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お誘い

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ルカ様たちが剣術の授業を受けている頃、私は妖精学の授業を受けていた。妖精学は選択授業で、魔法のスペシャリストとも言えるルカ様には必要がない。

この世界で魔法は、空気のように周囲に溢れているマナを使う技と自分の体に流れている魔力を使う技がある。自身が持つ魔力には個人差があるため、周囲のマナを使う技の方が威力が大きいものが多い。自身が持つ魔力がほぼ0の人もいるため、コンロや冷蔵庫などの家具は魔石で起動する仕組みになっている。

魔法学は前世でいう家庭科の授業みたいに、暮らしに寄り添った学問である。

それに対して妖精学を学ぶ者は少ない。妖精はまだ解明されていない実態があり、人より神に近い存在だと言う人もいる。親和性の高い者しかその姿を見ることができず、どういう生活をしているかもわかっていない。つまり、知らなくても生きていける。

魔力が高い者は妖精との親和力が高く、マナと妖精との間になんらかの関係があるのではないかと研究が進められている。もちろん、ルカ様も親和力が高い。

これは攻略ブックまで読み込んだ私だから知っていることだけど、ルカ様は小さい頃によく妖精と遊んでいたそうだ。気に入られすぎて、神隠しにあったこともあるとか。

この世界に生まれてきて、生きてきてわかった。多くは語らないが、ルカ様はこの教科書なんかよりも妖精のことをわかっている。でも良く知っているからこそ語らない。そんな彼は妖精学を学ぶ必要は全くない。

ではなぜ私は学ぶかというと、それはもちろん、よりルカ様を知るため。語らないなら知ればいい。全てを知ることはできなくても、察することくらいはできるじゃない。

まぁ、前世の記憶があるから既に知ってることもあるんだけど。ゲームに出てくる情報って特殊な場合が多いじゃない?実は・・・みたいな話。だから初めて知ることの方が多かったりするのよね。

「じゃあ、今日はここまでにしましょうか。」

ブッシュバイン先生が教科書を閉じて、授業の終わりを知らせた。

時計を確認すると、お昼の時間のはまだ少し時間があった。今日は少し早く終わったみたいだ。

「エミリア様、少しお時間よろしいでしょうか?」

夜空のような群青の髪と瞳。この方は確か・・・侯爵家のミュラエル様だったかしら?

「どうかされましたか?」

「エミリア様とお話ししてみたくて・・・よろしかったら、今からお茶でもしませんか?」

お茶に誘ってもらえるなんて、初めてのことじゃない?!・・・まぁ、ずっとルカ様といるから誘いにくかったんでしょうけど・・・。まだ剣術の授業は終わってないでしょうし、それまでなら大丈夫よね。

「是非!お誘いありがとうございます。」

「こちらこそですわ。友だちが薔薇の園で先に用意してくれてますの。」

ふわっと笑った顔が、花みたいで愛らしい。

ラナに荷物を預けて薔薇の園に向かう。ラナに行き先を告げておけば、ルカ様にも伝わるだろう。

「エミリア様!こちらですわ!」

薔薇の咲き誇る美しい景色の中、お茶会の席が用意されていた。

私を待っていたのは2人のご令嬢。若草色の髪に琥珀の瞳の令嬢がユーファ様。ココア色の髪に黄色い瞳のスユン様。どちらもお話しするのは初めてね。

「お待たせしてしまって申し訳ございません。」

「いいえ、そんなに待ってないですわ。さぁ、こちらのお席にお座りになって。」

「この紅茶、うちの領地の特産品なんです。お口に合うといいんですけど。」

ユーファ様の侍女だろう。私が席に着いたのに合わせて紅茶を注いでくれた。甘いオレンジの香りがする。

「いただきます。・・・・・・うん。これ、とっても美味しいです!」

「よかった!」

香りほど甘くない味で、クッキーやケーキに合いそうな爽やかさ。後でラナに買っておいてもらおう。美味しすぎて、ゴクゴク飲まないように気をつけなくちゃ。

ちょっぴり心配していたのだけど、紅茶に塩を入れられてるとか嫌味を言われるとかがなくて安心した。まぁ、そんなことされたってわかったらただじゃおかないんだから。ルカ様が。

