異世界☆変態

ヒィッツカラルド

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9【圧倒的な決着】

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「さあさあ、どんな加護が欲しいのかしら。早く決めてちょうだい」

 ちょっと待ってくれ。これは俺の異世界ライフに関わる大きな問題だから、ちゃんと考えてから注文させてくれよ。詰まらない能力を貰って壮絶に爆死したくないからな。

「それなら今の状況をちゃんと見ながら選択を選びなさいな。じゃないと加護が決まった瞬間に死んでしまうわよ」

 あ……。

 俺は自分の眼前で大口を開いたまま時間を止められているカンニバルベアの喉ちんこを凝視した。

 そうなのだ。俺は現在食われかけている。もうちょっとで頭を齧られる。なので中途半端な加護を得てしまうと、時間停止が解除された瞬間に噛み殺されてしまう。

 要するに、加護の力で、時間停止解除後に、この窮地を脱出出来るタイプの能力でなければならないのだ。

 でなければ時間が動き出した直後に頭からガブリと噛り取られるかも知れない。少なくても噛まれたら深傷を伴う大怪我は免れないだろう。血だって出ちゃうだろうし、脳味噌だって出ちゃうかも知れない。

 よは、死んでまう。

 そうなると、戦闘にも役立つ能力でなければならない。この窮地から脱出できる加護を選択しないとならないのだ。

 本当ならばハーレム造りに役立つ能力を希望したいところだが、ここは戦闘に特化した能力を選んだほうが得策っぽい。とにかく死んでしまったら話にならないのだからな。

「それじゃあ、貴方にぴったりな加護があるから、それを授けてあげましょうか」

 えっ、どんな加護なん?

「非武装ならば非武装ほど強くなれる加護よ」

 なにそれ?

「武器や防具を装備していないほど強くなれる加護ね」

 素手ゴロ最強な武道家スキルって訳か?

「ほら、今貴方、全裸じゃない」

 ああ、あんたが転生の時に初期装備すらくれなかったから全裸なんだよ。

「それを逆手に取った能力なの」

 どういうこと?

「全裸の加護よ」

 全裸の加護って、なんやねん。舐めとんのか……。

「装備が無ければ無いほどに身体能力や体の頑丈差が超人的に向上する能力なわけよ」

 要するに服も着ていない全裸状態だから最大限の強さを現在のところ発揮できるって訳なんだな。

「ピンポーン、正解~」

 ちょっと待て、それで自分の失敗を隠蔽する積りなんだろ、ゴラァ。

「違うわよ~。疑い深いわね~。そんなんだと、いつまで経っても童貞を卒業できないわよ~。とにかく、この加護を貰っときなさい」

 そんな事で全裸でほっぽり投げた事がチャラになると思うなよ。

「よ~し、それじゃあ貴方に授ける加護は【全裸の加護】で決定ね~」

 おいおいおいおい、勝手に決めるなよ!

「それじゃあ授ける加護が決まったことだし私は帰るわね。これで定時で帰宅できるわ~」

 うそ~~、マジ~~!!

 っと、俺が思った瞬間に女神のすがたが消えて時間が動き出した。その刹那、俺は頭をカンニバルベアにガブリと齧られる。

「ぎぃぁぁあああああ。噛まれたぁぁあああ!!」

 痛い~~~!

「放しやがれ、ゴラァ!」

 俺が両手を突き出してカンニバルベアの巨体を突き飛ばすと俺の頭に齧りついていたカンニバルベアが後方によろめいた。牙が外れて噛み付きも外れる。

「あれれ……」

「がるる……」

 キョトンとする人間と獣。両者が何が起きたか理解できていない。

 それは、俺が熊の巨体を押し退かした事。

 それは、体重が70キロにも満たない人間が、体重が250キロを超える大熊を押し退けた事実。

 あり得ない。体重が三倍もある体格差を押し退ける。そのような事が一般で起こりうるのだろうか。そのような事は大相撲でもレアだろう。

 だが、起きた。その事実に俺もカンニバルベアも驚いているのだ。

「痛たた…」

「がるるるる~~」

 見詰め合う両者。熊は後ろ足でだったまま俺を威嚇していた。そのような中で俺は噛まれた頭を片手で撫でる。

「血は出ていないな」

 サーベルタイガーのような長い牙を有したカンニバルベアに噛まれたのに頭から出血は無かった。それどころか傷すらない様子。

 俺は眼前の人食い熊が動かないのを良い事に背中に背負っていたボロ籠を外すと横に置いた。

 すると体に異変を感じ取る。それは、体の全身に力が漲ったかのような流れ。

 おそらくボロ籠が着衣品だと判定されていたのだろう。完全に全裸になったことで全裸の加護が完璧に効力を解放したのだと思われる。

 俺は両拳を握り締めながら全身から湧き上がるパワーのような物を感じ取っていた。

 拳を握り締めるだけで力瘤が盛り上がる。

 直立しているだけで下半身からマグマのように活力がのし上がって来る。

 息を吸い込むだけで空気がエネルギッシュに取り込まれる。

 何より頭がキリッと冴える。

 俺はカンニバルベアを睨み付けながら呟いた。

「なんか知らんが、今なら勝てそうな気がする」

 その感覚は間違いでも勘違いでも無いだろう。自分の身体に漲るエクスタシーが知らしめている。

「ならば!」

 俺は猛る思いを体内に収縮するようにボクシングのような構えを築いた。

 握り締めた両拳は両頬に添えて、肘を引き締めながら脇を閉める。そしてコンパクトに背中を丸めて、真っ直ぐに瞬発力を爆発させられる体勢を取った。

 パンチ力に自信があるインファイターボクサーのスタイル。これが今の自分に一番しっくりくるファイティングポーズだと思った。

 どうやら全裸の加護は戦闘に特化した能力に優れているようだ。その証拠に現在のところ最善の策を俺に与えてくれていた。加護は、この強打に重心を置いた構えが有利だと判断しているのだ。

「行くぞ、クマちゃん!」

「ガルルルルルルル!!!」

 コンパクトにパワーを収縮させた俺の構えにカンニバルベアが威嚇を強める。

 こいつもこいつで俺の変貌に気付いているようだ。しかし、警戒よりも食欲が上回っているのだろう。俺を食べたいと言う野生の本能が先走っているように伺える。

「ガァァアアア!!」

 突如カンニバルベアのほうから襲い掛かってきた。二足歩行で駆け迫ると重々しい上半身を覆い被せるように飛び付いてくる。

 しかし、そのカンニバルベアの行動すべてが俺にはスローモーションのように見えていた。

 ゆっくりなのだ。まさにスローモーション。一秒が十倍に感じられた。

 熊の顔を見る。牙を見る。両手の爪をみる。胸の筋肉を見る。腹の脂肪を見る。二本の太い足を見る。周りの景色を見る。

 すべてを順々に観察するだけの暇があった。熊が飛び掛って来るという刹那の中に、それだけの余裕があったのだ。

 それは反射神経の異常なまでの向上。集中力の加速状態。明らかに超人の領域。

 迫り来るカンニバルベアに対して更に深く体勢を落とすと流れる微風のようなスムーズな動きで俺は体を左に逃がした。

 しかも体を逃がすと同時に右フックをカンニバルベアの腹部に残すかのようなタイミングで打ち込んでいた。

 その一打は強打。軽いパンチのように伺えたが、そのパンチの衝撃で熊は背を丸めて這いつくばってしまう。四つん這いに戻ってしまった。

「チャーーーンス!」

 カンニバルベアが四つん這いになった事で頭の高さが俺でも届く高さに落ちて来た。そこを狙って熊のこめかみにストレートパンチを打ち込んだ。

 テンプルを叩かれたカンニバルベアの頭が釣り鐘のようにゴワァ~ンと揺れた。眼球が複雑に振れている。

 そして、大きな口を更に大きく開けた状態で横向きに倒れ込んだ。その大口から涎の他にも鮮血が流れ出ていた。

 どうやらテンプルへの一撃で頭蓋骨を破壊したようだ。こめかみが陥没している。

「すげぇ……」

 俺は力無く倒れ込んだ熊の死体を上から見下ろすと、今度は自分の拳を凝視した。

「侮れんな、全裸の加護……」

 圧倒的な決着だった。


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