8 / 29
8【加護の選択】
しおりを挟む
俺の眼前に迫っていたカンニバルベアの狂面が停止していた。サーベルタイガーのような長い牙で俺の頭に噛み付こうとしていた野性的な大口が俺の顔の前で止まっているのだ。
口の隙間から飛び散った粘着質な涎も空中で舞いながら止まっている。
恐怖に慄く俺の動きも止まっていた。
否、動けない。止まったと言うより全身が硬直して動けない。表情の一つも、指の一本も動かない。立ったまま固まっていた。
周りの景色も停止していた。
風も止んでいる。草木の揺れも止まっている。宙を舞う枯葉も空中で停止していた。
視線を上空に向けると空飛ぶ小鳥が羽ばたきながら停止している。
それは、まるで、時間が停止しているようだった。
そのような中でも俺の眼球だけは動かせた。そのお陰で周囲の状況把握だけは視覚で確認出来ていた。
これは完全に時間停止である。
だが、何故に時間が停止したのかが分からない。
そこで閃く。これはもしかして俺に授けられた特殊能力ではないのかと。世に言われる異世界転生者が授かるチート能力の片鱗ではないのかと気付く。
そうなのだ。俺の授かったチート能力は時間停止能力。それは無敵に近い神の能力ではないだろうか。このスーパー能力を駆使して異世界冒険談を楽しく愉快に進めて行けと神様は告げているのであろう。きっとそうである。
だとするならば、勝った。このピンチだって難無く乗り越えられる。時間が停止した世界で一人だけ自由に動き回れれば、例え相手が体重250キロを超える巨大な人食い熊であっても簡単に撃退出来るのではないだろうか。
そのように勝算を感じ取った俺は徐々に冷静さを取り戻す。眼前に大熊の鋭い牙が迫っていてもビビらずに要られた。
だが、動かせるのは眼球だけだった。体は指一本動かせない。これでは反撃どころか逃げ出す事すら出来ない。なんの解決にもなっていなかった。
どうしたものかと俺が悩んでいると背後から若い女性の声で話し掛けられた。
「あらあら、どうしちゃったの。もう少しで頭からガブリとクマちゃんに噛み付かれるところだったじゃない。間一髪ね~」
世間を舐めきったろくでなしな口調。その口調に聞き覚えがあったが体が動かないので振り返って目視で確認が出来なかった。
その声の主はゆっくりと歩いて俺のほうに近付いてくる。
「異世界転生して、僅か数時間で死亡なんて可哀想なことね~。このままだと頭から食べられて終わっちゃうわよ。ほらほら~、どうするの~?」
この声は間違いない。姿を見なくっても口調と舐めきった態度だけで分かる。女神だ。あの二日酔いでへばっていた女神だ。
「正解~。でも、女神じゃあないわよ。メ・ガ・ミ・様よ。様を付けなさい、様をね」
言いながら俺と熊との間に割り込んでくるクソ女神。金色の長髪にビューティーフェイス、それに純白のドレスが美しかったが、中身がドス黒かった。人格が程良く腐ってやがる。
ニコニコしながら女神が言った。その額に怒りの血管が浮き上がっている。
「言っておくけれど私は女神様だから、人間の心が読めるのよ。だから貴方が何を考えているか手に取るように知れてるの。あんまり生意気言ってると地獄の底の更に底にあるドブの中に叩き落としてあげちゃいますよ~だ」
怖い。この女神は怖い……。脅しではないだろう。マジでやりそうで怖い。
「女神だってぇ~。そうじゃないでしょう。さっきも言ったじゃない。様は、様を付けるのを忘れているわよ~」
は、はい、女神様……。
「それで良し」
そう言うと女神様は美しい顔で微笑んだ。まさに美を具現化したかのような微笑みだった。俺のピュアで純な心が虜になってしまう。
よし、これだけ煽てておけば問題なかろう。あっ、しまった。もしかして、これも読まれているのかな……。
「当然、読まれてるわよ~。でも形だけでも改心したと認めましょう。今後も今のように私を美しい美しいと崇めなさい。褒め称えなさい」
は、はい……。
ところで、この時間が止まった状況は何故ですか、女神様?
「ああ、これ。これは私が地上に干渉したらいけないって言う天界のルールがあるから時間を止めてやって来たのよ。この状態ならば、誰も私を認識すら出来ないでしょう」
俺は女神様を認識出来てますが?
「それは当然よ。だって貴方に用事があって下界に降りてきたんだから、貴方が私を認識出来なかったら意味が無いじゃない。貴方は馬鹿なの、クズなの、童貞なの?」
童貞です。ですので筆下ろしをお願いします。この際だから性格がクソでも構いません。どうか美しい女神様、よろしくお願いします。
「嫌よ、汚らわしい。なんで女神たる私が貴方のような下品な一般少年の筆下ろしをしなければならないの?」
それは、女神様が美しいからで御座います!
