将来、悲運な結末を迎える令嬢は幸せに生きる

都築稔

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保護魔法

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「お兄様!おはようございます!」

私はお兄様が食堂にいると聞いて、急いで支度すると食堂へ向かった。

「おはよう、エミィ。今日は早いね。」

「えぇ。だって早くお手紙をお渡ししたくて。」

昨日の計画通り、今日は朝早く起きてルカ様に渡す手紙を書いた。後はお兄様に託すだけ。

「もうかい?昨日の夜、話したばかりなのに・・・。ちゃんと眠ったかい?無理してない?」

もう、お兄様は心配性なんだから。

「大丈夫です。もう、ぐっすり眠りましたわ。」

「ならいいんだけど・・・。」

お兄様は手紙を受け取ると、自身の侍女に渡す。

私はお兄様の向かい側の席に着いて、朝食を食べ始めた。

サクサクのクロワッサンにトロトロのスクランブルエッグ。このミルクスープも美味しいのよね。

「お嬢様、サラダも残さず食べてくださいね。」

「わかってるわよ!」

好き嫌いして残すほど、中身は子どもじゃないんでね!サラダも美味しくいただくわよ!

「エミィ、偉いね。ちゃんと野菜を食べてるじゃないか。」

「私だって、いつまでも好き嫌いをするお子様じゃないんですよ!」

ぷくっと頬を膨らませて抗議する。こんな顔をできるのは今だけね。

「僕にとってはいつまで経っても、可愛いお姫様さ。さて、そのお姫様の願いを叶えに行かなくちゃね。今日は出かけるから、1人でもいい子にしていなくちゃダメだよ?」

「もう!また子ども扱いして!」

「違うよ。お姫様扱いさ。じゃあね。」

優雅に食堂を立ち去るお兄様。

・・・私と2歳しか変わらないのですよね?前世を合わせると私の方がかなり年上のはずなのに、お兄様には一生勝てない気がするわ。

それより、お兄様はもう渡しに行ってくださったから、後はルカ様から返事が来るのを待つだけだわ。おそらく直接渡しに行ったのだから、早ければ今日中にもらえるかもしれないわね!

脳内も口の中も幸せで、私は明日死んでもおかしくないかもしれない。・・・ごめんなさい、大袈裟に言ったわ。ルカ様から返事が来るまで死ねない。というか死なないために手紙を送ったのよ。

「ご馳走様。今日の料理も美味しかったと料理長に伝えてね。」

近くにいた給仕のメイドに声をかけて、私も食堂を後にする。

わざわざ料理長に直接言わずに、メイドを介するのは計算です。悪役令嬢の印象を少しでも払拭しようと思いまして。ほら、本人から言われるよりも他人から言われた方が信憑性増すじゃない?それを狙ってます。

さぁさぁ、今日はお兄様もいませんし何をしましょうか?昨日買った絵本を読み返すのもアリよね・・・。だって、推しからもらった本ですもの。一言一句、台詞を間違わないくらいには読み込みたくなりまふよね。推しの子ども時代に会えるだけで鼻血ものですが、その幼い推しに選んでいただいた本。推しが好きな本。大切にしないわけがないわ。

そうだ!傷がつく前に保存魔法をかけてもらわなきゃ。

「ラナ、今日、お父様はお忙しいかしら?」

「昨日、お嬢様からいただいたお土産の効果で書類処理が早くて助かるとシンが言っておりました。」

シンは若くて優秀な、お父様の補佐官。

うさぎの文鎮が思った方向とは違いそうですが、役に立ってるならよかったです。

「お父様にお話があるの。行っても大丈夫かしら?」

「旦那様は、お嬢様ならいつでも喜んで受け入れてくださると思いますよ?」

嬉しいこと言ってくれる!でも、お仕事の邪魔はしたくないのよ。我儘を言って困らせる気もね。そんなことしたら、死亡フラグに近づきそうじゃない。

プレゼントをあげた昨日の今日でお願いごとなんて、なんだかうさぎさんが賄賂みたいで申し訳ないけど背に腹は変えられません。行きましょう、お父様の執務室に。



★★★



コンコンッ!

