将来、悲運な結末を迎える令嬢は幸せに生きる

都築稔

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不機嫌

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月日が経つのは早いもので、あれから4年半が過ぎた。ヒロインの登場まであと半年。

ルカ様との関係は相変わらず良好。むしろ毎日一緒にいる分、仲良くなっている気がする。

お兄様やライト殿下は、シナリオ通りに生徒会のメンバーになった。ほんの少し不安だったけど、お兄様も相変わらず溺愛してくれてるので大丈夫だと思いたい。

「リ~ア!また難しい顔してる。最近、多いね。何か考え事?」

向かいに座るルカ様が私の鼻をチョンと触る。

「次のテストが不安で。」

誤魔化したけど、これは別に嘘じゃない。

彼は目立つことが嫌いだから、10位以内くらいに入る程度に力加減をしている。でも私はそんな器用ではない。テスト前はルカ様につきっきりで教えてもらって、やっと100位以内におさまっている。

あ、これでも成績は良い方よ?1学年500人位はいる学校なんだもの。

「・・・へぇ。テストなんて、気にしないでいいのに。」

「そうもいきませんよ。」

何が不満だったのか、2人でいる時に他のことを考えたからか。ルカ様は不機嫌そうだった。

はぁ・・・わかってるんですよ?ルカ様が誤魔化したことに気づいてるってこと。あのルカ様ですよ?気づかないはずないです。でも、言えないじゃないですか。自分が違う世界で生きた前世の記憶を持っていて、ここはゲームの世界で、私は悪役令嬢で・・・なんて。

あぁ!違うのよ?私が前世の記憶があることも、ここがゲームの世界だったことも、ルカ様は信じてくださると思うの。言えないのは私が悪役令嬢ってところよ。言った後のことを考えたことがある?・・・ゲームよりも悲惨な結末が訪れると思うの。・・・私とルカ様以外の身に。

皆様が覚えているかどうか知らないけど、私は5歳の頃から日記をつけているの。もちろん日本語でね。万が一誰かに見られてもいいようにしておかないと、この世界にとってはヤバい秘密も書いちゃってるから。

書き始めた時は、ラナに少し不審がられたけど結果的に言えば正解だったと思うの。ふと思い出して書き留めた記憶もあれば、見返すと本当にこんなことあったかしら?と思うものもある。どういうことかと言うと、私はこの世界に馴染んでいくことで少しずつ前世の記憶を失いつつある。あと半年でヒロインが来るというのに。これが恐怖以外の何と言えるだろうか。

・・・そして、ルカ様に言えない理由がもう一つ。私がライト様を、ルカ様以外を好きになる世界線が存在するということ。例え私が悪役令嬢で、世界の敵だろうとルカ様は喜んで私の味方をしてくれるだろう。でもそうじゃなくて、ルカ様以外の人を好きで、しかもルカ様のことを毛嫌いしている世界線があるなんて、彼が最も傷つくようなことを私は言えない。

気持ちを落ち着かせるために紅茶を飲んだ。爽やかなオレンジの香りが、何時ぞやのお茶会を思い出させた。

私もルカ様も現在12歳。来月の誕生日が来れば、ルカ様は13歳だ。

まだ声変わりはしていない。しかし背はぐんと高くなって、既に私は彼を見上げている。
くりくりと可愛かった目は少しつり目になった。見た目の猫みが増している気がする。

可愛くて、かっこよくて、色気が増して、本当に12歳なのか疑いたくなる。私の愛しい人。どうして傷つくとわかってる言葉を言えるだろうか。

「お嬢様、今日のお菓子はいかがですか?」

へ??ラナ、急にどうしたの??

まだ少ししか減っていない皿に、ラナが焼き菓子を乗せた。

ほら!食べてください!早く感想を!というラナからの圧に耐えられなくて、フィナンシェをひと口囓る。

「・・・美味しい。」

いつもと少し違う味だけど・・・これもとっても美味しい。アーモンドの香りがふわっと鼻から抜けていく。

「そう言ってもらわないと、こちらとしては困りますね。殿下がそれはそれは重い愛を、っゴフッ!」

あちゃー、早くて何が起きたかあんまりわからなかったけど、多分ラーヤ様がルカ様に殴られたみたいね。ご愁傷様。

殴った本人は頬杖をついて、何事もなかったかのように振る舞っている。

「ルカ様、ありがとうございます。」

「・・・なにが?」

「この焼き菓子、とっても美味しいです。」

「・・・ふぅん、よかったね。」

これは・・・照れてますね。拗ねたような態度で、私と目を合わせようともしない。でも彼に尻尾がついていたなら、ブンブンと振っているだろう。耳はほんのり赤いし・・・。あぁ、今日も推しが可愛い。

私が好きだと言った紅茶。ラナに伝える前に、ルカ様がラーヤ様に頼んで用意してくれていた。そしてこのフィナンシェは紅茶によく合う。

「・・・最近、元気ないでしょ?」

「あら、そうでしたか?」

私、また返答を間違えたようね。いや、この顔は私にとってご褒美なんだけど・・・。

なぁに!?そのほっぺは!!ぷくっと・・・ぷくっとさせちゃって!思わずパフッとやりたくなるじゃないの!!可愛い!可愛いが過ぎる!!リスなの?ねぇ、貴方はリスなの??

・・・ハッ!!!いけない。可愛くて思わずプルプルしちゃったけど、このまま放置したら本格的に拗ねちゃうわ。

「ねぇ、ルカ様?」

ふぁぁあ♡そのぷくっとしたほっぺのまま、こっち向いてくれるのね。ファンサービスかしら?

「・・・なんで、嬉しそうなのさ。」

「あ、バレちゃいました?」

「ダダ漏れなんだよ、バカ。」

「ふふっ、ごめんなさい。」

またプイッと横を向いてしまったけど、怒ってないのはわかる。

あぁ、私はこういう時間を失くしたくない。

「・・・謝るくらいなら、僕以外のことで悩んでんじゃねぇよ。」

ルカ様がポソっと呟いた声を聞き逃してしまった。

「あら、ごめんなさい。何と言いました?」

「別に?何も?」

うーん、この言い方は絶対嘘よ。でも機嫌はなおったようだから、ヨシとしよう。

フィナンシェをもう一口食べた。

余ったら、ラナに包んでもらおっと。
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