「まあ、その想いだけは受け止めといてあげるわ。うふふ」
チョロい。
「えっ、なんか言った?」
いえ、なにも!
それよりも何故に今宵は忍ばれながらも下界に立ち寄ったのですか?
「あ~、そうそう。貴方に用事があって足を運んだのよ」
俺に用事ですか?
「ほら、今日の朝は私が二日酔いだったから、貴方を適当に送り出しちゃったじゃない」
はあ?
「それがね、新しく赴任してきた上司にバレちゃってさ。ちゃんと転生の加護を与えてきなさいって怒られちゃったのよね~。まあ、それで気分転換も兼ねて下界に降りてきたのよ」
えっ、なに。それじゃあ何か加護とやらが貰えるのか。貰えるものは何でも貰いますよ。特に今ならパンティーとかブラジャーとかは大歓迎です。
「流石にパンティーとかはお古でも貴方になんてあげられないわ。私はそんなに安い女神様じゃあないんだから」
ケチ。
「ケチで結構コケコッコー」
それで、貰える加護ってチート能力か何かなの?
「そうよ。異世界転生者が女神様から授かる特殊能力的なものよ。それこの異世界では加護と呼ばれているの」
おお~、それはありがたい。感謝感謝。
でぇ、何が貰えるのかな?
「なんでもあげられるわよ。ただしチート過ぎる能力は世界のバランスを崩すから駄目よ。程々のチート能力ならなんでもあげられるわ」
それは俺に選択権があるのかな?
「ええ、好きな物を選びなさい。魔王すら倒せる聖剣でも、全人類の半分を虜にできるカリスマ性でも構わないわよ」
なに、全人類の半分すら虜にできるカリスマ性だと!?
「でも、それだと強力すぎるからペナルティーも付いてくるけどね」
ペナルティーだと……。
因みに参考までに聞きたいのだが、そのペナルティーって、どんなペナルティーですか?
「残り半分の人類に命を狙われるほど怒りを買うってところかしら」
デンジャラスじゃんか……。
「恋とか愛とかって、デンジャラスな物なのよ、ぼうや」
そうなの……。まだ童貞には未知の領域だから難しいや。
「それより早く欲しい加護を決めなさい。早く決めないと私は帰っちゃうわよ。今日は定時で帰宅して、撮り溜めてたドラマを一気見観賞するって決めてるんだからさ。一分たりとも居残り残業なんてしたくないのよ」
これは難しい質問だな。授けられるチート能力を選べなんて難しい課題だぞ。
本来ならたっぷり時間を掛けて考えたい内容だが、この女神様なら本当に途中で帰りそうだしな。
早く決めないとマジで帰ってまうかも知れん。
口の隙間から飛び散った粘着質な涎も空中で舞いながら止まっている。
恐怖に慄く俺の動きも止まっていた。
否、動けない。止まったと言うより全身が硬直して動けない。表情の一つも、指の一本も動かない。立ったまま固まっていた。
周りの景色も停止していた。
風も止んでいる。草木の揺れも止まっている。宙を舞う枯葉も空中で停止していた。
視線を上空に向けると空飛ぶ小鳥が羽ばたきながら停止している。
それは、まるで、時間が停止しているようだった。
そのような中でも俺の眼球だけは動かせた。そのお陰で周囲の状況把握だけは視覚で確認出来ていた。
これは完全に時間停止である。
だが、何故に時間が停止したのかが分からない。
そこで閃く。これはもしかして俺に授けられた特殊能力ではないのかと。世に言われる異世界転生者が授かるチート能力の片鱗ではないのかと気付く。
そうなのだ。俺の授かったチート能力は時間停止能力。それは無敵に近い神の能力ではないだろうか。このスーパー能力を駆使して異世界冒険談を楽しく愉快に進めて行けと神様は告げているのであろう。きっとそうである。
だとするならば、勝った。このピンチだって難無く乗り越えられる。時間が停止した世界で一人だけ自由に動き回れれば、例え相手が体重250キロを超える巨大な人食い熊であっても簡単に撃退出来るのではないだろうか。
そのように勝算を感じ取った俺は徐々に冷静さを取り戻す。眼前に大熊の鋭い牙が迫っていてもビビらずに要られた。
だが、動かせるのは眼球だけだった。体は指一本動かせない。これでは反撃どころか逃げ出す事すら出来ない。なんの解決にもなっていなかった。
どうしたものかと俺が悩んでいると背後から若い女性の声で話し掛けられた。
「あらあら、どうしちゃったの。もう少しで頭からガブリとクマちゃんに噛み付かれるところだったじゃない。間一髪ね~」
世間を舐めきったろくでなしな口調。その口調に聞き覚えがあったが体が動かないので振り返って目視で確認が出来なかった。
その声の主はゆっくりと歩いて俺のほうに近付いてくる。
「異世界転生して、僅か数時間で死亡なんて可哀想なことね~。このままだと頭から食べられて終わっちゃうわよ。ほらほら~、どうするの~?」