私は悪役令嬢だから、虐められる側にはならないのかしら?そうだとしても、結末は散々だから嬉しくはないけど。

勧められたクッキーもフィナンシェも美味しい。昼ごはん前なのに、お腹いっぱいになっちゃう。

ご令嬢のお話を聞きながら、ひたすらもぐもぐ・・・。本当に美味しいのよ、これ。

「あのっ!私、ずぅっとエミリア様にお聞きしたいことがあったのです!」

「・・・なんでしょうか?」

そんな真剣なお顔で・・・急に話しかけられてびっくひしたわ。むせそうになったじゃない。ずっと食べてる私も良くないんだけど。

「私、先日婚約が決まったんです。」

「あら、おめでとうございます。」

スユン様は子爵家。まぁ、遅くはない時期ね。

「まだ、お相手と数回しか会ったことがなくて。エミリア様とルカ殿下のように仲睦まじい関係になりたいのですが、今まで身内以外の男性とお話しする機会が少なくて。どうしたらいいでしょうか!」

うーん、私たちの場合は特殊だからなぁ。参考になるかどうか。でもこんな真剣な顔してるのに、何も答えないのも・・・。

「私たちは好き同士で婚約を結んだのですが・・・そうですね。相手のことを知ることから始めたらいいのではないでしょうか?」

「お相手のことを?」

「そうです。ほら、私の家は辺境に領地があるでしょう?王都とは離れていて、会えない時間も長くて。直接話せないなら手紙を、と。」

「いいですね!お手紙!顔を合わせるとどうしても巾着してしまうので、上手く話せなくて・・・でも、手紙なら素直に話せそうですわ。」

よかった!前世ではあんまり恋愛してこなかったから恋愛相談には自信がないのよね。

「プレゼントも一緒に送るといい。確か君の婚約者はルートベルトだったよね。彼は甘いものが好きだったから、お菓子でも贈るといいよ。そこにあるのは、君が作ったんだろう?」

「まぁ、ルカ様!」

「僕の愛しい人の相手をしてくれてありがとう。」

ルカ様は両手を私の肩に置き、頭を私に傾けた。その為、口元が耳の近くにある。つまり、甘いヴォイスが吐息と共に・・・。

「あれ、リア。顔が真っ赤だよ?どうかした?」

誰か!この人、確信犯です!!

「あぁ、堅苦しいのは苦手なんだ。挨拶は要らないよ。」

ルカ様の甘い空気に、ご令嬢たちの顔も赤い。

そうだよね。8歳でこれはびっくりだよね。刺激強いよね。私はおかしくないよね!

「僕も一緒にいいかな?サンドイッチを用意させたんだ。よかったらお昼にどうぞ。」

「もちろんです!」

「お二人とご一緒できて、光栄ですわ。」

「ありがとう。」

「ふへぇ?」

えーっと?ルカ様。侍女が椅子を持ってきてくださってますよ?あれあれあれ?

彼はお礼を言うと同時に、私をヒョイと持ち上げたかと思ったら自分の膝に座らせた。腕は私のお腹をきっちりホールドしている。これは、逃げられそうにない。

混乱しかけた頭で状況を把握。ご令嬢たちは羨ましいと言わんばかりに見惚れている。

どーだ!これがルカ様だ!惚れるんじゃないわよ!とは思うけど、それよりも恥ずかしい気持ちが勝ってる。

「ルカ様、下ろしてくださいませ。」

「嫌だよ。さっきの授業、別だったんだよ?頑張ったご褒美くらいくれてもよくないか?」

貴方にとってはご褒美かもしれませんが、私にとってはお仕置きに近いの!

「ほら、重いでしょう?」

「いいや、ちっとも。」

「せっかくのお菓子が食べずらいです。」

「それは僕に食べさせて欲しいってことかい?いいよ。ほら、あーん。」

「んもぅ!違います!」

差し出されたクッキーはいただきました。食べたい気持ちには勝てなかったので。

「本当に仲がよろしいんですね。羨ましいですわ。」

「ミュラエル嬢の婚約者はジオだったな。・・・・・・尊敬するよ。」

笑顔だけど丸わかり。ルカ様、本当にジオル様が苦手なのね。

「ふふふ、可愛いところもあるんですのよ?」

ミュラエル様、きっと上手く手のひらの上で転がしてるのね・・・。

赤いビー玉をコロコロの手のひらで転がすミュラエルさまが頭に浮かんだ。

「ジオは絶対、ミュラエル嬢を逃しちゃダメだな・・・」

ぽそっと小声で呟くルカ様。私もそう思います。

本当、それぞれいいカップルなのに、ヒロインはそれをかき乱すんだから。お邪魔虫よね。

そういえば、ヒロインは何故この世界に来たんだったかしら?

「リア、ほらあーん。」

私が1人で頭の中で会話しすぎたのか、僕を構えと言わんばかりにルカ様がサンドイッチを差し出してくる。可愛い彼に負け、思考を止めてサンドイッチを口にした。
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