「どうぞ。」

お父様の許しを受けて、部屋に入る。

「おや、どうしたんだい?珍しいお客様だね。」

「お父様、お願いがあるのですが少しよろしいでしょうか?」

「ちょうど休憩を入れようと思っていたところだ。シン、お茶を用意して。」

「少しだけですからね。」

シン、いつも苦労かけてます・・・。

シンが近くのメイドにお茶を頼んでくれたので、すぐに用意してもらえました。

「それで、小さなお客様は何をお望みかな?」

なんだかこの言い回し、お兄様にそっくりね。いや、お兄様がお父様にそっくりなのか。

私は部屋から持ってきた2冊の本をテーブルに置いた。

「この本に保護魔法をかけたいのです。気に入っているので、傷をつけたくなくて。」

「それは、昨日買った本かい?」

「はい、お兄様に買っていただきました。」

ここで、ルカ様に選んでいただきました!なんて言ったらかけてもらえない気がします。

「ふむ・・・いいだろう。それくらいお安いものだ。本に興味を持ってくれたのも、私は嬉しいからね。」

そう言って絵本を手に取ると、お父様の手からキラキラした風がふわっと吹いた。その綺麗な風が本を包んでいく。その時間、1分もなかっただろう。見惚れていた私には、その時が一瞬に思えた。

「はい、完了。」

「お父様、すごいです!」

保護魔法はいわば守る魔法。使える人は少ない設定だったはず。

「お姫様に喜んでもらえて光栄さ。はい、どうぞ。」

「ありがとうございます!」

ルカ様に選んでもらった本だけど、お兄様に買ってもらってお父様に保護魔法をかけてもらって。これは本当に一生モノですね。大切にします!

「さぁ、お嬢様の用事は済みました。スチュワート様はお仕事にお戻りください。」

「お前は鬼だな。娘との時間も与えてくれんとは。」

「スチュワート様が僕にばかり押しつけず、早く処理してくださればお嬢様との時間もとれますよ。」

仕事が進んでると聞いて来たのだけど、お邪魔だったのかしら?

少し心配していると、メイドがケーキを持ってきた。シンがティーワゴンを受け取り、私に給仕してくれる。

「お嬢様、心配なさらなくてもゆっくりしていってくださって大丈夫ですよ。スチュワート様はすぐにサボろうとしますから、急ぎでなくても急かさないと仕事をなさらないんです。」

サーブする際、小声でこっそり教えてくれる。

なんだ、ならお言葉に甘えてゆっくりさせてもらおう。1人でティータイムは味気ないもの。

「シンもいかが?」

「では、お言葉に甘えておひとつだけいただきます。」

「お前、ズルいぞ!私には仕事をさせておいて!」

「いつもは私が押し付けられてるんです。自業自得ですよ。」

向かいに座ったシンをまじまじと見つめる。

柔らかな茶色の髪にエメラルドのような瞳。甘いマスクに落ち着いたこの態度。絶対モテるよな、この人。若くして辺境伯家の補佐官だもんな。きっと、お兄様の代でも働いてくれるだろう。シンと結婚したいと言う人はたくさんいるだろうに、浮いた話を聞いたことがない。

「僕の顔に何かついてますか?」

「ええ、とっても魅力的な瞳が。」

私の返答にお父様はガタンッ!と音を立てて立ち上がり、シンはきょとんとした顔をしている。
その顔もいいですね。ルカ様がいなければ、シンを推してたかもしれません。

「お前・・・娘はやらんぞ!」

お父様、気が早すぎます。私は貴族ですが、さすがに6歳で結婚は聞いたことがありませんよ?それに、私が結婚するのはルカ様です。

「ふふっ、ありがとうございます。」

あら、シンさん。お父様を完全スルーしましたね。まぁ、相手するのは面倒くさそうですもんね。

2人で見つめ合って笑う状況を前に、お父様がぷるぷると震えてます。可哀想だけど、大の大人がそんな反応をするなんて少し面白い光景ね。お父様をからかうの、クセになりそうです。シンも同じ気持ちなのかもしれません。ある意味、私たちは相性抜群ですね。

お父様が「エミィが・・・」と涙目になり始めた頃、これ以上すると仕事が手につかなくなると判断した私とシンは解散。私は笑顔で退室、シンは何事もなかったかのようにティーセットを片付けた。

朝ご飯食べてあまり時間が経たないうちにケーキを食べてしまったものだから、お腹がパンパンです。お部屋で本を読んでお腹を落ち着かせたら、散歩でカロリーを消費することにしましょう。太った状態でルカ様に会いたくはないですから。
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