この声は間違いない。姿を見なくっても口調と舐めきった態度だけで分かる。女神だ。あの二日酔いでへばっていた女神だ。
「正解~。でも、女神じゃあないわよ。メ・ガ・ミ・様よ。様を付けなさい、様をね」
言いながら俺と熊との間に割り込んでくるクソ女神。金色の長髪にビューティーフェイス、それに純白のドレスが美しかったが、中身がドス黒かった。人格が程良く腐ってやがる。
ニコニコしながら女神が言った。その額に怒りの血管が浮き上がっている。
「言っておくけれど私は女神様だから、人間の心が読めるのよ。だから貴方が何を考えているか手に取るように知れてるの。あんまり生意気言ってると地獄の底の更に底にあるドブの中に叩き落としてあげちゃいますよ~だ」
怖い。この女神は怖い……。脅しではないだろう。マジでやりそうで怖い。
「女神だってぇ~。そうじゃないでしょう。さっきも言ったじゃない。様は、様を付けるのを忘れているわよ~」
は、はい、女神様……。
「それで良し」
そう言うと女神様は美しい顔で微笑んだ。まさに美を具現化したかのような微笑みだった。俺のピュアで純な心が虜になってしまう。
よし、これだけ煽てておけば問題なかろう。あっ、しまった。もしかして、これも読まれているのかな……。
「当然、読まれてるわよ~。でも形だけでも改心したと認めましょう。今後も今のように私を美しい美しいと崇めなさい。褒め称えなさい」
は、はい……。
ところで、この時間が止まった状況は何故ですか、女神様?
「ああ、これ。これは私が地上に干渉したらいけないって言う天界のルールがあるから時間を止めてやって来たのよ。この状態ならば、誰も私を認識すら出来ないでしょう」
俺は女神様を認識出来てますが?
「それは当然よ。だって貴方に用事があって下界に降りてきたんだから、貴方が私を認識出来なかったら意味が無いじゃない。貴方は馬鹿なの、クズなの、童貞なの?」
童貞です。ですので筆下ろしをお願いします。この際だから性格がクソでも構いません。どうか美しい女神様、よろしくお願いします。
「嫌よ、汚らわしい。なんで女神たる私が貴方のような下品な一般少年の筆下ろしをしなければならないの?」
それは、女神様が美しいからで御座います!
「まあ、その想いだけは受け止めといてあげるわ。うふふ」
チョロい。
「えっ、なんか言った?」
いえ、なにも!
それよりも何故に今宵は忍ばれながらも下界に立ち寄ったのですか?
「あ~、そうそう。貴方に用事があって足を運んだのよ」
俺に用事ですか?
「ほら、今日の朝は私が二日酔いだったから、貴方を適当に送り出しちゃったじゃない」
はあ?
「それがね、新しく赴任してきた上司にバレちゃってさ。ちゃんと転生の加護を与えてきなさいって怒られちゃったのよね~。まあ、それで気分転換も兼ねて下界に降りてきたのよ」
えっ、なに。それじゃあ何か加護とやらが貰えるのか。貰えるものは何でも貰いますよ。特に今ならパンティーとかブラジャーとかは大歓迎です。
「流石にパンティーとかはお古でも貴方になんてあげられないわ。私はそんなに安い女神様じゃあないんだから」
ケチ。
「ケチで結構コケコッコー」
それで、貰える加護ってチート能力か何かなの?
「そうよ。異世界転生者が女神様から授かる特殊能力的なものよ。それこの異世界では加護と呼ばれているの」
おお~、それはありがたい。感謝感謝。
でぇ、何が貰えるのかな?
「なんでもあげられるわよ。ただしチート過ぎる能力は世界のバランスを崩すから駄目よ。程々のチート能力ならなんでもあげられるわ」
それは俺に選択権があるのかな?
「ええ、好きな物を選びなさい。魔王すら倒せる聖剣でも、全人類の半分を虜にできるカリスマ性でも構わないわよ」
なに、全人類の半分すら虜にできるカリスマ性だと!?
「でも、それだと強力すぎるからペナルティーも付いてくるけどね」
ペナルティーだと……。
因みに参考までに聞きたいのだが、そのペナルティーって、どんなペナルティーですか?
「残り半分の人類に命を狙われるほど怒りを買うってところかしら」
デンジャラスじゃんか……。
「恋とか愛とかって、デンジャラスな物なのよ、ぼうや」
そうなの……。まだ童貞には未知の領域だから難しいや。
「それより早く欲しい加護を決めなさい。早く決めないと私は帰っちゃうわよ。今日は定時で帰宅して、撮り溜めてたドラマを一気見観賞するって決めてるんだからさ。一分たりとも居残り残業なんてしたくないのよ」
これは難しい質問だな。授けられるチート能力を選べなんて難しい課題だぞ。
本来ならたっぷり時間を掛けて考えたい内容だが、この女神様なら本当に途中で帰りそうだしな。
早く決めないとマジで帰ってまうかも知れん。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる