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あやしや菓子屋にいらっしゃい④
しおりを挟む僕はまた、この店の前に立っていた。
『あやしや菓子屋』
自体までも怪しさを醸し出している。
「よし!」
少し気合を入れて扉を開ける。
「あら、いらっしゃい。今日も来てくださったんですね。」
「あ、えっと…そう!まだ、お名前も聞いてなかったと気づきまして。」
別に言い訳なんてしなくてもよかったのだが、気づいたら口にしてしまっていた。
「私ったら、ごめんなさい!安倍紫です。」
着物姿で頭を垂れる姿が様になっていた。接客業だからだろうか。とても品がある。
「どうかされました?」
「あっ、いえ。」
沈黙が耐えられなくなり、店内を物色することにした。
いや、こちらが本来の目的であって、彼女とお話ししに来たわけではない。いいじゃないか。
彼女からものすごく見られている気がするが、そんなの無視だ。
懐かしいラインナップに心を躍らせたが、結局今日も金平糖を選んだ。
「金平糖、本当にお好きなんですね。」
「…はい。」
もっと会話を広げられたらいいのだが、コミュニケーションを取るのがあまり得意じゃない上、人見知り。
フレンドリーに話かけてくれているというのに、少し申し訳ない。昼間はまだ、驚きで話しかけることができたんだけどなぁ。
「本日もお買い上げ、ありがとうございます。」
「また、明日…です。」
「はい。また明日、ですね。」
フワッと笑う彼女は、昨日の夜よりも今日の昼に会った彼女と同じ雰囲気だった。
緊張していたから、あやしいふにきにに見えたのかもしれない。それに俺、酔ってたし。
きっと、そうだ。
「…っ!」
「ボーッとしてんな!危ないだろ!」
彼が言うように、俺はボーッとしていたらしい。目の前、スレスレのところをバイクが通り過ぎた。よく考えると、クラクションの音が聴こえていた。急に止まれないのに、俺が飛び出してしまったのだろう。
「こわ…疲れてんのかな。」
ここのところ、こんなことが頻繁に起きていた。
階段から落ちそうになったり、横断歩道に飛び出しそうになったり、お風呂で居眠りして溺れそうになったり…。とにかく、命の危険を感じるような出来事が頻繁に起きている。
お祓いにでも行ったほうがいいのかな。
なんて考えて、つい先日、有名な神社でお祓いをしてきた。でもこれだ。
何かに取り憑かれていたんじゃなかったのか。俺が信じていないから、効かなかった可能性もあるか?こういうことに詳しくないから、よくわからない。
元々、口にする言葉よりも頭の中にあって飲み込んでしまう言葉の方が多いタイプだ。1人でグルグル考え込んでしまうことなんて珍しくない。
考え込んでいるから危ない目に遭うのはわかっているけど、これはもう癖だ。簡単に変わるものではない。現に今も考え込んでいるわけで。
「あ…」
ポケットに手を突っ込んで気づいた。昨日買った金平糖をまだ消費していない。
明日こそ食べよう。
コーヒーのお供にちょうどいいだろう。そう思って昨日も買ったのに。
「おっと。」
転びかけてしまった。これも最近、多いんだよな。
「早く帰ろう。」
そして早く寝よう。きっとそれがいい。
足運びを速めた。
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