの時のあなたの言葉、覚えているから。信じてるんだから出来て貰わないと、夢……叶わないじゃない』

「そういうことだから、文化祭成功に向けて練習するよ」

「了解~!」

彼らは今日も練習する。

文化祭はもちろん。

夢に向かって―。
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